上 下
14 / 15
咲くも枯らすも自分次第

第十四話 咲くも枯らすも自分次第7

しおりを挟む
 スマホを取り出し、メッセージアプリを起動する。
『岸野、おはよう。急だけど話したいことがある。出来たら電話やメッセージじゃなくて、会って話したい。今から会えないか』
 と、今の気持ちをとりあえず打ち込んで指を止める。

「へぇー、岸野深雪ちゃんって言うんだ」
 姉ちゃんが知らぬ間に横に来て画面を見ている。
「おい! 何覗き込んでんだよ!」
「なんて書いたのか気になって」
「……これで大丈夫かな?」
「うん。良いと思うよ。にしても、いつもお姉ちゃんにあんな偉そうな態度撮るのに、弱気だねぇ」
「弱気にだってなるだろ。まだ岸野のこと好きなんだし……」
 姉ちゃんをチラっと見ると、へらぁと顔を緩めている。
「そんな顔で見るなよ!」
「だって、かわいい弟にさぁ、彼女がって思うと」
「う、うっせぇよ……!」
「ねぇねぇ、どういう出会いなの? 同級生? まさか先輩?」
「同じクラスの子で風紀委員一緒にやってて……」
「どんな子なの?」
「真面目でかわいくて、手芸が得意で……って、質問攻めしてくんなよ!」
「えー」
「別れなかった時は、ちゃんと連れてくるから……!」
 そう言うと、姉ちゃんは嬉しそうに自分の席に戻り、トーストを頬張る。
「兄弟がいるというのは羨ましいものだな」
「そうですか?」
「一人は気楽だが、真綾と悠太の会話を聞くと俺にもこういう相手がいたらと思う」
「悠ちゃんはもう君彦くんの弟みたいなものだよ。ね、悠ちゃん?」
「はぁ!? まだあんたら結婚してないじゃん!」
「でも、お付き合いしている限り君彦くんは悠ちゃんのお兄ちゃんだよ」
「なんだよその理論。ぶっ飛びすぎだろ……」

 三分も経たないうちにメッセージを受信したときの短い電子音が鳴る。三人で画面を見る。ホーム画面に表示された名前は、岸野だ。バクバク鳴る心臓音が聴こえる中、アプリを開いて文面を確認する。
『わかった』
 この四文字が輝いて見える。
「悠ちゃん、よかったじゃん! ほらほら、早く待ち合わせ場所と時間送らなきゃだよ」
「わ、わかってる……!」
 深呼吸をした後、待ち合わせ場所と時間を送る。場所は岸野の最寄り駅の近くにある公園。時間は今すぐだと迷惑だから一時間後の十一時と送る。
『じゃあ、あとでね』
 とすぐに返信が来た。安心して力が抜けた。良かった。
「ほらほら、ゆっくりしてる場合じゃないでしょ?」
「おう……」

 そうだ。今、部屋着だった。
 自分の部屋に戻り、服を着替える。岸野と私服で会うのは初めてだな。話するからカッチリシャツとかで決めた方が良いのか……? とかいろいろ考えたけど、カレッジロゴのスウェット、デニムにした。今日ばかりはオシャレよりも着慣れた服の方が良い。
 着替え終わって戻ると、姉ちゃんはロングコートを着て、君彦さんと共に玄関に向かおうとしていた。

「じゃあ、わたしは今から君彦くんのお家行くね」
「おう」
「頑張って誤解は解くんだよ」
「わかった」
「ちゃんと自分の気持ち全部伝えて……」
「わかってるって! ……なぁ、姉ちゃん」
「ん?」
「その、最近いろいろごめん……。君彦さんの言う通り、家族だからってえらそうにしたり、八つ当たりしたりしてさ……」
 姉ちゃんは目を潤ませると、
「悠ちゃんはかわいいなぁ」
 急に飛びついてきた。姉ちゃんにハグされるなんて何年ぶりだ? 小学生の時まではしょっちゅう抱きつかれてたけど。っていうか、顔が近い。恥ずかしくて、勢いよく顔を逸らす。
「もうすっかり悠ちゃんの方が身長高いから変な感じだなぁ」
「バカバカ! 離れろ! 君彦さんが見てるし!」
「かまわん。俺はあとでゆっくりハグする」
「そういうことじゃねぇよ!」
 無理やり引き剥がしてから、
「あと、お弁当のことなんだけど……やっぱり持っていって食べたい。だから母さんにもそれとなしに……」
「わかった。深雪ちゃんのことは伏せて伝えとく」
「ありがと、姉ちゃん」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ストロベリー・スモーキー

