追放された元令嬢ですが、錬金術師として充実した毎日です。静かに暮らしたいのですが、チート能力とやらのおかげで平和に暮らせません。

和泉 凪紗

文字の大きさ
上 下
45 / 46

45.第三王子の提案

しおりを挟む
 短い会話の後、ドアが開かれ入室を促される。わたしは思わずゴクリと唾を飲んだ。
 ――この中に第三王子殿下がいらっしゃるのね。何を言われるのかしら。
 わたしは意を決して部屋の中へ足を進めた。
 目の前で第三王子殿下がソファに腰掛けている。すぐに第三王子は室内にいる人間に席を外すように指示をだした。第三王子の後ろに控えていた人はグレン様に本当に良いのかといった視線を送り、グレン様は問題ないと返す。
 部屋には三人だけが残された。わたしはドアが閉められると第三王子に挨拶をする。

「第三王子殿下、お初にお目にかかります。錬金術師のエルザと申します。お会いできて光栄です。この度は色々とご配慮いただきありがとうございました」
「やぁ、エルザ嬢。よく来てくれたね。会えて嬉しいよ。僕の好意をちゃんとわかってくれていたようだね。本当に嬉しいな。さぁ、座って」

 わたしは目の前の銀色の髪にエメラルドのような綺麗な目を持つ美しい男の人。思わず見とれそうになってしまう。顔が綺麗なだけでなく、王族としての気品がある。そこにいるだけで周囲の空気も変えてしまいそうだ。
 ――うわぁ。本当に綺麗な人……。
 第三王子はとても上機嫌そうだ。言葉の選択も間違っていなかったようである。なんとなくだが、第三王子が自分の存在をアピールしたいように感じたのだ。

「ずっと君に会いたかったんだ。知っていると思うけど、僕はジルベール・エルデン。グレンは僕のことをジルって呼ぶよ」

 わたしは『ずっと会いたかった』という言葉に一瞬引っかかったが、それよりも意味のわからないことを言われて困惑してしまう。にっこりとわたしに笑顔を向けてくるが、わたしにはその意図がよくわからない。グレン様の呼び方は何か関係があるのだろうか。グレン様は呆れた顔をしている。
 ――ここでグレン様との仲良しアピール? まさか、自分を愛称で呼べってこと? そんなことあるわけないわよね。
 考えてもわからないので、今日の目的を訊くことにした。

「第三王子殿下、今日はどのようなお話でしょうか?」
「グレンはジルって呼ぶよ?」

 第三王子はなぜだかさらに圧をかけてくる。グレン様はため息を吐いた。

「殿下、お戯れはおやめください。エルザ嬢が困っています。エルザ嬢、殿下は名前を呼んでほしいそうだ」

 なんとまさかの要望だった。そんな要望きけるわけがない。わたしはグレン様とは違う。グレン様は第三王子の幼なじみで親友で側近。わたしはただの平民だ。そもそも、わたしは平和に暮らしたいのに、王族となんてお近づきになりたくない。

「……それは恐れ多いです」
「僕が許可してるんだよ?」
「いえ、本当に恐れ多いです」
「殿下、エルザ嬢を困らせないでください」
「グレンは名前で呼ばれているから良いじゃないか」
「それは、ウィンスレットがたくさんいてややこしいだけです。村の人も皆同じように呼びます」

 本当に仲が良いんだなと二人のやりとりをみていたが、話は進みそうにない。わたしとしてはなるべく早くこの場を終わらせたい。

「……あの、では、ジルベール殿下とお呼びするということで如何でしょうか?」

 これがわたしの最大限の譲歩だ。もちろん人前では極力呼ばないけれど、こういった場は仕方がないと諦めた。
 グレン様がこれで我慢しろといった顔をすると第三王子は渋々了承してくれた。

「仕方ないなぁ。まぁ、これからいくらでも機会はあるか。また、こうやって遊びに来てくれると嬉しいな」

 ――止めてください。もう二度と来たくないです……。

「それは難しいかと……」

 わたしは困った顔でやんわりと拒否すると第三王子は『どうして?』といった顔をする。

「わたしはただの平民です。ここに来られるような身分も教養もありません」
「それは大丈夫だよ。君の所作には問題ないし、教養は充分なんじゃないかな。教師も褒めていたしね。それに身分なんだけど、錬金術師として城に勤めない?」
「はい?」

