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第三章 やりなおしの歌
第二十九話 やりなおしの歌11
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そのあと、ダダはイエフリのメンバーと麗子さんにこってりとお叱りを受けた。仕事も飛ばしたし、仕方ない。ダダは正座して黙って言葉を受け止めると謝罪した。
「タイがこんなにまじめに反省してんの、初めてだなぁ」
と、コウノさんがしみじみ呟いた。
「ほら、遅刻しても、忘れ物しても、明後日の方向見てること多かったじゃないですか」
「それは確かに。コウノさんの言う通りっす」
「やっぱり、木村ちゃんのところで働きはじめて変わったのかも」
「まぁ、そういうところはちゃんとしてないと、怒ってたので」
「タイくん、よかったねぇ。良い人に巡り合えて」
麗子さんが笑いかけると、ダダは頷いた。
「さ、とりあえず、タイくんも無事帰って来たし、みんなでお寿司食べましょ~」
広々としたダイニングテーブルの上に置かれた六人前のお寿司を食べている最中、ダダが、
「オレ、キムキムと今日結婚するから」
と発言すると、
「け、結婚⁉」
全員が椅子から転げ落ちるかと言うくらいに驚いていた。そりゃそうだよね。交際なしにいきなり結婚の話出したんだから。
「木村ちゃん、良いの⁉」
「はい。鉄は熱いうち飲めって言うじゃないですか」
「それを言うなら、鉄は熱いうちに打てだな?」
ソウタは口いっぱいに寿司を頬張りつつ、ツッコんだ。
「そうそう、それ。このままの勢いで籍入れていいかなーって」
「ドラマとか歌で聞いたことあるけど、ノリで結婚するの、初めて見たわ」
「でも、結局勢いがないと結婚できないモンだよ」
「そういや、コウノさんはデキ婚でしたよね」
「まぁ、もともと結婚は視野に入れてたけどさ。子どもが背中おしてくれたというか、叩き直してくれるきっかけをくれたというか」
「俺たち夫婦も勢いで結婚した身だから言えるんだけど、今日すぐには結婚できないと思う」
「えー、そうなの?」
「なんでなんすか」
「ドラマとかアニメだとかはすぐに結婚届出してると思うけど、いろいろ必要なんだから。特に戸籍謄本は本籍の市役所行かないとダメだし」
「オレ、本籍知らない」
「そうなるでしょ? たいがい実家だとは思うけど……。それに、ご家族に挨拶しないで結婚しちゃうのはやっぱり、ね?」
「たしかに」
とアタシとダダは見つめ合って、頷く。今までアタシを育ててくれたママにはちゃんと言わなきゃだよね。ダダだってお世話になったキタエさんには報告してほしいし。
「あーあ。源太と結婚したのも遠い昔なのよねぇ。親友のヨっちゃん・タカピー夫妻とダブル結婚式させてもらってねー。ヨっちゃんがデザインしたウエディングドレス最高だったなぁ~」
「麗子のウエディングドレスは世界一キレイでなぁ~」
「今でもそう言ってくれてうれしい~」
とイチャつく二人を息子であるソウタは苦々しい表情を浮かべる。
「オレもキムキムのウエディングドレス着てるところ見たい」
「アタシ、式に呼ぶほど親戚も友達もいないし。それにお金だって……」
「式上げなくても、写真だけ撮るのもいいかもしれないよぉ。写真は源太が撮ってくれるし、ドレスはヨっちゃんに依頼したら世界で一着のドレス作ってくれるし。あ、費用は会社が持つから」
「そ、そんな申し訳ないっすよ……!」
「タイくんは私たちの家族同然……いやもう家族の一人。だからね、素敵な人と結婚が決まって嬉しいの。もし、ウエディングフォト撮りたくなったらいつでも言ってね~」
「ありがと、麗子さん」
「ありがとうございます」
源太さんがバイクごと一緒にアタシの家まで送ってくれた。送ってもらっている車中、ダダは桂っちと駿河っちに連絡した。漏れ聞こえてくる桂っちの声は何言ってるかまではわからなかったけど、泣いてるのはわかった。
「二人とも、『無事でよかった』って言ってくれた」
「今度会ったら、改めて謝るんだよ。必死に探してくれたから」
「うん」
マンションに到着すると、源太さんはバイクを駐輪場まで運んでくれた。
「木村ちゃん、本当にありがとうね。タイちゃんは明日、延期してたレコーディングするから。寝坊しないようにね」
「わかった」
「寝坊しないようにアタシが起こすんで」
「タイちゃんのこと、これからも頼むよ」
「オヤジさん」
「お、なんだ? 改まった顔して」
「ありがとう」
「おう、俺はお前の第二のオヤジだからな。これくらいどうってことねぇっての」
