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Little by Little
第四話 Little by Little
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「宅急便かな……?」
真綾さんは外を映しているモニター画面を確認すると、「えぇ⁉」という悲鳴に近い声を上げた。
「なんだなんだ⁉」
「どうした真綾⁉」
ゲームをしていた二人もコントローラーを置いて、駆けつける。
「見て! 君彦くんと駿河くんだよ?」
「「「え⁉」」」
小走りで真綾さんがドアを開けに向かう。まるで漫画の中から飛び出て来たような浮世離れした雰囲気を漂わせた亜麻色の髪の男性は、中に入るや否や、真綾さんを強く抱きしめた。私はびっくりしちゃって固まっちゃったけど他の三人は全く動揺していない。
「おいおい、総一郎。二人で映画見に行ってたんじゃないのか?」
「映画には行きましたよ。そのあとご飯食べながら佐野さんと咲さんの話をしていたら、待ち合わせ時間まで待ってられないという話になりまして」
総一郎と呼ばれた黒髪の男性はポケットからメガネふきを取り出し、寒暖差で曇ったメガネを拭きながら言う。
「君彦くんも駿河くんも寒かったでしょ? 上がって上がって」
「ありがとうございます、失礼します」
「失礼する」
靴を脱ぎ、スリッパに履き替える君彦さんに悠太は近づく。
「君彦さん、ちわっす」
「元気か?」
「全然元気っすよ」
「うむ。それならよかった」
「メッセージでやりとりしたとこじゃないですか」
「会って顔を合わすのは久しぶりだったからな」
視線が隣に立つ私に移る。
「もしや、お前が岸野深雪か」
「そうです、はじめまして!」
「初めまして。俺は神楽小路君彦だ。真綾と悠太から話は聞いている」
「私もお話はかねがね」
「そうか。よろしく頼む」
そう言うと、ふっと微笑んだ。なんだろう、大人の余裕のようなものなんだろうか。年齢もきっとそんなに変わらないはずなのに、悠太とは全然違うタイプだと感じた。
「もうすぐチョコマフィン完成するから、みんなリビングで待ってて」
真綾さんの一言で全員がリビングに集まる。
「お茶、淹れてくるね」
「俺も手伝う」
「あ! 今キッチン片付けまだ終わってなくて。だから、君彦くんは座ってていいよ」
「真綾がそう言うのなら待っておく」
神楽小路さんは微笑みながら、真綾さんの頭を撫でた。
「映画どうだったんだ?」
「面白かったですよ。僕も神楽小路くんも原作小説を読んでいたので、あのシーンがこう映像化されるとはと感動してました。映像でしか表せない表現もあって見ごたえありました」
「そんだけ興奮して話すってことは相当面白かったんだな。よかったなぁ」
「咲さんも観に行きましょうよ」
「二回目になるけどいいのか?」
「構いません。面白いものは咲さんとも共有出来たら嬉しいので」
コタツに入りながら会話している咲さんと駿河さんは熟年夫婦のような落ち着きがある。そして、私と悠太は、ちょこんと座って、二組のカップルを見ていた。
「なんかすごいね」
「特に姉ちゃんと君彦さんな」
「本当にいつもあんなにくっついてるんだ……」
「基本そう。もう見慣れた」
真綾さんが戻ってくるまで、初対面の面々は一通り自己紹介を済ませた。悠太はまじまじと駿河さんを見ている。
「咲さんの彼氏さんとこんな早々にお会いできるなんて思わなかったっす」
「えっ、僕ですか?」
「さっき話した通りだろ?」
「本当に存在するんだぁって……」
「イマジナリー彼氏じゃねぇっての!」
「咲さん一体どんな会話したんです……?」
そんな会話をしていると、真綾さんはマフィンと、淹れなおした紅茶のポットを持ってやってきた。
「せっかくだから、出来立ては君彦くんと駿河くん食べてみて」
「本当に出来立てですね。湯気が立ってます」
「匂いからしてうまそうだ」
「冷めないうちにどうぞ」
「「いただきます」」
二人同時に口に含んだ。
「うまい」
「美味しいですね」
追って、残り四人もマフィンを食べ始める。
「ふわふわでおいしいね!」
「ああ。ホットケーキミックスって、簡単に出来てホントすげぇなって改めて思わされるな」
「ほんとほんと」
「悠太、どうかな?」
「めちゃくちゃうまいよ」
「よかった」
みんなが「おいしい」って言いながら、喜んで頬張る顔、幸せだなぁ。おいしいもの食べながら、年齢も性別も何もかもフラットになって会話する。食事の時間って不思議な魔法のようなものだ。私はそう思う。無事にお菓子作り成功してよかった。
「このあと、駿河くんの家で遊んでくるね」
「お邪魔しました」
「悠太、深雪、また会おう」
「深雪ちゃん、今日はホントありがとうな! 楽しかったぜ」
リビングには私と悠太。あんなに賑やかだったのに、四人もいなくなると寂しさがある。
「なんかごめんな。お菓子作り教えてもらったり、人が増えたり」
「とても楽しかった。なんか部活みたいだったよ」
「それなら安心した」
「私たちも真綾さんや咲さんたちみたいに仲良く過ごしていければいいな」
「そうだな。まぁ……君彦さんみたいには出来ないかもだけど」
「いいんだよ。悠太は悠太で」
視線が重なり、笑いあっていると電話が鳴る。
「私のだ……」
カバンからスマホを取り出すと画面には「深月」の名前。とりあえず番号交換しただけで、一度も連絡したことも、来たこともなかったのに。
「……もしもし?」
『お姉ちゃん! 今どこ⁉』
「え? 今は……」
電話の向こうでボンっと何かが破裂した音がする。
「なに今の音⁉」
『ごめんなさい! ごめんなさい!』
「落ち着いて! 何があったの?」
『はっ、早く帰ってきて!』
ここで通話が切れた。
「もしもし⁉ ……どうしよう、切れちゃった」
「何があった?」
「妹が『帰ってきて』って……私も何がなんだか。お母さん入院してるし、お父さんはまだ仕事だし……どうしたらいい?」
「深雪大丈夫だ、落ち着け」
手を強く握り、涙で潤みはじめた私の目を見つめる。
「家行こう。俺も行く」
「いいの?」
「このまま深雪一人で帰せるわけねぇだろ」
「ありがとう、悠太」
真綾さんは外を映しているモニター画面を確認すると、「えぇ⁉」という悲鳴に近い声を上げた。
「なんだなんだ⁉」
「どうした真綾⁉」
ゲームをしていた二人もコントローラーを置いて、駆けつける。
「見て! 君彦くんと駿河くんだよ?」
「「「え⁉」」」
小走りで真綾さんがドアを開けに向かう。まるで漫画の中から飛び出て来たような浮世離れした雰囲気を漂わせた亜麻色の髪の男性は、中に入るや否や、真綾さんを強く抱きしめた。私はびっくりしちゃって固まっちゃったけど他の三人は全く動揺していない。
「おいおい、総一郎。二人で映画見に行ってたんじゃないのか?」
「映画には行きましたよ。そのあとご飯食べながら佐野さんと咲さんの話をしていたら、待ち合わせ時間まで待ってられないという話になりまして」
総一郎と呼ばれた黒髪の男性はポケットからメガネふきを取り出し、寒暖差で曇ったメガネを拭きながら言う。
「君彦くんも駿河くんも寒かったでしょ? 上がって上がって」
「ありがとうございます、失礼します」
「失礼する」
靴を脱ぎ、スリッパに履き替える君彦さんに悠太は近づく。
「君彦さん、ちわっす」
「元気か?」
「全然元気っすよ」
「うむ。それならよかった」
「メッセージでやりとりしたとこじゃないですか」
「会って顔を合わすのは久しぶりだったからな」
視線が隣に立つ私に移る。
「もしや、お前が岸野深雪か」
「そうです、はじめまして!」
「初めまして。俺は神楽小路君彦だ。真綾と悠太から話は聞いている」
「私もお話はかねがね」
「そうか。よろしく頼む」
そう言うと、ふっと微笑んだ。なんだろう、大人の余裕のようなものなんだろうか。年齢もきっとそんなに変わらないはずなのに、悠太とは全然違うタイプだと感じた。
「もうすぐチョコマフィン完成するから、みんなリビングで待ってて」
真綾さんの一言で全員がリビングに集まる。
「お茶、淹れてくるね」
「俺も手伝う」
「あ! 今キッチン片付けまだ終わってなくて。だから、君彦くんは座ってていいよ」
「真綾がそう言うのなら待っておく」
神楽小路さんは微笑みながら、真綾さんの頭を撫でた。
「映画どうだったんだ?」
「面白かったですよ。僕も神楽小路くんも原作小説を読んでいたので、あのシーンがこう映像化されるとはと感動してました。映像でしか表せない表現もあって見ごたえありました」
「そんだけ興奮して話すってことは相当面白かったんだな。よかったなぁ」
「咲さんも観に行きましょうよ」
「二回目になるけどいいのか?」
「構いません。面白いものは咲さんとも共有出来たら嬉しいので」
コタツに入りながら会話している咲さんと駿河さんは熟年夫婦のような落ち着きがある。そして、私と悠太は、ちょこんと座って、二組のカップルを見ていた。
「なんかすごいね」
「特に姉ちゃんと君彦さんな」
「本当にいつもあんなにくっついてるんだ……」
「基本そう。もう見慣れた」
真綾さんが戻ってくるまで、初対面の面々は一通り自己紹介を済ませた。悠太はまじまじと駿河さんを見ている。
「咲さんの彼氏さんとこんな早々にお会いできるなんて思わなかったっす」
「えっ、僕ですか?」
「さっき話した通りだろ?」
「本当に存在するんだぁって……」
「イマジナリー彼氏じゃねぇっての!」
「咲さん一体どんな会話したんです……?」
そんな会話をしていると、真綾さんはマフィンと、淹れなおした紅茶のポットを持ってやってきた。
「せっかくだから、出来立ては君彦くんと駿河くん食べてみて」
「本当に出来立てですね。湯気が立ってます」
「匂いからしてうまそうだ」
「冷めないうちにどうぞ」
「「いただきます」」
二人同時に口に含んだ。
「うまい」
「美味しいですね」
追って、残り四人もマフィンを食べ始める。
「ふわふわでおいしいね!」
「ああ。ホットケーキミックスって、簡単に出来てホントすげぇなって改めて思わされるな」
「ほんとほんと」
「悠太、どうかな?」
「めちゃくちゃうまいよ」
「よかった」
みんなが「おいしい」って言いながら、喜んで頬張る顔、幸せだなぁ。おいしいもの食べながら、年齢も性別も何もかもフラットになって会話する。食事の時間って不思議な魔法のようなものだ。私はそう思う。無事にお菓子作り成功してよかった。
「このあと、駿河くんの家で遊んでくるね」
「お邪魔しました」
「悠太、深雪、また会おう」
「深雪ちゃん、今日はホントありがとうな! 楽しかったぜ」
リビングには私と悠太。あんなに賑やかだったのに、四人もいなくなると寂しさがある。
「なんかごめんな。お菓子作り教えてもらったり、人が増えたり」
「とても楽しかった。なんか部活みたいだったよ」
「それなら安心した」
「私たちも真綾さんや咲さんたちみたいに仲良く過ごしていければいいな」
「そうだな。まぁ……君彦さんみたいには出来ないかもだけど」
「いいんだよ。悠太は悠太で」
視線が重なり、笑いあっていると電話が鳴る。
「私のだ……」
カバンからスマホを取り出すと画面には「深月」の名前。とりあえず番号交換しただけで、一度も連絡したことも、来たこともなかったのに。
「……もしもし?」
『お姉ちゃん! 今どこ⁉』
「え? 今は……」
電話の向こうでボンっと何かが破裂した音がする。
「なに今の音⁉」
『ごめんなさい! ごめんなさい!』
「落ち着いて! 何があったの?」
『はっ、早く帰ってきて!』
ここで通話が切れた。
「もしもし⁉ ……どうしよう、切れちゃった」
「何があった?」
「妹が『帰ってきて』って……私も何がなんだか。お母さん入院してるし、お父さんはまだ仕事だし……どうしたらいい?」
「深雪大丈夫だ、落ち着け」
手を強く握り、涙で潤みはじめた私の目を見つめる。
「家行こう。俺も行く」
「いいの?」
「このまま深雪一人で帰せるわけねぇだろ」
「ありがとう、悠太」
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