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エピローグ
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エピローグ 非日常の日常
結局、大樹が気絶から覚めても現実は変わらず、大樹は吸血鬼のまま。真白と陽菜は大樹の家に住み着くことになった。
結局、吸血鬼(ハーフ)になってしまった大樹だったが、今のところ太陽光に弱い、八重歯がおおきくなった、十字架に触れると痛い以外に変わったことは無かった。空を飛べたり変身したりそういった特殊能力は今のところない。
(デメリットしかねえよ)
大樹は胸中で毒づいた。
真白と陽菜を自分の部屋にずっと置いておくわけにもいかないので、あまっている部屋を真白達の部屋にすることにした。
「部屋は、自由に使ってくれていいけど、あんまり散らかしたりしないでくれよ」
「おおきに♪」
「ありがとうございます」
布団やらなにやら生活に必要なものを三人で部屋に運び込んでいく。
あらかた片付いたところで、一度休憩しようということになり、大樹が、冷蔵庫から、ジュースの缶を持ってきて二人に渡した。
「さんきゅう、大樹」
真白が受け取り缶の蓋を開け飲み始める。
「これなんですかあ?」
陽菜が受け取った缶ジュースを眺め質問した。
「「!?」」
一瞬二人は驚いたが、陽菜は戦国時代の人間なのだからわからないのも当然である。
「そうか、現代の一般知識も陽菜には説明しなきゃいけないのか」
「あと、服とかも買わんとならんしな」
「やべーな、そんな金ないぞ」
毎月の仕送りを切り詰めても、三人分の食費+二人の衣服の代金には足りるはずがない。
「しゃーない、うちがなんとかするわ」
「前みたいに木の葉で誤魔化すのは無しだぞ」
大樹が真白に釘を刺す。
「そんなことせえへんよ」
真白が懐から一枚のクレジットカードを取り出した。
「な、それは!?」
大樹が驚愕したのも無理は無い。真白が取り出したのは、クレジットカードはクレジットカードでも、最上位のクレジットカード。ブラックカードである。
「戦車や家もかえるというあの伝説のカードがなぜ!?」
「すごいやろ!」
「ほ、本物かよ、それ。木の葉で作った偽物なんじゃ」
疑うような目でカードを凝視する。
「本物やで。うち、こう見えても金持ちやから」
自慢げに、ブラックカードをチラつかせる。
「まあ、長生きしてれば、このくらい稼げるちゅーねん。金はあっても、邪魔にはならんからな」
そんな勝ち組発言に、なにげに衝撃を受ける大樹。もちろんクレジットカードなど知らない陽菜は状況を理解できていない。
「それじゃ、片付け終わったら買い物に行くって事でいいやんな」
なんとなく敗北感を感じながらも大樹は同意した。
「それで、結局これは、なんなんですかぁ」
缶ジュースを振り回しながら陽菜が叫んだ。
片付けの後、三人は、近くのショッピングモールに買い物に行くことにした。
天気はどんよりと曇っていたので、昨日のように大樹の体調が悪くなることは無かった。
ショッピングモールまでバスを利用したが、自動車を知らない陽菜はおおはしゃぎだった。
だが、大樹も別の意味でおおはしゃぎだった。乗り込んだバスが、スライムの団体御一行で満杯だったのだ。大樹は、乗りたくなかったが、真白と陽菜に無理やり乗せられた。
「なんかねちゃねちゃするんですけどぉ~」
乗った直後から大樹が悲鳴をあげる。
「気のせいや。気のせい」
「生まれて初めてなんですが。こんなにねちゃねちゃするの!」
「何事も経験ですよぉ。大樹さん」
そういいながら二人は大樹を盾にしてスライムに自分達は接しないようにしている。
「ぎゃ~服にも入ってくる~痴漢じゃねえのこれ、痴漢だよ~」
大樹はスライムのねちゃねちゃの地獄責めに耐え続けた。
が、三十分もその中にいるとその状況に大樹も慣れてきた。
「さすがにずっといると平気になるもんだな」
「なにげに適応早いやん」
大樹が改めてバスの中を見回すとひとくくりにスライムといっても様々な種類がいるのが分かった。ねちゃねちゃいているタイプやぷるぷるタイプ、色も様々である。ふと後ろの隅に目をやると緑色の毒っぽいスライムが座って(?)いた。耳を澄ますとなにか呟いている
