上 下
17 / 35
気づき

第十七話 気づき5

しおりを挟む
 自己紹介が終わり、自由時間となる。結局みな、それなりにグループが出来ている状態で参加していて交流する雰囲気ではない。僕も桂さんと一緒に行動し、話す。というか、桂さんの表情が硬い。自己紹介終わったあたりから、顔が曇っている。
「桂さん、大丈夫ですか?」
「うん。もう自己紹介という山は越えたからな。あとはちょっとジュース飲んで、なんか食べて、様子見てさっさと帰るぞ」
「誰かに声かけたりしないんですか?」
「ワ、ワタシはいい……」
「一回生の人もそのあたりにパラパラいますよ」
「ワタシは本当に大丈夫だから……。そういう駿河は誰か話したいヤツでもいんのかよ」
「うーん……。まぁ、いないですけど……」
「こういうイベントは、タダ飯いただくために参加するもんなんだよ。交流なんて無理にしなくていいんだ」

 桂さんがシャケのおにぎりを頬張ったと同じタイミングで、ひと際大声で話す声が聞こえてきた。
「君一人じゃない? 寂しいでしょ?」
「ていうか、君、背高くてスタイルいいねぇ~」
 声の方を見ると、長机の近くで一人立っていた女の子に、たぶん先輩だと思われる男二人が声をかけていた。「未成年もいるのでお酒は用意してません」とアナウンスがあったが、自分たち用に買って持ってきて飲んだのだろう、手にはビールの缶。すでに酔って、動作がふらふらとしている。
「向こうで一緒に話そう?」
「向こう行ったらいっぱいお友達出来るよぉ~。な?」
 と言うと、男だらけで飲み食いしているグループが「うぇーい!」と野太い声を上げた。パッと見た感じ、地味でおとなしそうな身なりをしているのに、酒が入ると強気な態度をとってくるものなのか。
「やめてください……!」
 女の子は強い語気で言うが、目が潤んでいる。よく見ると、あの子は同じ一回生の佐野さんだ。出席番号が僕の一つ前の女の子だから、話したことはないが知っている。いつも見かけると、笑顔で文芸学科の女子たちと会話しているが、今日は一人なのだろうか。
 すると、佐野さんの手首を男の一人が掴んで、無理やり引っ張り始めた。精一杯抵抗するが力負けしている。
「ちょっとあれは放っておけませんね」
 と、僕が立ち上がると同時に桂さんも立ち上がった。眉間に皺が寄って、目から怒りがにじみ出ている。
「駿河、これ持って待ってて」
 僕にジュースと食べかけのおにぎりを渡すと、靴を履き、桂さんは佐野さんのもとへ歩きはじめた。
しおりを挟む

処理中です...