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エピローグ
第二十一話(最終話) Equal romance
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目をゆっくりと開ける。ベッドで寝ているけど、これはいつものベッドじゃない。だって、今かけられている羽毛布団も毛布も、ワタシの匂いがしないから。でも、ワタシはこの匂いを知っている。優しくて清潔感のある香り。そう、これは……。
「やっと起きましたか」
そう言ったのは駿河だ。昨日の夜着ていた上下スウェットじゃなく、立襟シャツの上から厚手のカーディガンを羽織り、ベージュのチノパン姿。洗ったばかりの衣服が入ったカゴを抱えている。
「……おはよ」
「おはようございます。もう十二時前ですよ」
「そっかぁ……。おやすみ」
「えっ、二度寝するんですか」
「……眠い」
「僕は今から洗濯物を干すので。終わったら起こしますからね」
ベランダへつながる大きな窓を開けると、冬の冷たい風が吹き込んできた。あまりの寒さに布団の端を引っ張って顔の半分まで覆う。そして、身体を丸め、熱が逃げないようにする。身体を丸くするとどうしてこんなに落ち着くんだろう。あっという間に再び眠気が襲う。ああ、また夢の中へいけるぞとまどろんでいると、
「さぁさぁ、起きてください」
と駿河の声。
「もう少し」
「もう少しってどれくらいです?」
「うーん。次、目が開くまでかな」
そう答えると、駿河は「はあ~」と大きくため息をつくと、
「そういうことでしたら、僕も寝ます」
「はっ?」
混乱してるワタシをよそに、布団をめくって中へ入って来る。壁に向かって寝ているワタシの背中にくっつくように横になると、お腹に腕を回す。その時、服が少しめくれていた脇腹に駿河の指先が触れる。
「手、冷たっ!」
「仕方ないでしょう。寒空の中、洗濯した服干してたんですから」
「それもそうか」
離れようとする駿河の手を握って引き留める。
「無理に握らなくても……」
「昨日も思ったけど、手、おっきいな」
「そうですか? あまり言われたことないですけど」
「ワタシもずっと気に留めたことなかったよ」
昨日の晩、駿河に告白して、キスをした。ファーストキスの余韻を感じる暇なく、互いに何度も離れてはまた重ねを繰り返して、そのまま……。駿河が高校時代の先輩から「いつか使うだろ?」と冗談半分で渡されたというコンドームがあった勢いとはいえ、こんなトントン拍子にコトが進むとは思わなかった。駿河になら、ワタシの全部をさらけ出してもかまわなかった。というか、すっぴんや、だらしない部屋着とか、裸以外はもうすでに見せてるようなもんだし。
情景を脳内に映す。時間が経てば経つほど、照れて詳細には表せない。けど、ワタシの髪や身体を触る駿河の手が大きいなぁとその時に思った。服を脱いで露わになった肌がきめ細やかでキレイだったな。いつもは見せない余裕のない表情に目が離せなくて。好き、大好きという簡単なその言葉さえ、初めて感じる身体じゅうを駆け巡る快楽に飲み込まれて、身体が重なっている間、何を言ったか、もう覚えていない。
「……思い出してます?」
「バカッ……そういうことは訊くなよ」
「すいません。今、痛い箇所とかないですか? その……僕も初めてだったので」
「それなら大丈夫」
「良かった、安心しました」
そう言うと黙り込む。駿河の息遣いだけが聴こえ、触れてる部分から温かさを感じる。
ワタシと駿河は出会った日から隣同士。でも、こんなに近くで呼吸や体温を感じる日が来るなんて。しかもすごく安心するなんて思いもしなかった。
