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40.王都へ
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わたしはグレン様が迎えに来るまでに急いで王都に行くための準備をした。といっても、ちょっとした掃除と錬金術での調合だ。荷造りは特に必要ないらしい。必要なものは全て向こうで用意してくれるそうだ。
今はアイテムの調合に勤しんでいる。しばらく不在にするため、村の人から急ぎの依頼を受けられる範囲で受けたからだ。グレン様が根回しをしてくれたのか、リラが話したのかわからないが、みんなに「楽しんでおいで」とか「無理して調合する必要はないよ」と言ってくれたので、そんなに大変な依頼はない。二言目には「グレン様のために頑張って」と言うあたり、本当に村に馴染んでいるらしい。
――まぁ、悪い人でないのは認めざるをえないわね。ちょっと強引ではあるけれど。
勝手に行くことが決まっているのは釈然としないけれど、色々な手配が済んでいるあたり、王族の側近らしい手際の良さだ。
わたしは錬金釜をかき混ぜる手を止める。
「よし、完成っと」
わたしの手には錬金術で調合した傷薬。これくらいであれば、少しくらい考え事をしていても調合には問題ない。テーブルの上には急ぎで作ったアイテムたちが並んでいる。わたしは作ったアイテムの整理を始めた。
錬金術で作ったアイテムを触っていると淋しい気持ちになってくる。
「はぁ……しばらく錬金術ができなかったり、採取ができないのはちょっとつらいわね。わたしも師匠みたいに持ち運べる錬金釜が作れるようになりたい……」
王都に行けば珍しい物が手に入るかもしれないと、わたしは憂鬱な気分を抑え込んでアイテムを納品しに行った。
納品が終われば、残りは荷造りだ。必要ないと言われているが、そうは言っても使い慣れたものを持って行きたい。細々したものを整理していると、あっという間もう寝るべき時間になっていた。
出発の朝、わたしはいつもと違う服に着替えていた。今日の服は裕福な家の娘が街に出るようなきれいめな服だ。少し化けるために化粧も軽くした。ドレスほどではないけれど若干窮屈ではある。
カランカランカラン。グレン様が来たのだろう。わたしはドアを開け、グレン様を出迎える。
わたしと目が合うとグレン様は固まってしまった。
「…………」
「おはようございます。どうかしましたか?」
「あ、あぁ。おはよう。エルザ嬢だよな?」
「当たり前のことを訊いてどうしたんですか? まだ、寝ぼけてます?」
「いや、ずいぶん雰囲気が違うから……。そういう格好もするんだな」
「グレン様の弾よけになるために王都に行くんですよ。いつもの格好ではいけませんよね? 一応、お嬢様っぽく見えるようにしてみたんですけど……。どこかおかしいでしょうか?」
わたしはスカートをつまみ、身体をひねって自分の姿を確かめる。
久しぶりにこういった格好をしたのだが、やはりどこかおかしかっただろうか。派手すぎるということはないし、地味すぎたかもしれない。
「い、いや! よく似合っている。普通に貴族令嬢のようだ。あまりにもこのアトリエと違和感があって驚いたんだ」
若干、失礼なような気もするけれど、貴族令嬢を見慣れているはずのグレン様がこう言うのだから、どうやら上手く化けられたらしい。
――なんだか、グレン様の様子がおかしいけれど、ちゃんと貴族令嬢に見えているのよね?
わたしたちは王都に向かった。
グレン様が用意してくれた馬車は魔道具だったので、その日のうちに王都に着くことができた。
これだけ早く着くことができたは食事のために店に入らなかったのもある。途中少し休憩はあったが基本的にずっと走りっぱなしだ。いくら乗り心地が良い馬車とはいえなかなか疲れる移動だった。
「思ったより早く着いたな。かなり無理をさせてしまった。申し訳ない」
「いえ。わたしの希望でもありましたから」
長時間、グレン様やそのお付きの方々と一緒にいるのが嫌だったわたしは最短コースを選んだのだ。わたしやグレン様は強行軍でも問題ないが他の人は違うはず。お付きの方々には申し訳ないことをした。もちろん表情からは何も読み取れなかったけれど。
この格好のせいなのか、今日のグレン様の態度は少しおかしい。いつも以上にすごく紳士的な態度を取ってくる。今もこうして馬車から降りるのに手を差し伸べてくれていた。女性に人気があるのもわかる気がする。
わたしもこの装いに合わせた立ち振る舞いを心がけてはいるけれど、むずがゆいというか気恥ずかしいというかなんとも変な気持ちだ。
わたしは馬車から降りて、滞在先だと言われた建物を見上げる。
――ちょっと待って。ここって王都で有名な高級ホテルじゃない! 確かに貴族令嬢であれば安宿には泊まらないけれど……。
案内されたのは立派なホテルだった。ワンフロアを全て貸し切っているらしい。滞在用の屋敷を用意しようか迷ったがホテルの方が気兼ねなく過ごせるだろうとの配慮らしい。けれど、こんな立派な部屋をワンフロア貸し切るのもかなりおかしいと思う。部屋の中は快適に過ごせるように整えられている。もちろん、専用のお世話係も充分すぎるほど用意されていた。
無理を言ってきてもらったからのはこれくらい当然らしい。だからといって剣術大会を見学するだけでこの待遇。何か別の思惑があるとしか思えない。
――来るの、失敗だったかしら……。
「今日はゆっくり休んでくれ。一緒に食事をしたかったが、私はこれから用がある。必要なものがあればなんでも言って欲しい」
