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本編
6.
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ここまでは順調に事が運んでいる。次はエリザベスとリンハルトの浮気の現場を押さえたい。しっかりここでリンハルトの有責で婚約破棄とはっきりさせておかないとエリザベスを捨てて戻ってくることやわたしが悪者にされて慰謝料を請求される可能性もある。リンハルトの家との力関係を考えれば変なことはできないだろうけれど。
ルドルフが言うにはエリザベスは近々我が家の別邸に行くらしい。そこでリンハルトと会うのでその場を押さえればいいとのことだ。我が家の別邸を浮気の現場に使わないでほしい。あの邸はわたしや叔父様たちにとってもたくさんの思い出のある大切な場所なのに。
二人が別邸ですごすための動きがあったらルドルフが連絡をくれることになっている。だいたいの予定はすでに把握しているためわたしの移動には時間がかかるので余裕を持って出発した。
二人が部屋に入った連絡を受けてわたしたちは別邸に踏み込んだ。
「リ、リアーネ様、どうしてこちらに?」
この邸に勤めている使用人が驚いた様子で声をかけてくる。明らかに動揺している。
「あら、連絡がきていなかった? どこかで追い抜いてしまったのかしら。それとも連絡無しでは来てはいけなかった?」
「い、いえ、とんでもございません。ただ……その、お迎えする準備ができておらず……」
「特に準備は必要ないわ。食事も済ませてきているし。叔父様たちとお母様のお話をしていて別邸に来るのを思い立ったの。急にきてごめんなさいね」
「とんでもございません。ですが、ほんとうに準備が……。本日は近くで宿を取られるというのは……」
「連絡がなかったからといって別に宿を取らなければいけないほどこの邸の人間は無能ではないでしょう? 基本的にいつ来ても大丈夫なように働いているでしょうに……。誰かきているのかしら? もしかしてお姉様? お姉様と顔を合わせないように気を遣ってくれたのね」
わたしは知らないフリをして使用人に尋ねる。
「……はい。エリザベス様がいらっしゃっております」
「まぁ、それでは挨拶をしなければ」
「そ、それは……」
「何か問題があるのかしら?」
「もうお休みになられているので明日になさってはいかがでしょうか? 皆様のお部屋はすぐに整えますので」
夕食を終えていてもおかしくない時間ではあるが、寝るにはまだ早い時間だ。
「もうお休みに? 体調でも優れないのかしら。それならなおさらお見舞いを……。ちょうど果物とハーブティーを買ってきたところなの。叔父様と叔母様をゲストルームにご案内してくれるかしら。わたくしはお姉様にご挨拶してくるわ」
「叔父様、叔母様。わたしくしは先にお姉様のところに行ってきます。こちらで少々お待ちいただけますか? 部屋はすぐに準備できると思いますので」
「気にせず行ってきなさい。わたしたちは待っているから。あとで姉上の書斎に行こう」
「はい。では少々お待ちください」
わたしはエリザベスの部屋に向かう。「リアーネ様、お待ちください」と引き止める声がするが無視をして進んだ。
部屋の前に到着したわたしは控えめにノックする。
「お姉様、起きていらっしゃいますか? お加減がよくないとお聞きしたのですが……。果物とハーブティーを買ってきているのですがいかがですか?」
ガタガタッと物音がする。
「えぇ、体調がよくないの。そっとしておいてもらえる?」
「でも何か物音が……」
「な、なんでもないわ。大丈夫よ!」
「もしかしてどこかお怪我を? 大変だわ。人を呼ばなければ……。開けますね」
「だ、大丈夫だから……」
さらに物音がする。わたしはエリザベスの声を無視してドアをあけた。薄暗い部屋の中にはエリザベスとリンハルトがいる。わたしは大きく息を吸って声をあげた。
「だ、だれか! お姉様の部屋に不審者が!! お姉様を助けて」
