2 / 21
喜志芸祭とオムライス
第二話 喜志芸祭とオムライス2
しおりを挟む
「君彦くん!」
「真綾、怪我はないか」
「わたしは大丈夫だよ」
「すまない。もう少し早く到着していれば、ああいう輩に絡まれることもなかったというのに」
「君彦くんが謝ることはなにもないよ。助けてくれてありがとう」
彼は、神楽小路君彦くん。いつも落ち着いてて、醸し出す雰囲気もすごく大人びているけど、わたしと同い年の――あ、でも君彦くんは十月にお誕生日があったから十九歳だ――文芸学科の一回生。
そして、わたしの大切な彼氏だ。
って言っても、まだお付き合いを始めて一週間。友達だった期間を併せてもまだ四~五ヶ月。まだまだドキドキすることが多いし、初めて出来た彼氏だからどういう感じで接したらいいのか手探り状態。今はとにかく一緒にいられるだけでただただ嬉しくて幸せだ。
「今日、晴れてよかったね。天気予報だと雨だったから」
「そうだな」
「寒くない?」
「大丈夫だ」
「……君彦くん、緊張してる?」
「なぜそう思う?」
「いつもより目線がキョロキョロしてるし」
「まぁ……人が多くて落ち着かん」
君彦くんは大学生になるまで、学校には通わずにずっとお家に引きこもっていたという。だからか、人一倍人の多さに敏感で、最初は大学の教室に入るのも気持ちが重かったらしい。そう考えると喜志芸生以外の老若男女が出入りする大学祭に緊張してしまうのは仕方ない。
「君彦くん、手、つないでもいい?」
「かまわんが」
まだ訊いてからじゃないと手もつなげない。いつか何も言わずに、サッとつなげたらいいんだけど。
「君彦くんの手、あったかいね」
「さっきまで車の中だったからな。真綾はこんなに冷たく……」
つないでない方の手でわたしの手を上から包むと、優しくこすってくれる。大きな手のひら、柔らかくて気持ちいい。さっきちゃんとハンドクリーム塗ったけど、カサカサだなって思われてないかな……と内心少し焦る。
「もし、人波で疲れちゃったら、ちゃんと言ってね」
「わかった」
君彦くんは髪をかきあげる。君彦くんは照れている時、それを隠すように髪をかきあげる癖がある。顔は無表情でも、ちらりと見える耳のふちが赤くなっていて、そこがとてもかわいい。本人に言っても「そんなことはない」って言われそうだから、これはわたしだけの秘密だ。
「あとは咲ちゃんと駿河くんが来るのを待つだけだね」
「駿河総一郎にはなんら心配はしていないが、問題は桂咲だ。寝坊していなければいいが」
わたしは苦笑いする。咲ちゃんは朝に弱いからなぁ。しっかり者の駿河くんがそばにいるからきっと大丈夫だとは思うけど。
「でも、みんなと大学祭まわれるの嬉しいね」
「……うむ」
大学祭をまわっている間に少しでも緊張がほどけたらいいな。
ふと前に視線を向けると咲ちゃんと駿河くんがやってきた。
ポニーテールがトレードマークの咲ちゃんは、赤や青など原色がランダムに配色されたナイロンブルゾンにデニムと動きやすい服装をしている。足元の蛍光ピンクのスニーカーは駿河くんからの誕生日プレゼント。咲ちゃんはとても気に入ってて、いつも履いている。
駿河くんは、深い緑色のアーガイル柄カーディガンに無地のコットンシャツ。ベージュのパンツで咲ちゃんとは反対に落ち着いた色合いだ。
「二人ともおはよー!」
「おー、おはよう。二人とも早かったんだな」
咲ちゃんは元気いっぱいに笑う。
「楽しみすぎて早く来ちゃったの」
「今日はいろいろお店まわろうな」
「うん!」
咲ちゃんとお話ししていると、駿河くんが黒縁のメガネ越しに心配そうに君彦くんを見つめる。
「神楽小路くん、大丈夫ですか? 顔色が少し……」
「俺はいたって正常だ」
どうして強がっちゃうんだろう……。ここはちゃんと伝えておかなきゃ。
「君彦くん、人が多くて緊張してるんだよ」
「なるほどな」
「無理しない程度に楽しんでいきましょう。何かあれば僕らがフォローしますので」
「……ありがとう、駿河総一郎」
咲ちゃんも駿河くんも話せばわかってくれる人だから、隠すことはないのに。まだちょっと自分のことを話すのが苦手なのかもしれないな。
「真綾、怪我はないか」
「わたしは大丈夫だよ」
「すまない。もう少し早く到着していれば、ああいう輩に絡まれることもなかったというのに」
「君彦くんが謝ることはなにもないよ。助けてくれてありがとう」