 第三王子はさらにとんでもないことを言い出した。お城勤めなんて絶対に無理だ。グレン様もこの話は知らなかったようで驚いた顔をしている。

「エルザ嬢に近くで働いてもらえたら良いなって」
「無理です! 何度も言いますけど、わたしは平民です」

 ――身分を詐称しているのにお城勤めなんて無理! 身元調査されたらこの生活が終わってしまうじゃない。

「じゃあ、王都で店を開く? 確かに城勤めは窮屈だよね。できれば僕が独占したいし。安心して、パトロンになるよ。僕の専属になって欲しいしね」
「有り難いご提案なのですが、お断りします」
「どうして?」
「王族の専属なんて平民のわたしには恐れ多いです」
「平民と言うけれど、君の所作には何の問題もないよね。まるで貴族のご令嬢のようだよ」

 第三王子はにっこりと強めに圧をかけてくる。王族だけあってかなり強い圧だ。わたしは思わず視線をそらしそうになる。

「それは昔、貴族のお屋敷で母親と共にお世話になっていたからです」
「へぇ。では、それはどこのお屋敷? 使用人にも立派な教育をする家だなんて興味があるな」
「……お世話になっていた家のお話をするわけにはいけません」
「どうして言えないの?」
「どんなお話がお世話になった家に不利益をもたらすかわかりませんから」
「……まぁ、それもそうだね」

 第三王子は意味深な顔をする。何か知っているのだろうか。正直、もう逃げ出したい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

結婚しましたが、愛されていません

うみか
恋愛
愛する人との結婚は最悪な結末を迎えた。 彼は私を毎日のように侮辱し、挙句の果てには不倫をして離婚を叫ぶ。 為す術なく離婚に応じた私だが、その後国王に呼び出され……

「いなくても困らない」と言われたから、他国の皇帝妃になってやりました

ネコ
恋愛
「お前はいなくても困らない」。そう告げられた瞬間、私の心は凍りついた。王国一の高貴な婚約者を得たはずなのに、彼の裏切りはあまりにも身勝手だった。かくなる上は、誰もが恐れ多いと敬う帝国の皇帝のもとへ嫁ぐまで。失意の底で誓った決意が、私の運命を大きく変えていく。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

金喰い虫ですって!? 婚約破棄&追放された用済み聖女は、実は妖精の愛し子でした ~田舎に帰って妖精さんたちと幸せに暮らします~

アトハ
ファンタジー
「貴様はもう用済みだ。『聖女』などという迷信に踊らされて大損だった。どこへでも行くが良い」  突然の宣告で、国外追放。国のため、必死で毎日祈りを捧げたのに、その仕打ちはあんまりでではありませんか!  魔法技術が進んだ今、妖精への祈りという不確かな力を行使する聖女は国にとっての『金喰い虫』とのことですが。 「これから大災厄が来るのにね~」 「ばかな国だね~。自ら聖女様を手放そうなんて~」  妖精の声が聞こえる私は、知っています。  この国には、間もなく前代未聞の災厄が訪れるということを。  もう国のことなんて知りません。  追放したのはそっちです!  故郷に戻ってゆっくりさせてもらいますからね! ※ 他の小説サイト様にも投稿しています

《完結》国を追放された【聖女】は、隣国で天才【錬金術師】として暮らしていくようです

黄舞
恋愛
 精霊に愛された少女は聖女として崇められる。私の住む国で古くからある習わしだ。  驚いたことに私も聖女だと、村の皆の期待を背に王都マーベラに迎えられた。  それなのに……。 「この者が聖女なはずはない! 穢らわしい!」  私よりも何年も前から聖女として称えられているローザ様の一言で、私は国を追放されることになってしまった。 「もし良かったら同行してくれないか?」  隣国に向かう途中で命を救ったやり手の商人アベルに色々と助けてもらうことに。  その隣国では精霊の力を利用する技術を使う者は【錬金術師】と呼ばれていて……。  第五元素エーテルの精霊に愛された私は、生まれた国を追放されたけれど、隣国で天才錬金術師として暮らしていくようです!!  この物語は、国を追放された聖女と、助けたやり手商人との恋愛話です。  追放ものなので、最初の方で3話毎にざまぁ描写があります。  薬の効果を示すためにたまに人が怪我をしますがグロ描写はありません。  作者が化学好きなので、少し趣味が出ますがファンタジー風味を壊すことは無いように気を使っています。 他サイトでも投稿しています。

加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました

ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。 そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。 家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。 *短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。

処理中です...