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29.遺跡探索
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わたしは遺跡の中の様子をメモしながら歩く。時折立ち止まってはスケッチをしていた。
遺跡の中でも不思議なことに植物が生えているところがある。遺跡の外にある植物もあるが、ここにしかみられないものもあった。
わたしは目の前の植物をスケッチしながらグレン様に話しかける。
「グレン様、この植物は採取しても大丈夫ですよね?」
「あぁ、問題ない。しばらくするとまた元通りになるからな。報告する必要があるから採取した量だけは正確に頼む」
「ありがとうございます」
遺跡は定期的に調査に入り、採取や討伐が行われている。どうして遺跡が存在するのかはわかっていないし、どうして魔物や素材となるものが元に戻るのかもわかっていない。
元通りになることがわかっているから調査で入手したものも割と自由にできる。もちろん、悪いことが起こらないように採取したものは報告する必要があるけれど。
グレン様がわたしのノートをのぞき込んできた。
シャッシャッと紙にを鉛筆を走らせる音が遺跡の中に響いている。わたしは今、目の前のテナール草をスケッチしているところだ。絵の隣には特徴も添える。グレン様はわたしが絵を描くことに感心しているようだ。
「例の珍しいペンを使っているんだな。やはり便利そうだ」
「便利ですよ。書き間違えても修正できますし。色んな種類がありますからぜひ、トムさんのところでみてみてください」
「行ってみる。それにしても絵も上手いんだな」
「ものをよく観察するのは錬金術の基本ですからね。スケッチの練習もかなりさせられました。実の父親も錬金術とは無縁の人でしたけど、ちゃんと物事をみるようにと教わりましたし、何事も観察は大切ってことですよね」
グレン様と会話をしながらも手を動かし続け、記録が終わった。わたしはペンとノートを一旦しまうと、ブレスレットに繋がれた小さなプレートを外す。
そのまま魔力を込めると小さなプレートは採取用の鎌になる。わたしは周囲を観察し、なるべく品質の高いテナール草を選んで採取していった。
「エ、エルザ嬢。今のは?」
「鎌ですけど」
「いや、今ブレスレットから鎌が……」
わたしが今、手首に着けているのは細めのヒンジブレスレットだ。このブレスレットにはいくつかチャームがぶら下がっている。この一つ一つが採取道具なのだ。
グレン様はこのブレスレットに驚いたらしい。
――錬金術があるのだから、チャームが姿を変えるのも不思議ではないはずなのに……。あれ? もしかして、わたしの感覚がおかしいのかしら。
「いちいち鞄から採取道具を取り出すのって大変じゃないですか」
「そうだな」
「でも、ずっと手に持っている訳にもいかないでしょう?」
「そうだな」
「なので、コンパクトに持ち歩けるような形にしています。師匠にも評判なんですよ」
「……そういうものなのか?」
「えぇ」
わたしは胸をはって答えた。師匠にも良いアイディアだと褒められた自慢の一品だ。
「でも、その杖は持ち歩くんだよな?」
「? 杖って持ち歩くものですよね?」
グレン様は訳のわからないことを言う。わたしは採取に出掛けるときも基本的に杖を持ち歩いている。錬金術師であろうとなかろうと杖を使わずに飾っておく人などいるのだろうか。
「いや、錬金術師の常識は知らない……」
「それもそうですね。師匠から杖は常に一緒にいるものだと言われていて……。グレン様にとっての剣のようなものかと」
「師匠の教えか……。だが、錬金術で使う大事なものなんじゃないのか?」
「わたしの魔力の馴染みが良くなるように、なるべく身につけるようにしているんですよ。色んな素材に触れさせるのも大事ですし。魔物も殴れて便利ですよ?」
「そうか……」
なんだかグレン様が引いている気がするのは気のせいだろうか。魔物を倒すのに杖と剣ではそんなに差はないように思う。
「あ、杖と言っても普通の杖ではないので、簡単には折れません」
「いや、うん。気になったのはそこじゃない……」
「そうですか。でも、本当にこれで戦えるので心配しないでください」
「君が戦うようなことにはならないように努力するよ」
わたしたちはその後も素材を採取しながら奥に進んでいった。グレン様はブレスレットから採取道具を出すたびに驚いていたが、次第に慣れていったようだった。
遺跡には魔物がでるエリアがあるので、道中倒しながら進む。
遭遇する魔物はすべてグレン様が難なく片付けていった。
――本当に強いのね、この人。しかも、綺麗に倒してくれるから助かっちゃう。
グレン様は素材を回収することを考えて倒してくれる。使えそうなものは解体は後にして採取用の鞄にしまっていった。
グレン様が足を止めた。
「エルザ嬢、そろそろ例の区画に到着するぞ」
「そうですね。ここまでは特に問題なかったと思うのですがどうでしょうか? 強いて言うなら思ったより品質の高い素材が採れますね」
「そうだな……。出てくる魔物が少し違うような気がする。この奥も気をつけた方が良いかもしれない」
強力な魔物がいるエリアは遺跡の中でも区切られている。わたしたちの目標であるアダマンタイマイも隔離区画だ。
グレン様に道を空けてもらわなければ獲物に遭遇できない。
――憧れのアダマンタイト……。剣以外に何が作れるかしら。絶対に採取するわよ。
わたしが気合いを入れ直すとグレン様は表情を硬くした。わたしが怯えていると勘違いしたのかもしれない。
「絶対に守るから安心してくれ」
「大丈夫ですよ。自分の身は自分で守ります。わたし、錬金術師ですから」
グレン様は根っからの騎士のようで、弱者を守らないといけないと思っているようだ。
