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京都にあなたと
第十八話 京都にあなたと8
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「あと少しだ……真綾?」
君彦くんがスマホをポケットに入れると、慌ててわたしを見る。
「どうした? 体調が悪いのか?」
「そんな、わたし、元気だよ?」
久しぶりに発した声が震える。笑わないと。そう思うと、涙がとめどなく溢れて落ちていく。君彦くんに肩を抱き寄せられた。
「ここだと車も通って危ない。そこの喫茶店に入ろう」
角にあったカフェに入る。まだ出来たばかりなのか、内装は綺麗で、ドライフラワーやウサギの置物などが飾られたかわいらしいお店だ。
対応してくれた女性の店員さんもわたしを見て困惑している。申し訳ないと思いながら、でも涙が止まらない。
一階はカウンターのみ、店員さんが気を利かせてか、二階に案内される。他にはお客さんはいなかった。
「外は寒かったからな。なにか温かいものを頼むと良い」
そう言いながら、君彦くんがハンカチをわたしに差し出した。君彦くんにハンカチ借りるのは二回目だ。
前は、書いた文章のことであまりいい評価もらえなくて落ち込んで、一人でぼーっとしていた。気づくと君彦くんが隣にいて、なかなか人の記憶に残るような文を書けないという悩みを聞いてくれた。その時も泣いてしまって、ハンカチを貸してくれたのだった。あの日はすみれ色のハンカチ、今日は空の色と同じ淡い青色だ。
「ありがとう……」
「俺はコーヒーにするが、真綾はどうする?」
「えっと……紅茶にする……」
「わかった」
君彦くんは店員さんを呼んで注文してくれた。飲み物が来るまで、二人とも何も話さなかった。君彦くんはどうしたらいいのか困っているだろうな……。怖くて顔見れない。わたしはうつむいて、ハンカチに顔を埋めた。
店員さんが気を使ってか、思ってたよりすぐに飲み物を持ってきてくださった。二人一緒のタイミングで、マグカップを手に取ってゆっくり飲む。飲んでも、代わりに目から涙が頬を伝っていく。いつもならお砂糖やミルクを入れるけれど、飲んでから忘れていたことに気づく。なにから、どう話せばいいのかわからない。
「少し落ち着いたか?」
「うん……」
少し間を空けて、
「俺が真綾の気に触るような嫌なことをしてしまったか?」
「ううん、違う……。君彦くんは何も悪くない」
弱弱しい声で訊いてきた言葉を否定すべく、わたしは勢いよく首を横に振る。
「安井金毘羅宮、わたしも知ってる」
「そうだったか。それならば……」
「その……縁を切るパワーがあって……男女で行ったら別れるって」
また涙が出そうになるのを堪えながら、
「だから、正直行きたくなかった。でも、そんなのわたしのワガママで……。何か縁を切りたいようなことあったかな……? わたしが何かしちゃった?」
「どうしてそう思う?」
「昔から好きな人たちに喜んでほしくていろいろお節介焼いちゃって、しつこくしすぎて、重いって嫌われて……。君彦くんにも知らない間に同じことしちゃってたかもしれない」
「なぜ決めつける。俺はなにも言ってない。お前がすることや言うことにお節介だなどと感じたことはない。無知な俺を助けてくれてるではないか」
「じゃあ、なんで、わたしと一緒に行きたいの?」
「落ち着いて安井金毘羅宮のサイトを見てみろ」
スマホを手にして、検索窓に文字を入力する。以前も検索して見た画面。
「一番上になんて書いてある」
「悪縁を切り、良縁を結ぶ……」
「そうだ。この神社は悪縁を切るばかりじゃない。良縁を結んでくれるということだ。俺は、大学で出会った真綾や、駿河、桂のことを悪縁だと思ったことはない。むしろ、長く太く強く続いていってほしい良縁だと思っている。だから、行きたいんだ」
君彦くんはコーヒーを一口飲むと、続ける。
「参拝したからどうこうと……そういう目に見えない、根拠のない効果は信じない性質だが、恋人、友人が離れてしまうのが怖かった」
「でも、男女で行ったら別れちゃうって」
「男女で参拝して、全組が別れるはずはない。もし別れたのであれば、その縁が悪縁、切れて互いによかったということだ。それに、俺と真綾がこんなことで別れるはずがないだろう。俺は俺が想定していたより、真綾が思っている以上に好きになっているというのに」
俯いていたわたしは顔を上げる。君彦くんはわたしの目をまっすぐに見ている。その瞳に揺らぎはない。
「俺はまだ真綾のすべてを知っているわけじゃない。お前が過去につらい思いをしていたとも。真綾の気持ちを重いだなどと突き放す奴がいるのなら、ありがたく俺がその気持ちをすべて受け取ろうじゃないか」