「はい。ありがとうございます。グレン様もお仕事頑張ってくださいね」
わたしは用意された人たちへの挨拶と食事と入浴を簡単に済ませ、早々に就寝した。
今はアイテムの調合に勤しんでいる。しばらく不在にするため、村の人から急ぎの依頼を受けられる範囲で受けたからだ。グレン様が根回しをしてくれたのか、リラが話したのかわからないが、みんなに「楽しんでおいで」とか「無理して調合する必要はないよ」と言ってくれたので、そんなに大変な依頼はない。二言目には「グレン様のために頑張って」と言うあたり、本当に村に馴染んでいるらしい。
――まぁ、悪い人でないのは認めざるをえないわね。ちょっと強引ではあるけれど。
勝手に行くことが決まっているのは釈然としないけれど、色々な手配が済んでいるあたり、王族の側近らしい手際の良さだ。
わたしは錬金釜をかき混ぜる手を止める。
「よし、完成っと」
わたしの手には錬金術で調合した傷薬。これくらいであれば、少しくらい考え事をしていても調合には問題ない。テーブルの上には急ぎで作ったアイテムたちが並んでいる。わたしは作ったアイテムの整理を始めた。
錬金術で作ったアイテムを触っていると淋しい気持ちになってくる。
「はぁ……しばらく錬金術ができなかったり、採取ができないのはちょっとつらいわね。わたしも師匠みたいに持ち運べる錬金釜が作れるようになりたい……」
王都に行けば珍しい物が手に入るかもしれないと、わたしは憂鬱な気分を抑え込んでアイテムを納品しに行った。
納品が終われば、残りは荷造りだ。必要ないと言われているが、そうは言っても使い慣れたものを持って行きたい。細々したものを整理していると、あっという間もう寝るべき時間になっていた。
出発の朝、わたしはいつもと違う服に着替えていた。今日の服は裕福な家の娘が街に出るようなきれいめな服だ。少し化けるために化粧も軽くした。ドレスほどではないけれど若干窮屈ではある。
カランカランカラン。グレン様が来たのだろう。わたしはドアを開け、グレン様を出迎える。
わたしと目が合うとグレン様は固まってしまった。
「…………」
「おはようございます。どうかしましたか?」
「あ、あぁ。おはよう。エルザ嬢だよな?」
「当たり前のことを訊いてどうしたんですか? まだ、寝ぼけてます?」
「いや、ずいぶん雰囲気が違うから……。そういう格好もするんだな」
「グレン様の弾よけになるために王都に行くんですよ。いつもの格好ではいけませんよね? 一応、お嬢様っぽく見えるようにしてみたんですけど……。どこかおかしいでしょうか?」
わたしはスカートをつまみ、身体をひねって自分の姿を確かめる。
久しぶりにこういった格好をしたのだが、やはりどこかおかしかっただろうか。派手すぎるということはないし、地味すぎたかもしれない。
「い、いや! よく似合っている。普通に貴族令嬢のようだ。あまりにもこのアトリエと違和感があって驚いたんだ」
若干、失礼なような気もするけれど、貴族令嬢を見慣れているはずのグレン様がこう言うのだから、どうやら上手く化けられたらしい。
――なんだか、グレン様の様子がおかしいけれど、ちゃんと貴族令嬢に見えているのよね?
わたしたちは王都に向かった。
グレン様が用意してくれた馬車は魔道具だったので、その日のうちに王都に着くことができた。
これだけ早く着くことができたは食事のために店に入らなかったのもある。途中少し休憩はあったが基本的にずっと走りっぱなしだ。いくら乗り心地が良い馬車とはいえなかなか疲れる移動だった。
「思ったより早く着いたな。かなり無理をさせてしまった。申し訳ない」
「いえ。わたしの希望でもありましたから」
長時間、グレン様やそのお付きの方々と一緒にいるのが嫌だったわたしは最短コースを選んだのだ。わたしやグレン様は強行軍でも問題ないが他の人は違うはず。お付きの方々には申し訳ないことをした。もちろん表情からは何も読み取れなかったけれど。
この格好のせいなのか、今日のグレン様の態度は少しおかしい。いつも以上にすごく紳士的な態度を取ってくる。今もこうして馬車から降りるのに手を差し伸べてくれていた。女性に人気があるのもわかる気がする。
わたしもこの装いに合わせた立ち振る舞いを心がけてはいるけれど、むずがゆいというか気恥ずかしいというかなんとも変な気持ちだ。
わたしは馬車から降りて、滞在先だと言われた建物を見上げる。
――ちょっと待って。ここって王都で有名な高級ホテルじゃない! 確かに貴族令嬢であれば安宿には泊まらないけれど……。
案内されたのは立派なホテルだった。ワンフロアを全て貸し切っているらしい。滞在用の屋敷を用意しようか迷ったがホテルの方が気兼ねなく過ごせるだろうとの配慮らしい。けれど、こんな立派な部屋をワンフロア貸し切るのもかなりおかしいと思う。部屋の中は快適に過ごせるように整えられている。もちろん、専用のお世話係も充分すぎるほど用意されていた。
無理を言ってきてもらったからのはこれくらい当然らしい。だからといって剣術大会を見学するだけでこの待遇。何か別の思惑があるとしか思えない。
――来るの、失敗だったかしら……。
「今日はゆっくり休んでくれ。一緒に食事をしたかったが、私はこれから用がある。必要なものがあればなんでも言って欲しい」
「はい。ありがとうございます。グレン様もお仕事頑張ってくださいね」
わたしは用意された人たちへの挨拶と食事と入浴を簡単に済ませ、早々に就寝した。
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