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38.魔剣の納品と剣術大会へのお誘い

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 わたしは完成した魔剣をグレン様に納品する。しばらく使ってもらい、細かい調整をすることにした。

「グレン様、こちらがご依頼の品です」

 わたしたちの目の前にある剣はグレン様が元々持っていた剣とそっくりである。見た目には大きな特徴はない。グレン様は真剣な目つきで剣を見つめ、手に取った。

「これが……」
「人殺しの道具にはならないように安全性を重視しました。丈夫で軽いんですけど、切れ味は抑えめです」
「確かに軽いな」
「魔術的な攻撃は無効化しますが、反射したり吸収したりしません。対戦相手が危険なので」
「なるほど……」

 グレン様は剣を何度も握り直して感触を確かめている。

「どうでしょうか? 軽めに作ったので慣れるのに時間がかかるかもしれません」
「いや、良い感じだ。すぐに慣れると思う」
「しばらく使ってみて、なにかあれば仰ってください。調整しますので。切れ味なんかは本職の方にお任せした方が良いかもしれませんけど」
「わかったよ。剣術大会までかなり時間はあるから多少何かあっても問題ないだろう」

 グレン様には満足してもらえたようだ。剣術大会が終わって魔物退治に使うなら、改造しても良いかもしれない。

 
 ***

 少し月日は流れ、剣術大会の三週間前。グレン様はちょっと困った顔をしてわたしの目の前に現れた。嫌な予感しかしない。分が悪いと思ったのかグレン様の隣にはリラもいる。

「それで、何の御用でしょうか? 剣の方は特に問題がなかったと思うのですが」

 目の前にはグレン様が買ってきてくれた王都で有名なお店のお菓子が置かれていた。リラは普通に「おいしい」と焼き菓子を食べている。

「それで、グレン様はエルザにどんな頼み事があるんですか?」

 グレン様の頼み事はリラも知らないらしい。よっぽど面倒な頼み事なのだろうか。グレン様はなかなか口を開かない。

「さっさと言った方が楽なんじゃないですか?」

 リラはグレン様相手でもグイグイいく。友人ながらもすごいと思う。良い感じに緩衝材になってくれるのでリラがいてくれて良かったかもしれない。

「……その、なんだ……」
「早く言っちゃいましょうよ。楽になりますよ」
「あぁ……」

 リラに促されてもグレン様は言いよどむ。

「あの……時間の無駄なんで、何かあるなら言ってもらえませんか? 普通に断ると思いますけど。まぁ、このまま何も仰らないならお断りということで……」
「それは困る!」
「だったら、早く言っちゃいましょうよ」
「あぁ……その、エルザ嬢に王都に来て欲しいんだ」

 嫌な予感は的中した。リラも微妙な顔になる。これだけ、言いにくそうにしていたということはわたしが村から出たがらないことを知っているのだろう。
 検討するまでもないお断り案件だが、理由くらいは聞いておいた方が良さそうだ。

「……どうしてでしょうか?」
「その、ぜひ剣術大会に来て欲しいんだ」

 ――え? そんな理由?

「そんな理由ですか?」

 わたしが思っても口にしなかった疑問をリラはあっさり口にする。

「そんな理由と言うほどではないだろう?」
「ものすごく言いづらそうにしてたじゃないですか。何かとんでもないお願いだと思いますよ。まぁ、エルザは行きませんけどね」
「そうですね」
「やっぱりか……」

 今回のリラはわたしの味方らしい。グレン様はあからさまにがっかりする。が、グレン様も引けないようだ。

「理由は? どんな条件を出せば来てくれるだろうか?」
「いや、普通に行く理由がないので。そもそも、人を呼ばなきゃいけない大会なんですか?」
「……見物客はくる」
「あまり答えになっていないような……」
「グレン様、エルザを呼んで見栄をはりたいんですか? 確かにエルザは可愛いですけど」

 この子はグレン様に対してどんどん遠慮がなくなっていないだろうか。少々心配になる。

「あ、いや、そういう訳では……」
「グレン様は別に見栄をはる必要なんてないですよね? かなり、女性に人気だって村の人にも訊いたことがありますけど」
「あぁ、それは否定しない」
「おぉー、否定しないんですね」
「リ、リラ……さすがにちょっと」
「いや、問題無い」
「わたしに弾よけになれってことでしょうか?」
 
 理由はそれしか思い浮かばない。

「ま、まぁ、そんなとこだな」

 なんだか歯切れが悪い。

「でしたら、わたしでは力不足です。わたしはただの村娘なので」
「いや、そんなことはない。君の所作は貴族令嬢に混ざっても問題ないはずだ」

 ――それはそうだろうけど……。王都、しかも貴族の集まる催しなんていけるわけがないじゃない。それに、今のわたしは完全に平民の娘のはず。貴族令嬢の振る舞いなんて無理よ。

「弾よけなら他の親しい女性に頼めばいいのでは?」
「そんな女性はいない!」

 力強く否定されてしまった。そんなに強く否定しなくても良いのにと思う。貴族なのだからもう少し感情を取り繕った方がいいのではないだろうか。

「二人が一番よく話す女性なんだ」

 リラがグレン様に可哀想な人を見る視線を向ける。
 ――リラ、グレン様は普通にモテると思うよ……。まぁ、残念な人なのは否定しないけれど。

「それでは、わたしが行く理由になりませんね」
「うっ……」
「グレン様も理由が弱い自覚がおありのようですね。では、このお話はなかったということで」
「待ってくれ」
「グレン様、諦めてください。エルザは行きませんよ」
「そうですよ。貴族令嬢のフリをしてグレン様と仲が良い演技をするなんてわたしには無理です」
「仲が良い演技……。演技なのか……」
「グレン様、落ち込まないでください。エルザはちょっとアレなんで……」

 グレン様が妙なところで落ち込み、リラがすかさずフォローをする。

「アレって何なのよ……。とにかく、わたしに貴族令嬢のフリは無理ですので」
「どうしても駄目なのか?」
「駄目ですね」
「準備はこちらで全部する。報酬も支払う。変装でもなんでもしていいから」
「どうしてわたしなんですか? 確かに後腐れがないのはわかりますけど、グレン様の歳なら婚約者なり婚約者候補の人がいるのが普通ですよね。あ、もしかして、女性に興味がないとか……?」

 そういうことなら仕方がない。事情は理解できる。わたしなら貴族と接点を持とうとしないし、顧客の情報を売ることはしない。何より、わたしはグレン様に対して異性としての興味を持っていない。

「ち、違う!」
「大丈夫ですよ。偏見はありませんから」
「本当に違うんだ……」

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