――そんなに心配しなくても大丈夫なのに。
「……では、扉を開けるぞ」
グレン様はさらに奥に続く扉を開けた。
遺跡の中でも不思議なことに植物が生えているところがある。遺跡の外にある植物もあるが、ここにしかみられないものもあった。
わたしは目の前の植物をスケッチしながらグレン様に話しかける。
「グレン様、この植物は採取しても大丈夫ですよね?」
「あぁ、問題ない。しばらくするとまた元通りになるからな。報告する必要があるから採取した量だけは正確に頼む」
「ありがとうございます」
遺跡は定期的に調査に入り、採取や討伐が行われている。どうして遺跡が存在するのかはわかっていないし、どうして魔物や素材となるものが元に戻るのかもわかっていない。
元通りになることがわかっているから調査で入手したものも割と自由にできる。もちろん、悪いことが起こらないように採取したものは報告する必要があるけれど。
グレン様がわたしのノートをのぞき込んできた。
シャッシャッと紙にを鉛筆を走らせる音が遺跡の中に響いている。わたしは今、目の前のテナール草をスケッチしているところだ。絵の隣には特徴も添える。グレン様はわたしが絵を描くことに感心しているようだ。
「例の珍しいペンを使っているんだな。やはり便利そうだ」
「便利ですよ。書き間違えても修正できますし。色んな種類がありますからぜひ、トムさんのところでみてみてください」
「行ってみる。それにしても絵も上手いんだな」
「ものをよく観察するのは錬金術の基本ですからね。スケッチの練習もかなりさせられました。実の父親も錬金術とは無縁の人でしたけど、ちゃんと物事をみるようにと教わりましたし、何事も観察は大切ってことですよね」
グレン様と会話をしながらも手を動かし続け、記録が終わった。わたしはペンとノートを一旦しまうと、ブレスレットに繋がれた小さなプレートを外す。
そのまま魔力を込めると小さなプレートは採取用の鎌になる。わたしは周囲を観察し、なるべく品質の高いテナール草を選んで採取していった。
「エ、エルザ嬢。今のは?」
「鎌ですけど」
「いや、今ブレスレットから鎌が……」
わたしが今、手首に着けているのは細めのヒンジブレスレットだ。このブレスレットにはいくつかチャームがぶら下がっている。この一つ一つが採取道具なのだ。
グレン様はこのブレスレットに驚いたらしい。
――錬金術があるのだから、チャームが姿を変えるのも不思議ではないはずなのに……。あれ? もしかして、わたしの感覚がおかしいのかしら。
「いちいち鞄から採取道具を取り出すのって大変じゃないですか」
「そうだな」
「でも、ずっと手に持っている訳にもいかないでしょう?」
「そうだな」
「なので、コンパクトに持ち歩けるような形にしています。師匠にも評判なんですよ」
「……そういうものなのか?」
「えぇ」
わたしは胸をはって答えた。師匠にも良いアイディアだと褒められた自慢の一品だ。
「でも、その杖は持ち歩くんだよな?」
「? 杖って持ち歩くものですよね?」
グレン様は訳のわからないことを言う。わたしは採取に出掛けるときも基本的に杖を持ち歩いている。錬金術師であろうとなかろうと杖を使わずに飾っておく人などいるのだろうか。
「いや、錬金術師の常識は知らない……」
「それもそうですね。師匠から杖は常に一緒にいるものだと言われていて……。グレン様にとっての剣のようなものかと」
「師匠の教えか……。だが、錬金術で使う大事なものなんじゃないのか?」
「わたしの魔力の馴染みが良くなるように、なるべく身につけるようにしているんですよ。色んな素材に触れさせるのも大事ですし。魔物も殴れて便利ですよ?」
「そうか……」
なんだかグレン様が引いている気がするのは気のせいだろうか。魔物を倒すのに杖と剣ではそんなに差はないように思う。
「あ、杖と言っても普通の杖ではないので、簡単には折れません」
「いや、うん。気になったのはそこじゃない……」
「そうですか。でも、本当にこれで戦えるので心配しないでください」
「君が戦うようなことにはならないように努力するよ」
わたしたちはその後も素材を採取しながら奥に進んでいった。グレン様はブレスレットから採取道具を出すたびに驚いていたが、次第に慣れていったようだった。
遺跡には魔物がでるエリアがあるので、道中倒しながら進む。
遭遇する魔物はすべてグレン様が難なく片付けていった。
――本当に強いのね、この人。しかも、綺麗に倒してくれるから助かっちゃう。
グレン様は素材を回収することを考えて倒してくれる。使えそうなものは解体は後にして採取用の鞄にしまっていった。
グレン様が足を止めた。
「エルザ嬢、そろそろ例の区画に到着するぞ」
「そうですね。ここまでは特に問題なかったと思うのですがどうでしょうか? 強いて言うなら思ったより品質の高い素材が採れますね」
「そうだな……。出てくる魔物が少し違うような気がする。この奥も気をつけた方が良いかもしれない」
強力な魔物がいるエリアは遺跡の中でも区切られている。わたしたちの目標であるアダマンタイマイも隔離区画だ。
グレン様に道を空けてもらわなければ獲物に遭遇できない。
――憧れのアダマンタイト……。剣以外に何が作れるかしら。絶対に採取するわよ。
わたしが気合いを入れ直すとグレン様は表情を硬くした。わたしが怯えていると勘違いしたのかもしれない。
「絶対に守るから安心してくれ」
「大丈夫ですよ。自分の身は自分で守ります。わたし、錬金術師ですから」
グレン様は根っからの騎士のようで、弱者を守らないといけないと思っているようだ。
――そんなに心配しなくても大丈夫なのに。
「……では、扉を開けるぞ」
グレン様はさらに奥に続く扉を開けた。
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