5 / 30
第一章 再び動き出す季節
第五話 再び動き出す季節5
しおりを挟む
あれから一週間が経った。もうすぐゴールデンウィークがやってくる。学生がいつも以上に訪れ、売り上げも上がる期間だ。だけど、メーカーも問屋も軒並み休みになってしまうから、発注は今のうちにやっておかないといけない。レジは桂っちに任せ、事務所で発注作業をしていると、
「いらっしゃいませ~……って、ギャー!」
桂っちの悲鳴。慌てて立ち上がる。どうしよ……。強盗? 虫? そういえば、こないだ下半身露出した不審者情報あったなぁ。女ばっかの職場だから狙われた? 次々と嫌な予感が頭の中をよぎる。とにかく、桂っちを助けないと。近くに立てかけてあった床掃除用のモップを手に、店内に駆け込む。
「桂っち、どした⁉」
レジ内で固まっている桂っち。彼女の視線の先を辿るとダダが立っていた。バケットハットを被り、あの日と同じように首元のよれたTシャツに、デニムとスニーカー。登山用じゃね? っていうくらいデカいリュックを背負っている。ズレたメガネを押し上げて、こちらを無表情で見ている。
「は? ダダじゃん」
「えっ? 店長、知り合いなんですか」
「高校の同級生」
「ど、ど、ど、同級生⁉」
「ちょっと驚きすぎしょ」
「だって! タイスケさんですよね? イエフリの!」
「そーだよ~」
「ヒーッ……本物だぁー!」
桂っちが絶叫する。他にお客さんがいなくてよかった。
「てか、桂っち知ってんだ?」
「はい! 知ってます! あの、総一郎がっ、あ、彼氏なんですけど、イエフリが大好きで! ワタシもこないだの喜志芸祭ライブや、一週間前の心斎橋のライブも参加してて! 曲も聴いてて!」
「ありがとー」
駿河っちが好きなバンドってダダんとこのバンドだったのか。意外と知名度のあるバンドなんだ。
「で、ダダ、何しに来たの? 店の住所とか言ってなかったと……」
戸惑うアタシを放置して、ぐるりと店内を一周したかと思えば、アタシの前にやってきてこう言った。
「キムキム、オレ、ここで働きたい」
「はぁー⁉」
「えー!」
アタシと桂っちは同時に叫んだ。
「店長! タイスケさん、働いてくれるんですか!」
「いやいや、アタシも寝耳に石だし」
「寝耳に水っすか?」
「そうそう。ビックリなんだけど」
「でも、三月に一人辞めたから、人手足りない状況じゃないですか!」
確かにバイト募集の紙を店内に貼ったり、公式サイトやSNSでも告知していて、面接ももう何人か済ませた。けど、出勤希望日数が店の提示してる日数より多かったり、逆に少なかったり、面接時の態度があんまり良くなかったとか、採用するかどうか正直悩んでいるところではある。
「ダダ、働きたいって言うけど、履歴書持ってきてんの?」
「履歴書持ってきたら働ける?」
「とりあえず話は履歴書持ってきてからだわ」
「わかった」
「タイスケさん、履歴書ならウチの文具コーナーでも扱ってますよ!」
「じゃあ、買って書く」
ダダは履歴書を買うと、桂っちと一緒にレジ内で書き始める。
「桂っちもこれ書いた?」
「もちろん書きましたよ。何回も書き間違えちゃいましたけど」
「カタクルシイよね」
「ですよねー。あ、あの! 採用されたら総一郎にも会ってやってください。イエフリでタイスケさん推しなんですよ。こんな近くでバイトしてるって知ったら絶対喜ぶ」
「ソーイチローね。わかった。会えるの楽しみにしてる」
「ありがとうございます! ビックリさせたいからしばらく内緒にしとこーっと」
なんか採用しないといけない流れになってるんですけど。でも本当に条件が合うのなら採用してもそれはかまわないけどさ。
「いらっしゃいませ~……って、ギャー!」
桂っちの悲鳴。慌てて立ち上がる。どうしよ……。強盗? 虫? そういえば、こないだ下半身露出した不審者情報あったなぁ。女ばっかの職場だから狙われた? 次々と嫌な予感が頭の中をよぎる。とにかく、桂っちを助けないと。近くに立てかけてあった床掃除用のモップを手に、店内に駆け込む。
「桂っち、どした⁉」
レジ内で固まっている桂っち。彼女の視線の先を辿るとダダが立っていた。バケットハットを被り、あの日と同じように首元のよれたTシャツに、デニムとスニーカー。登山用じゃね? っていうくらいデカいリュックを背負っている。ズレたメガネを押し上げて、こちらを無表情で見ている。
「は? ダダじゃん」
「えっ? 店長、知り合いなんですか」
「高校の同級生」
「ど、ど、ど、同級生⁉」
「ちょっと驚きすぎしょ」
「だって! タイスケさんですよね? イエフリの!」
「そーだよ~」
「ヒーッ……本物だぁー!」
桂っちが絶叫する。他にお客さんがいなくてよかった。
「てか、桂っち知ってんだ?」
「はい! 知ってます! あの、総一郎がっ、あ、彼氏なんですけど、イエフリが大好きで! ワタシもこないだの喜志芸祭ライブや、一週間前の心斎橋のライブも参加してて! 曲も聴いてて!」
「ありがとー」
駿河っちが好きなバンドってダダんとこのバンドだったのか。意外と知名度のあるバンドなんだ。
「で、ダダ、何しに来たの? 店の住所とか言ってなかったと……」
戸惑うアタシを放置して、ぐるりと店内を一周したかと思えば、アタシの前にやってきてこう言った。
「キムキム、オレ、ここで働きたい」
「はぁー⁉」
「えー!」
アタシと桂っちは同時に叫んだ。
「店長! タイスケさん、働いてくれるんですか!」
「いやいや、アタシも寝耳に石だし」
「寝耳に水っすか?」
「そうそう。ビックリなんだけど」
「でも、三月に一人辞めたから、人手足りない状況じゃないですか!」
確かにバイト募集の紙を店内に貼ったり、公式サイトやSNSでも告知していて、面接ももう何人か済ませた。けど、出勤希望日数が店の提示してる日数より多かったり、逆に少なかったり、面接時の態度があんまり良くなかったとか、採用するかどうか正直悩んでいるところではある。
「ダダ、働きたいって言うけど、履歴書持ってきてんの?」
「履歴書持ってきたら働ける?」
「とりあえず話は履歴書持ってきてからだわ」
「わかった」
「タイスケさん、履歴書ならウチの文具コーナーでも扱ってますよ!」
「じゃあ、買って書く」
ダダは履歴書を買うと、桂っちと一緒にレジ内で書き始める。
「桂っちもこれ書いた?」
「もちろん書きましたよ。何回も書き間違えちゃいましたけど」
「カタクルシイよね」
「ですよねー。あ、あの! 採用されたら総一郎にも会ってやってください。イエフリでタイスケさん推しなんですよ。こんな近くでバイトしてるって知ったら絶対喜ぶ」
「ソーイチローね。わかった。会えるの楽しみにしてる」
「ありがとうございます! ビックリさせたいからしばらく内緒にしとこーっと」
なんか採用しないといけない流れになってるんですけど。でも本当に条件が合うのなら採用してもそれはかまわないけどさ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる