聖女じゃないからと婚約破棄されましたが計画通りです。これからあなたの領地をいただきにいきますね。

和泉 凪紗

文字の大きさ
上 下
41 / 42

39.幕切れ

しおりを挟む
 マリーベルもすでにジルベルトの家の人間ということで同じように拘束されている。
 わたしはお母様に向き合った。わたしはこの人とも決着をつけなければいけない。

「お母様、安心してください。わたしは今後マリーベルには関わり合いになりません。もちろんお母様にもです。お母様はわたしに早く家から出て行って欲しいようですから」
「ま、待って、リリアーナ。あなたはマリーベルがかわいくないの? このままではマリーベルは捕まってしまうわ。マリーベルを助けて。あなたの妹なのよ」 

 お母様の言葉にわたしの胸はチクリと痛んだ。
 気持ちが無かったとはいえ、わたしはマリーベルに婚約者を奪われている。お荷物だから一切関わらないようにも言われた。それなのにお母様はマリーベルを助けろと言う。マリーベルがわたしより特別可愛いからそんなことを言えるのだ。

「……関わらないように言ったのはお母様ではありませんか。お母様は他に一緒になりたい方がいらっしゃるようですが、まさかお父様のいる家に帰るつもりじゃありませんよね?」
「え、えぇ、もちろんよ。あなたがわたしと暮らしてくれるのでしょう?」

 わたしにはお母様がどうしてそのような考えに至れるのかがわからない。今まで散々いないものとして扱ってきたのに……。
 そんなわたしを守るようにクリストファー様はお母様に毅然とした態度で向き合う。

「宰相夫人。いえ、元夫人はおかしなことを言いますね。リリアーナは今あなたに関わり合いにならないといったばかりではありませんか」
「わたしはリリアーナの母です。娘が母の面倒をみるのは当然でしょう?」
「……お母様。わたしはどれだけマリーベルと差をつけられてきてもお母様に認めてもらいたいとずっとあきらめきれませんでした……。少しでもわたしを見て欲しいと努力もしてきました」
「そうでしょう、親子の縁は切れませんものね」
「ですが、今日のお母様の言葉でわたしは完全にあきらめました。わたしはお母様の娘ではありません」

 言えた。本当はわたしもマリーベルのようにお母様に愛されたかった。
 でもこれで、わたしは完全にお母様とお別れだ。
 
「あなたを生んだのはわたくしですよ!」
「いい加減にしないか! おまえはリリアーナの気持ちを考えたことがあるのか。政略結婚だった私のことは仕方ないとしてもリリアーナは君の実の娘だ。実の娘だからこそおまえの態度に傷ついてきたんだ。私が何度注意しても『力がないのだから仕方ない。厳しくするのは当然』と開き直っていたではないか。今後、私の家の土地に一歩たりとも入ることは許さん!」
「もちろん、私の領地でも面倒をみることはありませんからね。元宰相夫人。今後、一切リリアーナに接触しないように。リリアーナを生んでくれたことには感謝します。ですが、リリアーナに対する仕打ちは許すことはできないので近づいたら私は何をするかわかりません」
「そんな……。マリーベルは? 妹は可哀想でしょう? マリーベルにはわたくしが必要なのですよ。一緒に……」
「そろそろ黙らせた方が良さそうですね」

 クリストファー様が合図するとお母様が拘束され、口が塞がれる。
 マリーベルが不安そうに声を上げた。

「わたしはどうなるのですか?」
「マリーベルはジルベルトを支えるのだったな。縁あって一緒になったんだ、しっかり支えるといい」
「お父様……」
「残念ながらおまえは私の娘ではなかったらしい。もう一緒に暮らすことはできないが幸せを祈っているよ」
「マリーベル、頑張ってね」
「罪人の妻になってどう幸せになれと言うのですか……」
「マリーベル、あなたは結婚前にも土地を癒やしていたでしょう? 領民の生活をみて何も感じなかったの?」
「領民が領主のために尽くすのは当然ではありませんか。わたしが頑張ったのは全てジルベルト様のためです」
「……あなたは領主一族にふさわしい人間ではありません。たとえお父様の娘だったとしてもこの土地に拒否され契約はうまくいかなかったと思います」

