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第二章 君の手は握れない
第十七話 君の手は握れない8
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その日の夜。晩ご飯を食べたあと、ダダが絵を描いているのを見ていると着信音が鳴った。電話だ。
『ラァ、久しぶり~』
高校時代の友人、トモミからだった。結婚して、二児の母。確か上の子はもう小学生だった気がする。てか、「ラァ」だなんて久しぶりに呼ばれた。アタシをそう呼ぶのは、アタシが付き合い悪くても仲良くしてくれた高校の友達だけだ。
「マジ久しぶり、どした~?」
『急なんだけど同窓会やることなってさぁ、ラァ、来ない?』
「えっ⁉ あー……行けたら行く」
『それ、来ない人のセリフじゃ~ん』
「ごめんて。いつやるのかによるかな」
『次の土曜』
「マジの急じゃん。ウケる」
『いやさぁ、こないだ道歩いてたら、モリゲンに会ってさぁ。モリゲン、まだ先生やってんの~? って盛り上がっちゃて』
モリゲンは三年生の時の担任、森元先生のことだ。その当時で五十手前とかだったかな。三年間古典の授業持ってもらってたけど、しょーもないオヤジギャグ連発してスベってた記憶。
『その時に同窓会しよって話になったワケ。で、来れそう?』
立ち上がり、冷蔵庫に貼ってるシフト表を確認する。
「土曜日……空いてるわ」
『マジ? じゃあ、来てよ~。突発すぎてまだ人数集まんないんだわ』
大人になってもこういう集まり事はニガテだけど、子育てが忙しいトモミとは何年も会ってなかったしなぁ。
「わかった。じゃあ、場所と時間決まったら連絡よろ」
『助かる~! また改めて連絡するから』
電話を切って、そのままアプリのカレンダーに予定を入力しておく。
「土曜日、どっか行くの?」
絵を描いていたダダが顔を上げる。
「高校の同窓会行って来る」
そう答えると「ふーん」と言って再びスケッチブックに向かう。
「ダダは……興味ないよね」
「うん。それにそもそも夕方バイトだし」
「あっ、そうだっけ」
確認したら、十七時からラストまでのシフトだった。
「その日はダダ用に晩ご飯作って置いとく。何が良い?」
「んー……チャーハン?」
「オッケー。用意しとく」
「あ、カレーでもいいな。こないだ作ってくれた棒棒鶏もおいしかったし、暑いから冷しゃぶとか……それならアボカドとトマト入れてほしい」
「選択肢増やすなっての」
そう苦笑いしつつも、なんか嬉しかった。
土曜日は、夜六時から梅田にある居酒屋で同窓会が開催に決まった。「急だ」と言ってた割に違うクラスだった人も合わせて二十名ほど。モリゲンが声をかけた先生も数人来るらしい。
当日の夕方、出勤するダダを見送り、アタシも出発する。たぶんお酒飲むだろうから、バイクではなく、電車で梅田を目指す。ノースリーブワンピースに、スニーカー。前にヒールで飲みに行って、帰りに壮大にこけて膝擦りむいたことがあるから、その反省を生かしての選択だ。会場が近づくたびに意外と楽しみになっている自分がいた。
到着すると、見知った顔がアタシを出迎えた。最初は久しぶりすぎてギクシャクした空気もお酒が入り、食事が並ぶと高校時代の空気が戻る。
「えー! 木村、今店長なの?」
「雑貨屋店長ってなんかシャレてる」
「そう? 田舎の雑貨屋だけど、ダサくならないようには頑張ってる」
「てか、数学で補習受けまくってた木村が在庫管理とかしてんでしょ? ウケんね」
「はぁ? ちゃんとやってっし」
ポテト、ほっけ、たこわさ、軟骨のからあげ……。どんどんと、テキトーに注文した食べ物がテーブルに並べられていく。居酒屋メニューは塩辛い食べ物が多いからか、お酒が進んでしまう。今日は飲み過ぎないようにしなきゃな。また迷惑かけたらマズイし、今日は一人でしっかり帰れるようにしなきゃ。明日は朝から出勤だ。
