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京都にあなたと
第十二話 京都にあなたと2
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咲ちゃんと駿河くんは先々週、大学祭の翌日から付き合い始めたところなのだ。
わたしにとっても、君彦くんにとっても、二人は大切なお友達だから、嬉しい報告をメッセージで受け取った時には泣いてしまった。そのあと、咲ちゃんには電話をかけた時にもまた泣いてしまって。咲ちゃんからは「泣きすぎて何言ってんのかわかんないぞ~。でも喜んでくれてありがとな」って言ってくれた。君彦くんを見ると、黙々と食事をしているけど、どこか嬉しそうだ。
「本当はさぁ、ワタシだって弁当作ろうって気持ちはあるんだぞ? だけどな、お弁当用に買っておいた食材をうっかり晩ご飯で使ってしまったりさぁ」
「あるある! お鍋で似ている時に『あっ、これお弁当用に買ったのに』ってなるよね」
と大きく頷いていると、
「計画性のなさ。桂らしいな」
君彦くんはお箸で焼き鮭を切り分けながら言う。
「口を開いたと思えば神楽小路! ワタシの何を知ってると言うんだ!」
「提出期限当日の朝に課題を完成させる」
「ほぉ~? それでそれで?」
「賞味期限を確認せず、特売商品を買いだめし、腐らせる」
「うっ」
「本の買いすぎで生活費が足りなくなる」
「おい! なぜそれを……? ってもちろん総一郎だよなぁ……?」
咲ちゃんの無理やりひきつってあげた口角、でも目が笑ってない、怖い。駿河くんは咲ちゃんに視線を合わせることなく、
「いやぁ、もうそろそろ今年も終わりですね。今年ほど一年が早く感じたことはありませんでしたよ。とても楽しい一年で……」
「おい、話を逸らすな! 神楽小路になんの話してんだ! まさかもっとヤバい話もしてんのか!?」
「なんの話? そりゃあ日常的な会話ですよね、神楽小路くん」
「ああ。駿河の言う通り、いたって一般的な話だ」
「ホントかよぉ」と訝し気な顔をしてたかと思うと、「そういやさぁ」とわたしを見る。
「真綾と神楽小路はデートどこ行ったんだ? 初デートの話聞いてないような」
「そうですね。どこへお出かけされたんですか」
「デート……」
「デートか……」
わたしと君彦くんは顔を見合わせて、黙る。
咲ちゃんが焦って、
「えっ、ちょっと、そんな深く考え込まれると思わなくて! 差し支えなければでいいんだけど」
と早口で付け加える。
「そういえば、まだちゃんとデート行ってないね」
「そうだな」
「「え?」」
咲ちゃんと駿河くんがハモる。
「お二人はお付き合いしはじめてもうすぐ一か月ですよね?」
「そうだな」
「もう一か月だね」
「なかなか予定合わなかったのか?」
「月曜から金曜日まで顔を合わすからな」
「後期に入ってから授業も一緒になること多かったもんね」
「学校で会うのと、デート行くのは全然違うと思うけど……。良い機会じゃん。真綾、デートで行きたいところ、神楽小路に伝えろよ」
「えっ、えぇー! 急に言われても……」
「真綾が行きたいというのなら、俺はどこでもかまわん」
「そうだなぁ」
君彦くんと行きたい場所、やってみたいこと、たくさんある。お付き合いする前、めちゃくちゃ妄想してた。映画館でいつもなら絶対に観ないホラー映画観て、怖くなって手つないだりとか、遊園地ではしゃいだりとか、本屋さんで好きな本について情報交換してとか……。
「おーい真綾ぁ」
咲ちゃんが顔の前で手を振る。
「あっ! ごめん、考え込んでた」
実際両想いになったら、いきなり現実味を帯びてきて、改めて考えるだけで顔が熱くなる。
「ちなみに咲ちゃんと駿河くんは病院以外にどこか行ったの?」
「近所ですけど、こないだお付き合いしてから初めて天王寺に行きましたね」
「服見に行くのがメインで、あとはカフェ行ったり、本屋行っておすすめの本互いにプレゼンしたり」
「いいなぁ~!」
「他にも太陽の塔のある万博記念公園とか、この辺りなら神戸とか京都も候補には上がったんだけどな」
「京都……!」
「ん? 真綾、京都になんか思い入れあんのか?」
「ほら! 今、咲ちゃんが貸してくれた小説」
「あー、森見登美彦さんの?」
「そうそう!」
