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12.見積もり
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わたしはグレン様の意外な依頼に驚いた。お菓子を気に入ってくれたのは嬉しいけれど、お菓子ばかり注目されて錬金術師としての自信を失ってしまいそうだ。
「よっぽど、お菓子がお気に召したんですね。確認ですけど、空間魔法がかかった鞄はお持ちですよね? 刻は止められますか?」
「刻を止めるものは容量が小さい。今度大きいものを用意する」
空間魔法のかかった鞄は高級品。状態を維持して保存できるものはさらに高級品だ。
この人はお菓子のために、超高級品の魔道具を用意しようとしているのだろうか。今も普通にラングドシャクッキーにグレン様の手が伸びている。
「そんなに大きなものは必要ないと思いますよ」
グレン様の真剣な表情にわたしは思わず苦笑する。
「いや、重要だ。他に使う用途もあるかもしれない」
――普通の人は必要ないと思いますよ……。わたしは素材を採取したり保存したりする必要があるから大きめのものを持っているけれど。
「まぁ、お菓子の話は置いておいて、調合するアイテムについてお話を」
「そうだな」
「お守りはどのような形にしましょうか? 常に身につけられるものが良いですよね。防犯アイテムとなると直感的に動かせるようなものが良さそうです。腕輪か指輪などはどうですか? 楽器を演奏されるなら邪魔かもしれませんけど……」
「楽器は演奏しないこともないが……」
「普段から装飾品の類は身につけていらっしゃいますか?」
「護身用に色々身につけているが、腕輪の方が良いかもしれないな」
装飾品を作るとして、わたしは大事なことを確認しなければいけない。
「あの、念のために確認しますけど、アクセサリーの類を納めても王子殿下の婚約者とか恋人に恨まれたりしませんよね?」
「あぁ、それは大丈夫だ。安心してほしい。利便性重視で頼む」
「それでしたら、毒耐性を持たせて、攻撃を受けた際は障壁を発生させ、魔力を流すと対象物を死なない程度に凍らせるのは如何でしょうか? 火を出して周囲が燃えると危ないですし、刺客は生け捕りにしたいでしょうから。感電させるのも良いですけど、殺傷能力の調整が難しいと思います」
「あぁ……」
なんとなくグレン様の顔が引いているような気がする。
「どうかしました?」
「その、涼しい顔をして物騒なことを考えているんだな、と」
「刺客に備えてのお守りをお求めなんですよね?」
「いや、武器を作りたくないと言う割にスラスラと出てくるから、変な感じだと思ってな……」
――何か理不尽だわ……。ご要望にお応えしようとしているだけなのに。
そんな気持ちをぐっとこらえてわたしは話を続ける。
「色やデザインに希望はありますか?」
「シンプルなものが良いが……安物に見えても困る」
「何か実物があると良いんですけど……。サイズもわかると良いですし」
「わかった。使わないものを借りてこよう」
「では、仮のデザインで仕様書を作成しますね。これをお持ちいただいて、第三王子殿下の了承を得てください。問題ないようでしたら作成に入ります」
「すぐ作ってはもらえないのか?」
「お互いに合意の上で作成しないとトラブルになりかねません。こちらも材料の準備もありますし」
「それもそうだな」
普段のちょっとした依頼であればこういったプロセスは経ないが、相手は王族だ。書類はしっかり作成しておいた方が良い。
お皿をみるとすっかり空になっていたため、わたしは追加で別のクッキーを出し、お茶を淹れ直した。
「少々お待ちください」
わたしはそのまま仕様書を書き上げ、見積書も作成する。
「こちらで問題ないでしょうか? 問題ないようでしたらサインをお願いします」
「もう出来たのか? ずいぶん早いな。ん? 見積もり書は桁を間違えていないだろうか?」
「高かったですか? これくらいはいただかないと……」
「いや、思ったよりずいぶん安くて驚いた」
「本当はもっと利益をしっかり取りたいところなんですけど……」
「取ってもらって構わない。いや、取ってもらわないと困る。第三王子殿下の金払いが悪いなどと思われるようなことはできない」
わたしはグレン様の言い分にも納得する。
――確かに周りから何を言われるかわからないし、攻撃材料になり得るものは極力取り除きたいわよね。わたしも同じような金額で依頼が殺到しても困るわ。
「では、最低限の金額は設定しますので、あとはそちらでお決めください。お眼鏡にかなうものではないかもしれませんし。もちろん、上限は決めさせていただきますので、法外な金額にはならないと思います」
「わかった。で、手紙の転送装置の方は……」
「……わかりました。すぐに用意します」
忘れてはもらえなかったので、わたしは追加で書類を作成した。
いつの間にか依頼を受ける流れになっている。
――リラも受けて欲しそうだったし、仕方ないよね。と言うか普通に錬金術の調合は楽しいし、身を守るものは必要だわ。
出来上がった書類を確認してもらい、グレン様のサインをもらった。
わたしとグレン様のサインが入った書類を錬金術で作成した魔道具で複製する。
「こちらは控えとしてお預かりしますね。特殊な刻印が入っているので複製や改ざんはできません」
「こんなものもあるんだな」
グレン様は物珍しそうに複製機を観察する。
これも異世界のコピー機を参考にした魔道具だ。地味に魔力を使うので滅多なことには使わない。こちらもいずれ改善したいとは思っているが、優先度が低いため後回しになりがちだ。
「いろいろと制約があってそこまで便利なものではないのですが……」
「ずいぶんしっかりしているんだな」
