わたしの旦那様は幼なじみと結婚したいそうです。

和泉 凪紗

文字の大きさ
上 下
4 / 10

4.

しおりを挟む
 リディアとヴィレムは無言で部屋に戻ってきた。
 目の前で起きたことが信じられない。二人はエリオット達に声をかけることは出来なかった。していた行為も話していた内容も衝撃が大きすぎた。

 無言のまま時間が過ぎる。
(何も考えられない……。これからどうすればいいの?)
 リディアはなんとか気持ちを切り替えようとヴィレムに声をかけた。

「ヴィレム様。あのワイン、飲みましょう」

 リディアは少しでもヴィレムの気を紛らわせたかった。自分自身も大きなショックを受けたがヴィレムはリディアよりも大きなショックを受けたことはわかる。
 出来損ないの自分より他の魅力的な女性に目が行くのは仕方がない。けれど、ヴィレムにとってエレインもエリオットも仲の良い大事な幼なじみだ。先ほどまでエリオットはエレインを心配し、ヴィレムを気遣っていたのにそれも二人きりになるための演技だったのだ。
 リディアの目から見ても三人はとても仲が良い。そんな幼なじみも友人もいないリディアは羨ましく思っていたし、エリオットを通して自分にもそんな存在が出来たようで嬉しかった。
 三人で積み重ねてきた時間を思うと、リディアは上手く言葉を選ぶことが出来ずにお酒の力を借りることにした。

「……そうだね」

 ヴィレムは少し考え込んで同意した。ヴィレムもお酒の力に頼ることにしたようだ。
 リディアは空気を変えようと平常心を装ってグラスにワインを注いだ。このワインはエリオットがヴィレムの為に用意したものだ。エレインの機嫌が直れば四人で飲めば良いと取っておいたのだが、そんなことをする意味はなくなってしまった。

 良いワインなだけあってとても飲みやすい。お酒の強いヴィレムだけでなく、リディアもいつもより早いペースで飲んでしまう。
(飲まないとやっていられないというのはこういうことなのね)

 ワインを飲んでいるとリディアは妙な気分になってきた。
(夢だったらよかったのに……。それにしても、なんだか変な気分だわ。この部屋、こんなに暑かったかしら)

 リディアがヴィレムの方を見てみると様子がおかしい。ヴィレムも変な気分になっているようだ。目が潤んでいる。二人の間に妙な空気が流れる。
 ヴィレムがリディアに手を伸ばしてきた。ヴィレムの手がリディアの肩に触れる。

「ひぁっ」

 触れられた箇所から電気が流れたような強い刺激を受けて、リディアは思わず変な声を上げてしまった。

「ワインに何か変な物が入れられていたのかな」

 ヴィレムが苦しそうにつぶやく。
 どうやらワインに媚薬のような物が混ぜられていたらしい。体はどんどんほてってくる。ヴィレムも耐えているようだが苦しそうにしている。
 エリオットには裏切られている。楽になりたい。それでもリディアは夫を裏切ることはできない。
(苦しい……。楽になりたい。でも、わたしはまだエリオット様の妻よ。裏切ることはできないわ)


「ヴィレム様、わたしは部屋に戻ります。何か間違いがあってはいけませんから」
「……君はエリオットに裏切られてもエリオットに誠実であろうとするんだな」
「……わたしはまだエリオット様の妻ですから。ヴィレム様もエレイン様を思うならこのまま部屋にお戻りください。お互い頑張って耐えましょう。きっと二人は戻ってこないでしょうけど」
 
 そう言ってリディアは急いで自室に戻った。
 ヴィレムには虚勢を張ったものの自分自身が情けなく、そして悲しくなった。このワインを用意したのはエリオットだ。エリオットは堂々と同じ屋根の下でエレインと浮気し、リディアとヴィレムが浮気するように仕向けた。
 最初から全て計画されていたことらしい。あまりの出来事に今、自分の身に起きていることを信じることができない。
 それでも体の異変がこれは現実なのだと突きつけてくる。
 (明日、どんな顔をして二人に会えば良いの? エリオット様たちが思うようになれば良かった? やっぱりもう夫婦としてやっていくのは無理なのよね……)
 
 リディアは少しでも楽になればと思い、大量の水を飲みながら一晩耐えた。考えはまとまらず、とても長く感じる夜になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。

曽根原ツタ
恋愛
 ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。  ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。  その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。  ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?  

(完結)私が貴方から卒業する時

青空一夏
恋愛
私はペシオ公爵家のソレンヌ。ランディ・ヴァレリアン第2王子は私の婚約者だ。彼に幼い頃慰めてもらった思い出がある私はずっと恋をしていたわ。 だから、ランディ様に相応しくなれるよう努力してきたの。でもね、彼は・・・・・・ ※なんちゃって西洋風異世界。現代的な表現や機器、お料理などでてくる可能性あり。史実には全く基づいておりません。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。  この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。

私が死んで償う結末をお望みでしょう?

曽根原ツタ
恋愛
自分が聖女だと嘘を吐いた悪役令嬢に転生したウィンター。半年後、ヒロインのステラが神託によって聖女に選ばれるのは確定事項。そして、ウィンターは処刑される。 婚約者はすでにステラが本物の聖女だと確信しており、彼女にいつも付きっきりだ。 婚約者も、家族も、神殿の人達もみんな、嘘つきなウィンターが――死んで償う結末を望んでいる。 ウィンターは断罪前に、とある神が封印されている石像に祈ることにした。

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

私のことはお気になさらず

みおな
恋愛
 侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。  そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。  私のことはお気になさらず。

【完結】私よりも、病気(睡眠不足)になった幼馴染のことを大事にしている旦那が、嘘をついてまで居候させたいと言い出してきた件

よどら文鳥
恋愛
※あらすじにややネタバレ含みます 「ジューリア。そろそろ我が家にも執事が必要だと思うんだが」 旦那のダルムはそのように言っているが、本当の目的は執事を雇いたいわけではなかった。 彼の幼馴染のフェンフェンを家に招き入れたかっただけだったのだ。 しかし、ダルムのズル賢い喋りによって、『幼馴染は病気にかかってしまい助けてあげたい』という意味で捉えてしまう。 フェンフェンが家にやってきた時は確かに顔色が悪くてすぐにでも倒れそうな状態だった。 だが、彼女がこのような状況になってしまっていたのは理由があって……。 私は全てを知ったので、ダメな旦那とついに離婚をしたいと思うようになってしまった。 さて……誰に相談したら良いだろうか。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

処理中です...