まだ意識がハッキリしてるうちに先生たちが飲んでるテーブルへ向かう。
「久しぶり~」
「おっ、木村! 変わってないなぁ」
「モリゲンはその……」
「じっと頭を見るな!」
アタシの近況をモリゲンに伝えると、先生からも「お前が店長⁉」「ちゃんと計算出来てるのか⁉」と散々心配された。軽く話せたし、
「じゃ、友達のとこ、戻るわ~。モリゲン、元気でね~」
と立ち去ろうとすると、モリゲンが「思い出した」と禿げ頭を軽く叩きながら言う。
「ほら、あいつ……」
「え? 何?」
「えーっとだな……そう! 金田! 違うクラスに金田って男いただろ?」
突然発せられたダダの名前にドキッとする。
「金田が卒業式の日にお前のこと探してたぞ」
「は? なんで?」
ダダは来なかったじゃん。来てたなら、美術準備室に……。
「夕方前だったか。ひょっこり来たんだ」
「ウソ……」
初耳だ。一語一句聞き逃さないように集中する。
「慌てた様子で職員室に駆け込んできてな。何事かと思ったよ。そしたら『木村さんに連絡してほしい』って言うんだ。あまりにも必死の形相だったから、急いでお前ん家の電話かけたが、そもそも繋がらんかった。『おかけになった番号は現在使われておりません』ってな」
「あ……」
そうだ。卒業式の二週間前くらいに家の固定電話が壊れた。お母さんもアタシもスマホあるからと解約したんだった。もう卒業するし、学校に届け出もいらないだろうと……。
「『それなら家に直接行く』と引き下がらなくてなぁ。住所も個人情報だから、『教えることは出来ない』って言ったら、肩落として帰ったんだ。可哀想だが、仕方ない」
「そう……」
「それにしても、金田と仲良かったんだな? あいつ、全然授業にも出てないし、クラスも違ってただろう?」
「ま、ちょっと……話す機会があって」
「また会った時にでも、モリゲンがこのこと気にしてたとでも伝えといてくれ」
「うん。わかった。ありがとね」
『ラァ、久しぶり~』
高校時代の友人、トモミからだった。結婚して、二児の母。確か上の子はもう小学生だった気がする。てか、「ラァ」だなんて久しぶりに呼ばれた。アタシをそう呼ぶのは、アタシが付き合い悪くても仲良くしてくれた高校の友達だけだ。
「マジ久しぶり、どした~?」
『急なんだけど同窓会やることなってさぁ、ラァ、来ない?』
「えっ⁉ あー……行けたら行く」
『それ、来ない人のセリフじゃ~ん』
「ごめんて。いつやるのかによるかな」
『次の土曜』
「マジの急じゃん。ウケる」
『いやさぁ、こないだ道歩いてたら、モリゲンに会ってさぁ。モリゲン、まだ先生やってんの~? って盛り上がっちゃて』
モリゲンは三年生の時の担任、森元先生のことだ。その当時で五十手前とかだったかな。三年間古典の授業持ってもらってたけど、しょーもないオヤジギャグ連発してスベってた記憶。
『その時に同窓会しよって話になったワケ。で、来れそう?』
立ち上がり、冷蔵庫に貼ってるシフト表を確認する。
「土曜日……空いてるわ」
『マジ? じゃあ、来てよ~。突発すぎてまだ人数集まんないんだわ』
大人になってもこういう集まり事はニガテだけど、子育てが忙しいトモミとは何年も会ってなかったしなぁ。
「わかった。じゃあ、場所と時間決まったら連絡よろ」
『助かる~! また改めて連絡するから』
電話を切って、そのままアプリのカレンダーに予定を入力しておく。
「土曜日、どっか行くの?」
絵を描いていたダダが顔を上げる。
「高校の同窓会行って来る」
そう答えると「ふーん」と言って再びスケッチブックに向かう。
「ダダは……興味ないよね」
「うん。それにそもそも夕方バイトだし」
「あっ、そうだっけ」
確認したら、十七時からラストまでのシフトだった。
