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第四章 咲/Be with you
第三話 Be with you
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電子音が鳴り響く。アラーム音じゃない。電話の着信音で飛び起きる。鳴っていたのは総一郎のスマホだった。
「おはようございます。……あ、はい。今日は休みです。……えっ、それは大変ですね。……わかりました。すいません、今起きたばかりで。……いえ。用意出来たら向かいます。では、一旦失礼します」
総一郎は慌ててベッドを出ると、小走りで洗面所に向かい、パジャマのボタンを外している。ワタシも起きて彼の元へ走る。
「あ、咲さん、起こしてすいません。今日、バイトの人が一人急病で来れなくなったらしくて。今から用意して出勤します」
「えぇ……そんな……!」
「仕方ないですよ。お正月はそもそも出勤可能のスタッフが限られていたので」
「でも……」
「どうしたんです? 今日はデートの約束もしてなかったですよね?」
「そうだけど、そうじゃなくて。総一郎、今日誕生日じゃんか……」
「え? ああ、そうですね。ですが、今日が僕の誕生日であることとバイト出勤は別ですから」
その通りだ。その二つに何ら関係はないし、バイト交代を断る理由にはならない。ワタシが黙り込んでいる間に、総一郎は着替えて、身だしなみを整え、リュックを背負った。
「ご飯食べている余裕もないので、もう出ます」
ワタシと目を合わせることもなく、総一郎は出ていった。
「バイトが急に入ったんだ。仕方ない」「ワタシが勝手に祝いたかっただけだし」「何日も帰ってこないとかじゃないしさ」と何度も言い聞かせる。だけど、体温が冷たくなっていく。
とりあえず連絡入れないとと、真綾の連絡先をタップした。
『もしもーし』
「もしもし真綾?」
『咲ちゃん……どうして涙声なの?』
「あー……バレたか」
『バレたかじゃないよ! どうしたの』
「総一郎、急にバイト行かなきゃならなくなって……。だから、急だけど誕生日会ナシにしたいと思って……。でも、ケーキ手配してくれてたよなぁ。申し訳ない……、本人いないのに誕生日会出来ねぇしさ。生モノだもんな。ケーキ代は全額ワタシが払うから、いっそのこと神楽小路と二人で食べてしまって……」
『待って待って! 咲ちゃん落ち着いて。ほら、深呼吸しよう! 吸ってー、吐いてー……』
言われた通り深呼吸を何度か繰り返す。自然と落ち着きを取り戻す。
『駿河くんは夜には帰って来るんだよね?』
「何時になるかわかんねぇけど……」
『そっか。とりあえず、ケーキ持って、君彦くんとそっちに向かうよ』
そうして電話が切れた。
部屋に戻って、着替えたり化粧していたら、真綾と神楽小路が到着した。
「咲ちゃん、あけましておめでとう! 来たよ!」
「真綾ぁ。あけおめだよ」
とハグする。ワタシより少し背が高い真綾はワタシの頭をやさしく撫でてくれた。
「なんだこの部屋は」
開口一番、真綾の後ろに立っていた神楽小路は眉をひそめる。
「いや、ワタシの家だけど」
「おびただしい本の山。倉庫の間違いではないのか」
「倉庫にキッチンや風呂がついてるワケねぇだろ」
「もう! 君彦くん、人のお家をそんなけなすような……って、キャー! ごめん! 足当たっちゃった!」
真綾は夏ごろワタシの家に一度泊まりに来ている。その時も玄関で靴脱いで一歩目で本の山崩していたなぁ。デジャブだ。もうあれから数か月経ってんのか~、早えなと思いながら適当にまた山を作る。
「駿河、真綾の部屋と見てきたが、これを部屋と呼ぶにはあまりにも……」
「神楽小路、いつかオマエの家にも行ってやるから、部屋掃除して待ってろよ」
「心配はない。俺の部屋はいつでも清潔だ」
と言い合っていると、真綾が笑いだす。
「よかった~。咲ちゃんが元気そうで。電話越しだと本当にしょんぼりしてたから」
「ごめん。計画が全部水の泡になると思って、焦っちまって」
「ハプニングが起きると、パニックなっちゃうよね。あ、これ、ケーキだよ。冷蔵庫に入れておいてね」
「ありがとうな」
「あと、この買い物袋のも入れてほしいんだけど」
「なんだ?」
二人とも両手に自分のカバンに加えて買い物袋を提げているのは若干気になっていた。中身を覗くと、野菜にひき肉……?