「あの頃はよかった。日本中が、好景気に酔いしれていた……」
「な、奴は、バブルス……」
『ショッピングモール前~ショッピングモール前~』
大樹が何か言おうとしてバスのアナウンスが流れる。
「着いたで、大樹」
真白に引っ張られバスを降りていく。
「変わった城ですねえ」
陽菜がショッピングモールを眺めながら言った。
「いや、違うから。ま、中に入ればわかるか」
三人はショッピングモールに入っていった。中は休日ということもあって、なかなか賑わっていた。
「まるで、お化け屋敷だな、こりゃ」
建物の中は、古今東西様々な妖怪、怪物であふれ返っていた。
「本当にこの中に入ってくのかよ?」
多少の覚悟はしていたが、ここまで混沌としているとは思わなかった。
「ここまで来たんだから、はよ行くで」
「行きましょう。大樹さん」
大樹は二人に引っ張られながら建物内を進み、一つの衣服を扱うショップに入った。
「いらっしゃいませ」
ショップの店員は、エルフの女性であった。ツンっと長い耳が特徴の小柄な愛らしい外見のエルフだ。
自然に大樹の目が店員に向く。しばし見とれていると、無言で真白と陽菜に足を踏みつけられた。
「痛ったああ!」
「スケベな顔してるからや」
「店員さんに失礼ですよ、もう」
二人はすこし機嫌を悪くしながら、洋服を選び始めた。
「いや、ちょっと、エルフが珍しかっただけだって、本当だって。マジで!」
大樹があたふたしながら二人の後をついて行く。。
「大樹、ちょっとこれみてみい」
大樹が真白の方を向くと、真白が黒のビキニを着て、ボーズを極めていた。すらっとした美脚。悩ましげなヒップ。引き締まった腰のくびれ。目を惹きつけられる豊かなバスト。いまにも水着から零れ落ちそうである。
「似合っとるやろ」
「に、似合ってるッス」
赤くなって目を伏せる。
「ちゃんと見てえな」
後ろから抱きつかれて、胸の感触がダイレクトに伝わる。
「○×□△*+¥~」
体中を走る衝撃に言葉が日本語になっていない。大樹はどうにか真白を引き剥がし、呼吸を整える。
「なんで、水着着てるんだよ! 普通の服買いにきたんだろ!」
大樹が顔を真っ赤に真白を注意する。
「気分や、気分、ほれ、陽菜も試着したみたいやで」
真白の視線の先には、試着を終えた陽菜がいた。
その姿はフリフリレースのメイド服。ミニスカートから健康的な脚があらわになっている。
「あはははっ。似合ってますか?」
屈託のない笑顔で笑う陽菜のメイド姿は、とても似合っていた。おもわず、顔が緩みそうになった大樹がったが、さきほどの真白のビキニに比べ露出が少ないので正気を保っている。
「普段着るには、不便だろそれ」
「そうですかぁ。かわいいのに」
陽菜がその場でくるっと回ってみせる。勢いあまってミニスカートがめくれる。
「ぶっ!?」
大樹が鼻血を吹き出す。陽菜はスカートの中になにも履いていなかった。慌てたように真白がやってきて、
「そやった。下着の説明忘れとったわ」
あちゃあといったように真白が額をぴしゃりと叩いて、陽菜の背中を押してすぐに試着室に消えていった。
「あ~びっくりした」
まだ、バクバクの止まらない心臓に手を当てる。
「焦ったら、ちょっと喉渇いたな」
大樹は近くにあった自販機を見つけ、小銭を入れる。
「どれにすっかな?」
自販機の飲み物を選んでいると、いく圧か見慣れない飲み物があった。その中でも大樹の目を引いたのは、『ブラッド O型』
「ブラッドって血だよな。やっぱり」
普段だったら、絶対に飲まないものであるが、不思議と引き付けられる。やはり吸血鬼の血が騒ぐのだろうか。
「ま、試しに飲んでみるか」
適応力の高い男である。
自販機のボタンを押すと、がたっと商品が落ちてくる。輸血バッグに近い容器に入っている。躊躇なく付属していたストローを刺して飲み始める。
「ん~うまい」
ちゅーちゅーと飲む。
大樹が自販機の隣にあったベンチに座って、ゆっくりしていると、人ごみの中に見知った人物を発見した。相手も大樹に気付いたらしくこちらに近づいてくる。
「あれ、大樹なにしてるの?」
声をかけて来たのは、昨日、大樹を蹴り飛ばした同級生・神流であった。
「いや、ちょっと買い物に」
「一人で?」
質問されて、大樹の頭に真白と陽菜の姿が浮かぶ。
「あ~そうそう」
なんとなく嫌な予感がしてとっさにうそをついた。
「ふ~ん。じゃあ、ぼくの買い物に付き合ってよ」
「いやそれはちょっとまじいかな」
「なんで? 暇なんでしょ」
「暇だといえば暇のような、暇じゃないといえば、暇じゃないような」
そんな風にあたふたしていると、
「お待ちどう。買い物終わったで」
間が悪いというか良いというかショッピングを終えた二人が店から出てきた。両手には、紙袋を提げている。まあ、それはいい。問題は二人の格好である。
真白の姿は、学生の体操服にブルマ。しかも、胸に「ましろ」のネーム入り。
もう一方の陽菜はバニーガール姿。
「あ、あの人たちは?」
神流は、わなわなと震えながら指差した。
「あ~なんていうか、知り合いというかなんというか」
そうこうしているうちに真白と陽菜がすぐ近くまで歩いてきた。
「なんや、友達か?」
真白も神流に気付いた。
「大樹くんの同級生の神流です。あなたたちは……」
「姉や!」
「妹です」
「……」
神流が無言で大樹の方を向く。大樹は空気が緊張するのを感じた。
「いや~まあそういうことになるかな」
少しでもその場を和まそうと笑顔を作ろうとするが引きつった笑みにしかならない。
神流は下を向いてうつむいている。
「本当なんだって、マジで」
大樹が弁解しようと一歩神流に近づいた。それと同時に神流が大樹の右わき腹に左フックをお見舞いした。鈍い打撃音と共に大樹の体が数センチ浮いた。
「レ、レバァァッ」
大樹は、内臓の痛みに腹を押さえてその場に座り込んだ。
「そんなばればれの嘘つかないでよ! 何とか言ったらどう」
神流が泣きそうな顔をする。
「カハッ。コフューコフュー」
大樹がなにかしゃべろうとするが呼吸困難で言葉が出ない。。
「そう、何も言いたくないんだ」
「コフューコフュー」
(だ、だれのせいだよ)
内臓の激しい痛みに脂汗を出るのを感じながら思った。
「もいいよ!」
言うなり神流は、怒って行ってしまった。去り際に、蹴りを一発放って。
「結局なんやったんや?」
「さあ?」
事情のわからない真白と陽菜が首をひねる。大樹はただ痛みに震えていた。
大樹が痛みから回復したのを待って、三人でショッピングモールを見て周った。陽菜は、見たことも無いものばかりだったので、ずっと興奮しっぱなしだった。
「いや~すごいですねえ。この時代は」
楽しそうに、陽菜が笑う。
「まあ、そうなんだけど」
ちらりと、近くのショップに目をやる。普通の薬局があった。その隣には、マジックショップ。その脇には、雪女の経営のカキ氷屋。
「なんでも、ありだな、こりゃ」
ため息混じりに言う。
「和洋折衷ってことでいいやん」
「カオスのほうが近いだろ、こりゃ」
はぁと、再度ため息をつく。
一通り、ショッピングモールを見て周り、行きと同じようにバスに乗って帰路に着いた。幸い帰りのバスは、すいていて問題なく乗ることができた。
バスから降りると天気が回復し、弱いながらも日が差しいていた。
「わたし、ここらへん一人で調査してきますう」
好奇心のさめやら無い陽菜がどこかに飛び去った。
「じゃあ、帰るか」
大樹達は家に戻ろうと歩き出す。
「うう、気持ち悪ぅ」
日差しのせいで大樹がふらふらよろめく。
「なんや、しっかりしい」
真白が大樹の体を支えた。
「ありがと、でも、なんだかんだで、真白って俺のこと助けてくれるよな」
「当たり前やろ。なんや突然」
「いや~ちょっとそう思っただけなんだけどさ」
「あんたぁ、なんだかんだで、ちょっと抜けてるから、うちがフォローしてやらんとみてられへんからな」
そういってにこりと微笑んだ。
「ほら、ささっと帰るで」
真白は右手で大樹の左手を握り引っ張って、歩き出した。大樹はちらりと真白の手首に古い傷跡をみつける。
「あれ、その傷……」
「昔の傷や。昔の、な」
そう答えた真白の横顔は、少し赤みがかってみえた。
「痛てててっ。そんなに引っ張るなって」
真白に手をつながれながら大樹は、こんなふざけた世界もこの瞬間は悪くないなと思った。
結局、大樹が気絶から覚めても現実は変わらず、大樹は吸血鬼のまま。真白と陽菜は大樹の家に住み着くことになった。
結局、吸血鬼(ハーフ)になってしまった大樹だったが、今のところ太陽光に弱い、八重歯がおおきくなった、十字架に触れると痛い以外に変わったことは無かった。空を飛べたり変身したりそういった特殊能力は今のところない。
(デメリットしかねえよ)
大樹は胸中で毒づいた。
真白と陽菜を自分の部屋にずっと置いておくわけにもいかないので、あまっている部屋を真白達の部屋にすることにした。
「部屋は、自由に使ってくれていいけど、あんまり散らかしたりしないでくれよ」
「おおきに♪」
「ありがとうございます」
布団やらなにやら生活に必要なものを三人で部屋に運び込んでいく。
あらかた片付いたところで、一度休憩しようということになり、大樹が、冷蔵庫から、ジュースの缶を持ってきて二人に渡した。
「さんきゅう、大樹」
真白が受け取り缶の蓋を開け飲み始める。
「これなんですかあ?」
陽菜が受け取った缶ジュースを眺め質問した。
「「!?」」
一瞬二人は驚いたが、陽菜は戦国時代の人間なのだからわからないのも当然である。
「そうか、現代の一般知識も陽菜には説明しなきゃいけないのか」
「あと、服とかも買わんとならんしな」
「やべーな、そんな金ないぞ」
毎月の仕送りを切り詰めても、三人分の食費+二人の衣服の代金には足りるはずがない。
「しゃーない、うちがなんとかするわ」
「前みたいに木の葉で誤魔化すのは無しだぞ」
大樹が真白に釘を刺す。
「そんなことせえへんよ」
真白が懐から一枚のクレジットカードを取り出した。
「な、それは!?」
大樹が驚愕したのも無理は無い。真白が取り出したのは、クレジットカードはクレジットカードでも、最上位のクレジットカード。ブラックカードである。
「戦車や家もかえるというあの伝説のカードがなぜ!?」
「すごいやろ!」
「ほ、本物かよ、それ。木の葉で作った偽物なんじゃ」
疑うような目でカードを凝視する。
「本物やで。うち、こう見えても金持ちやから」
自慢げに、ブラックカードをチラつかせる。
「まあ、長生きしてれば、このくらい稼げるちゅーねん。金はあっても、邪魔にはならんからな」
そんな勝ち組発言に、なにげに衝撃を受ける大樹。もちろんクレジットカードなど知らない陽菜は状況を理解できていない。
「それじゃ、片付け終わったら買い物に行くって事でいいやんな」
なんとなく敗北感を感じながらも大樹は同意した。
「それで、結局これは、なんなんですかぁ」
缶ジュースを振り回しながら陽菜が叫んだ。
片付けの後、三人は、近くのショッピングモールに買い物に行くことにした。
天気はどんよりと曇っていたので、昨日のように大樹の体調が悪くなることは無かった。
ショッピングモールまでバスを利用したが、自動車を知らない陽菜はおおはしゃぎだった。
だが、大樹も別の意味でおおはしゃぎだった。乗り込んだバスが、スライムの団体御一行で満杯だったのだ。大樹は、乗りたくなかったが、真白と陽菜に無理やり乗せられた。
「なんかねちゃねちゃするんですけどぉ~」
乗った直後から大樹が悲鳴をあげる。
「気のせいや。気のせい」
「生まれて初めてなんですが。こんなにねちゃねちゃするの!」
「何事も経験ですよぉ。大樹さん」
そういいながら二人は大樹を盾にしてスライムに自分達は接しないようにしている。
「ぎゃ~服にも入ってくる~痴漢じゃねえのこれ、痴漢だよ~」
大樹はスライムのねちゃねちゃの地獄責めに耐え続けた。
が、三十分もその中にいるとその状況に大樹も慣れてきた。
「さすがにずっといると平気になるもんだな」
「なにげに適応早いやん」
大樹が改めてバスの中を見回すとひとくくりにスライムといっても様々な種類がいるのが分かった。ねちゃねちゃいているタイプやぷるぷるタイプ、色も様々である。ふと後ろの隅に目をやると緑色の毒っぽいスライムが座って(?)いた。耳を澄ますとなにか呟いている
「あの頃はよかった。日本中が、好景気に酔いしれていた……」