「その日はダダ用に晩ご飯作って置いとく。何が良い?」
「んー……チャーハン?」
「オッケー。用意しとく」
「あ、カレーでもいいな。こないだ作ってくれた棒棒鶏もおいしかったし、暑いから冷しゃぶとか……それならアボカドとトマト入れてほしい」
「選択肢増やすなっての」
そう苦笑いしつつも、なんか嬉しかった。
土曜日は、夜六時から梅田にある居酒屋で同窓会が開催に決まった。「急だ」と言ってた割に違うクラスだった人も合わせて二十名ほど。モリゲンが声をかけた先生も数人来るらしい。
当日の夕方、出勤するダダを見送り、アタシも出発する。たぶんお酒飲むだろうから、バイクではなく、電車で梅田を目指す。ノースリーブワンピースに、スニーカー。前にヒールで飲みに行って、帰りに壮大にこけて膝擦りむいたことがあるから、その反省を生かしての選択だ。会場が近づくたびに意外と楽しみになっている自分がいた。
到着すると、見知った顔がアタシを出迎えた。最初は久しぶりすぎてギクシャクした空気もお酒が入り、食事が並ぶと高校時代の空気が戻る。
「えー! 木村、今店長なの?」
「雑貨屋店長ってなんかシャレてる」
「そう? 田舎の雑貨屋だけど、ダサくならないようには頑張ってる」
「てか、数学で補習受けまくってた木村が在庫管理とかしてんでしょ? ウケんね」
「はぁ? ちゃんとやってっし」
ポテト、ほっけ、たこわさ、軟骨のからあげ……。どんどんと、テキトーに注文した食べ物がテーブルに並べられていく。居酒屋メニューは塩辛い食べ物が多いからか、お酒が進んでしまう。今日は飲み過ぎないようにしなきゃな。また迷惑かけたらマズイし、今日は一人でしっかり帰れるようにしなきゃ。明日は朝から出勤だ。
まだ意識がハッキリしてるうちに先生たちが飲んでるテーブルへ向かう。
「久しぶり~」
「おっ、木村! 変わってないなぁ」
「モリゲンはその……」
「じっと頭を見るな!」
アタシの近況をモリゲンに伝えると、先生からも「お前が店長⁉」「ちゃんと計算出来てるのか⁉」と散々心配された。軽く話せたし、
「じゃ、友達のとこ、戻るわ~。モリゲン、元気でね~」
と立ち去ろうとすると、モリゲンが「思い出した」と禿げ頭を軽く叩きながら言う。
「ほら、あいつ……」
「え? 何?」
「えーっとだな……そう! 金田! 違うクラスに金田って男いただろ?」
突然発せられたダダの名前にドキッとする。
「金田が卒業式の日にお前のこと探してたぞ」
「は? なんで?」
ダダは来なかったじゃん。来てたなら、美術準備室に……。
「夕方前だったか。ひょっこり来たんだ」
「ウソ……」
初耳だ。一語一句聞き逃さないように集中する。
「慌てた様子で職員室に駆け込んできてな。何事かと思ったよ。そしたら『木村さんに連絡してほしい』って言うんだ。あまりにも必死の形相だったから、急いでお前ん家の電話かけたが、そもそも繋がらんかった。『おかけになった番号は現在使われておりません』ってな」
「あ……」
そうだ。卒業式の二週間前くらいに家の固定電話が壊れた。お母さんもアタシもスマホあるからと解約したんだった。もう卒業するし、学校に届け出もいらないだろうと……。
「『それなら家に直接行く』と引き下がらなくてなぁ。住所も個人情報だから、『教えることは出来ない』って言ったら、肩落として帰ったんだ。可哀想だが、仕方ない」
「そう……」
「それにしても、金田と仲良かったんだな? あいつ、全然授業にも出てないし、クラスも違ってただろう?」
「ま、ちょっと……話す機会があって」
「また会った時にでも、モリゲンがこのこと気にしてたとでも伝えといてくれ」
「うん。わかった。ありがとね」
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