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京都にあなたと
第十七話 京都にあなたと7
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そのあと、鴨川デルタの上に立ち、周辺の写真を撮る。
ここで『四畳半神話体系』の樋口先輩がマンドリンを弾いたりしていたんだよなぁと思いを馳せる。
さらに進んで下鴨神社を参拝。とても静かな場所で、でも、お盆のころならここでにぎやかな古本市してるんだと思うと、俄然行きたくなった。
そこから空腹と戦いながら進々堂へ向かう。
進々堂は『夜は短し、歩けよ乙女』のラストシーンで二人が会う約束をしている喫茶店だ。この場で二人がどういう会話を交わしたのかは語られない。だからこそ、読者はどうなったかを空想しては顔を緩ませてしまうのだ。
到着すると、店は満席だったけど、ほどなくして店内に入ることが出来た。木製のテーブルとイスにはたくさんの人が愛してきたことがわかる、色の深みや手触りと傷たち。照明はやや暗めだが、窓から日の光がしっかりと入ってきて、一番奥の席でもほどよく明るい。
注文した焼きカレーセットが二つ運ばれてきた。「パンが美味しい」と聞いていたから、パンがメインになってるメニューにしようと思ったんだけど、あまりにもおなかが空きすぎてて、ボリュームがありそうな焼きカレーにしたのだ。コーヒーと小鉢にポテトサラダ、そして小さな丸いパンがついている。
時刻は昼の一時を過ぎていた。三か所行くだけで二時間半以上時間を要したことになる。
「思いのほか時間かかっちゃって。疲れてない?」
「まさに今、美味しいコーヒーと食事で回復しているところだ」
「えへへ、わたしも」
パンを一口大にちぎる。やわらかくて、ほんのりとあたたかく、少しの力だけですぐにちぎれていく。口に含むと、ふわりと小麦の香りが立って、鼻に抜けていく。今度来たら、パンメインのセットも頼もう。
「真綾が作ってくれたカレーとはまた違ううまさがあるな」
「カレーは特に違いが出るからね。お店は違いがわかりやすいけど、お家で作るカレーはそれ以上に違うよ」
「そうなのか?」
「わたしの家のカレーは君彦くんが食べた味つけのものだけど、お友達の家はコーンがたくさん入ってて甘かった。もう一人の子のお家のは逆にスパイスが効いてて、ルウがサラサラだった」
「俺の家はどのメニューも日によって作る人間が違う。家庭の味などの感覚がわからなかった。駿河や桂もそれぞれ違う味つけをするのだろうか」
「全然違うと思うよ。そうだ! 今度みんなでそれぞれのお家のカレー持ち寄ってみるのも面白いかも。味付けの勉強させてもらえそう」
「楽しそうだな」
帰ったら、咲ちゃんと駿河くんに早速連絡してみよう。
「そうだ、君彦くんは行きたいところある?」
「俺も一か所、行きたい場所を見つけている。良いか?」
「もちろんだよ!」
君彦くんはスマホで地図を確認したあと、
「ここからではかなり距離がある。一度電車に乗り、河原町まで戻ろう」
「うん。さすがに歩いてもう戻れないや」
出町柳駅から京阪電車に乗る。最初に降り立った阪急の京都河原町駅の近くにある、祇園四条駅を目指す。路線図を見ると、どうやらわたしたちは五駅分も歩いていたようだ……。特急に乗り、あっという間に祇園四条駅に到着した。もし今度、古本市に参加するために下鴨神社に行く時は電車に乗ろうっと。
改札を抜けた後、
「何番出口から出る?」
「一番出口が一番近いようだ」
「オッケー」
一番出口は改札横の細い通路を歩いた先にあった。出た瞬間、冷たい北風が吹いた。
「そういえば、君彦くんの行きたい場所ってどこなの?」
「言ってなかったか。安井金毘羅宮という神社だ」
「えっ……」
思わず足が止まる。
「真綾、どうかしたか?」
「あっ、ううん、わかった。行こう!」
再び歩きながら、頭の中では「なんでよりによって……?」という言葉を何度も繰り返す。考えすぎて視界がクラクラする。行きはあんなに心が躍ったのに、今は風が吹いていなくても身体が芯から冷えていく感覚がある。
縁を切りたいと思うような何か嫌なことがあったの? そんな素振りもなにもなかったし……。君彦くんに気持ちが通じて浮かれてて、彼のサインを見落としてしまってたのかもしれない。今からでも「一緒に行かない方が良い」って言う方が良いのかな。でも、君彦くんが「行きたい」って言ってるのに、その気持ちをわたしのワガママで止めさせるのはひどいよね。でもなんで? 頭の中で一生懸命今までのことを思い出し、原因を考える。わからない。わからないから、場所に近づくにつれて急に苦しくなっていく。