「なんだか、こう引っ付いているのが付き合う前から当たり前だったような……。それくらいしっくりきています」
「ちょうど同じこと思ってた。違和感ないよな」
「僕は、他の人に取られたくないとか、嫌われたくないとか、そういう強い思いを人に持ったことがありませんでした。この先もあなたほど気の合う人はいないと思っています」
「でもさ、そういう素振りなかったよなぁ、ずっと」
「好きだからと言って、急に媚びるような態度取り始めたら怖いでしょう?」
「まあ、体調悪いって思うかな」
「僕が媚びると体調悪いと捉えられるんですか」
「そりゃあ、いつも『ああ言えばこう言う』のスタイルでワタシたちは話すじゃん」
「そっくりそのままそのお言葉をお返ししても大丈夫ですか」
「ほら! そうなるだろ? それでこそ駿河総一郎だよ」
「褒めてます?」
「褒めてる褒めてる」
「確かに『いつも通り』。それは心がけてましたね。好きだと意識しすぎてギクシャクしたくなかったので」
「なるほどねぇ。すごいなぁ。ワタシは好きだって気づいただけで不安になったっていうのに」
ずっと「駿河への『好き』は彼に恋しているからじゃない」と言い聞かせていた。なんでも話せる心地いい関係を終わらせたくなかったから。だけど、恋だと認めてしまった瞬間、怖くてたまらなかった。あの会話の流れで駿河が告白してくれたから良かったけれど、思いを隠していつも通りの生活を長く続けろなんてワタシには出来なかった。
「いいんですよ、あなたはそれで。自分の気持ちに嘘をつけなくて、隠しごとが苦手なところ、好きですよ」
「そっか。……そっかぁ」
好き、かぁ。真綾も神楽小路に好きって思いがつながった時、こんな気持ちだったのかな。何度も言葉を噛みしめて、大切に抱きしめていきたいと。
「あの」
「どうした?」
「お腹が空きました」
「え? 朝ご飯食べたんじゃねぇのかよ」
「いえ、一緒に食べようと思って待ってました」
「そういうことなら起こしてくれれば」
「何言ってるんですか。起きないでしょう」
「そんなこと……」
「電話でモーニングコールを何十回。僕が毎日どれだけ苦労して起こしていると?」
「うっ……」
日々感じてる不満なんだろうな……。ワタシが肩を揺さぶられても、すぐ起きるかと言われたら起きないだろうな……。
「でも、一つ。起こさないことで発見がありました」
「発見?」
「寝顔かわいかったですよ」
「はいぃ?」
「ほら、授業中に眠ってる時はうつらうつら船漕いでて、なおかつ半開きの目じゃないですか」
「言葉にするな! あと、そんな瞬間見るなよ!」
「ちゃんと布団があれば、あんなに幸せそうに眠るんだなって。見てたら、僕もまた眠くなって二度寝してしまいましたよ」
「だから、昼間に洗濯干してたのか。いつもなら朝早くから干してるもんな」
「お恥ずかしい限りです」
「おいおい、早くも咲チャンにメロメロってワケか~?」
寝返りをうって、駿河の方を向いてみる。真剣な表情なのに、顔が真っ赤っかになっている。
「そうですよ。気を抜けば、ずっと抑えてた気持ちが一気に溢れそうです」
そう言うと、ワタシを抱きしめた。駿河の胸に顔を埋めと、心臓の少し速い鼓動が聞こえる。きっと今ワタシの心臓も同じ速さだろう。
「このあと、どうすんの?」
今日は月曜日だけど、大学祭の後片付けで一般生徒は休み。その上、二人ともバイトも休みだ。もう昼過ぎだけど、どこか近所ぷらぷら出かけてもいいし、家でゆっくり話すのもいいな。
「えっと、とりあえずはご飯食べましょう。話はそれからです」
「そんなにお腹空いてたのかよ。なんかごめんな」
「いえ。今、買い置きしてたインスタント袋麺しかないんですけど、いいですか?」
「おう」
ワタシは頷いたあと、心の中で「そ! そ!」と素早く練習し、ワタシは照れを振り切り、思い切って言う。