君彦くんが胸に手を当て言う。初めて君彦くんを見たあの日の何倍、何十倍、何百倍もの威力の矢がわたしの心を貫いていく。
「良い機会だ。真綾に言っておきたかったことがある」
君彦くんがスマホをポケットに入れると、慌ててわたしを見る。
「どうした? 体調が悪いのか?」
「そんな、わたし、元気だよ?」
久しぶりに発した声が震える。笑わないと。そう思うと、涙がとめどなく溢れて落ちていく。君彦くんに肩を抱き寄せられた。
「ここだと車も通って危ない。そこの喫茶店に入ろう」
角にあったカフェに入る。まだ出来たばかりなのか、内装は綺麗で、ドライフラワーやウサギの置物などが飾られたかわいらしいお店だ。
対応してくれた女性の店員さんもわたしを見て困惑している。申し訳ないと思いながら、でも涙が止まらない。
一階はカウンターのみ、店員さんが気を利かせてか、二階に案内される。他にはお客さんはいなかった。
「外は寒かったからな。なにか温かいものを頼むと良い」
そう言いながら、君彦くんがハンカチをわたしに差し出した。君彦くんにハンカチ借りるのは二回目だ。
前は、書いた文章のことであまりいい評価もらえなくて落ち込んで、一人でぼーっとしていた。気づくと君彦くんが隣にいて、なかなか人の記憶に残るような文を書けないという悩みを聞いてくれた。その時も泣いてしまって、ハンカチを貸してくれたのだった。あの日はすみれ色のハンカチ、今日は空の色と同じ淡い青色だ。
「ありがとう……」
「俺はコーヒーにするが、真綾はどうする?」
「えっと……紅茶にする……」
「わかった」
君彦くんは店員さんを呼んで注文してくれた。飲み物が来るまで、二人とも何も話さなかった。君彦くんはどうしたらいいのか困っているだろうな……。怖くて顔見れない。わたしはうつむいて、ハンカチに顔を埋めた。
店員さんが気を使ってか、思ってたよりすぐに飲み物を持ってきてくださった。二人一緒のタイミングで、マグカップを手に取ってゆっくり飲む。飲んでも、代わりに目から涙が頬を伝っていく。いつもならお砂糖やミルクを入れるけれど、飲んでから忘れていたことに気づく。なにから、どう話せばいいのかわからない。
「少し落ち着いたか?」
「うん……」
少し間を空けて、
「俺が真綾の気に触るような嫌なことをしてしまったか?」
「ううん、違う……。君彦くんは何も悪くない」
弱弱しい声で訊いてきた言葉を否定すべく、わたしは勢いよく首を横に振る。
「安井金毘羅宮、わたしも知ってる」
「そうだったか。それならば……」
「その……縁を切るパワーがあって……男女で行ったら別れるって」
また涙が出そうになるのを堪えながら、
「だから、正直行きたくなかった。でも、そんなのわたしのワガママで……。何か縁を切りたいようなことあったかな……? わたしが何かしちゃった?」
「どうしてそう思う?」
「昔から好きな人たちに喜んでほしくていろいろお節介焼いちゃって、しつこくしすぎて、重いって嫌われて……。君彦くんにも知らない間に同じことしちゃってたかもしれない」
「なぜ決めつける。俺はなにも言ってない。お前がすることや言うことにお節介だなどと感じたことはない。無知な俺を助けてくれてるではないか」
「じゃあ、なんで、わたしと一緒に行きたいの?」
「落ち着いて安井金毘羅宮のサイトを見てみろ」
スマホを手にして、検索窓に文字を入力する。以前も検索して見た画面。
「一番上になんて書いてある」
「悪縁を切り、良縁を結ぶ……」
「そうだ。この神社は悪縁を切るばかりじゃない。良縁を結んでくれるということだ。俺は、大学で出会った真綾や、駿河、桂のことを悪縁だと思ったことはない。むしろ、長く太く強く続いていってほしい良縁だと思っている。だから、行きたいんだ」
君彦くんはコーヒーを一口飲むと、続ける。
「参拝したからどうこうと……そういう目に見えない、根拠のない効果は信じない性質だが、恋人、友人が離れてしまうのが怖かった」
「でも、男女で行ったら別れちゃうって」
「男女で参拝して、全組が別れるはずはない。もし別れたのであれば、その縁が悪縁、切れて互いによかったということだ。それに、俺と真綾がこんなことで別れるはずがないだろう。俺は俺が想定していたより、真綾が思っている以上に好きになっているというのに」
俯いていたわたしは顔を上げる。君彦くんはわたしの目をまっすぐに見ている。その瞳に揺らぎはない。
「俺はまだ真綾のすべてを知っているわけじゃない。お前が過去につらい思いをしていたとも。真綾の気持ちを重いだなどと突き放す奴がいるのなら、ありがたく俺がその気持ちをすべて受け取ろうじゃないか」
君彦くんが胸に手を当て言う。初めて君彦くんを見たあの日の何倍、何十倍、何百倍もの威力の矢がわたしの心を貫いていく。
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