【2】元始、君は太陽であった【完結】

ホズミロザスケ

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小さな進歩

第二十五話 小さな進歩5

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「怖い?」
「いつも以上に母の目が冷たくなるからです」
 膝を抱くように座り、床を見つめる。
「母からは『自分の健康管理が出来てない』『授業に遅れて成績が落ちる』と怒られる。父は僕が風邪をひいたことさえ知らないまま、半年から一年経った頃にふらっと帰って来る。僕はそんな家族が嫌いなんです」
 横にいる桂さんの顔は見れない。いったいどんな表情で僕を見ているのだろうか。
「『遊びに行くな、勉強をしろ』と僕を管理、監視してるくせに、体調崩したら健康管理が出来てないって本当矛盾していると思います。理不尽で恐怖でした。実は、そんな家庭でしたので、この大学に入学するのも揉めました。母から平手打ちされました。父は進学を認めてくれましたが、そんな時でも『金は出す』『俺に出来るのは働いて金を出すだけ』だと。僕は言いましたよ。『あなたたちが嫌いだ』『一生実家には戻らない』って」
 桂さんは黙ったままだ。
 家の外でマフラーを改造したうるさいバイクが通り過ぎる音がいつも以上に大きく響く。
「引きますよね。『家族が嫌いです』なんて言ったら。家族は大事にしなきゃいけない。それが一般的な考えなのに。僕みたいなのは異質なのかもしれません。本音や弱音を言葉にすれば、人が離れていきそうで僕は言えない。だから桂さんが羨ましいです。家族と仲良くて、素直に『寂しい』とか『寝るまでいてほしい』とか言えるあなたが」
 なんでこんなことを体調不良の友人に話しているんだろう。話したところで僕の評判が落ちるだけで、どちらにも得などない。
「なぁ、駿河。ワタシには言えるか?」
「え?」
「困ってたり、つらかったり、体調崩した時、ワタシにはちゃんと言ってくれるか?」
 少し考えて、
「……たぶん」
 と、答える。
「たぶんかよ」
「すいません。絶対に言えるかと言われると、自信がないですね」
「まぁ、出会って間もないしな」
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