追放された元令嬢ですが、錬金術師として充実した毎日です。静かに暮らしたいのですが、チート能力とやらのおかげで平和に暮らせません。

和泉 凪紗

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42.言い訳

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 わたしがいるこの部屋はとても陽当たりが良い。窓から入る陽の光がわたしの髪の色を照らし、キラキラと光る。せめて夜であったり、暗い部屋であれば良かったのにと思ってしまった。いや、結果は変わらないだろう。
 わたしは本来の姿を見られたことに内心とても焦ってしまうが、それを悟られるわけにはいかない。動揺を悟られないように……。大丈夫だ。わたしは平然とした顔をつくる。

「そうですよ。わたし以外にいるわけないじゃないですか」
「その色はどうしたんだ?」
「……貴族令嬢っぽく髪の色を変えた方が良いかと思いまして。わたしの髪、地味でしょう?」
「……なるほど」

 わたしは何事もなかったように言い訳をする。我ながら完璧な言い訳だ。言い訳をしながら急いで、ネックレスの留め具を留める。ネックレスを身につけて魔道具を作動させるとあっという間に髪も目も茶色になった。

「どうでしたか? 貴族令嬢と言えば金髪碧眼のイメージなんですけど、やっぱり似合わないですよね……」
「いや、そんなことはないが……」

 わたしはシュンとした顔を作るが、似合わないと言われても困る。金色の毛に碧色の目がわたしが持つ本来の色なのだから。このままなんとかして切り抜けよう。

「こういった色にちょっとだけ憧れてたんですよね。でも、せっかく用意してもらったドレスとの色味を考えるといつもの色にします。目立ちたいわけでもありませんし」
「……あ、あぁ」

 ――押し切れたかしら?
 グレン様の表情からは本当に納得してもらえたのかわからない。戸惑っていることだけはわかる。

「どうかしました?」
「いや、こうしていると、エルザ嬢じゃないような錯覚が……。見た目は変わらないはずなのに、立ち姿が違って見える」
「貴族令嬢に見えました?」
「あぁ」
「練習の成果、ありですね。服のせいかもしれませんけど」

 わたしはクスリと笑う。どうしてだかわからないが、グレン様は一瞬固まってしまった。

「……そうだな。この短期間ですっかり貴族令嬢の雰囲気だ。さすがだな」
「昔の体験を参考にしております」
「貴族の屋敷で働いていたんだったな。それでもすごいと思うぞ。所作は簡単には身につかないからな」
「幼いお嬢様の姉の役割を求められていたもので、振る舞いには色々と気を遣わなければいけなかったんです」

 わたしは昔の生活に思いを馳せる。自分はマリアンヌにとって良い姉だっただろうか。いや、こうして家を捨ててきたのだからひどい姉だ。あの子には色々なものを押しつけてきてしまった。
 わたしの様子をみたグレン様が気遣わしげな表情になる。

「何かつらいことでも?」
「……いえ、少し懐かしくなってしまっただけです」
「そうか……」

 少し空気が重たくなってしまった。
 ――いけないわ。変に思われてしまったかもしれない。
 わたしとしてもこの話はもう切り上げたい。わたしは気持ちを切り替え、明るい声をだす。

「それにしてもグレン様。返事を待たずにドアを開けるのはどうなのでしょうか? これでもわたしは女性ですよ」
「すまない。声が何か困っているように聞こえたんだ。もちろん、君が女性に見えないなんてことはない」

 わたしの動揺はドア越しにしっかり伝わっていたらしい。あのやりとりだけで察するなんて意外と敏感な人なのだろうか。

「しばらく来られないと聞いていたのにグレン様の声が急に聞こえて驚いただけですよ。しかも、貴族令嬢に憧れて髪の色まで変えてたんですから」
「すまなかった。こちらに来られなかったのは大量の仕事を振られていたんだ」
「謝罪を受け入れます。今度からは気をつけてくださいね。それにしても、連絡もなく突然いらっしゃるなんてどうしたんですか?」
「そういえば、エルザ嬢に伝えておかなければいけないことがあったんだ」
「なんでしょうか?」
「剣術大会なんだが、防犯上魔道具の持ち込みに制限がある」
「え?」

 少し考えればわかることだ。自分の迂闊さが嫌になる。

「身を守るためのお守りなどは認められるが、申告し、検査をした上で許可が必要だ」
「……それはそうですよね」
「持ち込む予定のものがあれば、この申請書に記入しておいてくれ」
「わかりました」

 わたしは内心、動揺しつつも笑顔で書類を受け取る。
 ――危なかったわ。この魔道具も申請しないといけないじゃない。どのみち、髪を染めたりコンタクトレンズは必要だったのね。
 わたしは準備しておいて良かったと心から思った。

 その後、わたしはグレン様から今回の設定について説明を聞いた。わたしはグレン様の母方の親戚になるらしい。王都に遊びに来たという設定だ。名前も偽名にするか考えたがややこしくなりそうなので、エルザのままにした。 
 一応、自由参加ではあるが、ちょっとしたお茶会もあるらしく、失礼のない程度には知識を頭に入れる必要がある。わたしは貴族の人間関係に疎いので、これを頭に入れるのが一番大変だろう。マナーに関しては講師に少しみてもらったが現状は問題なさそうだ。残りの日数で充分に間に合うらしい。
 何か問題があっても無知な田舎娘なのでとごまかそうと思う。

 久々にグレン様と一緒にお茶をしたが何故かいつもよりおいしく感じた。どうやら、わたしはよっぽど人との会話に飢えていたらしい。 
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