「わたしね、駿河くんが不在って聞いた時、思いついたの。いないなら、その時間を思い切り使えばいいって!」
「へ?」
「最初、咲ちゃん、ピザかお寿司でも取ろうかって話してたでしょ? 時間が出来たなら、なにか食事作ればいいかなって。もしかしてもう注文済みだった?」
「まだ。今言われるまですっかり……」
そうだ。朝起きた時に予約注文しようと思って、あの一件があったから忘れてた。
「それならよかった。メニューなんだけど、咲ちゃんとも話して決めたいなって思ったから、共通した食材で作れるものを何個かメモに書いたから、その相談から先にしよ」
「わかった。あ、今お茶入れるから、適当に本のけて座っといて」
「客人に掃除させるとは……」
「まあまあ、君彦くん。片付けよ」
小さなテーブルを三人で囲み、淹れたばかりのあったかい緑茶をすする。真綾は特に何も気にせずのびのび座っているが、神楽小路は長い脚を窮屈そうに三角に折り曲げている。
「さっき、総一郎からメッセージ来てて、夕方六時退勤だって。今昼十二時過ぎたとこだから、あと六時間くらいあるのか……」
「了解だよ。じゃあ、その間に料理と飾りつけだね」
「飾りつけ?」
「うん! 折り紙や画用紙も買って来たから、駿河くん家飾りつけて豪華にしよう!」
そう言って、トートバッグを開け始める。スティックのりやセロテープ、マーカーも出て来た。
「ここに来るまで君彦くん家の車乗せてもらったんだけど、その途中に年始から開いてる大きなスーパーがあったから助かったよ」
「なにからなにまでごめんな」
「いいよいいよ。君彦くんがね、ずっとキョロキョロ店内見渡しててとってもかわいかったんだよ」
「へぇ~? 想像できねぇ」
「俺は可愛くはない……。しかし、新年から真綾と買い物出来て楽しかった」
「ね。とっても大きいスーパーだったから、今度ゆっくり見たいね」
「うむ」
「さすが真綾だなぁ……」
「えっ?」
「ワタシはさ、パニックにもなったし、あとなんか寂しくって落ち込んでた。でも、真綾は次の手を考えてくれてた」
「それは俺も驚いた」
神楽小路は真綾を見つめる。
「主役がいないのであれば、一度中止にして立て直すべきだと。しかし、真綾の次々出てくるアイデアには脱帽した」
「やっぱ、持つべきものは友達、いや、真綾様だな」
「えへへ、褒められちゃったよ。だけど、今回冷静に考えられたのはわたしが外部の人間だったからだよ。主催だったらわたしだって……」
「真綾はほんと優しいよ……また泣きそうだぜ」
「今は泣いてる場合じゃないよ。大急ぎでメニュー決めちゃおう!」
真綾と、神楽小路の意見も取り入れつつ、決めたメニューは、一口サイズのロールキャベツ、サーモンとカニカマのサラダ、ハム&チーズ・たまごなどバリエーションあるサンドウィッチ、小さなカップで作るミニグラタンとなった。
「あとは、ポテトチップスとかチョコとかも買ってきてるから。袋のままだと味気ないから大きいお皿に盛ったらいいんじゃないかな」
「なるほどなー。ワタシだったらそのまま出すけど」
「あはは。普段ならわたしもそこまでしないけど、今日はパーティだからね」
ワタシと真綾が調理している間、神楽小路は壁に飾りつける用の輪っかづくりをすることになった。真綾に教わり、一つ一つ繋げていく。
「こういう感じで、いろんな色を組み合わせてカラフルにしてほしいの」
「わかった、任せろ」
神楽小路の目がキラキラしててまるで子どもだ。
「二人ともありがとうな」
「いつも世話になっている駿河を祝いたい。これくらいたやすい」
「みんなで力あわせて、良い誕生日会にしようね」
「おはようございます。……あ、はい。今日は休みです。……えっ、それは大変ですね。……わかりました。すいません、今起きたばかりで。……いえ。用意出来たら向かいます。では、一旦失礼します」