「な、奴は、バブルス……」
『ショッピングモール前~ショッピングモール前~』
大樹が何か言おうとしてバスのアナウンスが流れる。
「着いたで、大樹」
真白に引っ張られバスを降りていく。
「変わった城ですねえ」
陽菜がショッピングモールを眺めながら言った。
「いや、違うから。ま、中に入ればわかるか」
三人はショッピングモールに入っていった。中は休日ということもあって、なかなか賑わっていた。
「まるで、お化け屋敷だな、こりゃ」
建物の中は、古今東西様々な妖怪、怪物であふれ返っていた。
「本当にこの中に入ってくのかよ?」
多少の覚悟はしていたが、ここまで混沌としているとは思わなかった。
「ここまで来たんだから、はよ行くで」
「行きましょう。大樹さん」
大樹は二人に引っ張られながら建物内を進み、一つの衣服を扱うショップに入った。
「いらっしゃいませ」
ショップの店員は、エルフの女性であった。ツンっと長い耳が特徴の小柄な愛らしい外見のエルフだ。
自然に大樹の目が店員に向く。しばし見とれていると、無言で真白と陽菜に足を踏みつけられた。
「痛ったああ!」
「スケベな顔してるからや」
「店員さんに失礼ですよ、もう」
二人はすこし機嫌を悪くしながら、洋服を選び始めた。
「いや、ちょっと、エルフが珍しかっただけだって、本当だって。マジで!」
大樹があたふたしながら二人の後をついて行く。。
「大樹、ちょっとこれみてみい」
大樹が真白の方を向くと、真白が黒のビキニを着て、ボーズを極めていた。すらっとした美脚。悩ましげなヒップ。引き締まった腰のくびれ。目を惹きつけられる豊かなバスト。いまにも水着から零れ落ちそうである。
「似合っとるやろ」
「に、似合ってるッス」
赤くなって目を伏せる。
「ちゃんと見てえな」
後ろから抱きつかれて、胸の感触がダイレクトに伝わる。
「○×□△*+¥~」
体中を走る衝撃に言葉が日本語になっていない。大樹はどうにか真白を引き剥がし、呼吸を整える。
「なんで、水着着てるんだよ! 普通の服買いにきたんだろ!」
大樹が顔を真っ赤に真白を注意する。
「気分や、気分、ほれ、陽菜も試着したみたいやで」
真白の視線の先には、試着を終えた陽菜がいた。
その姿はフリフリレースのメイド服。ミニスカートから健康的な脚があらわになっている。
「あはははっ。似合ってますか?」
屈託のない笑顔で笑う陽菜のメイド姿は、とても似合っていた。おもわず、顔が緩みそうになった大樹がったが、さきほどの真白のビキニに比べ露出が少ないので正気を保っている。
「普段着るには、不便だろそれ」
「そうですかぁ。かわいいのに」
陽菜がその場でくるっと回ってみせる。勢いあまってミニスカートがめくれる。
「ぶっ!?」
大樹が鼻血を吹き出す。陽菜はスカートの中になにも履いていなかった。慌てたように真白がやってきて、
「そやった。下着の説明忘れとったわ」
あちゃあといったように真白が額をぴしゃりと叩いて、陽菜の背中を押してすぐに試着室に消えていった。
「あ~びっくりした」
まだ、バクバクの止まらない心臓に手を当てる。
「焦ったら、ちょっと喉渇いたな」
大樹は近くにあった自販機を見つけ、小銭を入れる。
「どれにすっかな?」
自販機の飲み物を選んでいると、いく圧か見慣れない飲み物があった。その中でも大樹の目を引いたのは、『ブラッド O型』
「ブラッドって血だよな。やっぱり」
普段だったら、絶対に飲まないものであるが、不思議と引き付けられる。やはり吸血鬼の血が騒ぐのだろうか。
「ま、試しに飲んでみるか」
適応力の高い男である。
自販機のボタンを押すと、がたっと商品が落ちてくる。輸血バッグに近い容器に入っている。躊躇なく付属していたストローを刺して飲み始める。
「ん~うまい」
ちゅーちゅーと飲む。
大樹が自販機の隣にあったベンチに座って、ゆっくりしていると、人ごみの中に見知った人物を発見した。相手も大樹に気付いたらしくこちらに近づいてくる。
「あれ、大樹なにしてるの?」
声をかけて来たのは、昨日、大樹を蹴り飛ばした同級生・神流であった。
「いや、ちょっと買い物に」
「一人で?」
質問されて、大樹の頭に真白と陽菜の姿が浮かぶ。
