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その後のお話

4.

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さよならした人たちのその後③ 前編:

 リンハルトがわたしに手紙を送ってきた。もちろん送り返した。手紙をもう送ってこないようリンハルトの家には強く抗議した。すると、今度は邸にやってきたらしい。もちろん、これも追い返した。
 しかも、リンハルトはわたしの婚約者だと言っていたらしい。怖い。ほんとうに怖い。もう接触してこないようにしっかりと管理して欲しいとさらに強く抗議した。これでおとなしくなってくれればいいけれど、難しいかもしれない。
 念のため、叔父様の家に避難しようかと思い相談したらルド兄様がしばらくこちらに滞在してくれることになった。叔父様たちもなるべく顔を出してくれるらしい。警備の人間も増やした。
 いっそのこと現行犯で捕まえて牢屋にでも入ってもらった方が良いのだろうか。

「ルド兄様、ご迷惑をおかけしてすみません」
「リアが悪いわけじゃないだろう。いずれこの家に住むのだから問題ないよ」
「ですが……」
「いや、いっそのこと捕まえてしまった方が良い。あれはもう何をするかわからない。リアを一人にするのは危険だ。それにこんな理由でもないとなかなか一緒にいられないだろう?」

 ルド兄様は気にしなくていいと言うけれど、来るかどうかもわからない人間のためにずっといてもらうのも悪い。

「そんな話は終わりにして読書でもしたらどうだい? 本の続きが気になっていると言っていたじゃないか。俺も論文整理でもするよ。飲み物は要る? もらってくるよ」
「でしたらわたくしが……」
「いいからゆっくりしてて」

 ルド兄様は有無を言わさずに部屋から出て行ってしまった。あまり甘やかされると駄目な人間になってしまいそうだわ……。そんなことを考えながらわたしは本を手に取り読み始めた。
 ドアの外で物音がした。ルド兄様、もう戻ってきたのかしら。そう思いドアの方をみると、わたしは思わず固まってしまう。ここにいるはずのない、リンハルトがいたのだ。

「リアーネ、会いに来たよ! 一人で不安だっただろう?」
「リ、リンハルト様?」

 どうして邸の中に? しかも笑顔で近づいてくる。怖い。わたしは大声で叫んだ。

「だ、誰か! 誰かきて!!」

 わたしが大声を出すとルド兄様はすぐに駆けつけてくれた。

「リアーネ、無事か?!」
「ルド兄様……」
「リンハルト、なぜここに?」
「婚約者に会いに来たんですよ」
「なにを言ってるんだ? エリザベスはもうここにはいないぞ」
「ルドニーク様は何を言ってるんですか。わたしが会いに来たのはリアーネです。ルドニーク様こそ、わたしの婚約者から離れてください。いくら兄のような存在だったとしてもこんな時間にどうしてリアーネの邸にいるのですか?」
「婚約者?」

 誰がリンハルトの婚約者ですって? 破棄したのはリンハルトのほうなのに。ちゃんと婚約解消の手続きは済んでいる。そもそもわたしとルド兄様のことは知らないのかしら。

「リアーネの婚約者はわたしだ。きみは元婚約者だろ。エリザベスと結婚するのではなかったのか」
「なにを言ってるんですか。リアーネはわたしを愛しているんですよ。リアーネには結婚相手が必要でしょう? リアーネが浮気をしていないとわかったので戻ってきてあげたんです。わたしが一時的にエリザベスの方に向いていたからすねてるんでしょうね。素直になれないリアーネのためにサプライズで会いに来たんですよ」

 わたしがリンハルトを愛しているとか意味がわからない。戻ってきてほしいなんて思っていないし、すねてもいない。リンハルトの後ろでは取り押さえるタイミングを伺っているのが見えた。

「さぁ、リアーネ。おいで……」

 完全に狂っている。わたしが飛び込んでくると思っているリンハルトは腕を広げたまま動かない。そこを狙って警備の人間がリンハルトを取り押さえた。ひとまずこれで安心できる。


 リンハルトは本格的におかしくなっていてその後も話が通じなかった。会話にならないので手足を縛って部屋に閉じこめた。リンハルトの家に連絡をして今後のことを話し合わなければ……。

「リア、無事でよかった」
「すぐに来てくれてありがとうございました」
「やはりこの邸に滞在して正解だったね。リンハルトの家に連絡しよう」
「そうですね。それにしてもどうやってこの邸に……。こんなに行動力のある人だとは知りませんでした。しかも、この邸に侵入するなんて間諜の技能を持っていたのでしょうか。身体能力も高かったようで驚きです」
「リア……。大丈夫だから、安心して」

 思いのほか怖かったらしい。気がつけば手は震えていて、ルド兄様はその手を握ってくれていた。わたしは冷静になろうとしていたが、ルド兄様には見破られていたようだ。本音をいうとものすごく怖かった。話は通じないし、表情もどこかおかしい。あんなリンハルトを見たのは初めてだ。
 ルド兄様にいてもらってほんとうによかった……。

「後のことは俺たちに任せてもう休むといい。一人で眠れないと言うなら眠るまでそばにいるよ?」
「大丈夫です!」

 いくら怖くてもそんな恥ずかしいことはお願いできない。わたしは必死で拒否した。

「でも何かあったら呼んで。隣の部屋にいるから」


 
 そして、次の日。リンハルトの父親は青ざめた顔でやってきた。

「このたびは誠に申し訳ありませんでした。どうやってお詫びをすればいいのか……。手紙は出せないようにしていましたし、部屋から出ないように監視もつけていました。慰謝料を支払わせるために家に置いておいたのが間違いだったようです。わたしにできるだけのお詫びはいたします。条件を仰ってください」

 リンハルトの父親は必死に謝っている。

「牢屋に入れてもそのうち出てきてしまいすよね? わたくし、出てきた後が怖いのですけれど……」

 一時的に牢屋に入れるのは簡単だが、一生となると難しい。屋敷に不法侵入しただけで何かを壊したり、傷つけたわけではない。すぐに出てきてしまうだろう。

「リンハルトと話をしておかしいと思うことはありませんでしたか? あれは完全に狂っていると思うのですが」
「……はい。どこかうわのそらだったり、会話がかみ合わなかったりすることはありました。ですが、邸を抜け出して侯爵家に不法侵入するとは……。そんなに行動力のある人間ではありませんでしたし、勉強しか取り柄のない人間だと思っておりました」
「えぇ、ほんとうに。まさか、警備をすり抜けて侵入してくるとは思いませんでした……」
「こちらとしてはもう二度と接触できないようにしていただきたいですが、逆恨みされるのも困ります。リアーネと結婚すると思い込んでいるのですから」
「でしたら、遠く離れた土地に追いやり、もう二度とこちらには近づけさせません。あれは親戚の所有する鉱山で一生働かせて外にはだしませんので、どうかそれでお許しいただけないでしょうか。リアーネ様の言うとおり牢屋から出てきてしまえば何をするかわかりません。適当に理由を与えて遠くに隔離するのが一番平和だと思います」
「それは可能なのですか?」
「えぇ、あれには暗示をかけさせます。もし暗示が解け、鉱山からでようとすることがあればこちらで責任を持って対処します」

 わたしたちは今後についての細かい取り決めを行うことになった。叔父様たちにも話は通しておいたほうがいいだろう。この場で決められることは決めて、詳細は後日となった。
 早くリンハルトを連れて帰って欲しい。
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