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リディアとヴィレムは無言で部屋に戻ってきた。
目の前で起きたことが信じられない。二人はエリオット達に声をかけることは出来なかった。していた行為も話していた内容も衝撃が大きすぎた。
無言のまま時間が過ぎる。
(何も考えられない……。これからどうすればいいの?)
リディアはなんとか気持ちを切り替えようとヴィレムに声をかけた。
「ヴィレム様。あのワイン、飲みましょう」
リディアは少しでもヴィレムの気を紛らわせたかった。自分自身も大きなショックを受けたがヴィレムはリディアよりも大きなショックを受けたことはわかる。
出来損ないの自分より他の魅力的な女性に目が行くのは仕方がない。けれど、ヴィレムにとってエレインもエリオットも仲の良い大事な幼なじみだ。先ほどまでエリオットはエレインを心配し、ヴィレムを気遣っていたのにそれも二人きりになるための演技だったのだ。
リディアの目から見ても三人はとても仲が良い。そんな幼なじみも友人もいないリディアは羨ましく思っていたし、エリオットを通して自分にもそんな存在が出来たようで嬉しかった。
三人で積み重ねてきた時間を思うと、リディアは上手く言葉を選ぶことが出来ずにお酒の力を借りることにした。
「……そうだね」
ヴィレムは少し考え込んで同意した。ヴィレムもお酒の力に頼ることにしたようだ。
リディアは空気を変えようと平常心を装ってグラスにワインを注いだ。このワインはエリオットがヴィレムの為に用意したものだ。エレインの機嫌が直れば四人で飲めば良いと取っておいたのだが、そんなことをする意味はなくなってしまった。
良いワインなだけあってとても飲みやすい。お酒の強いヴィレムだけでなく、リディアもいつもより早いペースで飲んでしまう。
(飲まないとやっていられないというのはこういうことなのね)
ワインを飲んでいるとリディアは妙な気分になってきた。
(夢だったらよかったのに……。それにしても、なんだか変な気分だわ。この部屋、こんなに暑かったかしら)
リディアがヴィレムの方を見てみると様子がおかしい。ヴィレムも変な気分になっているようだ。目が潤んでいる。二人の間に妙な空気が流れる。
ヴィレムがリディアに手を伸ばしてきた。ヴィレムの手がリディアの肩に触れる。
「ひぁっ」
触れられた箇所から電気が流れたような強い刺激を受けて、リディアは思わず変な声を上げてしまった。
「ワインに何か変な物が入れられていたのかな」
ヴィレムが苦しそうにつぶやく。
どうやらワインに媚薬のような物が混ぜられていたらしい。体はどんどんほてってくる。ヴィレムも耐えているようだが苦しそうにしている。
エリオットには裏切られている。楽になりたい。それでもリディアは夫を裏切ることはできない。
(苦しい……。楽になりたい。でも、わたしはまだエリオット様の妻よ。裏切ることはできないわ)
「ヴィレム様、わたしは部屋に戻ります。何か間違いがあってはいけませんから」
「……君はエリオットに裏切られてもエリオットに誠実であろうとするんだな」
「……わたしはまだエリオット様の妻ですから。ヴィレム様もエレイン様を思うならこのまま部屋にお戻りください。お互い頑張って耐えましょう。きっと二人は戻ってこないでしょうけど」
そう言ってリディアは急いで自室に戻った。
ヴィレムには虚勢を張ったものの自分自身が情けなく、そして悲しくなった。このワインを用意したのはエリオットだ。エリオットは堂々と同じ屋根の下でエレインと浮気し、リディアとヴィレムが浮気するように仕向けた。
最初から全て計画されていたことらしい。あまりの出来事に今、自分の身に起きていることを信じることができない。
それでも体の異変がこれは現実なのだと突きつけてくる。
(明日、どんな顔をして二人に会えば良いの? エリオット様たちが思うようになれば良かった? やっぱりもう夫婦としてやっていくのは無理なのよね……)
リディアは少しでも楽になればと思い、大量の水を飲みながら一晩耐えた。考えはまとまらず、とても長く感じる夜になった。
目の前で起きたことが信じられない。二人はエリオット達に声をかけることは出来なかった。していた行為も話していた内容も衝撃が大きすぎた。
無言のまま時間が過ぎる。
(何も考えられない……。これからどうすればいいの?)