うっすらと涙を浮かべた源太さんを見送り、家に戻る。
「ただいま」
玄関で靴を脱ぎながらダダが呟く。
「おかえり」
アタシは手を伸ばし、ダダの髪を優しく撫でた。
「タイがこんなにまじめに反省してんの、初めてだなぁ」
と、コウノさんがしみじみ呟いた。
「ほら、遅刻しても、忘れ物しても、明後日の方向見てること多かったじゃないですか」
「それは確かに。コウノさんの言う通りっす」
「やっぱり、木村ちゃんのところで働きはじめて変わったのかも」
「まぁ、そういうところはちゃんとしてないと、怒ってたので」
「タイくん、よかったねぇ。良い人に巡り合えて」
麗子さんが笑いかけると、ダダは頷いた。
「さ、とりあえず、タイくんも無事帰って来たし、みんなでお寿司食べましょ~」
広々としたダイニングテーブルの上に置かれた六人前のお寿司を食べている最中、ダダが、
「オレ、キムキムと今日結婚するから」
と発言すると、
「け、結婚⁉」
全員が椅子から転げ落ちるかと言うくらいに驚いていた。そりゃそうだよね。交際なしにいきなり結婚の話出したんだから。
「木村ちゃん、良いの⁉」
「はい。鉄は熱いうち飲めって言うじゃないですか」
「それを言うなら、鉄は熱いうちに打てだな?」
ソウタは口いっぱいに寿司を頬張りつつ、ツッコんだ。
「そうそう、それ。このままの勢いで籍入れていいかなーって」
「ドラマとか歌で聞いたことあるけど、ノリで結婚するの、初めて見たわ」
「でも、結局勢いがないと結婚できないモンだよ」
「そういや、コウノさんはデキ婚でしたよね」
「まぁ、もともと結婚は視野に入れてたけどさ。子どもが背中おしてくれたというか、叩き直してくれるきっかけをくれたというか」
「俺たち夫婦も勢いで結婚した身だから言えるんだけど、今日すぐには結婚できないと思う」
「えー、そうなの?」
「なんでなんすか」
「ドラマとかアニメだとかはすぐに結婚届出してると思うけど、いろいろ必要なんだから。特に戸籍謄本は本籍の市役所行かないとダメだし」
「オレ、本籍知らない」
「そうなるでしょ? たいがい実家だとは思うけど……。それに、ご家族に挨拶しないで結婚しちゃうのはやっぱり、ね?」
「たしかに」
とアタシとダダは見つめ合って、頷く。今までアタシを育ててくれたママにはちゃんと言わなきゃだよね。ダダだってお世話になったキタエさんには報告してほしいし。
「あーあ。源太と結婚したのも遠い昔なのよねぇ。親友のヨっちゃん・タカピー夫妻とダブル結婚式させてもらってねー。ヨっちゃんがデザインしたウエディングドレス最高だったなぁ~」
「麗子のウエディングドレスは世界一キレイでなぁ~」
「今でもそう言ってくれてうれしい~」
とイチャつく二人を息子であるソウタは苦々しい表情を浮かべる。
「オレもキムキムのウエディングドレス着てるところ見たい」
「アタシ、式に呼ぶほど親戚も友達もいないし。それにお金だって……」
「式上げなくても、写真だけ撮るのもいいかもしれないよぉ。写真は源太が撮ってくれるし、ドレスはヨっちゃんに依頼したら世界で一着のドレス作ってくれるし。あ、費用は会社が持つから」
「そ、そんな申し訳ないっすよ……!」
「タイくんは私たちの家族同然……いやもう家族の一人。だからね、素敵な人と結婚が決まって嬉しいの。もし、ウエディングフォト撮りたくなったらいつでも言ってね~」
「ありがと、麗子さん」
「ありがとうございます」
源太さんがバイクごと一緒にアタシの家まで送ってくれた。送ってもらっている車中、ダダは桂っちと駿河っちに連絡した。漏れ聞こえてくる桂っちの声は何言ってるかまではわからなかったけど、泣いてるのはわかった。
「二人とも、『無事でよかった』って言ってくれた」
「今度会ったら、改めて謝るんだよ。必死に探してくれたから」
「うん」
マンションに到着すると、源太さんはバイクを駐輪場まで運んでくれた。
「木村ちゃん、本当にありがとうね。タイちゃんは明日、延期してたレコーディングするから。寝坊しないようにね」
「わかった」
「寝坊しないようにアタシが起こすんで」
「タイちゃんのこと、これからも頼むよ」
「オヤジさん」
「お、なんだ? 改まった顔して」
「ありがとう」
「おう、俺はお前の第二のオヤジだからな。これくらいどうってことねぇっての」
うっすらと涙を浮かべた源太さんを見送り、家に戻る。
「ただいま」
玄関で靴を脱ぎながらダダが呟く。
「おかえり」
アタシは手を伸ばし、ダダの髪を優しく撫でた。
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