夏休み前のことだ。咲ちゃんとおすすめの本を互いに貸し借りした。わたしは、食についての文章を参考にしたい時に読んだ平松洋子さんのエッセイシリーズから『肉まんを新大阪で』。平松さんのエッセイはどれも面白くて、読んでるだけでお腹が空いちゃう。
もう一冊は嶽本野ばらさんの『十四歳の遠距離恋愛』を渡した。周りと少し違う自分の「好きなもの」を貫き、今とは違ってスマホや携帯電話もない時代背景、なにより未成年ゆえのもどかしさと戦いながら、お互いのまっすぐで純粋な気持ちをつなごうとした先の結末に何度読んでも切なくなる。
その時に咲ちゃんが「大学生になったら読むべき本だって本屋のPOPに書いてたから読んだら面白かった」って貸してくれたのが森見登美彦さんの『四畳半神話大系』と『夜は短し、歩けよ乙女』だった。
パッと読み始めた時は、とても難しい言い回しを使った文章に思えるけど、読み進めていくと、ヘンテコで不思議で。その世界にどっぷり浸かってしまって、電車で読んでたら自分の降りる駅を何駅乗り過ごしてたなんてこともあった。
「二作品とも京都が舞台でしょ」
「確かにそうだな」
「下鴨神社に、先斗町、吉田神社に鴨川デルタ! 君彦くん、わたし、京都に行ってみたいな」
「うむ、いいだろう」
君彦くんは二つ返事でオッケーしてくれた。
「良かったな、真綾」
「お二人とも楽しんできてくださいね」
「うん! お土産楽しみにしててね」
その日の夜、君彦くんと電話しながら京都へ行く日にちを十一月最後の土曜日に決めた。
「君彦くんは京都にはよく行くの?」
『いいや。小さい頃に両親に連れられて行ったとは聞いているがしっかりとした記憶はない』
「そっかぁ。わたしも遠足で一回行ったくらいかな。わたしの家からは少し遠いんだよね」
『ふむ』
「あ、ちなみに電車で行くつもりだけどいいかな?」
『大丈夫だ。しかし、俺が電車に乗ったのは数回くらいだ。真綾に助けてもらう場面もあるかもしれない』
「うん。わたしもちゃんと誘導できるようにがんばるね」
『ありがとう、真綾』
「そうだ。君彦くんも京都で行きたい場所あったら行こうね」
『わかった、調べておく』
もうすぐ0時をまわりそうだから、そろそろ切らなきゃ。
「君彦くん……」
『なんだ?』
「えっと……また明日ね!」
『ああ。また明日、大学で』
電話を切る。最後に「好き」って言いたかった。でも言う直前に照れてしまって、ぐっと飲み込んだ。好きって普通に言えるようになりたい。
わたしにとっても、君彦くんにとっても、二人は大切なお友達だから、嬉しい報告をメッセージで受け取った時には泣いてしまった。そのあと、咲ちゃんには電話をかけた時にもまた泣いてしまって。咲ちゃんからは「泣きすぎて何言ってんのかわかんないぞ~。でも喜んでくれてありがとな」って言ってくれた。君彦くんを見ると、黙々と食事をしているけど、どこか嬉しそうだ。
「本当はさぁ、ワタシだって弁当作ろうって気持ちはあるんだぞ? だけどな、お弁当用に買っておいた食材をうっかり晩ご飯で使ってしまったりさぁ」
「あるある! お鍋で似ている時に『あっ、これお弁当用に買ったのに』ってなるよね」
と大きく頷いていると、
「計画性のなさ。桂らしいな」
君彦くんはお箸で焼き鮭を切り分けながら言う。
「口を開いたと思えば神楽小路! ワタシの何を知ってると言うんだ!」
「提出期限当日の朝に課題を完成させる」
「ほぉ~? それでそれで?」
「賞味期限を確認せず、特売商品を買いだめし、腐らせる」
「うっ」
「本の買いすぎで生活費が足りなくなる」
「おい! なぜそれを……? ってもちろん総一郎だよなぁ……?」
咲ちゃんの無理やりひきつってあげた口角、でも目が笑ってない、怖い。駿河くんは咲ちゃんに視線を合わせることなく、
「いやぁ、もうそろそろ今年も終わりですね。今年ほど一年が早く感じたことはありませんでしたよ。とても楽しい一年で……」
「おい、話を逸らすな! 神楽小路になんの話してんだ! まさかもっとヤバい話もしてんのか!?」
「なんの話? そりゃあ日常的な会話ですよね、神楽小路くん」
「ああ。駿河の言う通り、いたって一般的な話だ」
「ホントかよぉ」と訝し気な顔をしてたかと思うと、「そういやさぁ」とわたしを見る。
「真綾と神楽小路はデートどこ行ったんだ? 初デートの話聞いてないような」
「そうですね。どこへお出かけされたんですか」
「デート……」
「デートか……」
わたしと君彦くんは顔を見合わせて、黙る。
咲ちゃんが焦って、
「えっ、ちょっと、そんな深く考え込まれると思わなくて! 差し支えなければでいいんだけど」
