命より金

山田 花太郎

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三章

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「本日のオークションもこれが、最後の一品になりました! エルフの娘です! しかも未使用の一品です。では、一〇〇から!」
「200!」
「300!」
 値段がすごい勢いで上昇していく。
 入札者は、全員男ばかり。
「ひぇぇぇ。早く助けに来てくださいよう。マスター」

「ドナドナど~な~」
 落札者の元に馬車に揺らされて運ばれていくアリス。
「一体なにしてんの! 馬鹿ますたー!」

 一方、その頃のピース。
「次の商品は、これ! 前皇帝時代に紛失した王家の宝剣。2000からどうぞ!」
「2100」
「2200」
 すっと手を上げるピース。
「4000!」
 オークションに興じていた。

「イヤー、助けてええ」
 屋敷にアリスの悲鳴がこだまする。
「いくら騒いでも誰も助けにこんわ。屋敷にはわしの部下しかいやせん」
 じりじりといやらしい目つきをしながら、アリスに近づいてくる。
「失礼します」
 扉の外から声がかかる。
「なんだ! いいところじゃ!」
 老人の言葉は、吹き飛んだ扉の音にかき消された。
「失礼」
 さきほど扉のあった場所から何事も無いようにピースが入ってきた。
「マ、マスター! 助けに来てくれたんですね」
 思わず涙目になる。
「俺の所有物を返しにもらいにきた」
「一体、どうやって入ってきた」
「普通に玄関からに決まっている」
「守備の兵がいたはずだ」
「平和的に話し合ったら通してくれた」
「マスター、手に血が」
「おっと」
 ハンカチを取り出し拳を拭く。
「安心しろ。俺の血ではない」
「さて、こいつをどおするか」

「貴様には、3つの選択肢がある。
 一つは、俺にやられるか。
 一つは、アリスにやられるか。
 一つは、俺に金を払って見逃してもらうか」
「マスター!」
「こいつが捕まっても俺に利益がないからな」
「正義ってものがないんですか?」
「では一つ質問しよう。例えば、一人の腹をすかせた子供がいたとする。その子供は空腹の為、パンを盗んでしまった。だがもし、盗まなければその子供は餓死してしまった
だろう」
「では、その子供のしたことは、悪か? それとも正か?
「いや、それは」
「では、次だ。野生のライオンがウサギを殺し食べることは罪か?」
「違います」
「それと強い人間が弱い人間を虐げるのとどこが違う?」
「ライオンは生きるためで人間は違うじゃないですか?」
「ほう、生きるためなら許されると? 例えば、二人の死にそうな人間を助けるためには一人の人間が必要になる。だが、その一人の人間は死んでしまう。
 二人を助けるために一人を殺すか? それとも一人を守るために二人を見殺しにするのか?」
「うう、そんなの選べませんよう。なんでそんな意地悪問題だすんですか」
「貴様が正義だのと下らん事を持ち出すからだ。正義なんてものは、自分を正当化する為の大義名分に過ぎん。立場や状況によって変わるものだ。普遍的な正義なんてないのだ!」
「じゃあ、マスターにとっての正義ってなんなんですか?」
「俺が正義だ!」
「がぼーん!」
「俺が白といったら黒でも白と言え!」
「どこの独裁者ですか! あんたは!」
「なんとでも言え。まあ、こいつを許すつもりは最初から無いから安心しろ」
 床で震える男を見下ろす。
「俺は自分の所有物を他人に壊されるのが大嫌いなんだ」
「あの、それってもしかして『お前は俺のものだ』的な……」
 照れたような仕草をする。
「壊していいのは俺だけだ」
 いたって真面目な顔で怖いことを言う。
「ま、まあそれはさておいてどうするんです?」
「こいつを使って組織を一網打尽にするのだ。そしてついでに、そのどさくさにまぎれて組織の金を根こそぎいただいてしまうのだ」
「どっちかというと後者のほうが目的なんじゃ……」
「おい、洗いざらいはいてもらう」
「そ、それだけは。組織を裏切ったと知られたら生きていられないんだ」
「ほう、では選べ。組織に殺されるか、俺に殺されるかだ。痛みを感じているうちは幸せだぞ。まだ、生きているのだから」
「ヒィィィッ」
 大臣を引きずって奥の部屋に消えていく。
 直後、耳を覆いたくなる悲鳴がこだまする事、数分。