彼は、神楽小路君彦くん。いつも落ち着いてて、醸し出す雰囲気もすごく大人びているけど、わたしと同い年の――あ、でも君彦くんは十月にお誕生日があったから十九歳だ――文芸学科の一回生。
そして、わたしの大切な彼氏だ。
って言っても、まだお付き合いを始めて一週間。友達だった期間を併せてもまだ四~五ヶ月。まだまだドキドキすることが多いし、初めて出来た彼氏だからどういう感じで接したらいいのか手探り状態。今はとにかく一緒にいられるだけでただただ嬉しくて幸せだ。
「今日、晴れてよかったね。天気予報だと雨だったから」
「そうだな」
「寒くない?」
「大丈夫だ」
「……君彦くん、緊張してる?」
「なぜそう思う?」
「いつもより目線がキョロキョロしてるし」
「まぁ……人が多くて落ち着かん」
君彦くんは大学生になるまで、学校には通わずにずっとお家に引きこもっていたという。だからか、人一倍人の多さに敏感で、最初は大学の教室に入るのも気持ちが重かったらしい。そう考えると喜志芸生以外の老若男女が出入りする大学祭に緊張してしまうのは仕方ない。
「君彦くん、手、つないでもいい?」
「かまわんが」
まだ訊いてからじゃないと手もつなげない。いつか何も言わずに、サッとつなげたらいいんだけど。
「君彦くんの手、あったかいね」
「さっきまで車の中だったからな。真綾はこんなに冷たく……」
つないでない方の手でわたしの手を上から包むと、優しくこすってくれる。大きな手のひら、柔らかくて気持ちいい。さっきちゃんとハンドクリーム塗ったけど、カサカサだなって思われてないかな……と内心少し焦る。
「もし、人波で疲れちゃったら、ちゃんと言ってね」
「わかった」
君彦くんは髪をかきあげる。君彦くんは照れている時、それを隠すように髪をかきあげる癖がある。顔は無表情でも、ちらりと見える耳のふちが赤くなっていて、そこがとてもかわいい。本人に言っても「そんなことはない」って言われそうだから、これはわたしだけの秘密だ。
「あとは咲ちゃんと駿河くんが来るのを待つだけだね」
「駿河総一郎にはなんら心配はしていないが、問題は桂咲だ。寝坊していなければいいが」
わたしは苦笑いする。咲ちゃんは朝に弱いからなぁ。しっかり者の駿河くんがそばにいるからきっと大丈夫だとは思うけど。
「でも、みんなと大学祭まわれるの嬉しいね」
「……うむ」
大学祭をまわっている間に少しでも緊張がほどけたらいいな。
ふと前に視線を向けると咲ちゃんと駿河くんがやってきた。
ポニーテールがトレードマークの咲ちゃんは、赤や青など原色がランダムに配色されたナイロンブルゾンにデニムと動きやすい服装をしている。足元の蛍光ピンクのスニーカーは駿河くんからの誕生日プレゼント。咲ちゃんはとても気に入ってて、いつも履いている。
駿河くんは、深い緑色のアーガイル柄カーディガンに無地のコットンシャツ。ベージュのパンツで咲ちゃんとは反対に落ち着いた色合いだ。
「二人ともおはよー!」
「おー、おはよう。二人とも早かったんだな」
咲ちゃんは元気いっぱいに笑う。
「楽しみすぎて早く来ちゃったの」
「今日はいろいろお店まわろうな」
「うん!」
咲ちゃんとお話ししていると、駿河くんが黒縁のメガネ越しに心配そうに君彦くんを見つめる。
「神楽小路くん、大丈夫ですか? 顔色が少し……」
「俺はいたって正常だ」
どうして強がっちゃうんだろう……。ここはちゃんと伝えておかなきゃ。
「君彦くん、人が多くて緊張してるんだよ」
「なるほどな」
「無理しない程度に楽しんでいきましょう。何かあれば僕らがフォローしますので」
「……ありがとう、駿河総一郎」
咲ちゃんも駿河くんも話せばわかってくれる人だから、隠すことはないのに。まだちょっと自分のことを話すのが苦手なのかもしれないな。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
マキノのカフェ開業奮闘記 ~Café Le Repos~
Repos
ライト文芸
カフェ開業を夢見たマキノが、田舎の古民家を改装して開業する物語。
おいしいご飯がたくさん出てきます。
いろんな人に出会って、気づきがあったり、迷ったり、泣いたり。
助けられたり、恋をしたり。
愛とやさしさののあふれるお話です。
なろうにも投降中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる