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再生
第三十話 再生4
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「俺は情けないな」
部屋に引きこもり、絞りだそうと闇の中へ自ら入って行く。
書かなければ、書かなければ。言葉を打ち込んでも消えていく。楽しく生活した代償なのか? 罰なのか? 神楽小路は問う。
(おもしろくない、暗い奴だと言われ続け、あのまま引きこもっていれば、佐野真綾と出会わず、一人でいたならば……ずっと小説を書き続けられただろうか)
ペンケースを渡してくれた時のことを思い出す。出席番号で座った際、隣の席だっただけで名前を憶えてくれていた。窓の外を見ている神楽小路を「何を考えているのか知りたい」と興味を持ってくれた。「自分には個性がない」と泣いたあの日、浴衣姿で一日過ごした七夕週間の一日、食事会をして連絡先を交換した日。
「神楽小路くんは自分からお話しするのが少し苦手なだけで、お話したらとてもおもしろいんだよ。困ってたらすぐ助けてくれたり。それに、わたしが嫌がる神楽小路くんを無理矢理課題作成に誘ったから。むしろ彼がわたしのわがままについてきてくれたの。優しくて、とても素敵な人だよ、神楽小路くんは」
そう言ってくれた彼女は今の神楽小路を見てどう思うだろうか? 佐野の笑顔が消えることが神楽小路は恐ろしかった。
(佐野真綾……行くな)
必死に手を伸ばす。しかし、彼女は背を向けて去っていく。
(俺はまた一人なのか)
その時、スマホの着信音に気づく。電話であった。通話ボタンを押すと、
『おい! 神楽小路! ようやく出たか!』
耳が痛くなるような声量で叫んだのは桂咲であった。
「なんだ」
『なんだじゃねぇよ。オマエ、もう三日も学校来てねぇし、こっちから死ぬほど連絡も入れてるのに既読もつかない』
彼女が何を言っているのか理解するまで一分はかかった。ぼんやりと生活していたせいで、思っていた日付よりすでに三日過ぎていて、時刻は夜だと思っていたが、カーテンを開けると日は昇り、ちょうど昼休憩の時間であった。
『なぁ、神楽小路。最近ワタシたちと話した内容覚えているか?』
その通り、神楽小路は何も思い出せず黙っていると、
『ここ最近うわの空だったから覚えてねぇって言われてもおかしくないっつーか、覚えてるって言うならむしろオマエを殴る』
「そう……か」
『ホントにどうしたんだよ? 駿河も、真綾も、めちゃくちゃ心配してるんだぞ』
怒鳴る桂の後ろで「桂さん、落ち着いて」と止める駿河の声が聞こえる。
「お前にも、駿河総一郎にも……佐野真綾にも関係のないことだ」
口は勝手にそう答えた。
『はぁ!? 関係ないなら、なおさらだろうがよ!』
『やめなさい、桂さん』
『あっ、駿河、テメェ、それワタシのスマホ……!』
『もしもし、駿河です。突然のお電話すいませんでした。とりあえず、通話出来て安心しました。いったん切ります』
電話が切れたあと、神楽小路は風呂に入った。身体はきれいになれど、頭の中はスッキリせず、ただ重く重く、鉛を埋められた状態だった。けれども、「書かなければ」という意志だけがサイレンのように鳴り響いていた。
部屋に引きこもり、絞りだそうと闇の中へ自ら入って行く。
書かなければ、書かなければ。言葉を打ち込んでも消えていく。楽しく生活した代償なのか? 罰なのか? 神楽小路は問う。
(おもしろくない、暗い奴だと言われ続け、あのまま引きこもっていれば、佐野真綾と出会わず、一人でいたならば……ずっと小説を書き続けられただろうか)
ペンケースを渡してくれた時のことを思い出す。出席番号で座った際、隣の席だっただけで名前を憶えてくれていた。窓の外を見ている神楽小路を「何を考えているのか知りたい」と興味を持ってくれた。「自分には個性がない」と泣いたあの日、浴衣姿で一日過ごした七夕週間の一日、食事会をして連絡先を交換した日。
「神楽小路くんは自分からお話しするのが少し苦手なだけで、お話したらとてもおもしろいんだよ。困ってたらすぐ助けてくれたり。それに、わたしが嫌がる神楽小路くんを無理矢理課題作成に誘ったから。むしろ彼がわたしのわがままについてきてくれたの。優しくて、とても素敵な人だよ、神楽小路くんは」
そう言ってくれた彼女は今の神楽小路を見てどう思うだろうか? 佐野の笑顔が消えることが神楽小路は恐ろしかった。
(佐野真綾……行くな)
必死に手を伸ばす。しかし、彼女は背を向けて去っていく。
(俺はまた一人なのか)
その時、スマホの着信音に気づく。電話であった。通話ボタンを押すと、
『おい! 神楽小路! ようやく出たか!』
耳が痛くなるような声量で叫んだのは桂咲であった。
「なんだ」
『なんだじゃねぇよ。オマエ、もう三日も学校来てねぇし、こっちから死ぬほど連絡も入れてるのに既読もつかない』
彼女が何を言っているのか理解するまで一分はかかった。ぼんやりと生活していたせいで、思っていた日付よりすでに三日過ぎていて、時刻は夜だと思っていたが、カーテンを開けると日は昇り、ちょうど昼休憩の時間であった。
『なぁ、神楽小路。最近ワタシたちと話した内容覚えているか?』
その通り、神楽小路は何も思い出せず黙っていると、
『ここ最近うわの空だったから覚えてねぇって言われてもおかしくないっつーか、覚えてるって言うならむしろオマエを殴る』
「そう……か」
『ホントにどうしたんだよ? 駿河も、真綾も、めちゃくちゃ心配してるんだぞ』
怒鳴る桂の後ろで「桂さん、落ち着いて」と止める駿河の声が聞こえる。
「お前にも、駿河総一郎にも……佐野真綾にも関係のないことだ」
口は勝手にそう答えた。
『はぁ!? 関係ないなら、なおさらだろうがよ!』
『やめなさい、桂さん』
『あっ、駿河、テメェ、それワタシのスマホ……!』
『もしもし、駿河です。突然のお電話すいませんでした。とりあえず、通話出来て安心しました。いったん切ります』
電話が切れたあと、神楽小路は風呂に入った。身体はきれいになれど、頭の中はスッキリせず、ただ重く重く、鉛を埋められた状態だった。けれども、「書かなければ」という意志だけがサイレンのように鳴り響いていた。
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