追放された元令嬢ですが、錬金術師として充実した毎日です。静かに暮らしたいのですが、チート能力とやらのおかげで平和に暮らせません。

和泉 凪紗

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23.大事な話し合い

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 わたしたちはアトリエに戻ってきた。わたしはこれからグレン様と大事な話し合いをしなければいけない。

「着替えてきますのでお待ちください。お茶はすぐ用意します」

 わたしは急いで着替えてお茶の準備をする。

「お茶をどうぞ。何か食べますか? 簡単なスープとパンくらいなら出せますけど」
「迷惑でなければ……」
「わたしも軽く何か食べたいのでご遠慮なく。大事な話し合いの前にはちゃんとエネルギーを摂取しておかないと駄目ですよね」

 わたしは台所に戻り、軽食の準備をする。さすがにメインも無いのにパンだけだすのは淋しい。丁度、鍋に入っているのはオニオスープだ。あれだけ動いた男の人には物足りないだろう。

「やっぱり、すぐに出せるものといったらサンドイッチよね。食べ応えがあるもの……。せっかくなら温かいものが食べたいわ」

 わたしはハムとチーズが入ったホットサンドを作ることにした。
 パンにバターを塗り、ホットサンドメーカーにセットする。パンの上にハム、チーズ、マヨネーズをのせた。
 ――ボリュームアップするには……。あ、キャベツが良いかも。野菜も取りたいし。
 さらに千切りにしたキャベツをたっぷりのせ、ほんの少しマスタードを効かせた。パンを上に乗せ、パンがずれないように抑えながら慎重にホットサンドメーカーを閉じる。
 ホットサンドメーカーを火にかけ弱めの中火で焼き始めた。
 両面焦げないようにじっくり焼いていく。ジュージューとパンと少しこぼれたチーズの焼ける良い匂いがする。

「あぁ、完璧な味の匂いだわ」

 焼けたパンを包丁でカットすると断面からチーズがトロリと溢れてきた。これは絶対においしい。冷めないうちに早く食べたい。
 わたしはトレイにホットサンドとスープをのせ、グレン様のところへ運んだ。

 グレン様は少しそわそわしている。

「お待たせしました。オニオンスープとハムとチーズのホットサンドです」
「あぁ……。その、ずいぶん良い匂いがこちらまで届いていた」 

 グレン様の視線はホットサンドに釘付けになっている。
 ――そんなにお腹がすいていたのかしら? まぁ、あれだけ動けば仕方ないわよね。ボリュームアップして良かったわ。

 グレン様は感動しながらあっという間にホットサンドを平らげた。これだけおいしそうに食べてもらえると気分が良い。
 ――まぁ、自分で言うのもなんだけど、これはかなりおいしいものね。はぁ……疲れた身体に染み渡る……。


 食後のお茶を出しながら、わたしは話を切り出した。上手く交渉しなければならない。

「それで、大事なお話ですけど……」
「あぁ」

 おいしい食事にとろけていたグレン様の表情も引き締まる。わたしも気合いを入れ直した。

「先ほどの素材、配分はどうしましょうか?」
「は?」

 グレン様が固まった。なぜだかわからない。
 ――自分が全部倒したのに素材を寄越せだなんてずうずうしいと思われたのかしら。魔物を解体したり素材を回収したり、周辺の片付けまでしたのだからわたしも取り分がほしいわ。

「ですから、先ほどグレン様が討伐した魔物の素材です」
「そっち?」
「大事な話ですよね?」
「??」

 グレン様は意味がわからないといった顔をするがわたしも引くわけにはいかない。アイテムだって提供したのだ。

「わたしも素材の回収に協力したので取り分が欲しいのです」
「いや、私はてっきり自分の剣の腕についての話かと……」
「そっちでしたか」
「いやいや、こっちの方が大事だろう?」
「剣の腕は見せてもらいましたし……。あれで実力が足りないとか言うわけないじゃないですか」
「それなら良いんだが、そっちこそ素材の取り分なんて話し合う必要もないだろう?」
「え?」

 ――そんな……。取り付く島もないなんて……。

「私には不要だ」
「何でですか? 売ればお金になるのに……!」
「いや、別にそこまで困っていないし。そもそも小銭を稼ぐために魔物を狩ったわけではない」
「小銭……」

 さすがは名門貴族で王族の側近ということだろうか。当然だが金銭感覚が違いすぎる。わたしはあんなに浮かれて素材を回収していたというのに……。

「あ、いや、気を悪くしないでくれ」
「…………」
「きちんと売れば金になるのはわかっている。しかし、私が大量の素材を売るのは問題なんだ。任務外で何かあるのかと疑われるし、出所を聞かれないようなところで売るしかなく、買いたたかれることになるんだ」
「そうでしたか……」
「と言うわけで、私に素材は不要だ。殿下の依頼に役立てて欲しい」
「それは別で報酬をいただくのですが……」
「今の食事の礼ならどうだ? これも感動するほどおいしかった」
「それは過分です。味も普通です。感動するほどおいしいのならお腹がすいていただけですよ」
「それだけではないが……。私は命も助けてもらっているんだ。これくらい安いものだろう」

 お礼としては充分すぎるけれど、これでお礼をしたいと言われなくなるなら良いかもしれない。元々、分け前は欲しかったのだから。

「わかりました。ありがたくいただきます」
「あぁ、こちらこそ、世話になった」

 ふと、テーブルに置いてある石を見ると光っていることに気がついた。

「あ、第三王子殿下からお返事が届いているようですね」
「どうしてわかるんだ?」
「この石が教えてくれるんですよ」
「そんな便利なものが……。それ、殿下にも作ってくれないだろうか」

 それほどまめに連絡を取り合うつもりのなかったわたしは敢えてこういったものをつくらなかった。けれど、大量の素材ももらったし、これくらいはサービスしてあげよう。

「わかりました。あとでお作りします」 

 わたしはグレン様に届いた手紙を渡す。

「では、わたしは調合をしてきますのでお手紙をお読みください」

 グレン様は早速手紙を読み始める。わたしは錬金釜のところに移動し、調合を始めた。

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