「あ~そうそう」
なんとなく嫌な予感がしてとっさにうそをついた。
「ふ~ん。じゃあ、ぼくの買い物に付き合ってよ」
「いやそれはちょっとまじいかな」
「なんで? 暇なんでしょ」
「暇だといえば暇のような、暇じゃないといえば、暇じゃないような」
そんな風にあたふたしていると、
「お待ちどう。買い物終わったで」
間が悪いというか良いというかショッピングを終えた二人が店から出てきた。両手には、紙袋を提げている。まあ、それはいい。問題は二人の格好である。
真白の姿は、学生の体操服にブルマ。しかも、胸に「ましろ」のネーム入り。
もう一方の陽菜はバニーガール姿。
「あ、あの人たちは?」
神流は、わなわなと震えながら指差した。
「あ~なんていうか、知り合いというかなんというか」
そうこうしているうちに真白と陽菜がすぐ近くまで歩いてきた。
「なんや、友達か?」
真白も神流に気付いた。
「大樹くんの同級生の神流です。あなたたちは……」
「姉や!」
「妹です」
「……」
神流が無言で大樹の方を向く。大樹は空気が緊張するのを感じた。
「いや~まあそういうことになるかな」
少しでもその場を和まそうと笑顔を作ろうとするが引きつった笑みにしかならない。
神流は下を向いてうつむいている。
「本当なんだって、マジで」
大樹が弁解しようと一歩神流に近づいた。それと同時に神流が大樹の右わき腹に左フックをお見舞いした。鈍い打撃音と共に大樹の体が数センチ浮いた。
「レ、レバァァッ」
大樹は、内臓の痛みに腹を押さえてその場に座り込んだ。
「そんなばればれの嘘つかないでよ! 何とか言ったらどう」
神流が泣きそうな顔をする。
「カハッ。コフューコフュー」
大樹がなにかしゃべろうとするが呼吸困難で言葉が出ない。。
「そう、何も言いたくないんだ」
「コフューコフュー」
(だ、だれのせいだよ)
内臓の激しい痛みに脂汗を出るのを感じながら思った。
「もいいよ!」
言うなり神流は、怒って行ってしまった。去り際に、蹴りを一発放って。
「結局なんやったんや?」
「さあ?」
事情のわからない真白と陽菜が首をひねる。大樹はただ痛みに震えていた。
大樹が痛みから回復したのを待って、三人でショッピングモールを見て周った。陽菜は、見たことも無いものばかりだったので、ずっと興奮しっぱなしだった。
「いや~すごいですねえ。この時代は」
楽しそうに、陽菜が笑う。
「まあ、そうなんだけど」
ちらりと、近くのショップに目をやる。普通の薬局があった。その隣には、マジックショップ。その脇には、雪女の経営のカキ氷屋。
「なんでも、ありだな、こりゃ」
ため息混じりに言う。
「和洋折衷ってことでいいやん」
「カオスのほうが近いだろ、こりゃ」
はぁと、再度ため息をつく。
一通り、ショッピングモールを見て周り、行きと同じようにバスに乗って帰路に着いた。幸い帰りのバスは、すいていて問題なく乗ることができた。
バスから降りると天気が回復し、弱いながらも日が差しいていた。
「わたし、ここらへん一人で調査してきますう」
好奇心のさめやら無い陽菜がどこかに飛び去った。
「じゃあ、帰るか」
大樹達は家に戻ろうと歩き出す。
「うう、気持ち悪ぅ」
日差しのせいで大樹がふらふらよろめく。
「なんや、しっかりしい」
真白が大樹の体を支えた。
「ありがと、でも、なんだかんだで、真白って俺のこと助けてくれるよな」
「当たり前やろ。なんや突然」
「いや~ちょっとそう思っただけなんだけどさ」
「あんたぁ、なんだかんだで、ちょっと抜けてるから、うちがフォローしてやらんとみてられへんからな」
そういってにこりと微笑んだ。
「ほら、ささっと帰るで」
真白は右手で大樹の左手を握り引っ張って、歩き出した。大樹はちらりと真白の手首に古い傷跡をみつける。
「あれ、その傷……」
「昔の傷や。昔の、な」
そう答えた真白の横顔は、少し赤みがかってみえた。
「痛てててっ。そんなに引っ張るなって」
真白に手をつながれながら大樹は、こんなふざけた世界もこの瞬間は悪くないなと思った。
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