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京都にあなたと
第二十話 京都にあなたと10
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カフェを出た後、君彦くんと固く手をつないで安井金毘羅宮へ向かった。ここまで来るまでの道のりは賑やかだったのに、ここの鳥居をくぐった瞬間、人は多いのに、ぴんと張り詰めた空気が感じられた。これがお母さんも言ってた「人の強い気」なんだろうか。
「噂に聞いていた以上に、不思議な場所だな」
「そうだね。自然と背筋が伸びちゃう」
絵馬を買って、早速マジックで大きく書く。
『大好きな人たちとずっと仲良く一緒にいられますように』
書き終わってふと顔を横に向けると、君彦くんもわたしの方を見ていてびっくりした。
「どうしたの?」
「七夕週間の時に真綾が誘ってくれただろう? 『一緒に短冊を書きに行かないか』と。その日のことを思い出していた」
七夕週間。七月一日から七日まで浴衣で登校してもいい特別な期間であり、願い事を書いた笹を飾れるイベントも開催される。その期間中、一日だけわたしは咲ちゃんと一緒に浴衣を着て登校した。放課後、わたしは君彦くんに一緒に短冊を飾りに行こうと誘った。だけど君彦くんは迎えの車がもう来ていたから参加できなくて。だから、来年は一緒に浴衣着たり、短冊書こうって約束をした。
「俺はずっと断ったことを心の中で悔いていた。電話をかければ、車を待たせることだってできた。『一年後、気が変わってなければ』と答えたが、あの日あの時、本当は一緒に書きたかった」
「そうだったの?」
「あの賑やかな場に俺は相応しくないと思って気が引けた。でも、真綾がいるなら参加すればよかったと……。今、こうして絵馬を書いているのが俺は嬉しい」
知らなかった。ああいうイベントに興味がないんだと思ってた。本当は興味持ってくれてたんだ。
「来年の七夕週間に一緒に浴衣着て、短冊書く約束、そのままにしておいてね」
「もちろんだ」
絵馬を飾った後、丸くて真ん中に穴の開いた、ドーナツみたいな石碑をくぐる。行きに悪縁を切り、帰りに良縁を結ぶという。くぐった先で、石碑に願いを書いたお札を糊で貼り付けてから戻ると、書いた願いが叶うって書いてあった。
絵馬と一緒にお札にも願い事を書いた。絵馬と同じことを書いたけど、切りたい縁のないわたしにとって今は良い縁をそのまま強く結んでくれたら幸せだ。
君彦くんが最初に穴をくぐり、願いを書いたお札を貼り付けて再び穴をくぐって帰ってきた。わたしも挑戦する。穴をくぐって、お札貼って、もう一度穴の中に……あれ……? 進めない。後ろにも戻れない。
「どうしよ、抜けない……」
さっき君彦くんは何の問題もなくやってたのに。おかしいな……。冷や汗が出る。もしかして、わたしが太っているとか……? 最近バイト先の廃棄ケーキに加えて、家に帰って小説書きながらクッキーとかグミとかつまんでたもんなぁ。悲しいくらいに身に覚えがありすぎる……。
でも、行きは通れたしと、パニックになっていると、
「真綾、膝を立てるな。少し後ろに伸ばせ」
君彦くんはしゃがみ、冷静に指示をくれる。
「えっ、えっ」
「そのあと手を前に出せ」
伸ばした手を、君彦くんが掴むとゆっくり引っ張り出してもらった。
「ありがとう~。出れないかと思ったよぉ」
抱きつきながら、二人一緒に立ち上がる。石碑の近くにはくぐりたい人たちの列が出来てて、みんなから見られて、めちゃくちゃ恥ずかしい。邪魔にならない場所まで移動する。
「しまったな」
わたしが服についた砂埃をはたき落としていると、深刻そうな声色で君彦くんが言う。
「石碑に詰まった真綾を写真に収めておけばよかった」
「もー! 本当に焦ったんだから」
「冗談だ」
そう言って、またかたく手をつないだ。色違いの縁結びのお守りを買って、神社を後にした。
来た道を戻りながら空を見上げる。気温もかなり下がってきて、コートのボタンを留めた。
「だいぶ日が暮れてきたな」
「まだ四時なのに……日没早くなって、もう冬なんだね」
「真綾とは春、夏、秋、冬すべての季節を共に過ごしたのだな」
「早いなぁ。あっという間だったね」
「今日はこの辺りで帰るか」
「そうだね」
歩き回ったというのもあるが、今から電車に乗ってわたしの家に着くまで、二時間はかかってしまうことを考えると、そろそろ出発しなければならない。
「あのね君彦くん、帰る前に一つお願いがあるんだけど」
「どうした?」
「一緒に写真撮りたいんだけど……ううん、君彦くんと撮りたい!」
「かまわん。それなら鴨川で撮るか」