「師匠の教えですね。契約関係、特に貴族との契約はしっかりするように言われています。あとから何か言われると大変ですから」
師匠も両親も契約関係に関しては厳しかった。
――良い教育を受けさせてもらったことに感謝しないといけないわね。
「よっぽど、お菓子がお気に召したんですね。確認ですけど、空間魔法がかかった鞄はお持ちですよね? 刻は止められますか?」
「刻を止めるものは容量が小さい。今度大きいものを用意する」
空間魔法のかかった鞄は高級品。状態を維持して保存できるものはさらに高級品だ。
この人はお菓子のために、超高級品の魔道具を用意しようとしているのだろうか。今も普通にラングドシャクッキーにグレン様の手が伸びている。
「そんなに大きなものは必要ないと思いますよ」
グレン様の真剣な表情にわたしは思わず苦笑する。
「いや、重要だ。他に使う用途もあるかもしれない」
――普通の人は必要ないと思いますよ……。わたしは素材を採取したり保存したりする必要があるから大きめのものを持っているけれど。
「まぁ、お菓子の話は置いておいて、調合するアイテムについてお話を」
「そうだな」
「お守りはどのような形にしましょうか? 常に身につけられるものが良いですよね。防犯アイテムとなると直感的に動かせるようなものが良さそうです。腕輪か指輪などはどうですか? 楽器を演奏されるなら邪魔かもしれませんけど……」
「楽器は演奏しないこともないが……」
「普段から装飾品の類は身につけていらっしゃいますか?」
「護身用に色々身につけているが、腕輪の方が良いかもしれないな」
装飾品を作るとして、わたしは大事なことを確認しなければいけない。
「あの、念のために確認しますけど、アクセサリーの類を納めても王子殿下の婚約者とか恋人に恨まれたりしませんよね?」
「あぁ、それは大丈夫だ。安心してほしい。利便性重視で頼む」
「それでしたら、毒耐性を持たせて、攻撃を受けた際は障壁を発生させ、魔力を流すと対象物を死なない程度に凍らせるのは如何でしょうか? 火を出して周囲が燃えると危ないですし、刺客は生け捕りにしたいでしょうから。感電させるのも良いですけど、殺傷能力の調整が難しいと思います」
「あぁ……」
なんとなくグレン様の顔が引いているような気がする。
「どうかしました?」
「その、涼しい顔をして物騒なことを考えているんだな、と」
「刺客に備えてのお守りをお求めなんですよね?」
「いや、武器を作りたくないと言う割にスラスラと出てくるから、変な感じだと思ってな……」
――何か理不尽だわ……。ご要望にお応えしようとしているだけなのに。
そんな気持ちをぐっとこらえてわたしは話を続ける。
「色やデザインに希望はありますか?」
「シンプルなものが良いが……安物に見えても困る」
「何か実物があると良いんですけど……。サイズもわかると良いですし」
「わかった。使わないものを借りてこよう」
「では、仮のデザインで仕様書を作成しますね。これをお持ちいただいて、第三王子殿下の了承を得てください。問題ないようでしたら作成に入ります」
「すぐ作ってはもらえないのか?」
「お互いに合意の上で作成しないとトラブルになりかねません。こちらも材料の準備もありますし」
「それもそうだな」
普段のちょっとした依頼であればこういったプロセスは経ないが、相手は王族だ。書類はしっかり作成しておいた方が良い。
お皿をみるとすっかり空になっていたため、わたしは追加で別のクッキーを出し、お茶を淹れ直した。
「少々お待ちください」
わたしはそのまま仕様書を書き上げ、見積書も作成する。
「こちらで問題ないでしょうか? 問題ないようでしたらサインをお願いします」
「もう出来たのか? ずいぶん早いな。ん? 見積もり書は桁を間違えていないだろうか?」
「高かったですか? これくらいはいただかないと……」
「いや、思ったよりずいぶん安くて驚いた」
「本当はもっと利益をしっかり取りたいところなんですけど……」
「取ってもらって構わない。いや、取ってもらわないと困る。第三王子殿下の金払いが悪いなどと思われるようなことはできない」
わたしはグレン様の言い分にも納得する。
――確かに周りから何を言われるかわからないし、攻撃材料になり得るものは極力取り除きたいわよね。わたしも同じような金額で依頼が殺到しても困るわ。
「では、最低限の金額は設定しますので、あとはそちらでお決めください。お眼鏡にかなうものではないかもしれませんし。もちろん、上限は決めさせていただきますので、法外な金額にはならないと思います」
「わかった。で、手紙の転送装置の方は……」
「……わかりました。すぐに用意します」
忘れてはもらえなかったので、わたしは追加で書類を作成した。
いつの間にか依頼を受ける流れになっている。
――リラも受けて欲しそうだったし、仕方ないよね。と言うか普通に錬金術の調合は楽しいし、身を守るものは必要だわ。
出来上がった書類を確認してもらい、グレン様のサインをもらった。
わたしとグレン様のサインが入った書類を錬金術で作成した魔道具で複製する。
「こちらは控えとしてお預かりしますね。特殊な刻印が入っているので複製や改ざんはできません」
「こんなものもあるんだな」
グレン様は物珍しそうに複製機を観察する。
これも異世界のコピー機を参考にした魔道具だ。地味に魔力を使うので滅多なことには使わない。こちらもいずれ改善したいとは思っているが、優先度が低いため後回しになりがちだ。
「いろいろと制約があってそこまで便利なものではないのですが……」
「ずいぶんしっかりしているんだな」
「師匠の教えですね。契約関係、特に貴族との契約はしっかりするように言われています。あとから何か言われると大変ですから」
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