「終わったぞ」
「だ、大丈夫なんですか」
「必要なことは、全部吐かせた。こいつは作戦が終わるまでは、町外れにでも監禁しておく」

「おまえにプレゼントがあるぞ」
「ほ、本当に?」
「これだ」
 ピースが取り出したのは短めの杖くらいの長さの代物。
 紙を蛇腹状に折り、一方は握りが作られもう一方が扇子状に開くようになっている。
 それは…、
「覇裏旋(はりせん)だ!」
 ハリセンを知らないアリスは受け取ったそれをしげしげ見つめている。
「杖みたいなものですか?」
「そういった使い方もできるだろう」
「じゃあ、違う使い道もあるんですか?」
 わからないといったように首を傾げる。
「後々、わかる。のちのちな。くっくっく」
 不気味に含み笑いをするピース。
「値段は金貨5000だった」
「高いわっ!」
 スパコンッ!!]
 アリスがハリセンで思い切り、ピースの頭を引っ叩いた。
「す、すいません! というか、体が勝手に動いて」
 おろおろとハリセンとピースを交互に見比べる。
「ふっふっふ。それがその武器の真の能力!」
 ゆらりと顔を上げる。
「相手の発話内容に対し、理不尽、不条理、不合理などに半自動的に反応しツッコミを入れる。おまけとして、装備中、興奮時に言語がある地方の方言になる」
「んなあほなってむぐ」
 アリスが自分の口を手で押さえる。
「うむ、納得の能力」
 うんうんと満足気に頷く。
「あの~もし捨てたりなんかしたら」
「武器にかけられた呪いよって、なにかの圧力によって死に至る」
 一枚の銅貨を取り出して、指で空中に弾いた。両手で挟むように銅貨をぱんと押さえた。
 銅貨をアリスに軽く投げた。
「ひっ!?」
 受け取った銅貨をアリスはぽとりと地面に落とした。
 銅貨は手の平程に押し広げられていた。


「今後の予定について説明しておく」
 街のとある安宿。さらにその一番安い部屋。部屋の中には今にも崩れそうなベッド。
「組織を潰すには、集められるだけ集めてそれを一網打尽にするのが効率がいい。それにはこいつらを引き寄せる目玉商品が必要だ。奴らを吊り上げるつまり餌がほしい」
 そのベッドに腰掛けた状態でアリスに説明するピース。
「わ、私はもう嫌ですよ」
 ピースの足元の床に正座してるアリスが嫌な顔をする。
「エルフでは少々、見劣りする。希少種といってもそれほどのものでもない。今度はもっと上等な餌が欲しいところだ。エルフで言えば、ハイエルフ位は必要だ。妖精で言えばティターニアくらい……」
「ティターニアって妖精の女王様ですよ。どこまで罰当たりなんですか!」
「罰が怖くて冒険者がつとまるか!」
 いつもどおりの無茶苦茶を言うピース。
「そんなの見つかりっこないですよぉ」
 顔をわずかに横にそらしてため息をはく。
「できるわけない。不可能だ。そんなものは、無能な奴らの言い訳にすぎない」
「はい、はい。それじゃあ、無能じゃないマスターはどうするんですか?」
「必要な事を行う。それだけだ」
 いつも通り自信満々に言い切った。
「で、なんで街中で私達いるんですか?」
「さっき、サキュバスを探すって言っただろう?」
「それは聞きましたけど何で真昼間から街中でどうやってサキュバスを探すっていうんですか?」
 サキュバス。夢魔とも呼ばれ睡眠中の男を襲い、誘惑し精気を奪う。もちろん現れるのは夜だ。
「探すのは、サキュバスにとりつかれている人物だ。サキュバスは美少年を好むらしい。それを念頭において探せ」
「はい、はい」
 人ごみに視線を戻す。

「なかなかいないもんですねぇ」
「……」
 無言で探し続けるピース。
「金が絡むとこの人は全く、もう」
 あからめてアリスもまた探し始める。
「あ、あれ」
 店先に買い物をしている少年をみつけた。茶髪の美少年。
「目の下にもあれ」
 隈ができており、表情も疲れて見える。
「可能性は、高いな」
 ピースの目が鋭く輝いた、ように見えた。
「あとをつけるぞ」
「あ、はい」

 その日の夜中

「こ、これは!」
 部屋の様子を覗いて驚愕するアリス。
 部屋の中には、昼間見つけた美少年ともう一人。
「魚屋の奥さんだな」
 少年の部屋での密会。
「ちっ。ただの不倫か」
 あからさまに舌打ちをする。
「そうみたいですね。仕方が無いからもう帰りましょうよ」
「いや待て。これをネタに脅せばいくらかの金に」
「そっとしておいて上げてくださいってば!」
 外道な事を言うピースをひっぱってアリスは宿に引き上げた。