と早口で付け加える。
「そういえば、まだちゃんとデート行ってないね」
「そうだな」
「「え?」」
咲ちゃんと駿河くんがハモる。
「お二人はお付き合いしはじめてもうすぐ一か月ですよね?」
「そうだな」
「もう一か月だね」
「なかなか予定合わなかったのか?」
「月曜から金曜日まで顔を合わすからな」
「後期に入ってから授業も一緒になること多かったもんね」
「学校で会うのと、デート行くのは全然違うと思うけど……。良い機会じゃん。真綾、デートで行きたいところ、神楽小路に伝えろよ」
「えっ、えぇー! 急に言われても……」
「真綾が行きたいというのなら、俺はどこでもかまわん」
「そうだなぁ」
君彦くんと行きたい場所、やってみたいこと、たくさんある。お付き合いする前、めちゃくちゃ妄想してた。映画館でいつもなら絶対に観ないホラー映画観て、怖くなって手つないだりとか、遊園地ではしゃいだりとか、本屋さんで好きな本について情報交換してとか……。
「おーい真綾ぁ」
咲ちゃんが顔の前で手を振る。
「あっ! ごめん、考え込んでた」
実際両想いになったら、いきなり現実味を帯びてきて、改めて考えるだけで顔が熱くなる。
「ちなみに咲ちゃんと駿河くんは病院以外にどこか行ったの?」
「近所ですけど、こないだお付き合いしてから初めて天王寺に行きましたね」
「服見に行くのがメインで、あとはカフェ行ったり、本屋行っておすすめの本互いにプレゼンしたり」
「いいなぁ~!」
「他にも太陽の塔のある万博記念公園とか、この辺りなら神戸とか京都も候補には上がったんだけどな」
「京都……!」
「ん? 真綾、京都になんか思い入れあんのか?」
「ほら! 今、咲ちゃんが貸してくれた小説」
「あー、森見登美彦さんの?」
「そうそう!」
夏休み前のことだ。咲ちゃんとおすすめの本を互いに貸し借りした。わたしは、食についての文章を参考にしたい時に読んだ平松洋子さんのエッセイシリーズから『肉まんを新大阪で』。平松さんのエッセイはどれも面白くて、読んでるだけでお腹が空いちゃう。
もう一冊は嶽本野ばらさんの『十四歳の遠距離恋愛』を渡した。周りと少し違う自分の「好きなもの」を貫き、今とは違ってスマホや携帯電話もない時代背景、なにより未成年ゆえのもどかしさと戦いながら、お互いのまっすぐで純粋な気持ちをつなごうとした先の結末に何度読んでも切なくなる。
その時に咲ちゃんが「大学生になったら読むべき本だって本屋のPOPに書いてたから読んだら面白かった」って貸してくれたのが森見登美彦さんの『四畳半神話大系』と『夜は短し、歩けよ乙女』だった。
パッと読み始めた時は、とても難しい言い回しを使った文章に思えるけど、読み進めていくと、ヘンテコで不思議で。その世界にどっぷり浸かってしまって、電車で読んでたら自分の降りる駅を何駅乗り過ごしてたなんてこともあった。
「二作品とも京都が舞台でしょ」
「確かにそうだな」
「下鴨神社に、先斗町、吉田神社に鴨川デルタ! 君彦くん、わたし、京都に行ってみたいな」
「うむ、いいだろう」
君彦くんは二つ返事でオッケーしてくれた。
「良かったな、真綾」
「お二人とも楽しんできてくださいね」
「うん! お土産楽しみにしててね」
その日の夜、君彦くんと電話しながら京都へ行く日にちを十一月最後の土曜日に決めた。
「君彦くんは京都にはよく行くの?」
『いいや。小さい頃に両親に連れられて行ったとは聞いているがしっかりとした記憶はない』
「そっかぁ。わたしも遠足で一回行ったくらいかな。わたしの家からは少し遠いんだよね」
『ふむ』
「あ、ちなみに電車で行くつもりだけどいいかな?」
『大丈夫だ。しかし、俺が電車に乗ったのは数回くらいだ。真綾に助けてもらう場面もあるかもしれない』
「うん。わたしもちゃんと誘導できるようにがんばるね」
『ありがとう、真綾』
「そうだ。君彦くんも京都で行きたい場所あったら行こうね」
『わかった、調べておく』
もうすぐ0時をまわりそうだから、そろそろ切らなきゃ。
「君彦くん……」
『なんだ?』
「えっと……また明日ね!」
『ああ。また明日、大学で』
電話を切る。最後に「好き」って言いたかった。でも言う直前に照れてしまって、ぐっと飲み込んだ。好きって普通に言えるようになりたい。
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