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本編

3.

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 久しぶりに叔父様の邸にやってきた。いつも以上に熱烈に歓迎される。
 叔父様はお母様と三歳違いの弟で姉弟仲はとてもよかった。その妻である叔母様はお母様の幼なじみであり親友だったため、二人は昔からわたしによくしてくれている。
 叔父様と叔母様は両思いだったものの年齢差などを気にして尻込みしていたところを後押ししたのはお母様だ。叔母様の実家も含めて家族ぐるみのつきあいである。ちなみに二人ともお父様との昔からの知り合いではあるが、関係はよくない。

「よくきてくれたわ。大変だったわね。本当にあの男はいったい何を考えているのかしら!」

 わたしを抱きしめて歓迎してくれた叔母様はとてもご立腹だ。

「その気持ちには同意するが話はお茶でも飲みながらにしよう。リアーネは疲れているだろうから休ませてあげないと。リアーネ、ここではゆっくりしていきなさい」
「それもそうね。ごめんなさい。気分は大丈夫? 大丈夫ならお茶にしましょう」
 
 わたしはお茶を飲みながらこれまでのことを叔父様と叔母様に話をした。

「当主はリアーネだ。リアーネが当主にならないのなら次は私や子どもたちだ。いったいどうしたら自分が当主などと勘違いができるのだ。あれは父上とは養子縁組していないし、姉上の夫だったというだけだ。しかもすでに再婚している」
「当主代理であっても侯爵家の当主として扱っていただけるからでは? お祖父様が亡くなってからはさらに勘違いするようになったと思います」
「本当にずうずうしいわ。ロゼと婚約中に浮気して子どもまで作って、あの子が亡くなったらすぐに愛人と再婚でしょう。再婚するならあの家を出て行くべきだわ。リアーネはうちの子かお義父さまの子になればいいのだから。やっぱりあの時無理にでも引き取ればよかったのよ!」

 ロゼというのはわたしのお母様であるアンネローゼのことだ。叔母様には子どもがいるが、わたしのことを実の子どものようにかわいがってくれる。娘がいないのもあるかもしれない。昔からお母様と一緒になってわたしを着飾ったりして楽しんでいた。

「父親がいる以上、養子にしないで引き取るのは難しかったではないか。当時は父上もいたしあの男も変なことをしないだろうと思っていた。リアーネを養子にしてしまえば継承権がややこしくなるだろうし、傷ついているリアーネの環境をなるべく変えないよう、スムーズに代替わりするためにとそうしたわけだが……。まさかあんなにすぐ愛人とその娘を呼び寄せるとは思わなかったよ」
「えぇ、本当に。全て決まってから強引に呼び寄せたのよ。あれからお義父さまも体調を崩されてしまったし……。ほんとうに今でも腹立たしいわ。それにロゼに申し訳なくて……」
「あぁ、家に入れてしまったあとにリアーネを引き取れば家を乗っ取られかねなかったからな」

 過去のことはしかたがない。わたしの気持ちを二人に伝える。

「わたくしはお父様を当主代理から降ろしたいと考えています。これ以上好き勝手にさせるわけにはいきませんし……。ただ、降ろすの自体は難しくないと思っていますがその後のことが心配です。確認ですけど、わたくしはすでにあの家の当主で間違いないですよね? お父様があたりまえの顔で次期当主を指名なさるので……」
「ああ、リアーネが全て相続したし、当主だよ。あの男はあくまで当主代理だ。それを証明する書類もある。あれに次期当主を指名する権限はない。あの男が余計なことができないように父上からいろいろと託されているよ」
「それなら安心です。勝手に手続きをされて当主が替わっていたりしたら大変ですもの。わたくしは未婚ですし、婚約者もいなくなってしまいました。叔父様に後見人になっていただければと思いまして……」
「それなのだけれど、良い方法があるの」

 さっきまで怒っていた叔母様はにこやかだ。

「わたくしの甥のルドニークと結婚するのはどうかしら? ちょうど帰ってきているのよ」

 叔母様があげた名前にわたしは驚いた。ルドニークは叔母様のお兄様である侯爵家の跡取り息子だ。わたしとは五つ歳が離れているが仲が良い。叔母様のお兄様もお母様の幼なじみであるため幼い頃から交流がある。当主になる者同士として今でも頻繁に交流しており、博識で教わることも多い。尊敬できる人だ。

「ルド兄様ですか? ルド兄様は次期当主ではありませんか。そんな方と結婚できません……」
「あら、わたくしのお兄様も賛成なのだけれど……」
「ルド兄様のお気持ちもありますし、わたくしの希望はこの家を存続させることです」
「興奮する気持ちはわかるが、リアーネが誤解しているよ。リアーネ、ルドニークに婿にきてもらうのはどうだい? 二人は昔から仲が良くて今でも手紙のやりとりは続いているのだろう」
「えぇ。ルド兄様はいろんな土地のことを教えてくださいますし、わたくしの相談にのっていただくこともあります。ですが、婿にきていただくわけには……」
「お兄様はまだ代替わりするつもりはないし、ルドニークの下にはあなたも知っての通り弟がいるわ。それにあれ以来、全く結婚する気がないのよ」

 ルド兄様は三年前に結婚する予定だったが、婚約破棄になっている。婚約者の金遣いの荒さと浮気が発覚したからだ。元婚約者は結婚直前に浮気相手の子どもを妊娠してしまい、浮気相手と結婚した。もう少し発覚が遅れれば、そのまま浮気相手の子どもを身ごもったまま結婚するところだった。
 わたしの周囲ってこういった人が多いのかしら……。世の中がこんな人たちだらけだとは思いたくない。ルド兄様は結婚が取りやめになってすぐに留学にいった。

「もともとそんなに結婚に乗り気じゃなかったのだけれど、破談になってから逃げるように留学よ?」
「ルド兄様は元々留学したいと言っていましたし……」
「破談になった後もいろいろと新しい婚約者を薦めたのよ。でもまったくつれなくて……。でもね、ルドニーク、あなたに関しては好感触だったの!」
「もう打診したのですか? それに好感触というより単純に身近な知り合いの話だったからでは……」
「そんなことないわ。昔からお似合いだったもの。二人とも跡取りだから結婚は難しかったけれど、弟のほうもあとを継いでもいいっていっているの。それにちょうど帰ってきていたのも運命よ!」

 叔母様はかなり熱くなっている。これは止まらない。わたしはしばらく黙って話を聞くことにした。

「いいかげんに止まりなさい。リアーネが困っている」
「あら、ごめんなさい。でもね、良い話だと思うの。二人のことは小さな頃から知っているし、お互いに安心しておすすめできる人物よ。わたくしのお兄様もリアーネに幸せになってもらいたいと思っているの。わたくしたちは早くリアーネが実権をとるべきだと考えているわ。そのためにもあなたを支えられて信頼できる人と結婚するのが一番だと思うのよ」

 確かにありがたい話ではある。でも結婚相手として考えたことはない。きっとルド兄様も同じだと思う。

「良いお話だと思います。ですが、いきなりは考えられません。きっとルド兄様も同じだと思います。お互いに気持ちや条件をすり合わせてから話を進めた方が良いと思うので少し時間をください」
「急に言われて混乱する気持ちはわかる。だが、考えてみてほしい。たとえルドニークと結婚しなくてもリアーネにいい別の相手を探すし、援助だってする。一番はリアーネの幸せだよ」
「叔父様……。ありがとうございます」
「では今後についての具体的な話をしよう。リアーネも考えがあるのだろう?」

 わたしはこれからの計画を二人に相談する。エリザベスとリンハルトの浮気の現場を押さえること、お父様とエリザベスの母親の実家に行き、わたしの家のことに口出ししないように釘を刺しに行くことについての計画を説明した。

「内容はわかった。わたしたちもついていこう」
「ありがとうございます。心強いです」
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