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咲くも枯らすも自分次第
第十一話 咲くも枯らすも自分次第4
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何もできないまま、また一週間が過ぎていた。
朝早く起きる癖が休みでも抜けないのが嫌だ。することもない。今日もコタツに入って、暖をとって、ただぼーっとするだけ。いつもと変わらない休日。
インターフォンが鳴る。ゆっくりコタツから抜け出し、モニターを確認する。
映っているのは君彦さんだった。不思議そうにインターフォンのカメラを見ていて、整った顔面がでかでかと映し出されている。まだ姉ちゃん寝てんだけど。こないだあんなことあったし、顔合わしたくないな。
かといって、このまま寒空の中放置するわけにもいかねぇよな……。通話ボタンを押す。
「あー、えっと」
『悠太か』
「はい。あの、今、開けます」
ドアを開けると、見下ろすように立っていた。黒いロングコートに下ろした長い亜麻色の髪が映える。
「おはよう、悠太」
「どもっす」
「真綾はいるか」
「いるけど、まだ寝てますよ。今のインターフォンの音で起きた様子もないですし」
「そうか。中で待っててもいいか」
「いいっすけど……」
「すまんな、邪魔する」
君彦さんは脱いだコートを腕にかけ、リビングへ向かう。こないだはスーツ姿だったが、今日は黒い編み上げのセーターとウールのストレートパンツでラフだ。こういう時どうしたらいいんだ。てか、二人きりなの嫌なんだけど。
「君彦さんってほうじ茶飲みます?」
「ああ」
「じゃあ、入れてきます」
「悪いな」
もそもそとコタツに入っていく。なんだか心なしか嬉しそうな顔をしている気がする。あの時コタツは初めてだと言ってたけど、気に入ったのかな……。急いでお湯を沸かして、ほうじ茶を入れて持って行く。
「どーぞ。安いティーバッグのやつですけど」
「ありがとう」
ほうじ茶を静かにすする。お茶を飲んでるだけでも綺麗だな……と思いながら斜め前に座る。姉ちゃんが見惚れる気もわからなくはない。
「なんだ」
俺の視線に気づいたのか、声をかけてきた。
「ええっと、今日はどういったご用件ですか?」
「俺の家でデートするから迎えに来ただけだ」
「今、起きてきてないってことは、もしかして姉ちゃん、寝坊してんすか?」
「いや」
「じゃあ何時に約束してたんすか」
「十二時に迎えに行くと約束していた」
俺は慌てて壁掛け時計を見る。
「どう見ても、今、九時半ですけど」
「そうだな」
「は?」
「なんだ?」
「姉ちゃんが寝坊とか、時間を勘違いしたとかじゃなく、ただ単純に早く来たんすか」
「そうだが」
「はぁ~!?」
思わず大声を出してしまう。
「早くて十時過ぎないと起きないと思いますよ。姉ちゃん最近夜遅くまで起きてるんで」
「そうか」
「そうか……って呑気に茶飲んでる場合じゃないですよ。てか、姉ちゃんに連絡入れてるんですか?」
「入れたが到着するまで返信がなかった」
「それなのに来た、と?」
「早く会いたい気持ちが勝ってしまってな」
「勝ったからって来る人がいますか!? まぁ、今、目の前にいるけど!」
「普通のことではないのか」
「普通じゃないっすよ」
考えまでちょっと世間とズレてるな……、困ったなと頭を掻いてから、
「今から起こしてきましょうか」
「いや。無理やり起こすのは可哀想だ。真綾が起きるまで待たせてくれ」
「ああ、もう勝手にどうぞ」
とは言ったものの、君彦さん一人をリビングに残すわけにもいかない。スマホをいじって時間をつぶしつつ、姉ちゃんが早く起きるようひたすら願う。君彦さんはゆっくりと顔を動かして、部屋を見渡している。
「悠太、あれは?」
君彦さんが指さした方向を見る。テレビ台についている棚に飾っている写真立て。俺を後ろから抱きしめてる姉ちゃんの写真が入っている。
「見せてもらえないか」
「いいですけど」
立ち上がって手に取る。ティッシュで軽く埃を掃ってから手渡す。
