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その後のお話
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さよならした人たちのその後③ 後編:
リンハルトの父親といろいろなやりとりが終わった。それなりに時間がかかったが、これでほんとうに落ち着いたといっていいのだろうか。慰謝料もずいぶん膨れあがってしまったがちゃんと払えるのか心配でもある。わたしとしてはもう関わり合いになりたくないし、払えない額を要求してもリンハルトの家族、特に兄弟に悪い。けれど、ここの額に関しては周りが譲らなかったし、リンハルトの家も払いたいとのことで受け入れることにした。
わたしは今、ルド兄様、叔父様、叔母様とお茶を飲んでいる。久しぶりに落ち着いた時間だ。今日のお茶もおいしい。そうぼんやり思っていると叔母様が口を開いた。
「リンハルトはもう戻ってこられないようになったのでしょう?」
「あぁ、一生鉱山で働くことになるだろう。いろいろと監視の目もあるし、本人は戻ってこれると信じて真面目に働いているらしい。時間はかかるだろうが慰謝料も払えるのではないか。もし、こちらに戻ってこようとすることがあれば責任を持って対処するそうだ」
「それにしてもただの浮気男かと思ったらあんなに危ない人だったなんて……。リアーネが結婚しなくてほんとうによかったわ」
「昔は真面目な男だったんだがなぁ……」
「前から思っていたのですが……。リアの祖父上は立派な方でしたが人を見る目はいまいちだったようですね。リアの父親にリンハルト。侯爵家の跡取りにろくでもない人間と結婚させようとするなんて」
ルド兄様の言葉に叔父様も叔母様もなんともいえない顔をする。まぁ、わたしも同じようなことを思っていた。尊敬できる人だったのに、ここだけは失敗だったと思う。
「ま、まぁ、その、なんというか、父上は向上心が強い人間をあてがおうとしていてね。姉上もリアーネもしっかりしているからそれに負けない人がいいと。特にリアーネの父親はああいった人間だっただろう? よその女ではなく、家を大事にしてくれそうな人間を選んだんだよ。当時は良くできた男だったしね」
「はぁ。それで侯爵家を乗っ取ろうとエリザベスに乗り換えて、侯爵家が手に入らないとわかったらリアのところに戻ろうとするんですから、完全に人選ミスですよね」
ルド兄様にはいろいろと思うところがあるらしい。こんなにとげとげしいのは珍しい。
「ま、まぁ、結果的に二人が一緒になってくれて侯爵家の膿もだせて良かったじゃないか」
叔父様がこんな風に弱腰なのは叔母様を気にしてなのだろう。下手なことを言って昔の話になれば叔母様はお母様を思って怒り狂ってしまう。もちろん、叔父様だってお父様やリンハルトに対しての怒りはある。けれど、叔母様に火がついてしまえば手がつけられない。ルド兄様も一緒になってしまえばさらに面倒なことになる。きっと今日は別の話をしたいのだろう。叔母様を刺激しないように気を遣っているように感じた。
「それは感謝していますが、アンネローゼ様もリアもずいぶん辛い思いをしたではありませんか」
「それを言われると返す言葉もない……」
わたしは困っている叔父様に助け船をだすことにする。
「わたくしは叔父様たちがいてくれたので大丈夫ですよ。お母様だって離婚しないことを選んだのはお母様なのですから……。もうこのような話はいいではありませんか。せっかくなら楽しくなるお話をしませんか?」
わたしの言葉に叔母様の表情が変わる。待っていましたといわんばかりの表情だ。これはちょっと失敗したかもしれない。
「そうよね! 問題も片付いたのだし、今後のことを話すべきだわ! さぁ、あれを持ってきてちょうだい」
叔母様が言うと、大量の布とデザイン画が運ばれてきた。叔母様はものすごく張り切っている。
「今日はこの話をしたかったの。さぁ、一気に決めてしまいましょう」
「決めるのは構いませんが、叔父様もルド兄様もつまらないでしょう? 叔母様のご都合のいい別の日でも……」
「いいえ、そんなことないわ! ねぇ?」
叔母様は笑顔を叔父様とルド兄様に向ける。困った顔をするかと思いきやそんなことはなかった。なぜか二人とも楽しそうな表情だ。
「そんなことないよ。俺も一緒に似合うものを選びたい。まぁ、どれを着ても似合うだろうけどね。せっかくならレースや細部にもこだわりたいじゃないか」
「実の娘のように思っているリアーネのことだからね。かわいい娘にいろいろと綺麗な服を着せたかったんだ。こんな機会は一生に一度だろう?」
あぁ、これは長くなりそうだわ……。乗り気でないのはわたしだけみたい。
三人はすでにああでもない、こうでもないと盛り上がっている。けれど、三人が楽しそうでわたしも嬉しい。
「わたしはこの布で一枚ドレスを仕立てるのがいいと思うのだが……」
「いいですね。でもこちらもいいと思いませんか?」
「さぁ、リアーネ。あなたの意見もきかせてちょうだい」
小さなことでもわたしの意見をきいてくれる。わたしのことを考えてくれる。こうやって笑顔で穏やかな時間を過ごせる。家族ってこういうものなのかしら……。
お父様がわたしに話してくれることは基本的にすべて決まったことだった。エリザベス母娘がやってくること、再婚すること、エリザベスの次期当主の指名にわたしとリンハルトとの婚約解消。エリザベスたちがきてからは欲しいものだってきかれたことはない。
けれど、目の前にいる人たちは違う。お母様もお祖父様ももういないけれど、この人たちがいてくれてほんとうによかった。わたしは近くにいる人たちを大切にしていこうと改めて思うと思わず笑みがこぼれてしまう。
