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転機
第六話 転機4
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翌日。神楽小路は一晩考えた。
(佐野真綾はあれだけ熱い思いをぶつけてきたが、断固として首を縦に振らない俺に煽られて焦って言った可能性も高い。ふと我に返って、「やっぱり昨日のことは忘れてください」と言ってくるかもしれない)
と。二限目の授業が終わり、教室を出ると、
「神楽小路くん!」
佐野は神楽小路を見つけると、フリスビーを投げてもらう直前の犬のごとく、テンション高く駆けてきた。
「何か用か」
「何か用か……じゃないよ! 一緒にお昼食べながら課題のテーマを決めれたらなって思って来たよ」
「それはお前が勝手に決めたらいいのではないか」
「でも、提出するまで協力するって」
「協力するとは言ったが、主導は佐野真綾、お前だ」
「えぇー! 冷たいなぁ」
「……まったく、変わった奴だ。俺と組んで後悔しても知らないからな」
「後悔なんてしないよ」
そう言って佐野は笑った。
「とりあえずご飯食べつつ考えよ!」
昨日と同じく二食へと向かった。神楽小路は白米の上に八宝菜がのっている中華丼、佐野はキャベツの千切りとポテトサラダ、大ぶりのからあげ三つがプレートにのった、からあげ定食を注文した。
「いただきまーす!」
よほど空腹だったのか、佐野は箸を勢いよく進めていく。
「からあげ、揚げたてなら最高なんだけどな。でも冷えててもおいしいから素晴らしいね」
「からあげなんぞどれも同じだろう」
「そんなことないよ。味付けで次第で冷たくなったら『うーん』ってなるものもあるよ。あとは衣の食感も。冷めてもサクッとしているものもあるし、油吸ってしまってへにゃへにゃになるものもあったり」
そこまで深く考えたこともない神楽小路にとって、未知の世界であった。佐野は食べ終わると、いつも持っているトートバッグからボールペンを刺したリングノートを取り出すと、なにか書き込み始めた。
「何をしている?」
「あ、これはね、『食べた物ノート』だよ」
そう言うと、ノートの表紙を見せた。青地に白色の水玉模様が印刷されており、「二×××年 一月~ 食べた物ノート」と黒色のマジックで書かれている。表紙の角はふにゃふにゃに折れ曲がるほど使い込まれている。
「書き残してどうするというんだ」
「読み返して『おいしかったなぁ、また食べたいな』と思ったり、あんまりおいしくなかった食べ物に関しては『もう食べたくないな』と思うためのノート」
「おいしかったものを思い出すのはわかるが、どうしてマズイ食べ物の記憶をわざわざ書き残して思い出さんとならんのだ」
「それも思い出の一つだからね」
そう言いながらノートに感想を書き留めると、再びカバンに戻した。
「よくわからんことをする奴だ」
神楽小路が食べ終わると、佐野は本題を切り出す。
「課題のテーマどうしよう。大学内、大学付近でって先生は言ってたけど、神楽小路くんはなにかネタになりそうなもの知ってる?」
「入学してから大学構内は教室と食堂、あとは図書室くらいにしか行っていない。大学の外など何も知らん」
「そういえば、神楽小路くんってどうやって大学来てるの?」
喜志芸は、山奥にキャンパスがある。多くの学生は、喜志駅から徒歩五分のところにある喜志芸のスクールバス停留所へ。そして、バスに十分、十五分ほど揺られ、最後に通称「芸坂」と呼ばれる急勾配の坂を一気に上りきり、到着となる。
「俺は自宅から車で送迎してもらっている。だから、坂の下にある来客者用駐車場で乗り降りている」
「なるほど。たしかにバス乗り場で神楽小路くん見たことないし、ぎゅうぎゅうのスクールバスに乗ってる姿も想像つかないや」
「想像するな」
「わたしも授業終わったらすぐバイトに行かなきゃならない日の方が多いから、寄り道したことないんだよね。大学内で記事にできるもの……。サークル一覧作成して紹介記事書くとか、面白いって言われてる教授にインタビューするとか? うーん。文芸学科以外の学科に友達いないもんなぁ」
「俺はインタビューせんぞ」
「だよねぇ。わたしたちだけで調べることができるものか~」