「これは真綾と悠太か」
「そうだよ。姉ちゃんが中一で、俺が小五の時だったかな。夏休みに上高地行って、ハイキングした時の写真です」
俺も久しぶりにまじまじと見た。三つ編み姿の姉ちゃんは笑顔で写っている。写真撮られるのが苦手で表情が硬くなってる俺。今よりも髪が短く、汗をかいて少しうねっている前髪が額に張り付いている。二人ともTシャツにデニムとスニーカーと動きやすい格好をしている。
「二人とも仲が良いのだな」
「昔は、ですけど」
「今は嫌いなのか」
「嫌い……なわけないじゃないですか」
そう言うと、一度息を吸って吐く。
「姉ちゃんには小さい頃からたくさん面倒みてもらいました。今もなんだかんだ世話焼いてくるけど。姉ちゃん、小学生の時から友達と遊んだり、クラブ活動だってしたかったはずなのに、すべて断って家に帰ってきて、家事をしてくれました。本当に優しいし、心の底から感謝してて……」
「そうか」と、小さく呟いてから君彦さんは続ける。
「俺に強い言葉を浴びせるのはかまわんが、真綾に感謝や尊敬の念があるのなら優しく接することだな」
「言われなくたってわかってるよ! 部外者のアンタに……」
「近い将来家族になる」
「そんなこと言ってたって、別れる時は別れるもんすよ」
「俺は真綾を離すつもりはない」
「重い人は嫌われますよ」
「重いか?」
「激重だよ」
そう答えると、君彦さんはさらに真剣な表情でこう言った。
「俺は真綾を愛している。それが自分の正直な気持ちだ」
「自分の気持ち全部全部伝えてたら相手はいつかつぶれますよ」
「そう言って、お前は誰にも気持ちを伝えないつもりか」
返答に窮していると、君彦さんは続ける。
「真綾はあのあと『悠太は悪くない』『いつものことだから』と何度も笑って言っていた。お前はそれでいいのか?」
「アンタに何がわかんだよ」
「その気持ちをしっかり伝えろと俺は思う」
「でも、家族とか気心知れてる相手だと言いにくいこととか、反対に仲良くなりたいヤツになんて話せばいいんだろってそういうのあるだろ……」
「そうだな」
君彦さんはお茶を一口飲んだあと、目を伏せる。
朝早く起きる癖が休みでも抜けないのが嫌だ。することもない。今日もコタツに入って、暖をとって、ただぼーっとするだけ。いつもと変わらない休日。
インターフォンが鳴る。ゆっくりコタツから抜け出し、モニターを確認する。
映っているのは君彦さんだった。不思議そうにインターフォンのカメラを見ていて、整った顔面がでかでかと映し出されている。まだ姉ちゃん寝てんだけど。こないだあんなことあったし、顔合わしたくないな。
かといって、このまま寒空の中放置するわけにもいかねぇよな……。通話ボタンを押す。
「あー、えっと」
『悠太か』
「はい。あの、今、開けます」
ドアを開けると、見下ろすように立っていた。黒いロングコートに下ろした長い亜麻色の髪が映える。
「おはよう、悠太」
「どもっす」
「真綾はいるか」
「いるけど、まだ寝てますよ。今のインターフォンの音で起きた様子もないですし」
「そうか。中で待っててもいいか」
「いいっすけど……」
「すまんな、邪魔する」
君彦さんは脱いだコートを腕にかけ、リビングへ向かう。こないだはスーツ姿だったが、今日は黒い編み上げのセーターとウールのストレートパンツでラフだ。こういう時どうしたらいいんだ。てか、二人きりなの嫌なんだけど。
「君彦さんってほうじ茶飲みます?」
「ああ」
「じゃあ、入れてきます」
「悪いな」
もそもそとコタツに入っていく。なんだか心なしか嬉しそうな顔をしている気がする。あの時コタツは初めてだと言ってたけど、気に入ったのかな……。急いでお湯を沸かして、ほうじ茶を入れて持って行く。
「どーぞ。安いティーバッグのやつですけど」
「ありがとう」
ほうじ茶を静かにすする。お茶を飲んでるだけでも綺麗だな……と思いながら斜め前に座る。姉ちゃんが見惚れる気もわからなくはない。
「なんだ」
俺の視線に気づいたのか、声をかけてきた。
「ええっと、今日はどういったご用件ですか?」
