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第二章 君の手は握れない

第十二話 君の手は握れない3

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 ダダと一緒に暮らしはじめて一か月が過ぎた。
 ダダは朝に弱く、かといって夜更かしも苦手。床でも、職場の椅子に座っていても、たまにレジに立ちながら眠ってしまう。好き嫌いなく食べて、思ったよりも大食い。作りすぎて、少し多めに盛ってもペロリと平らげるから、あの細い身体にどう吸収されてるのかが不思議。食後は皿洗いと、最近じゃあ風呂掃除もやってくれているようになった。
 バイトと両立しながら、バンド活動ももちろん続けている。バイトもバンドの仕事もない日はひたすら家にいて絵を描いてる。けど、キーボードを弾いてる姿は見たことがない。壁がそんなに厚くないから、弾かれるとそれはそれで問題になるんだけど。てか、よく考えたらキーボード自体ここにない。
「キーボード、いつもどうしてんの?」
 今日も、食後に絵を描き始めたダダの横に座り、訊いてみる。
「昔、失くしたことがあるから、事務所が保管してくれてる」
「あんなデカいもん失くす⁉」
「駅で眠くなってちょっと寝てたら消えてた。探してもなくてみんなに怒られた」
「そりゃそうだわ……」
 ダダに高価なもの預けるのは気をつけなきゃ……。
「楽器って練習めっちゃしなきゃならないんじゃないの? ほら、毎日触らないと、指が鈍るとか言うじゃん」
「楽譜さえあればなんとか」
「へぇー! そんなもんなの」
「オレの場合は。オレはもらった楽譜通り弾くだけ。アレンジは得意じゃないから」
「いろいろあるんだ」
「まあね」
 ダダはそう言って、ずり落ちたメガネを指で上げた瞬間、耳にかける弦を固定している部分が外れた。
「えっ、ちょっ⁉」
「大丈夫、よくあること」
 リュックからセロテープを取り出すと、外れたところに巻き付ける。
「そんなので見えてるの?」
「見えるけど、よくズレる」
「もうすぐ給料日っしょ? 買ったら?」
「んー……まだレンズ割れてないし」
 そう言ってメガネをかけた瞬間、左のレンズがボロっと外れた。
「コントかよ!」
 思わず芸人のようにツッコんでしまう。ダダはレンズを無理やりはめようとしたが、うまく入らず、結局セロテープで端を貼り付けた。
「早めに買い替えなよ~」
「じゃあ、キムキム、メガネ、一緒に買いに行ってくれる?」
「えっ、何で?」
「誰か一緒じゃないと、オレ見えないから、似合ってるかどうかわかんない」
「まあ、アタシでいいなら」
 そんなワケで、給料日後、一番近い休みの日に天王寺に出て、メガネ屋へ新調しに行くことにした。近くのスーパーやコンビニには一緒に行くことはあるけど、電車に乗って、遠出するなんてそんなの……マジのデートじゃん! と気づいたらなんだか変に意識してしまった。どうしよう。間、持つだろうか。っていうか、一緒に暮らしてる時点でそんなの気にしてる場合じゃないけど。でも、デートはまた別モンだし……と、悩んだ結果、アタシは――。
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