「そっ、総一郎が作ってくれるならなんでもいいぞ!」
きょとんとした顔でワタシを数秒黙って見つめたあと、少し間を置いて、駿河は……総一郎は笑った。
「咲さんのためなら仕方ないですね」
「やっと起きましたか」
そう言ったのは駿河だ。昨日の夜着ていた上下スウェットじゃなく、立襟シャツの上から厚手のカーディガンを羽織り、ベージュのチノパン姿。洗ったばかりの衣服が入ったカゴを抱えている。
「……おはよ」
「おはようございます。もう十二時前ですよ」
「そっかぁ……。おやすみ」
「えっ、二度寝するんですか」
「……眠い」
「僕は今から洗濯物を干すので。終わったら起こしますからね」
ベランダへつながる大きな窓を開けると、冬の冷たい風が吹き込んできた。あまりの寒さに布団の端を引っ張って顔の半分まで覆う。そして、身体を丸め、熱が逃げないようにする。身体を丸くするとどうしてこんなに落ち着くんだろう。あっという間に再び眠気が襲う。ああ、また夢の中へいけるぞとまどろんでいると、
「さぁさぁ、起きてください」
と駿河の声。
「もう少し」
「もう少しってどれくらいです?」
「うーん。次、目が開くまでかな」
そう答えると、駿河は「はあ~」と大きくため息をつくと、
「そういうことでしたら、僕も寝ます」
「はっ?」
混乱してるワタシをよそに、布団をめくって中へ入って来る。壁に向かって寝ているワタシの背中にくっつくように横になると、お腹に腕を回す。その時、服が少しめくれていた脇腹に駿河の指先が触れる。
「手、冷たっ!」
「仕方ないでしょう。寒空の中、洗濯した服干してたんですから」
「それもそうか」
離れようとする駿河の手を握って引き留める。
「無理に握らなくても……」
「昨日も思ったけど、手、おっきいな」
「そうですか? あまり言われたことないですけど」
「ワタシもずっと気に留めたことなかったよ」
昨日の晩、駿河に告白して、キスをした。ファーストキスの余韻を感じる暇なく、互いに何度も離れてはまた重ねを繰り返して、そのまま……。駿河が高校時代の先輩から「いつか使うだろ?」と冗談半分で渡されたというコンドームがあった勢いとはいえ、こんなトントン拍子にコトが進むとは思わなかった。駿河になら、ワタシの全部をさらけ出してもかまわなかった。というか、すっぴんや、だらしない部屋着とか、裸以外はもうすでに見せてるようなもんだし。
情景を脳内に映す。時間が経てば経つほど、照れて詳細には表せない。けど、ワタシの髪や身体を触る駿河の手が大きいなぁとその時に思った。服を脱いで露わになった肌がきめ細やかでキレイだったな。いつもは見せない余裕のない表情に目が離せなくて。好き、大好きという簡単なその言葉さえ、初めて感じる身体じゅうを駆け巡る快楽に飲み込まれて、身体が重なっている間、何を言ったか、もう覚えていない。
「……思い出してます?」
「バカッ……そういうことは訊くなよ」
「すいません。今、痛い箇所とかないですか? その……僕も初めてだったので」
「それなら大丈夫」
「良かった、安心しました」
そう言うと黙り込む。駿河の息遣いだけが聴こえ、触れてる部分から温かさを感じる。
ワタシと駿河は出会った日から隣同士。でも、こんなに近くで呼吸や体温を感じる日が来るなんて。しかもすごく安心するなんて思いもしなかった。
「なんだか、こう引っ付いているのが付き合う前から当たり前だったような……。それくらいしっくりきています」
「ちょうど同じこと思ってた。違和感ないよな」
「僕は、他の人に取られたくないとか、嫌われたくないとか、そういう強い思いを人に持ったことがありませんでした。この先もあなたほど気の合う人はいないと思っています」
「でもさ、そういう素振りなかったよなぁ、ずっと」