「俺の家でデートするから迎えに来ただけだ」
「今、起きてきてないってことは、もしかして姉ちゃん、寝坊してんすか?」
「いや」
「じゃあ何時に約束してたんすか」
「十二時に迎えに行くと約束していた」
俺は慌てて壁掛け時計を見る。
「どう見ても、今、九時半ですけど」
「そうだな」
「は?」
「なんだ?」
「姉ちゃんが寝坊とか、時間を勘違いしたとかじゃなく、ただ単純に早く来たんすか」
「そうだが」
「はぁ~!?」
思わず大声を出してしまう。
「早くて十時過ぎないと起きないと思いますよ。姉ちゃん最近夜遅くまで起きてるんで」
「そうか」
「そうか……って呑気に茶飲んでる場合じゃないですよ。てか、姉ちゃんに連絡入れてるんですか?」
「入れたが到着するまで返信がなかった」
「それなのに来た、と?」
「早く会いたい気持ちが勝ってしまってな」
「勝ったからって来る人がいますか!? まぁ、今、目の前にいるけど!」
「普通のことではないのか」
「普通じゃないっすよ」
考えまでちょっと世間とズレてるな……、困ったなと頭を掻いてから、
「今から起こしてきましょうか」
「いや。無理やり起こすのは可哀想だ。真綾が起きるまで待たせてくれ」
「ああ、もう勝手にどうぞ」
とは言ったものの、君彦さん一人をリビングに残すわけにもいかない。スマホをいじって時間をつぶしつつ、姉ちゃんが早く起きるようひたすら願う。君彦さんはゆっくりと顔を動かして、部屋を見渡している。
「悠太、あれは?」
君彦さんが指さした方向を見る。テレビ台についている棚に飾っている写真立て。俺を後ろから抱きしめてる姉ちゃんの写真が入っている。
「見せてもらえないか」
「いいですけど」
立ち上がって手に取る。ティッシュで軽く埃を掃ってから手渡す。
「これは真綾と悠太か」
「そうだよ。姉ちゃんが中一で、俺が小五の時だったかな。夏休みに上高地行って、ハイキングした時の写真です」
俺も久しぶりにまじまじと見た。三つ編み姿の姉ちゃんは笑顔で写っている。写真撮られるのが苦手で表情が硬くなってる俺。今よりも髪が短く、汗をかいて少しうねっている前髪が額に張り付いている。二人ともTシャツにデニムとスニーカーと動きやすい格好をしている。
「二人とも仲が良いのだな」
「昔は、ですけど」
「今は嫌いなのか」
「嫌い……なわけないじゃないですか」
そう言うと、一度息を吸って吐く。
「姉ちゃんには小さい頃からたくさん面倒みてもらいました。今もなんだかんだ世話焼いてくるけど。姉ちゃん、小学生の時から友達と遊んだり、クラブ活動だってしたかったはずなのに、すべて断って家に帰ってきて、家事をしてくれました。本当に優しいし、心の底から感謝してて……」
「そうか」と、小さく呟いてから君彦さんは続ける。
「俺に強い言葉を浴びせるのはかまわんが、真綾に感謝や尊敬の念があるのなら優しく接することだな」
「言われなくたってわかってるよ! 部外者のアンタに……」
「近い将来家族になる」
「そんなこと言ってたって、別れる時は別れるもんすよ」
「俺は真綾を離すつもりはない」
「重い人は嫌われますよ」
「重いか?」
「激重だよ」
そう答えると、君彦さんはさらに真剣な表情でこう言った。
「俺は真綾を愛している。それが自分の正直な気持ちだ」
「自分の気持ち全部全部伝えてたら相手はいつかつぶれますよ」
「そう言って、お前は誰にも気持ちを伝えないつもりか」
返答に窮していると、君彦さんは続ける。
「真綾はあのあと『悠太は悪くない』『いつものことだから』と何度も笑って言っていた。お前はそれでいいのか?」
「アンタに何がわかんだよ」
「その気持ちをしっかり伝えろと俺は思う」
「でも、家族とか気心知れてる相手だと言いにくいこととか、反対に仲良くなりたいヤツになんて話せばいいんだろってそういうのあるだろ……」
「そうだな」
君彦さんはお茶を一口飲んだあと、目を伏せる。
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