「ふ、不審者なんていないわ」
エリザベスは否定するが、人は集まってくる。もちろん叔父様と叔母様はすぐに来てくれた。ある程度人が集まってきたところでわたしは部屋の明かりをつける。服をはだけさせたエリザベスとリンハルトの姿が明らかになる。
「お姉様、これはいったい? リンハルト様、何をなさっているのですか?」
「リアーネこそ、どうしてここにいるの?」
「叔父様たちとお母様のお話をしていたら懐かしくなったので別邸に行こうという話になったのです。叔父様にとってこの邸は昔過ごした場所ですし、叔母様もよくここに遊びに来ていた思い出の場所ですから……。それよりもこの状況を説明していただけないでしょうか。どうしてお二人が裸で抱き合っていたのですか?」
「あなたとリンハルト様はすでに婚約解消になってリンハルト様の今の婚約者はわたしでしょ? 別に一緒にいても問題ないと思うけど?」
開き直った……。確かに言い逃れできない状況だけど。
「お姉様と婚約状態だったとしても婚前にこのような状況は望ましくないと思いますけれど……。それにわたくしとリンハルト様はまだ婚約破棄が成立していませんよ。婚約者がいるにもかかわらずその姉と関係を持つなんて……」
「リアーネはリンハルト様のお父様に婚約解消のお手紙を出したと言っていたじゃない」
「出したのですが残念ながら考え直して欲しい、との返事が来ましてまだ手続きが済んでいないのです。リンハルト様からもお話いただけたと思っていたのですが……」
「そ、そんな……。あなた、婚約解消したくないからって適当なことを言っているんじゃないの?」
「お姉様は婚約と婚約解消についての手順をご存じないのですか?」
「リアーネと婚約を破棄するのならばわたくしたちにも説明があってしかるべきでは? リアーネとの婚約は我が家も関係しているのをお忘れ? 婚約破棄ならば慰謝料も必要でしょう」
「残念ながらリアーネの言っていることは本当だよ。わたしのところにもリアーネを説得するよう手紙がきたからね。話をするにしてもまずは二人とも服を整えたらどうかね。あまりにも見苦しい……」
「下でお待ちしています。お逃げにならないでくださいね。今後についてのお話し合いをいたしましょう」
ルドルフが言うにはエリザベスは近々我が家の別邸に行くらしい。そこでリンハルトと会うのでその場を押さえればいいとのことだ。我が家の別邸を浮気の現場に使わないでほしい。あの邸はわたしや叔父様たちにとってもたくさんの思い出のある大切な場所なのに。
二人が別邸ですごすための動きがあったらルドルフが連絡をくれることになっている。だいたいの予定はすでに把握しているためわたしの移動には時間がかかるので余裕を持って出発した。
二人が部屋に入った連絡を受けてわたしたちは別邸に踏み込んだ。
「リ、リアーネ様、どうしてこちらに?」
この邸に勤めている使用人が驚いた様子で声をかけてくる。明らかに動揺している。
「あら、連絡がきていなかった? どこかで追い抜いてしまったのかしら。それとも連絡無しでは来てはいけなかった?」
「い、いえ、とんでもございません。ただ……その、お迎えする準備ができておらず……」
「特に準備は必要ないわ。食事も済ませてきているし。叔父様たちとお母様のお話をしていて別邸に来るのを思い立ったの。急にきてごめんなさいね」
「とんでもございません。ですが、ほんとうに準備が……。本日は近くで宿を取られるというのは……」
「連絡がなかったからといって別に宿を取らなければいけないほどこの邸の人間は無能ではないでしょう? 基本的にいつ来ても大丈夫なように働いているでしょうに……。誰かきているのかしら? もしかしてお姉様? お姉様と顔を合わせないように気を遣ってくれたのね」
わたしは知らないフリをして使用人に尋ねる。
「……はい。エリザベス様がいらっしゃっております」
「まぁ、それでは挨拶をしなければ」
「そ、それは……」
「何か問題があるのかしら?」