ここで『四畳半神話体系』の樋口先輩がマンドリンを弾いたりしていたんだよなぁと思いを馳せる。
さらに進んで下鴨神社を参拝。とても静かな場所で、でも、お盆のころならここでにぎやかな古本市してるんだと思うと、俄然行きたくなった。
そこから空腹と戦いながら進々堂へ向かう。
進々堂は『夜は短し、歩けよ乙女』のラストシーンで二人が会う約束をしている喫茶店だ。この場で二人がどういう会話を交わしたのかは語られない。だからこそ、読者はどうなったかを空想しては顔を緩ませてしまうのだ。
到着すると、店は満席だったけど、ほどなくして店内に入ることが出来た。木製のテーブルとイスにはたくさんの人が愛してきたことがわかる、色の深みや手触りと傷たち。照明はやや暗めだが、窓から日の光がしっかりと入ってきて、一番奥の席でもほどよく明るい。
注文した焼きカレーセットが二つ運ばれてきた。「パンが美味しい」と聞いていたから、パンがメインになってるメニューにしようと思ったんだけど、あまりにもおなかが空きすぎてて、ボリュームがありそうな焼きカレーにしたのだ。コーヒーと小鉢にポテトサラダ、そして小さな丸いパンがついている。
時刻は昼の一時を過ぎていた。三か所行くだけで二時間半以上時間を要したことになる。
「思いのほか時間かかっちゃって。疲れてない?」
「まさに今、美味しいコーヒーと食事で回復しているところだ」
「えへへ、わたしも」
パンを一口大にちぎる。やわらかくて、ほんのりとあたたかく、少しの力だけですぐにちぎれていく。口に含むと、ふわりと小麦の香りが立って、鼻に抜けていく。今度来たら、パンメインのセットも頼もう。
「真綾が作ってくれたカレーとはまた違ううまさがあるな」
「カレーは特に違いが出るからね。お店は違いがわかりやすいけど、お家で作るカレーはそれ以上に違うよ」
「そうなのか?」
「わたしの家のカレーは君彦くんが食べた味つけのものだけど、お友達の家はコーンがたくさん入ってて甘かった。もう一人の子のお家のは逆にスパイスが効いてて、ルウがサラサラだった」
「俺の家はどのメニューも日によって作る人間が違う。家庭の味などの感覚がわからなかった。駿河や桂もそれぞれ違う味つけをするのだろうか」
「全然違うと思うよ。そうだ! 今度みんなでそれぞれのお家のカレー持ち寄ってみるのも面白いかも。味付けの勉強させてもらえそう」
「楽しそうだな」
帰ったら、咲ちゃんと駿河くんに早速連絡してみよう。
「そうだ、君彦くんは行きたいところある?」
「俺も一か所、行きたい場所を見つけている。良いか?」
「もちろんだよ!」
君彦くんはスマホで地図を確認したあと、
「ここからではかなり距離がある。一度電車に乗り、河原町まで戻ろう」
「うん。さすがに歩いてもう戻れないや」
出町柳駅から京阪電車に乗る。最初に降り立った阪急の京都河原町駅の近くにある、祇園四条駅を目指す。路線図を見ると、どうやらわたしたちは五駅分も歩いていたようだ……。特急に乗り、あっという間に祇園四条駅に到着した。もし今度、古本市に参加するために下鴨神社に行く時は電車に乗ろうっと。
改札を抜けた後、
「何番出口から出る?」
「一番出口が一番近いようだ」
「オッケー」
一番出口は改札横の細い通路を歩いた先にあった。出た瞬間、冷たい北風が吹いた。
「そういえば、君彦くんの行きたい場所ってどこなの?」
「言ってなかったか。安井金毘羅宮という神社だ」
「えっ……」
思わず足が止まる。
「真綾、どうかしたか?」
「あっ、ううん、わかった。行こう!」
再び歩きながら、頭の中では「なんでよりによって……?」という言葉を何度も繰り返す。考えすぎて視界がクラクラする。行きはあんなに心が躍ったのに、今は風が吹いていなくても身体が芯から冷えていく感覚がある。
縁を切りたいと思うような何か嫌なことがあったの? そんな素振りもなにもなかったし……。君彦くんに気持ちが通じて浮かれてて、彼のサインを見落としてしまってたのかもしれない。今からでも「一緒に行かない方が良い」って言う方が良いのかな。でも、君彦くんが「行きたい」って言ってるのに、その気持ちをわたしのワガママで止めさせるのはひどいよね。でもなんで? 頭の中で一生懸命今までのことを思い出し、原因を考える。わからない。わからないから、場所に近づくにつれて急に苦しくなっていく。
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