 マリーベルもジルベルトと同類だ。あれをみて当然だと思えるなんて。己の私利私欲の為だけに力を使い続ければ癒やしの力は弱くなってしまう。反対にわたしは大きな力を授かっている。ジルベルトたちをみれば明らかだ。

「そんなことあるわけがないわ。だってわたしはお姉様よりずっと優れているんですもの。お母様はわたしにいつもそう言ってくれたし、ジルベルト様はわたしを選んだのよ」
「……マリーベル、あなた本当にかわいそうな子ね。この土地をみてそれでも領主に尽くすのが当然と思えるのなら、あなたも同罪よ」

 わたしより優れているとかいないとかそんなことを考えても仕方がないのに。あなたはわたしが持っていないものをたくさん持っていたというのに。
 わたしはマリーベル対して言葉を飲み込んだ。きっと伝わらないと思ったから。


「リリアーナ、よくも私をはめてくれたな。覚えておけ!」

 ジルベルトは拘束されているが、わたしに怒鳴っている。拘束していなければ殴りかかってきそうな勢いだ。はめるもなにもマリーベルが聖女になれない以上、領主としてはやっていけない。長年にわたって不正を行い、領主としての役目を怠ってきたのは自分たちなのに。
 しかも、クリストファー様を殺そうとした。

「ジルベルトはまだ自分がどういう立場なのかわかっていないようだね。表に出してはいけない危険人物のようだ。リリアーナ、しっかり隔離しておくから安心して。早くこの罪人たちを連行するように。無駄口を叩かないようにしっかりふさいでおけ」



 こうしてジルベルトたちは罪人として捕まった。今後、各地に連行され死なない程度に力を注ぐことになるらしい。死なない程度といっても死なないようにぎりぎりまで力を使うことになるので精神的にも体力的にもかなりの苦痛を伴う。おそらくすぐに死んだほうが楽だと思うだろう。その後は幽閉され、力を国のために使うことを強制される。
 最初から幽閉せずに連行するのは一度目の人生でわたしが経験したことをやらせるためだそうだ。ちなみにマリーベルもジルベルトたちほどではないものの同様の扱いのようだ。ジルベルトたちから没収した財産は領民のために使われる。

 お母様はお母様の実家に引き取られた。一生監視されながらお母様の実家が管理する土地に力を注ぐことになる。お母様は罪人ではないものの、お母様の実家は怒り心頭であり今後、お母様に自由はない。
 もちろん、わたしやお父様と接触することは禁じられている。お母様はマリーベルを引き取りたかったようだがお母様の実家は許さなかった。
 お母様は最後までマリーベルは悪くないと主張していたが、すでにいくつかの不正に加担してしまっていた。ジルベルトたちより罪は重くないが本人に反省の色がない。
 罪を償った後、マリーベルの実の父親が引き取るかもしれないが、きっともう二度と会うことはないだろう。

 お母様の実家はお母様の行いを重く受け止め、わたしやお父様にできうる限りの支援をしてくれるそうだ。わたしたちの新しい領地も予定より早く立て直せるかもしれない。
 お父様のところにはお父様の弟の子どものなかで力の強い人が養子になってくれる。お父様の血縁者であれば力の継承も問題ないだろう。
 お父様は家のことは心配せずに自分たちの今後のことを考えなさいと言ってくれたが、心配なものは心配だ。家を離れたとしてもお父様にはしっかり親孝行をしていこうと思う。
 
 わたしの二度目の人生での目標はほぼ達成できた。ジルベルトとの結婚を回避し、領地を奪うことができた。土地はまだ完全に回復したとはいえないが今回はわたしだけが頑張るのではない。
 わたしも一度目の人生より力が強くなっているし、早く回復させられるだろう。没収した財産や多くの支援によって領民のくらしは確実に良くなっている。
 そして、わたし自身の幸せな結婚も……。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします

宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。 しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。 そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。 彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか? 中世ヨーロッパ風のお話です。 HOTにランクインしました。ありがとうございます! ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです! ありがとうございます!

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

処理中です...