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小さな進歩
第二十六話 小さな進歩6
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いいや。時間の問題じゃないと思う。
僕はやっと手にした自由を謳歌しているつもりだ。好きなものも僕の手の中に増えていっている。でも、まだ自分の奥底にある、負の感情を言葉にするのは怖い。合格通知を手にして、家族と話した日だって、本当に言葉にしていいのかと震えていた。今もこうして桂さんに少し過去のことを話したことも正しかったのかと怯えている。なんで話してしまったんだろう。少し昔のことを思い出したからといって、馬鹿なことをした。その時、
「話してくれてありがと」
優しい声に僕はゆっくりと顔を上げる。桂さんと目が合う。いや、彼女が僕の目をしっかりと合わせて話そうとしてくれているのがわかる。
「家族のことはさ、人それぞれいろいろあるから。これからも深く聞かない。頭の片隅に置いておく。ただ、なんつーか、駿河が納得して、家を飛び出したのならワタシはそれでいいと思う」
「はい……」
「あと駿河、ワタシが誰でも彼でも『寂しい』とか『寝るまでいて』とか言えるわけじゃないからな」
「そうなんですか?」
「前にも言ったろ。本当に好きなことを話せる相手はいなかった、友達は少ないって。それでもそういうことを言えるのは、出会った日からウマが合うこともあるけど、なんだろ。うまく言えないけど、なんかすっげぇ信頼できるっつーか」
「信頼ですか……」
わかる。僕もそうなのかもしれない。出会ってまだ一年経ってないのに、こうして家庭の話をしたのは彼女が他の誰かに勝手に話したりしないと思っているからなのかもしれない。むしろ、知っておいて欲しかった部分も少しあるかもしれない。
「今まで出会ってきた誰とも違うんだよ、オマエは。それにワタシは意外と器がでかいんだぞ。どんな駿河でも受け止めてやるよ」
ニッと笑う桂さんを見て、胸が一気に熱くなった。力強い言葉を放つ、彼女のあたたかさに触れた瞬間だった。桂さんが「大丈夫」と笑った受験の日と重なった。そうだ、僕は彼女のこの表情や言葉に助けられたんだ。そして、今日も。
「ありがとうございます。ただ……」
「ん?」
「器がでかいって言うのは自分から言うことではないと思います」
「そういうツッコミはしっかり言うよな。まぁ、その意気だ」
そう言うと桂さんは腰に手を当て、胸を張った。
「出来なかったこと、たくさんしようぜ。まだワタシたちは一回生だし」
「そうですね。とりあえずは元気になってください」
「じゃ、早く治るようにワタシは寝るとする」
僕は食器を持つと立ち上がる。
「じゃあ、鍵は閉めておきますので。おやすみなさい」
「おう、おやすみ」
部屋に戻ると、自然と涙があふれた。メガネを外し、涙を拭う。茶化してしまったが、彼女は心が広いのは間違いない。「どんな駿河でも受け止めてやるよ」なんて、今まで言われたことない。簡単に人に言える言葉じゃない。だからこそ嬉しくて、その言葉も、いや、桂さんごと抱きしめておきたかった。これからも一緒にいてくれると心のどこかで安心して泣いているなんて、自分でも驚いている。信頼しているけれど、まだ少し、桂さんにそういう顔は見せれない。僕は静かに泣いた。
僕はやっと手にした自由を謳歌しているつもりだ。好きなものも僕の手の中に増えていっている。でも、まだ自分の奥底にある、負の感情を言葉にするのは怖い。合格通知を手にして、家族と話した日だって、本当に言葉にしていいのかと震えていた。今もこうして桂さんに少し過去のことを話したことも正しかったのかと怯えている。なんで話してしまったんだろう。少し昔のことを思い出したからといって、馬鹿なことをした。その時、
「話してくれてありがと」
優しい声に僕はゆっくりと顔を上げる。桂さんと目が合う。いや、彼女が僕の目をしっかりと合わせて話そうとしてくれているのがわかる。
「家族のことはさ、人それぞれいろいろあるから。これからも深く聞かない。頭の片隅に置いておく。ただ、なんつーか、駿河が納得して、家を飛び出したのならワタシはそれでいいと思う」
「はい……」
「あと駿河、ワタシが誰でも彼でも『寂しい』とか『寝るまでいて』とか言えるわけじゃないからな」
「そうなんですか?」
「前にも言ったろ。本当に好きなことを話せる相手はいなかった、友達は少ないって。それでもそういうことを言えるのは、出会った日からウマが合うこともあるけど、なんだろ。うまく言えないけど、なんかすっげぇ信頼できるっつーか」
「信頼ですか……」
わかる。僕もそうなのかもしれない。出会ってまだ一年経ってないのに、こうして家庭の話をしたのは彼女が他の誰かに勝手に話したりしないと思っているからなのかもしれない。むしろ、知っておいて欲しかった部分も少しあるかもしれない。
「今まで出会ってきた誰とも違うんだよ、オマエは。それにワタシは意外と器がでかいんだぞ。どんな駿河でも受け止めてやるよ」
ニッと笑う桂さんを見て、胸が一気に熱くなった。力強い言葉を放つ、彼女のあたたかさに触れた瞬間だった。桂さんが「大丈夫」と笑った受験の日と重なった。そうだ、僕は彼女のこの表情や言葉に助けられたんだ。そして、今日も。
「ありがとうございます。ただ……」
「ん?」
「器がでかいって言うのは自分から言うことではないと思います」
「そういうツッコミはしっかり言うよな。まぁ、その意気だ」
そう言うと桂さんは腰に手を当て、胸を張った。
「出来なかったこと、たくさんしようぜ。まだワタシたちは一回生だし」
「そうですね。とりあえずは元気になってください」
「じゃ、早く治るようにワタシは寝るとする」
僕は食器を持つと立ち上がる。
「じゃあ、鍵は閉めておきますので。おやすみなさい」
「おう、おやすみ」
部屋に戻ると、自然と涙があふれた。メガネを外し、涙を拭う。茶化してしまったが、彼女は心が広いのは間違いない。「どんな駿河でも受け止めてやるよ」なんて、今まで言われたことない。簡単に人に言える言葉じゃない。だからこそ嬉しくて、その言葉も、いや、桂さんごと抱きしめておきたかった。これからも一緒にいてくれると心のどこかで安心して泣いているなんて、自分でも驚いている。信頼しているけれど、まだ少し、桂さんにそういう顔は見せれない。僕は静かに泣いた。
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