「仕方ないこうなったら―」
「こうなったら?」
「サキュバスに変装しろ」
「えー! いやですよ」
「いいからやれー」
「きゃぁぁー」

「ど、どうですか?」
「まあいいだろう」
「み、魅力的に見えますか?」
 テレながら上目づかいでピースをみる。
「全く」
「ひどっ!」
 ショックを受けたアリスを無視し、淡々と荷物を片付け始めた。

「なんと! それは本当か!」
「本当です。王様」
 場所は、城の謁見の間。
 大臣に無理やり書かせた紹介状を使って城に入った二人。
「……以上が真実です」
 最近の誘拐事件と人身売買の組織について王にピースは説明した。
「そんな事になっていたとは」
 王が沈痛な面持ちで唸った。
「その組織の摘発を約束しよう」
「それで、報酬についてですがその組織の財宝の半分で手を打ちましょう」

「見ろ! 貧乳のサキュバスだぞ!」
「ひ、貧乳!?」
「ずいぶんと発育の悪いサキュバスだな」
「いや、もしかしたら珍種かもしれんぞ」
「ち、珍種!?」
 口々に聞こえてくる声にぷるぷると震えた。
「今日は噂ではどうやら大物が出品されるそうだ」「ああ、これは前座みたいなものか」
 ―今のうちに言っているがいいわ。もうすぐ王様の部隊がきて
「そこまでだ! 貴様達!」
 武装した正規の軍隊が会場になだれ込んできた。
「やったこれで…」
「お前もだ」
「ち、違いますよ。わたしは王様の協力員で…」
「そんな事は聞いておらん!」
「そんなぁ」
 目に涙を浮かべるがそのままほかの客と一緒に連行された。


「国の恥部を他国に知られるわけにはいかんのでな」
目の前の王は不敵に笑みを浮かべる。
「本音を言ったどうだ。払う金が惜しくなったと」
「それもあるがな」
 にたりと笑う。
「せめて、わが王族秘伝の魔法で殺してやろう」
「ひ、秘伝の魔法」
 アリスがピースの後ろに隠れながら驚く。
「対象の一番大事なものを奪う魔法。それはもちろん命だぁぁああ!」
 王が放った魔法がピースに直撃する。
「ま、マスター! 大丈夫ですか」
「なにも起こらんぞ」
「な、そんなはずは」
 王がうろたえる。
「この魔法は確実に相手の一番大切なものを奪うはず」
 ピースが一瞬体をこわばらせた。
 ごそごそと懐からなにか取り出す。
「財布?」
 財布の中身をみて青ざめるピース。すぐにその財布を地面に落とし、また違う財布を取り出す。また落とし、取り出す。
 最後の財布がピースの手から落ちた。
「き、さ、まぁぁあああ」
 地の底から響くような低い声。
「金返せこらぁあああ!」
 目で追えないほどのスピードで間合いをつめ、王の首をつかんで持ち上げる。
「む、無理。一度奪ったらもう戻せない」 
「あああぁぁああああ!」
 絶叫と共に王を壁に投げ飛ばす。
「マスター、落ち着いて、ぐっふっ」
 止めに入ったアリスをも吹き飛ばす。
 結局、ピースが止まったのは城が全開してからだった。

「ああもう、絶対この国にこれませんよ。わたし達」
 街道を歩くピースとアリス。
「城を全壊ってドラゴンか魔王くらいですよ。そんなことするの」
「……」
「旅費もなくなっちゃって。今度からはわたしにも持たせてくださいよ。そうすれば所持金0にはならなかったんですから」
「金はある。城の宝物庫の中身がある」
「んな!」
 あの暴走の最中にもかかわらずに奪ってくるなんて。
「ぶちぎれたんじゃなかったんですか?」
「あれはただの八つ当たりだ」
「じゃあ結局問題ないんじゃないんですか」
「問題ないことあるか! 所持金が一気に100分の一以下になったんだぞ!」
「ってどんだけためこんでたんだよ。一体」
「こうなったら、今までの二倍いや三倍はたらいてもらうからな」
「無理っす」
 懐から古ぼけた魔法書を取り出した。
「なんですそれ?」
「城の一際、厳重に封印がかけられていた部屋にあったんだ。価値があるものに違いない。だが、文字が異国の文字で読めん。アリス、読めるか?」
「どうでしょう? あっ!エルフの昔の言葉みたいです。これならなんとか読めそうです」
「で? なんて書いてあるんだ?」

鋭意執筆中




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