「もうお休みになられているので明日になさってはいかがでしょうか? 皆様のお部屋はすぐに整えますので」
夕食を終えていてもおかしくない時間ではあるが、寝るにはまだ早い時間だ。
「もうお休みに? 体調でも優れないのかしら。それならなおさらお見舞いを……。ちょうど果物とハーブティーを買ってきたところなの。叔父様と叔母様をゲストルームにご案内してくれるかしら。わたくしはお姉様にご挨拶してくるわ」
「叔父様、叔母様。わたしくしは先にお姉様のところに行ってきます。こちらで少々お待ちいただけますか? 部屋はすぐに準備できると思いますので」
「気にせず行ってきなさい。わたしたちは待っているから。あとで姉上の書斎に行こう」
「はい。では少々お待ちください」
わたしはエリザベスの部屋に向かう。「リアーネ様、お待ちください」と引き止める声がするが無視をして進んだ。
部屋の前に到着したわたしは控えめにノックする。
「お姉様、起きていらっしゃいますか? お加減がよくないとお聞きしたのですが……。果物とハーブティーを買ってきているのですがいかがですか?」
ガタガタッと物音がする。
「えぇ、体調がよくないの。そっとしておいてもらえる?」
「でも何か物音が……」
「な、なんでもないわ。大丈夫よ!」
「もしかしてどこかお怪我を? 大変だわ。人を呼ばなければ……。開けますね」
「だ、大丈夫だから……」
さらに物音がする。わたしはエリザベスの声を無視してドアをあけた。薄暗い部屋の中にはエリザベスとリンハルトがいる。わたしは大きく息を吸って声をあげた。
「だ、だれか! お姉様の部屋に不審者が!! お姉様を助けて」
「ふ、不審者なんていないわ」
エリザベスは否定するが、人は集まってくる。もちろん叔父様と叔母様はすぐに来てくれた。ある程度人が集まってきたところでわたしは部屋の明かりをつける。服をはだけさせたエリザベスとリンハルトの姿が明らかになる。
「お姉様、これはいったい? リンハルト様、何をなさっているのですか?」
「リアーネこそ、どうしてここにいるの?」
「叔父様たちとお母様のお話をしていたら懐かしくなったので別邸に行こうという話になったのです。叔父様にとってこの邸は昔過ごした場所ですし、叔母様もよくここに遊びに来ていた思い出の場所ですから……。それよりもこの状況を説明していただけないでしょうか。どうしてお二人が裸で抱き合っていたのですか?」
「あなたとリンハルト様はすでに婚約解消になってリンハルト様の今の婚約者はわたしでしょ? 別に一緒にいても問題ないと思うけど?」
開き直った……。確かに言い逃れできない状況だけど。
「お姉様と婚約状態だったとしても婚前にこのような状況は望ましくないと思いますけれど……。それにわたくしとリンハルト様はまだ婚約破棄が成立していませんよ。婚約者がいるにもかかわらずその姉と関係を持つなんて……」
「リアーネはリンハルト様のお父様に婚約解消のお手紙を出したと言っていたじゃない」
「出したのですが残念ながら考え直して欲しい、との返事が来ましてまだ手続きが済んでいないのです。リンハルト様からもお話いただけたと思っていたのですが……」
「そ、そんな……。あなた、婚約解消したくないからって適当なことを言っているんじゃないの?」
「お姉様は婚約と婚約解消についての手順をご存じないのですか?」
「リアーネと婚約を破棄するのならばわたくしたちにも説明があってしかるべきでは? リアーネとの婚約は我が家も関係しているのをお忘れ? 婚約破棄ならば慰謝料も必要でしょう」
「残念ながらリアーネの言っていることは本当だよ。わたしのところにもリアーネを説得するよう手紙がきたからね。話をするにしてもまずは二人とも服を整えたらどうかね。あまりにも見苦しい……」
「下でお待ちしています。お逃げにならないでくださいね。今後についてのお話し合いをいたしましょう」
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