わたしの旦那様は幼なじみと結婚したいそうです。

和泉 凪紗

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 二人はすぐにエリオットたちの関係を暴くことに決めた。
 少し落ち着いて余裕ができたところで、ヴィレムはリディアの今後が気になった。自分はそのまま屋敷に帰れば良い。しかし、リディアはどうするつもりなのか。

「リディアはこれからどうするんだい?」
「そうですね。エレイン様がいつ来られるのかわからないので、とりあえずすぐに家をでるつもりです。どこかの街で仕事を探そうと思います。どこかで会計や経理の仕事を得られれば良いんですけど、コネもないですし、後ろ盾のない女の身では難しいかもしれません。家のことは一通りできますから下働きでも探します。選ばなければきっと仕事は見つかります」

 力無い笑みを浮かべながらリディアは言う。ヴィレムはそんなリディアをもどかしく思った。婚姻期間はまだ二年と経っていないとはいえ、リディアは伯爵夫人として家を切り盛りしてきた。そんな彼女が下働きの仕事を探すと言う。

「リディアはそれで良いのかい? 家に戻るのも……」

 リディアは悲しげな笑みを浮かべて首を横に振った。

「いいえ。わたしに帰る家はありません。エリオット様にしていただいた資金援助もいずれ返さなくてはいけないでしょうから、すぐに働くつもりです。あの家に返す力はありません。少しでも待っていただけるとありがたいのですが……」
(正直、わたしに返せる額ではない。でも、何をしてでも、どれだけ時間がかかっても返さないと……)

 リディアの言葉を聞いた瞬間、ヴィレムはなんて無神経なことを言ってしまったと後悔した。リディアの家の噂は耳にしたことがあるし、エリオットからも少し聞いたことがある。そもそも、リディアの家が受けた資金援助を彼女が返す必要な無いはずだ。

「だったら、僕がどこか仕事を紹介するよ」

 申し訳なさからヴィレムは仕事を紹介すると提案した。ヴィレムならば仕事を紹介することも難しくない。頼れる家のないリディアもきっと喜ぶはずだ。
 だが、ヴィレムの提案にもリディアは困った笑みを浮かべて拒否をする。

「ヴィレム様にご迷惑をおかけするわけにはいけません。わたしはエリオット様の妻であったからこそヴィレム様とエレイン様によくしていただいたのです。もう、よくしていただく理由がありません」

 リディアはつらい状況にも関わらず笑みを浮かべようとしている。エリオットやエレインを罵るような言葉も吐かない。

「さっきは僕とも友人と思っていると言っていたじゃないか。……それにしても、リディアはあの二人に恨み言を言わないんだな」
「エリオット様にはこれまでよくしていただきました。エリオット様はわたしを救ってくれたのです。感謝はしても恨むだなんて罰当たりなことはできません。エレイン様と思い合っていた中にわたしが割り込んでしまったんです」

 リディアは気丈に振る舞っているがその姿は痛々しい。必死に涙をこらえているようだった。

「振り向いてもらえるような努力が足りませんでした」
「君は本当にけなげなんだな……。僕にも努力が足りなかった。申し訳ない。せめて、リディアが少しでも有利な条件で離婚できるように力添えさせてくれ」

 そんなリディアの姿をみてヴィレムはより一層思いを強くした。彼女を放ってはおけない。自分たちのせいで不幸にしてはいけないと。
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