【4】ハッピーエンドを超えてゆけ【完結】

ホズミロザスケ

文字の大きさ
上 下
15 / 21
京都にあなたと

第十五話 京都にあなたと5

しおりを挟む
「ん? あら、アンタ、京都行くの?」
 お母さんがわたしのスマホを覗き込む。さっきまで見ていたオススメスポットを紹介しているブログが表示されている。
「うん。どこ行くか考えてるとこ。おもしろかった小説に出てくる場所に行きたいなって」
「聖地巡礼ってやつね」
「そんなところかな」
「お母さんも昔京都行ったわ~」
「お母さんはどのあたり行ったの?」
「数回、メジャーなところ……八坂さんとか清水寺とかは学校の遠足で行ったでしょー。高校生の時に友達と受験する予定もないのに京都大学を見に行ったりもしたわね」
「へぇ~」
 お母さんもこの辺りの生まれだから、やっぱり頻繁には行ってなかったんだなぁ。

「今のところ、どこ行こうと考えてんの?」
河原町かわらまち付近かな。せっかくだし、神社どこか行きたいなって」
「神社いっぱいあるからねぇ……あ、思い出した」
「なにが?」
「お母さんの友達が、大学時代、しょうもないクソ男につかまったのよ。友達を良いように騙しては、お金むしり取ってパチンコ行ったり、キャバクラ行ったりするヤツでね。何度も『早く別れな』ってみんなでアドバイスしてたんだけど、『本当は良い人なの。だから見捨てられない』って。でも、どんどん身も心もボロボロになっていってさ。最終的には『別れたいのに、別れてもらえない』、友達の気持ちが離れ始めたら、向こうの束縛がきつくなっていく最悪の状況になって、さすがに私たちもどうしようもなくてね」
「かわいそう……」
「気分転換も兼ねて、神頼みに行ったのが安井さんだったのよ」
「安井さん?」
安井金毘羅宮やすいこんぴらぐう。ちょっと調べてみなさい」
「う、うん」
 検索欄に「安井金毘羅宮」と入力する。
「出た?」
「出たけど、なんかすごいね」
 公式サイトの下には、「最強の縁切り神社!」「怖いくらい効果絶大!」とか人の目を惹きつけるパワーワードの書かれたブログがずらりと並ぶ。
「安井さんはね、縁切りがすごい強力なの」
「ひぇ……」
「ここ、行けばわかるけど、ここだけとんでもなく人の強い気が感じられてね。訪れる人みんな本気だから、絵馬も生々しくって。『恋人と別れたい』とか恋愛がらみもあれば、『ブラックな会社からうまく辞めれますように』とかもあったわね」
「お母さん、人の絵馬見るなんて……」
「つける時に見えちゃったんだもん。仕方ないでしょ」

 行った人の感想も書かれていて、「人間関係のもつれに疲れ、藁をもすがる思いで参拝。苦手な人とお別れ出来、肩の荷が下りて楽になりました」とか、「ここにお参りしたおかげで、嫌いな人たちと縁が切れました!」という感想ばかりだ。
 反対に、「何も知らず彼女と一緒に参拝したら、帰り道に些細なことでケンカになり、そのまま別れました」というのも多く、「別れたくない男女は行くな」とも書かれている。

「お母さんのお友達はどうなったの?」
「絵馬に思いそのまま『彼氏と別れたい』って書いてたわね。お参りした一週間後に向こうから別れを切り出してきたのよ。好きな人が出来たんですって。あんなに友達に執着してたのに」
「すぐに効果が出てたんだ……」
「いやぁ、あそこのパワーは偉大よ。アンタもポヤポヤしてるんだから、何か変なのに付きまとわれたらここに行ったらいいわよ」
「覚えとくけど、わたしは今幸せだもん」
「君彦くんだっけ? 今度家に連れてきなさいね。アンタの初めての彼氏、お母さん楽しみにしてんだから」
「はーい」
 お母さんには彼氏が出来たことを話した。話したらすごく喜んでくれたと同時に、どんな人なのかとても気になっているみたい。お父さんと悠ちゃんには話してないからまだ知らない……はず。お父さんとそんなに話さないし、悠ちゃんはあんな感じだから……。でも、胸を張って紹介できる素敵な男性だから、家族に早く紹介できる日が来たらいいな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

熱い風の果てへ

朝陽ゆりね
ライト文芸
沙良は母が遺した絵を求めてエジプトにやってきた。 カルナック神殿で一服中に池に落ちてしまう。 必死で泳いで這い上がるが、なんだか周囲の様子がおかしい。 そこで出会った青年は自らの名をラムセスと名乗る。 まさか―― そのまさかは的中する。 ここは第18王朝末期の古代エジプトだった。 ※本作はすでに販売終了した作品を改稿したものです。

処理中です...