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「おまえ、最低だよ」

 エリオットの言葉にヴィレムはエリオットの胸ぐらを掴んだ。いつも穏やかヴィレムが怒りをあらわにしている。リディアはヴィレムのこんな姿を見たことがなかった。
 幼なじみで妻であるエレインも驚いている。

「やめてよ、ヴィレム! エリオットに乱暴しないで」
「そんなに二人が思い合ってるなら二人が結婚すればよかっただろ。なんで、エレインはヴィレムをかばうんだよ」
「ヴィレムがエリオットにひどいことをするからでしょ!」
「ひどいことをしているのはどっちだよ」
「僕たちだって結婚したかったさ。でも、どうしても許してもらえなかった……。僕が結婚しなければ周囲はエレインに会うことを警戒するんだ。どうしろっていうんだよ」
「そんなに好きなら駆け落ちでもなんでもすればよかっただろ……」
「エレインにそんな生活はさせられない。でも、僕たちに子供が出来れば周囲は認めざるを得ないだろ。家は僕に代替わりした。僕たちは一緒になる努力をしていただけだ。リディアに子供ができないのが悪いんだ。まさか子供が産めないとは思わなかったよ。結果的には良かったけどな。ヴィレムにとっても良かっただろう」

 ヴィレムから力が抜け、エリオットを離した。すぐにエレインがエリオットに寄り添う。

「本当におまえたちは最低だよ……」

 三人のやりとりにリディアは何も言うことができなかった。当事者のはずなのに完全に部外者である。ショックを受けているはずなのになぜだか涙が出なかった。
(役立たずのわたしが愛されるわけがないものね。良い夢を見させてもらったんだわ)

 リディアはこれほどまでに思い合う二人の間に入るなんて最初から無理だったと痛感した。


 ***

 エリオットとエレインを部屋に残したまま、ヴィレムとリディアは部屋を移動した。ヴィレムはエリオットたちの話を聞けば聞くほど二人を軽蔑する気持ちが深まった。同じ空間にいるのも気分が悪い。
 部屋に残された二人は寄り添い合っていた。まるで自分たちが悲劇のヒーローとヒロインで被害者であるかのように。
 そんな二人とは一生わかり合えないとヴィレムは思い、リディアはまるで劇でも見ているような気分になった。


 二人がようやく落ち着くと、ヴィレムは申し訳なさそうにリディアに謝った。

「ごめん。リディアに聞かせるべきじゃなかった。二人があそこまで最低だとは思わなかった」
「いえ、エリオット様の本音が聞けて良かったです。ここまではっきりわかると、前を向きやすいかもしれません。これまでの幸せな生活が全て嘘だと思うとつらいですが、それでもあの家から救ってもらったのは間違いないですし。子供が産めなかったわたしが悪いんです」
「リディア……」
「そんなことはありえないと思いますが、エリオット様が望まなくても離婚しようと思います。おかげで決心がつきました」
「それが良い。僕も力になるから」
「ありがとうございます。でも、ヴィレム様はわたしなんかより余程つらいと思います。無理はなさらないでください」
「いや、徹底的にやるよ。これは僕のためでもあるから」

 ヴィレムは自分の怒りをぶつけるのに丁度良いと言う。リディアは三人の仲が壊れていくのを悲しく思ったが何も言えなかった。
(仕方がないのよね……。三人の友情が壊れることを思えばわたしのことなんてたいしたことはない。たいしたことはないはずよ)
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