佐野はしばし考えたあと、突然「あっ」と声を上げた。
(佐野真綾はあれだけ熱い思いをぶつけてきたが、断固として首を縦に振らない俺に煽られて焦って言った可能性も高い。ふと我に返って、「やっぱり昨日のことは忘れてください」と言ってくるかもしれない)
と。二限目の授業が終わり、教室を出ると、
「神楽小路くん!」
佐野は神楽小路を見つけると、フリスビーを投げてもらう直前の犬のごとく、テンション高く駆けてきた。
「何か用か」
「何か用か……じゃないよ! 一緒にお昼食べながら課題のテーマを決めれたらなって思って来たよ」
「それはお前が勝手に決めたらいいのではないか」
「でも、提出するまで協力するって」
「協力するとは言ったが、主導は佐野真綾、お前だ」
「えぇー! 冷たいなぁ」
「……まったく、変わった奴だ。俺と組んで後悔しても知らないからな」
「後悔なんてしないよ」
そう言って佐野は笑った。
「とりあえずご飯食べつつ考えよ!」
昨日と同じく二食へと向かった。神楽小路は白米の上に八宝菜がのっている中華丼、佐野はキャベツの千切りとポテトサラダ、大ぶりのからあげ三つがプレートにのった、からあげ定食を注文した。
「いただきまーす!」
よほど空腹だったのか、佐野は箸を勢いよく進めていく。
「からあげ、揚げたてなら最高なんだけどな。でも冷えててもおいしいから素晴らしいね」
「からあげなんぞどれも同じだろう」
「そんなことないよ。味付けで次第で冷たくなったら『うーん』ってなるものもあるよ。あとは衣の食感も。冷めてもサクッとしているものもあるし、油吸ってしまってへにゃへにゃになるものもあったり」
そこまで深く考えたこともない神楽小路にとって、未知の世界であった。佐野は食べ終わると、いつも持っているトートバッグからボールペンを刺したリングノートを取り出すと、なにか書き込み始めた。
「何をしている?」
「あ、これはね、『食べた物ノート』だよ」
そう言うと、ノートの表紙を見せた。青地に白色の水玉模様が印刷されており、「二×××年 一月~ 食べた物ノート」と黒色のマジックで書かれている。表紙の角はふにゃふにゃに折れ曲がるほど使い込まれている。
「書き残してどうするというんだ」
「読み返して『おいしかったなぁ、また食べたいな』と思ったり、あんまりおいしくなかった食べ物に関しては『もう食べたくないな』と思うためのノート」
「おいしかったものを思い出すのはわかるが、どうしてマズイ食べ物の記憶をわざわざ書き残して思い出さんとならんのだ」
「それも思い出の一つだからね」
そう言いながらノートに感想を書き留めると、再びカバンに戻した。
「よくわからんことをする奴だ」
神楽小路が食べ終わると、佐野は本題を切り出す。
「課題のテーマどうしよう。大学内、大学付近でって先生は言ってたけど、神楽小路くんはなにかネタになりそうなもの知ってる?」
「入学してから大学構内は教室と食堂、あとは図書室くらいにしか行っていない。大学の外など何も知らん」
「そういえば、神楽小路くんってどうやって大学来てるの?」
喜志芸は、山奥にキャンパスがある。多くの学生は、喜志駅から徒歩五分のところにある喜志芸のスクールバス停留所へ。そして、バスに十分、十五分ほど揺られ、最後に通称「芸坂」と呼ばれる急勾配の坂を一気に上りきり、到着となる。
「俺は自宅から車で送迎してもらっている。だから、坂の下にある来客者用駐車場で乗り降りている」
「なるほど。たしかにバス乗り場で神楽小路くん見たことないし、ぎゅうぎゅうのスクールバスに乗ってる姿も想像つかないや」
「想像するな」
「わたしも授業終わったらすぐバイトに行かなきゃならない日の方が多いから、寄り道したことないんだよね。大学内で記事にできるもの……。サークル一覧作成して紹介記事書くとか、面白いって言われてる教授にインタビューするとか? うーん。文芸学科以外の学科に友達いないもんなぁ」
「俺はインタビューせんぞ」
「だよねぇ。わたしたちだけで調べることができるものか~」
佐野はしばし考えたあと、突然「あっ」と声を上げた。
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