「どうかしたの?」
「いいえ、わたくしは幸せだと改めて思っただけです」
リンハルトの父親といろいろなやりとりが終わった。それなりに時間がかかったが、これでほんとうに落ち着いたといっていいのだろうか。慰謝料もずいぶん膨れあがってしまったがちゃんと払えるのか心配でもある。わたしとしてはもう関わり合いになりたくないし、払えない額を要求してもリンハルトの家族、特に兄弟に悪い。けれど、ここの額に関しては周りが譲らなかったし、リンハルトの家も払いたいとのことで受け入れることにした。
わたしは今、ルド兄様、叔父様、叔母様とお茶を飲んでいる。久しぶりに落ち着いた時間だ。今日のお茶もおいしい。そうぼんやり思っていると叔母様が口を開いた。
「リンハルトはもう戻ってこられないようになったのでしょう?」
「あぁ、一生鉱山で働くことになるだろう。いろいろと監視の目もあるし、本人は戻ってこれると信じて真面目に働いているらしい。時間はかかるだろうが慰謝料も払えるのではないか。もし、こちらに戻ってこようとすることがあれば責任を持って対処するそうだ」
「それにしてもただの浮気男かと思ったらあんなに危ない人だったなんて……。リアーネが結婚しなくてほんとうによかったわ」
「昔は真面目な男だったんだがなぁ……」
「前から思っていたのですが……。リアの祖父上は立派な方でしたが人を見る目はいまいちだったようですね。リアの父親にリンハルト。侯爵家の跡取りにろくでもない人間と結婚させようとするなんて」
ルド兄様の言葉に叔父様も叔母様もなんともいえない顔をする。まぁ、わたしも同じようなことを思っていた。尊敬できる人だったのに、ここだけは失敗だったと思う。
「ま、まぁ、その、なんというか、父上は向上心が強い人間をあてがおうとしていてね。姉上もリアーネもしっかりしているからそれに負けない人がいいと。特にリアーネの父親はああいった人間だっただろう? よその女ではなく、家を大事にしてくれそうな人間を選んだんだよ。当時は良くできた男だったしね」
「はぁ。それで侯爵家を乗っ取ろうとエリザベスに乗り換えて、侯爵家が手に入らないとわかったらリアのところに戻ろうとするんですから、完全に人選ミスですよね」
ルド兄様にはいろいろと思うところがあるらしい。こんなにとげとげしいのは珍しい。
「ま、まぁ、結果的に二人が一緒になってくれて侯爵家の膿もだせて良かったじゃないか」
叔父様がこんな風に弱腰なのは叔母様を気にしてなのだろう。下手なことを言って昔の話になれば叔母様はお母様を思って怒り狂ってしまう。もちろん、叔父様だってお父様やリンハルトに対しての怒りはある。けれど、叔母様に火がついてしまえば手がつけられない。ルド兄様も一緒になってしまえばさらに面倒なことになる。きっと今日は別の話をしたいのだろう。叔母様を刺激しないように気を遣っているように感じた。
「それは感謝していますが、アンネローゼ様もリアもずいぶん辛い思いをしたではありませんか」
「それを言われると返す言葉もない……」
わたしは困っている叔父様に助け船をだすことにする。
「わたくしは叔父様たちがいてくれたので大丈夫ですよ。お母様だって離婚しないことを選んだのはお母様なのですから……。もうこのような話はいいではありませんか。せっかくなら楽しくなるお話をしませんか?」
わたしの言葉に叔母様の表情が変わる。待っていましたといわんばかりの表情だ。これはちょっと失敗したかもしれない。
「そうよね! 問題も片付いたのだし、今後のことを話すべきだわ! さぁ、あれを持ってきてちょうだい」
叔母様が言うと、大量の布とデザイン画が運ばれてきた。叔母様はものすごく張り切っている。
「今日はこの話をしたかったの。さぁ、一気に決めてしまいましょう」
「決めるのは構いませんが、叔父様もルド兄様もつまらないでしょう? 叔母様のご都合のいい別の日でも……」
「いいえ、そんなことないわ! ねぇ?」
叔母様は笑顔を叔父様とルド兄様に向ける。困った顔をするかと思いきやそんなことはなかった。なぜか二人とも楽しそうな表情だ。
「そんなことないよ。俺も一緒に似合うものを選びたい。まぁ、どれを着ても似合うだろうけどね。せっかくならレースや細部にもこだわりたいじゃないか」
「実の娘のように思っているリアーネのことだからね。かわいい娘にいろいろと綺麗な服を着せたかったんだ。こんな機会は一生に一度だろう?」
あぁ、これは長くなりそうだわ……。乗り気でないのはわたしだけみたい。
三人はすでにああでもない、こうでもないと盛り上がっている。けれど、三人が楽しそうでわたしも嬉しい。
「わたしはこの布で一枚ドレスを仕立てるのがいいと思うのだが……」
「いいですね。でもこちらもいいと思いませんか?」
「さぁ、リアーネ。あなたの意見もきかせてちょうだい」
小さなことでもわたしの意見をきいてくれる。わたしのことを考えてくれる。こうやって笑顔で穏やかな時間を過ごせる。家族ってこういうものなのかしら……。
お父様がわたしに話してくれることは基本的にすべて決まったことだった。エリザベス母娘がやってくること、再婚すること、エリザベスの次期当主の指名にわたしとリンハルトとの婚約解消。エリザベスたちがきてからは欲しいものだってきかれたことはない。
けれど、目の前にいる人たちは違う。お母様もお祖父様ももういないけれど、この人たちがいてくれてほんとうによかった。わたしは近くにいる人たちを大切にしていこうと改めて思うと思わず笑みがこぼれてしまう。
「どうかしたの?」
「いいえ、わたくしは幸せだと改めて思っただけです」
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