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喜志芸祭とオムライス
第五話 喜志芸祭とオムライス5
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休憩出来て、なおかつ人の少なく静かなところでピンと来たのが、大学の玄関付近に佇む情報センターというイベントホールの入っている建物だ。パンフレットを確認する。今日は一階で受験希望者向けの相談会、パイプオルガンの演奏会、映画上映会が行われてたけど、そのほとんどはもう終了したあとだから、人は少ないだろうと踏んだ。
予想通り、人はまばら。君彦くんはお家に連絡を入れて、車が到着するまで一緒にここで待つことにした。建物に入ってすぐにそびえるパイプオルガンの前にある段差に座った。コンクリート打ちっぱなしの壁だから、外よりもさらに少しひんやりとしている。
「少し寒いかな? 大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。ここに来たら気分も落ち着いてきた」
「よかった」
この建物の二階には図書館があって、わたしも君彦くんも頻繁にここにくる。いつもの場所と言ってもいいかもしれない。君彦くんと付き合う前、いや、友達になる前に何度も君彦くんを図書館で見かけていた。見つけるたび、嬉しくて、心臓の鼓動が早くなったことを覚えている。「今日は何の本借りるんだろう」って本棚の陰から見たり、席に座って読んでいる時は、斜め前に座って、本を読むふりをして君彦くんのことを観察していた。今や、たった数か月前の、その日々さえ懐かしく思える。
「……すまないな」
「え?」
「もっとまわりたかったんじゃないのか?」
「わたし的には結構まわったから大満足だよ」
「それならばよかった」
「あ、君彦くん、そのまま動かないで」
そっと君彦くんの髪に触れる。
「糸くずついてたから取ったよ」
「ありがとう」
「君彦くんの髪の毛は綺麗だね。もう少し触ってもいい?」
「かまわんが……」
君彦くんの髪を手ですく。やわらかさがあるのにしっかりコシがあって、根元から波打つ髪は、毛先に向かうにつれ、渦のように巻いている。そして、シャンプーなのか香水なのかわからないけど、甘い香りがする。ほのかに漂うこの香りだけで君彦くんだとわかる。とても落ち着く香り。君彦くんと目が合う。気まずそうな表情を浮かべている。
「ごめん、ずっと触っちゃって」
「いや。お前はこの髪を褒めるのだな」
「え? だってとても綺麗だもん」
「本当に真綾は変わり者だ。くせ毛の髪をバカにされることが多かったこともあってな、今でも自分で切っている」
「嘘でしょ!? セルフカットには全然見えないよ……!」
「だから他人に触れられることに慣れてなくてな。どう反応すればいいのかわからん」
「かわいい」
思わず本心が零れ落ちる。
「……かわいい?」
「褒めてるんだよ! 照れてる姿がかわいいなって」
「かわいくは、ない……」
居心地悪そうな表情をしていた君彦くんはなにか思いついたようにわたしに向き直す。
「真綾、さっきのバレッタつけてやろう」
「ほんと!? 嬉しい!」
「他人の髪を触ったことはないが……出来るような気がしてな」
「ぜひお願いします!」
わたしはカバンからさっきのお花のバレッタと手鏡を取り出す。君彦くんがわたしの背中の方へ移動する。
「ハーフアップでいいか?」
「うん!」
君彦くんの細くて長い指がわたしの髪の上部を掬う。高校卒業とともに、デジタルパーマとヘアカラーをしたから、特に毛先は傷んでいる。ヘアケアはもちろんしっかりやっているけど、君彦くんのように手触りが良くないのが申し訳ない。でも、君彦くんに触れられてるとそれだけでドキドキと胸が高鳴る。君彦くんが髪ゴムを使って束ねる。
「髪ゴム、いいの?」
「一つくらい、かまわん。家に帰ればあるからな」
ゴムの少し上あたりに、指で少し隙間を作り、バレッタで留めてくれた。
「わぁ! すごいね!」
手鏡でいろんな角度から眺める。ぎゅっと強く締めず、やわらかさを残しつつハーフアップを作り、ゴムを隠すようにバレッタが留まっている。