総一郎は慌ててベッドを出ると、小走りで洗面所に向かい、パジャマのボタンを外している。ワタシも起きて彼の元へ走る。
「あ、咲さん、起こしてすいません。今日、バイトの人が一人急病で来れなくなったらしくて。今から用意して出勤します」
「えぇ……そんな……!」
「仕方ないですよ。お正月はそもそも出勤可能のスタッフが限られていたので」
「でも……」
「どうしたんです? 今日はデートの約束もしてなかったですよね?」
「そうだけど、そうじゃなくて。総一郎、今日誕生日じゃんか……」
「え? ああ、そうですね。ですが、今日が僕の誕生日であることとバイト出勤は別ですから」
その通りだ。その二つに何ら関係はないし、バイト交代を断る理由にはならない。ワタシが黙り込んでいる間に、総一郎は着替えて、身だしなみを整え、リュックを背負った。
「ご飯食べている余裕もないので、もう出ます」
ワタシと目を合わせることもなく、総一郎は出ていった。
「バイトが急に入ったんだ。仕方ない」「ワタシが勝手に祝いたかっただけだし」「何日も帰ってこないとかじゃないしさ」と何度も言い聞かせる。だけど、体温が冷たくなっていく。
とりあえず連絡入れないとと、真綾の連絡先をタップした。
『もしもーし』
「もしもし真綾?」
『咲ちゃん……どうして涙声なの?』
「あー……バレたか」
『バレたかじゃないよ! どうしたの』
「総一郎、急にバイト行かなきゃならなくなって……。だから、急だけど誕生日会ナシにしたいと思って……。でも、ケーキ手配してくれてたよなぁ。申し訳ない……、本人いないのに誕生日会出来ねぇしさ。生モノだもんな。ケーキ代は全額ワタシが払うから、いっそのこと神楽小路と二人で食べてしまって……」
『待って待って! 咲ちゃん落ち着いて。ほら、深呼吸しよう! 吸ってー、吐いてー……』
言われた通り深呼吸を何度か繰り返す。自然と落ち着きを取り戻す。
『駿河くんは夜には帰って来るんだよね?』
「何時になるかわかんねぇけど……」
『そっか。とりあえず、ケーキ持って、君彦くんとそっちに向かうよ』
そうして電話が切れた。
部屋に戻って、着替えたり化粧していたら、真綾と神楽小路が到着した。
「咲ちゃん、あけましておめでとう! 来たよ!」
「真綾ぁ。あけおめだよ」
とハグする。ワタシより少し背が高い真綾はワタシの頭をやさしく撫でてくれた。
「なんだこの部屋は」
開口一番、真綾の後ろに立っていた神楽小路は眉をひそめる。
「いや、ワタシの家だけど」
「おびただしい本の山。倉庫の間違いではないのか」
「倉庫にキッチンや風呂がついてるワケねぇだろ」
「もう! 君彦くん、人のお家をそんなけなすような……って、キャー! ごめん! 足当たっちゃった!」
真綾は夏ごろワタシの家に一度泊まりに来ている。その時も玄関で靴脱いで一歩目で本の山崩していたなぁ。デジャブだ。もうあれから数か月経ってんのか~、早えなと思いながら適当にまた山を作る。
「駿河、真綾の部屋と見てきたが、これを部屋と呼ぶにはあまりにも……」
「神楽小路、いつかオマエの家にも行ってやるから、部屋掃除して待ってろよ」
「心配はない。俺の部屋はいつでも清潔だ」
と言い合っていると、真綾が笑いだす。
「よかった~。咲ちゃんが元気そうで。電話越しだと本当にしょんぼりしてたから」
「ごめん。計画が全部水の泡になると思って、焦っちまって」
「ハプニングが起きると、パニックなっちゃうよね。あ、これ、ケーキだよ。冷蔵庫に入れておいてね」
「ありがとうな」
「あと、この買い物袋のも入れてほしいんだけど」
「なんだ?」
二人とも両手に自分のカバンに加えて買い物袋を提げているのは若干気になっていた。中身を覗くと、野菜にひき肉……?