リディアはなんとか気持ちを切り替えようとヴィレムに声をかけた。
「ヴィレム様。あのワイン、飲みましょう」
リディアは少しでもヴィレムの気を紛らわせたかった。自分自身も大きなショックを受けたがヴィレムはリディアよりも大きなショックを受けたことはわかる。
出来損ないの自分より他の魅力的な女性に目が行くのは仕方がない。けれど、ヴィレムにとってエレインもエリオットも仲の良い大事な幼なじみだ。先ほどまでエリオットはエレインを心配し、ヴィレムを気遣っていたのにそれも二人きりになるための演技だったのだ。
リディアの目から見ても三人はとても仲が良い。そんな幼なじみも友人もいないリディアは羨ましく思っていたし、エリオットを通して自分にもそんな存在が出来たようで嬉しかった。
三人で積み重ねてきた時間を思うと、リディアは上手く言葉を選ぶことが出来ずにお酒の力を借りることにした。
「……そうだね」
ヴィレムは少し考え込んで同意した。ヴィレムもお酒の力に頼ることにしたようだ。
リディアは空気を変えようと平常心を装ってグラスにワインを注いだ。このワインはエリオットがヴィレムの為に用意したものだ。エレインの機嫌が直れば四人で飲めば良いと取っておいたのだが、そんなことをする意味はなくなってしまった。
良いワインなだけあってとても飲みやすい。お酒の強いヴィレムだけでなく、リディアもいつもより早いペースで飲んでしまう。
(飲まないとやっていられないというのはこういうことなのね)
ワインを飲んでいるとリディアは妙な気分になってきた。
(夢だったらよかったのに……。それにしても、なんだか変な気分だわ。この部屋、こんなに暑かったかしら)
リディアがヴィレムの方を見てみると様子がおかしい。ヴィレムも変な気分になっているようだ。目が潤んでいる。二人の間に妙な空気が流れる。
ヴィレムがリディアに手を伸ばしてきた。ヴィレムの手がリディアの肩に触れる。
「ひぁっ」
触れられた箇所から電気が流れたような強い刺激を受けて、リディアは思わず変な声を上げてしまった。
「ワインに何か変な物が入れられていたのかな」
ヴィレムが苦しそうにつぶやく。
どうやらワインに媚薬のような物が混ぜられていたらしい。体はどんどんほてってくる。ヴィレムも耐えているようだが苦しそうにしている。
エリオットには裏切られている。楽になりたい。それでもリディアは夫を裏切ることはできない。
(苦しい……。楽になりたい。でも、わたしはまだエリオット様の妻よ。裏切ることはできないわ)
「ヴィレム様、わたしは部屋に戻ります。何か間違いがあってはいけませんから」
「……君はエリオットに裏切られてもエリオットに誠実であろうとするんだな」
「……わたしはまだエリオット様の妻ですから。ヴィレム様もエレイン様を思うならこのまま部屋にお戻りください。お互い頑張って耐えましょう。きっと二人は戻ってこないでしょうけど」
そう言ってリディアは急いで自室に戻った。
ヴィレムには虚勢を張ったものの自分自身が情けなく、そして悲しくなった。このワインを用意したのはエリオットだ。エリオットは堂々と同じ屋根の下でエレインと浮気し、リディアとヴィレムが浮気するように仕向けた。
最初から全て計画されていたことらしい。あまりの出来事に今、自分の身に起きていることを信じることができない。
それでも体の異変がこれは現実なのだと突きつけてくる。
(明日、どんな顔をして二人に会えば良いの? エリオット様たちが思うようになれば良かった? やっぱりもう夫婦としてやっていくのは無理なのよね……)
リディアは少しでも楽になればと思い、大量の水を飲みながら一晩耐えた。考えはまとまらず、とても長く感じる夜になった。
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