「うん!」
再び鴨川に到着すると川辺に降りる。鴨川をバックに内側についているカメラレンズを使って撮影する。
「じゃあ、行くよ」
シャッターを切る。そこには笑顔のわたしと微笑む君彦くんが写っていた。
「噂に聞いていた以上に、不思議な場所だな」
「そうだね。自然と背筋が伸びちゃう」
絵馬を買って、早速マジックで大きく書く。
『大好きな人たちとずっと仲良く一緒にいられますように』
書き終わってふと顔を横に向けると、君彦くんもわたしの方を見ていてびっくりした。
「どうしたの?」
「七夕週間の時に真綾が誘ってくれただろう? 『一緒に短冊を書きに行かないか』と。その日のことを思い出していた」
七夕週間。七月一日から七日まで浴衣で登校してもいい特別な期間であり、願い事を書いた笹を飾れるイベントも開催される。その期間中、一日だけわたしは咲ちゃんと一緒に浴衣を着て登校した。放課後、わたしは君彦くんに一緒に短冊を飾りに行こうと誘った。だけど君彦くんは迎えの車がもう来ていたから参加できなくて。だから、来年は一緒に浴衣着たり、短冊書こうって約束をした。
「俺はずっと断ったことを心の中で悔いていた。電話をかければ、車を待たせることだってできた。『一年後、気が変わってなければ』と答えたが、あの日あの時、本当は一緒に書きたかった」
「そうだったの?」
「あの賑やかな場に俺は相応しくないと思って気が引けた。でも、真綾がいるなら参加すればよかったと……。今、こうして絵馬を書いているのが俺は嬉しい」
知らなかった。ああいうイベントに興味がないんだと思ってた。本当は興味持ってくれてたんだ。
「来年の七夕週間に一緒に浴衣着て、短冊書く約束、そのままにしておいてね」
「もちろんだ」
絵馬を飾った後、丸くて真ん中に穴の開いた、ドーナツみたいな石碑をくぐる。行きに悪縁を切り、帰りに良縁を結ぶという。くぐった先で、石碑に願いを書いたお札を糊で貼り付けてから戻ると、書いた願いが叶うって書いてあった。
絵馬と一緒にお札にも願い事を書いた。絵馬と同じことを書いたけど、切りたい縁のないわたしにとって今は良い縁をそのまま強く結んでくれたら幸せだ。
君彦くんが最初に穴をくぐり、願いを書いたお札を貼り付けて再び穴をくぐって帰ってきた。わたしも挑戦する。穴をくぐって、お札貼って、もう一度穴の中に……あれ……? 進めない。後ろにも戻れない。
「どうしよ、抜けない……」
さっき君彦くんは何の問題もなくやってたのに。おかしいな……。冷や汗が出る。もしかして、わたしが太っているとか……? 最近バイト先の廃棄ケーキに加えて、家に帰って小説書きながらクッキーとかグミとかつまんでたもんなぁ。悲しいくらいに身に覚えがありすぎる……。
でも、行きは通れたしと、パニックになっていると、
「真綾、膝を立てるな。少し後ろに伸ばせ」
君彦くんはしゃがみ、冷静に指示をくれる。
「えっ、えっ」
「そのあと手を前に出せ」
伸ばした手を、君彦くんが掴むとゆっくり引っ張り出してもらった。
「ありがとう~。出れないかと思ったよぉ」
抱きつきながら、二人一緒に立ち上がる。石碑の近くにはくぐりたい人たちの列が出来てて、みんなから見られて、めちゃくちゃ恥ずかしい。邪魔にならない場所まで移動する。
「しまったな」
わたしが服についた砂埃をはたき落としていると、深刻そうな声色で君彦くんが言う。
「石碑に詰まった真綾を写真に収めておけばよかった」
「もー! 本当に焦ったんだから」
「冗談だ」
そう言って、またかたく手をつないだ。色違いの縁結びのお守りを買って、神社を後にした。
来た道を戻りながら空を見上げる。気温もかなり下がってきて、コートのボタンを留めた。
「だいぶ日が暮れてきたな」
「まだ四時なのに……日没早くなって、もう冬なんだね」
「真綾とは春、夏、秋、冬すべての季節を共に過ごしたのだな」
「早いなぁ。あっという間だったね」
「今日はこの辺りで帰るか」
「そうだね」
歩き回ったというのもあるが、今から電車に乗ってわたしの家に着くまで、二時間はかかってしまうことを考えると、そろそろ出発しなければならない。
「あのね君彦くん、帰る前に一つお願いがあるんだけど」
「どうした?」
「一緒に写真撮りたいんだけど……ううん、君彦くんと撮りたい!」
「かまわん。それなら鴨川で撮るか」
「うん!」
再び鴨川に到着すると川辺に降りる。鴨川をバックに内側についているカメラレンズを使って撮影する。
「じゃあ、行くよ」
シャッターを切る。そこには笑顔のわたしと微笑む君彦くんが写っていた。
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