「わたしね、駿河くんが不在って聞いた時、思いついたの。いないなら、その時間を思い切り使えばいいって!」
「へ?」
「最初、咲ちゃん、ピザかお寿司でも取ろうかって話してたでしょ? 時間が出来たなら、なにか食事作ればいいかなって。もしかしてもう注文済みだった?」
「まだ。今言われるまですっかり……」
そうだ。朝起きた時に予約注文しようと思って、あの一件があったから忘れてた。
「それならよかった。メニューなんだけど、咲ちゃんとも話して決めたいなって思ったから、共通した食材で作れるものを何個かメモに書いたから、その相談から先にしよ」
「わかった。あ、今お茶入れるから、適当に本のけて座っといて」
「客人に掃除させるとは……」
「まあまあ、君彦くん。片付けよ」
小さなテーブルを三人で囲み、淹れたばかりのあったかい緑茶をすする。真綾は特に何も気にせずのびのび座っているが、神楽小路は長い脚を窮屈そうに三角に折り曲げている。
「さっき、総一郎からメッセージ来てて、夕方六時退勤だって。今昼十二時過ぎたとこだから、あと六時間くらいあるのか……」
「了解だよ。じゃあ、その間に料理と飾りつけだね」
「飾りつけ?」
「うん! 折り紙や画用紙も買って来たから、駿河くん家飾りつけて豪華にしよう!」
そう言って、トートバッグを開け始める。スティックのりやセロテープ、マーカーも出て来た。
「ここに来るまで君彦くん家の車乗せてもらったんだけど、その途中に年始から開いてる大きなスーパーがあったから助かったよ」
「なにからなにまでごめんな」
「いいよいいよ。君彦くんがね、ずっとキョロキョロ店内見渡しててとってもかわいかったんだよ」
「へぇ~? 想像できねぇ」
「俺は可愛くはない……。しかし、新年から真綾と買い物出来て楽しかった」
「ね。とっても大きいスーパーだったから、今度ゆっくり見たいね」
「うむ」
「さすが真綾だなぁ……」
「えっ?」
「ワタシはさ、パニックにもなったし、あとなんか寂しくって落ち込んでた。でも、真綾は次の手を考えてくれてた」
「それは俺も驚いた」
神楽小路は真綾を見つめる。
「主役がいないのであれば、一度中止にして立て直すべきだと。しかし、真綾の次々出てくるアイデアには脱帽した」
「やっぱ、持つべきものは友達、いや、真綾様だな」
「えへへ、褒められちゃったよ。だけど、今回冷静に考えられたのはわたしが外部の人間だったからだよ。主催だったらわたしだって……」
「真綾はほんと優しいよ……また泣きそうだぜ」
「今は泣いてる場合じゃないよ。大急ぎでメニュー決めちゃおう!」
真綾と、神楽小路の意見も取り入れつつ、決めたメニューは、一口サイズのロールキャベツ、サーモンとカニカマのサラダ、ハム&チーズ・たまごなどバリエーションあるサンドウィッチ、小さなカップで作るミニグラタンとなった。
「あとは、ポテトチップスとかチョコとかも買ってきてるから。袋のままだと味気ないから大きいお皿に盛ったらいいんじゃないかな」
「なるほどなー。ワタシだったらそのまま出すけど」
「あはは。普段ならわたしもそこまでしないけど、今日はパーティだからね」
ワタシと真綾が調理している間、神楽小路は壁に飾りつける用の輪っかづくりをすることになった。真綾に教わり、一つ一つ繋げていく。
「こういう感じで、いろんな色を組み合わせてカラフルにしてほしいの」
「わかった、任せろ」
神楽小路の目がキラキラしててまるで子どもだ。
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