「好きだからと言って、急に媚びるような態度取り始めたら怖いでしょう?」
「まあ、体調悪いって思うかな」
「僕が媚びると体調悪いと捉えられるんですか」
「そりゃあ、いつも『ああ言えばこう言う』のスタイルでワタシたちは話すじゃん」
「そっくりそのままそのお言葉をお返ししても大丈夫ですか」
「ほら! そうなるだろ? それでこそ駿河総一郎だよ」
「褒めてます?」
「褒めてる褒めてる」
「確かに『いつも通り』。それは心がけてましたね。好きだと意識しすぎてギクシャクしたくなかったので」
「なるほどねぇ。すごいなぁ。ワタシは好きだって気づいただけで不安になったっていうのに」
ずっと「駿河への『好き』は彼に恋しているからじゃない」と言い聞かせていた。なんでも話せる心地いい関係を終わらせたくなかったから。だけど、恋だと認めてしまった瞬間、怖くてたまらなかった。あの会話の流れで駿河が告白してくれたから良かったけれど、思いを隠していつも通りの生活を長く続けろなんてワタシには出来なかった。
「いいんですよ、あなたはそれで。自分の気持ちに嘘をつけなくて、隠しごとが苦手なところ、好きですよ」
「そっか。……そっかぁ」
好き、かぁ。真綾も神楽小路に好きって思いがつながった時、こんな気持ちだったのかな。何度も言葉を噛みしめて、大切に抱きしめていきたいと。
「あの」
「どうした?」
「お腹が空きました」
「え? 朝ご飯食べたんじゃねぇのかよ」
「いえ、一緒に食べようと思って待ってました」
「そういうことなら起こしてくれれば」
「何言ってるんですか。起きないでしょう」
「そんなこと……」
「電話でモーニングコールを何十回。僕が毎日どれだけ苦労して起こしていると?」
「うっ……」
日々感じてる不満なんだろうな……。ワタシが肩を揺さぶられても、すぐ起きるかと言われたら起きないだろうな……。
「でも、一つ。起こさないことで発見がありました」
「発見?」
「寝顔かわいかったですよ」
「はいぃ?」
「ほら、授業中に眠ってる時はうつらうつら船漕いでて、なおかつ半開きの目じゃないですか」
「言葉にするな! あと、そんな瞬間見るなよ!」
「ちゃんと布団があれば、あんなに幸せそうに眠るんだなって。見てたら、僕もまた眠くなって二度寝してしまいましたよ」
「だから、昼間に洗濯干してたのか。いつもなら朝早くから干してるもんな」
「お恥ずかしい限りです」
「おいおい、早くも咲チャンにメロメロってワケか~?」
寝返りをうって、駿河の方を向いてみる。真剣な表情なのに、顔が真っ赤っかになっている。
「そうですよ。気を抜けば、ずっと抑えてた気持ちが一気に溢れそうです」
そう言うと、ワタシを抱きしめた。駿河の胸に顔を埋めと、心臓の少し速い鼓動が聞こえる。きっと今ワタシの心臓も同じ速さだろう。
「このあと、どうすんの?」
今日は月曜日だけど、大学祭の後片付けで一般生徒は休み。その上、二人ともバイトも休みだ。もう昼過ぎだけど、どこか近所ぷらぷら出かけてもいいし、家でゆっくり話すのもいいな。
「えっと、とりあえずはご飯食べましょう。話はそれからです」
「そんなにお腹空いてたのかよ。なんかごめんな」
「いえ。今、買い置きしてたインスタント袋麺しかないんですけど、いいですか?」
「おう」
ワタシは頷いたあと、心の中で「そ! そ!」と素早く練習し、ワタシは照れを振り切り、思い切って言う。
「そっ、総一郎が作ってくれるならなんでもいいぞ!」
きょとんとした顔でワタシを数秒黙って見つめたあと、少し間を置いて、駿河は……総一郎は笑った。
「咲さんのためなら仕方ないですね」
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