「ハーフアップなど簡単なことだ。髪がうっとおしい時に家でたまにしているからな」
「男の人でヘアアレンジなんて、美容師さんとかじゃないと出来ないよ」
「真綾が喜んでくれるなら、いつでもしてやる」
予想通り、人はまばら。君彦くんはお家に連絡を入れて、車が到着するまで一緒にここで待つことにした。建物に入ってすぐにそびえるパイプオルガンの前にある段差に座った。コンクリート打ちっぱなしの壁だから、外よりもさらに少しひんやりとしている。
「少し寒いかな? 大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。ここに来たら気分も落ち着いてきた」
「よかった」
この建物の二階には図書館があって、わたしも君彦くんも頻繁にここにくる。いつもの場所と言ってもいいかもしれない。君彦くんと付き合う前、いや、友達になる前に何度も君彦くんを図書館で見かけていた。見つけるたび、嬉しくて、心臓の鼓動が早くなったことを覚えている。「今日は何の本借りるんだろう」って本棚の陰から見たり、席に座って読んでいる時は、斜め前に座って、本を読むふりをして君彦くんのことを観察していた。今や、たった数か月前の、その日々さえ懐かしく思える。
「……すまないな」
「え?」
「もっとまわりたかったんじゃないのか?」
「わたし的には結構まわったから大満足だよ」
「それならばよかった」
「あ、君彦くん、そのまま動かないで」
そっと君彦くんの髪に触れる。
「糸くずついてたから取ったよ」
「ありがとう」
「君彦くんの髪の毛は綺麗だね。もう少し触ってもいい?」
「かまわんが……」
君彦くんの髪を手ですく。やわらかさがあるのにしっかりコシがあって、根元から波打つ髪は、毛先に向かうにつれ、渦のように巻いている。そして、シャンプーなのか香水なのかわからないけど、甘い香りがする。ほのかに漂うこの香りだけで君彦くんだとわかる。とても落ち着く香り。君彦くんと目が合う。気まずそうな表情を浮かべている。
「ごめん、ずっと触っちゃって」
「いや。お前はこの髪を褒めるのだな」
「え? だってとても綺麗だもん」
「本当に真綾は変わり者だ。くせ毛の髪をバカにされることが多かったこともあってな、今でも自分で切っている」
「嘘でしょ!? セルフカットには全然見えないよ……!」
「だから他人に触れられることに慣れてなくてな。どう反応すればいいのかわからん」
「かわいい」
思わず本心が零れ落ちる。
「……かわいい?」
「褒めてるんだよ! 照れてる姿がかわいいなって」
「かわいくは、ない……」
居心地悪そうな表情をしていた君彦くんはなにか思いついたようにわたしに向き直す。
「真綾、さっきのバレッタつけてやろう」
「ほんと!? 嬉しい!」
「他人の髪を触ったことはないが……出来るような気がしてな」
「ぜひお願いします!」
わたしはカバンからさっきのお花のバレッタと手鏡を取り出す。君彦くんがわたしの背中の方へ移動する。
「ハーフアップでいいか?」
「うん!」
君彦くんの細くて長い指がわたしの髪の上部を掬う。高校卒業とともに、デジタルパーマとヘアカラーをしたから、特に毛先は傷んでいる。ヘアケアはもちろんしっかりやっているけど、君彦くんのように手触りが良くないのが申し訳ない。でも、君彦くんに触れられてるとそれだけでドキドキと胸が高鳴る。君彦くんが髪ゴムを使って束ねる。
「髪ゴム、いいの?」
「一つくらい、かまわん。家に帰ればあるからな」
ゴムの少し上あたりに、指で少し隙間を作り、バレッタで留めてくれた。
「わぁ! すごいね!」
手鏡でいろんな角度から眺める。ぎゅっと強く締めず、やわらかさを残しつつハーフアップを作り、ゴムを隠すようにバレッタが留まっている。
「ハーフアップなど簡単なことだ。髪がうっとおしい時に家でたまにしているからな」
「男の人でヘアアレンジなんて、美容師さんとかじゃないと出来ないよ」
「真綾が喜んでくれるなら、いつでもしてやる」
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