【9】やりなおしの歌【完結】

ホズミロザスケ

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第一章 再び動き出す季節

第六話 再び動き出す季節6

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 履歴書を書き終えたダダが事務所の中に入ってきた。
「よろしくお願いします」
「今からちゃんと面接するから……」
 と、履歴書の一番上の項目、住所を二度見した。
「あのさぁ」
「どしたの」
「この住所、本当? ここまで来るのめちゃくちゃかかるじゃん」
 書かれているのは隣の県。住所だけじゃ、県のどのあたりかなのかはわかんないけど、ここからだと下手したら電車で片道二時間はかかると思う。
「それ、実家」
「今住んでるマンションとか……」
「今、家ない」
「は?」
「お金なくて部屋借りれない」
「はぁ~⁉ どうやって生活してんの?」
「友達とか知り合いとかの家行ったり、ビジホとかネカフェ泊まったり」
「じゃあ、まあ、この際実家でもいいや……。この店、交通費出ないから――ってか、大学、喜志芸だったんだ。桂っちと一緒じゃん」
「喜志芸の、キャラクター造形学科っていうとこに入った」
「キャラクターってことはマンガとかアニメ系? 油絵じゃないんだ」
「うん。そっちの方は落ちた」
「ご、ごめん」
 ダダは知らない間に大学受験してて、アタシの近いところにいたんだ。将来のことなんて、あんまり話さなかったもんな。
「次に、職歴欄なんだけど……これマジ?」
 コンビニや居酒屋などビッシリ書かれているが、どれも一ヶ月~三ヶ月くらいで退職している。
「マジ。嘘は書いてない」
「うーん……」
 知り合いとはいえ、この職歴は……と黙りこんでいると、ダダも雰囲気を察したのか、
「やっぱ、だめ?」
 と首を垂れる。
「バンドだけじゃ生きていけないから、ちゃんと働こうとした。でも言われた仕事ちゃんとできなくて、何度もクビになった。仕事するのだんだん怖くなって。ここ数か月は給料前借りして生きてる」
 よくテレビで「芸能人が芸能人として生きていけるのは一握りだけだ」なんてタレントが言ってる場面を思い出す。バンドも一応芸能活動だから、それ一本で食べていこうと思えばどれほど大変だろう。ヒット曲一曲だけじゃ到底生きていけないだろうし。
「こないだオヤジさんに『木村ちゃん、店長だし、何か相談乗ってくれるんじゃないか』ってお店の場所教えてもらった。キムキムがいたら、働けるかなって」
「なるほどね……」
 アタシはふぅ……と小さく息を吐く。
 ダダはいつも一人でいた。勉強も、人との付き合いも拒否して、ひたすら絵を描いていた。社会に出たら、なかなかそうはいかない。どうにか生きていく手段を見つけなきゃならないし、嫌だなぁと思う人間ともニコニコ対応しなきゃならない。離れていた空白の期間も、ダダは一人で戦って、あがいていたのかな?
「わかった。空いてる日教えて。シフト組むから」
「合格?」
「とりあえず、働きたいんでしょ? いいよ、アタシが面倒見てあげる」
「ありがとう」
 相変わらず無表情だけど、目は輝いてる気がした。
「だけど、最低でも半年はちゃんと働いてよ? じゃないと、怒るから。あんまり早く辞められたら、本社の方からもしっかり面接しろとか言われそうだし」
「大丈夫。ちゃんと働く」
「その言葉、信じるからね」
 パソコンでシフト表のファイルを開き、確認しようとした時、ダダが手を挙げる。
「どした?」
「あと、ここに住んで良い?」
「はぁ⁉ 店に住めるわけないでしょ!」
「そうなんだ……」
「そうなんだじゃなくて……。え? 今日泊まる場所はあるんでしょ?」
 ダダは首を横に振った。
「どうするつもりなの?」
「どうしようってなってる」
「バンドメンバーの家行かせてもらえないの?」
「オヤジさんとコウノさんは結婚してるからだめ。ソウタは夜遅くまで作業するし、あと寝言がうるさくて、一緒に住めない」
「はぁ~……マジか。他に当ては?」
「あったら、こんな大きいリュック背負ってない」
 なるほど、全ての荷物持ってるからこんなデカいリュックなわけね……。
「お金貯めたらちゃんと住むところ探すから、それまでお店に……」
「こんな狭くてキッチンも風呂もない事務所でどう生活するつもり?」
「ダンボール敷いて寝るし、お風呂は銭湯探して行くし、オレ、そもそも料理作れないから……」
 冗談で訊いたつもりが、真面目な返答が返ってきてしまった。「ああ、もう」とアタシは頭をぐしゃぐしゃと乱暴に掻いたあと、覚悟を決めた。
「じゃあウチくれば?」
「いいの?」
「行く当てないなら仕方ないじゃん」
「ありがとー」
「ワンルームでクッソ狭いから覚悟して」
「気にしない」
 気にしないって……。それより、彼氏でもない男を住まわせていいのかな? まぁ……ダダならいいか。
「アタシの退勤までまだ時間あるし、桂っちにレジでも教えてもらってて」
「はーい」
 ダダは店内に小走りで向かうと、桂っちが嬉しそうにレジを教えはじめた。
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