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気づき

第十九話 気づき7

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「桂さん、お友達が出来て良かったですね」
「おう」
「でも意外でしたね」
「なにが?」
「あなたはもっとグイグイ、いろんな人に話しかけそうなタイプなのに、ああいう場で陰に隠れようとするなんて」
「よくそう言われるんだけど、人と話すのは実はニガテで。今日は『真綾を助けなきゃ』って思って体が先に動いた結果話せただけで、ああいう大人数の場だと友達二人以上近くにいないと他の人に声かけれないんだよ」
 桂さんは少しうつむきながら、こめかみをかいた。
「だからつくづく思うんだ。受験の日に駿河と話してなかったら、ワタシ、まだ一人だったかもって。ワタシたちが話さずに大学生活送ってるなんて」
 話すことのないただの隣人、ただの同級生……。
「ありえないよな」
「ありえないですね」
 二人で声が揃った。
「あはは、ハモった!」
 桂さんが腹を抱えて笑い出す。歩きながら限界まで笑いきると、深呼吸して息を整えている。
「でも、駿河もそう思うんだ」
「毎日ほぼ一緒に行動してたらそう思うでしょう」
「たしかに」
「僕は遅かれ早かれあなたとは話してたとは思いますけどね」
「そうか?」
「だって同じ学科で、英語の授業は隣の席、マンションの隣人で。桂さんのことだからきっと教科書忘れたとか鍵なくしたとか言って話しかけられてたかと」
「うーん……否定は出来ねぇな」
「僕がいなくてもそこはちゃんとしてくださいよ」と言おうと口を開こうとすると、桂さんは「でも」と続ける。
「いつも横にいて助けてくれるのが駿河で良かった」

 桂さんはそう言って僕を見るとふっと微笑んだ。言葉も、表情も予想もしてなかったものだと、全身に電撃が走ったかのような感覚に陥る。なんだかずるいな、この人は。僕がいなかったらどうするつもりなんだ。かといって、僕も桂さんを甘えさせてる訳でもない。でも、つい彼女が心配になってすぐ隣に行ってしまう。熱く火照る頬に夜風が当たり、高ぶる気持ちを落ち着くまでしばらく何も言えなかった。
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