おふとん
ライト文芸
 大学二年生の川嶋竜也はやや自堕落で、充足感の無い大学生活を送っていた。優一をはじめとした友人達と関わっていく中で、少しずつ日々の生活が彩りはじめる。

【2】元始、君は太陽であった【完結】

ホズミロザスケ
ライト文芸
母親に監視・束縛され、自由のない生活を送っていた駿河総一郎(するが そういちろう)。 高校三年生の秋、母親の反対を押し切り、自分が一番行きたいと考えている喜志芸術大学・文芸学科を受験する。 入試当日、筆記用具を忘れてしまい涙を浮かべる隣の女子生徒・桂咲(かつら えみ)に筆記用具を貸すことに。 試験後に、咲から「筆記用具を貸してくれたお礼に」と食堂で食事を共にし、すぐに打ち解ける。 連絡先も交換しないまま別れたが、翌年の春、大学に合格した二人は再会する。 裏表がなく、笑顔を絶やさない咲に、駿河はしだいに惹かれていく。 「いずれ、キミに繋がる物語」シリーズ二作目(登場する人物が共通しています)。単品でも問題なく読んでいただけます。 ※当作品は「カクヨム」「小説家になろう」にも同時掲載しております。(過去に「エブリスタ」「貸し本棚」にも掲載)

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

二枚の写真

原口源太郎
ライト文芸
外からテニスの壁打ちの音が聞こえてきた。妻に訊くと、三日前からだという。勇は少年が一心不乱にテニスに打ち込む姿を見ているうちに、自分もまたボールを打ってみたくなる。自身もテニスを再開したのだが、全くの初心者のようだった壁打ちの少年が、たちまちのうちに腕を上げて自分よりうまくなっていく姿を信じられない思いで見つめる。

「世界で1番短い物語」一瞬のあの切なさを閉じ込めて

麻美拓海
ライト文芸
a good story for good life 起承転結で綴る4コマ漫画的な物語 例えば人生のこんな一場面

【完結】バイトに行ったら、ある意味モテた。ただし、本人は、納得できない模様

buchi
ライト文芸
地味め、草食系の修平は、新しいバイト先で、顔立ちはキレイだが、かなり変人の葉山と一緒になった。葉山が一緒にいるばっかりに、恋愛レベル低めの修平が、次々とトラブルに巻き込まれる羽目に。修平は、葉山を追いかける女子大生サナギに付きまとわれ、友人の松木は葉山に誘惑される。だが、最大の被害者は、バイト先の社長だろう。眉をひそめて、成り行きを静観していた修平だったが、突然、自分が最悪の被害者になっていることに気が付いた………もう、葉山なんか死ねばいいのに。

das Unbedingte

イロイロ
ライト文芸
彼だけが知る死体が消えた──。 彷徨う『死体』は、子供の頃に死んだはず。 なのに大人になっているという『これ』は、はたして“彼”を追い求めているというのか? そんな“彼”の焦燥などすえ知らず、全国高等学校総合文化祭“そうぶん”──これを開催することになったK学園。 そこにいる、もう一人の少年は人知れず、独楽のように、繰る繰る廻って生きている。 世の歯車になれないような少年だが、この世界を暗車で掻きすすむように、紐解き渡る。 この行き着く先は、はたして“彼”か、そうして『死体』──“彼”の罪なのか。 「昼は夢、夜ぞうつつ」 太陽の下で夜を生きようとする少年と、昼を欺こうとする夜の者どもの、ミステリー。

甲子園を目指した男装美少女のひと夏の経験

牧村燈
ライト文芸
君島うのは高校2年生の帰国子女。幼少の頃から父親に指南を受けた野球が大好きなうのは、海外でも男子に混じってずっと野球をしてきました。高校進学を機に帰国したうのは、父と一緒に甲子園を目指して野球が出来ると喜んでいましたが、日本では女子選手は高校野球に出場することが出来ませんでした。 意気消沈、一度は野球を諦めたうのでしたが、高校野球の監督をしている父が、今年の成績によっては監督をクビになってしまうかも知れないという話を聞き、父のピンチを救う為、そして自分自身の夢の為に、男装をして高校野球部に潜入する決意をします。 男装美少女の高校野球への挑戦を、高校野球らしい汗と涙と、純粋でまじめで一生懸命な、でもその実、頭の中は欲求不満でエロいことばかり考えている精力最高潮の高校球児たちの蠢く、その青春ど真ん中を舞台にコミカル&純なお色気満載で描きます。

処理中です...