聖女じゃないからと婚約破棄されましたが計画通りです。これからあなたの領地をいただきにいきますね。

和泉 凪紗

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 マリーベルもすでにジルベルトの家の人間ということで同じように拘束されている。
 わたしはお母様に向き合った。わたしはこの人とも決着をつけなければいけない。

「お母様、安心してください。わたしは今後マリーベルには関わり合いになりません。もちろんお母様にもです。お母様はわたしに早く家から出て行って欲しいようですから」
「ま、待って、リリアーナ。あなたはマリーベルがかわいくないの? このままではマリーベルは捕まってしまうわ。マリーベルを助けて。あなたの妹なのよ」 

 お母様の言葉にわたしの胸はチクリと痛んだ。
 気持ちが無かったとはいえ、わたしはマリーベルに婚約者を奪われている。お荷物だから一切関わらないようにも言われた。それなのにお母様はマリーベルを助けろと言う。マリーベルがわたしより特別可愛いからそんなことを言えるのだ。

「……関わらないように言ったのはお母様ではありませんか。お母様は他に一緒になりたい方がいらっしゃるようですが、まさかお父様のいる家に帰るつもりじゃありませんよね?」
「え、えぇ、もちろんよ。あなたがわたしと暮らしてくれるのでしょう?」

 わたしにはお母様がどうしてそのような考えに至れるのかがわからない。今まで散々いないものとして扱ってきたのに……。
 そんなわたしを守るようにクリストファー様はお母様に毅然とした態度で向き合う。

「宰相夫人。いえ、元夫人はおかしなことを言いますね。リリアーナは今あなたに関わり合いにならないといったばかりではありませんか」
「わたしはリリアーナの母です。娘が母の面倒をみるのは当然でしょう?」
「……お母様。わたしはどれだけマリーベルと差をつけられてきてもお母様に認めてもらいたいとずっとあきらめきれませんでした……。少しでもわたしを見て欲しいと努力もしてきました」
「そうでしょう、親子の縁は切れませんものね」
「ですが、今日のお母様の言葉でわたしは完全にあきらめました。わたしはお母様の娘ではありません」

 言えた。本当はわたしもマリーベルのようにお母様に愛されたかった。
 でもこれで、わたしは完全にお母様とお別れだ。
 
「あなたを生んだのはわたくしですよ!」
「いい加減にしないか! おまえはリリアーナの気持ちを考えたことがあるのか。政略結婚だった私のことは仕方ないとしてもリリアーナは君の実の娘だ。実の娘だからこそおまえの態度に傷ついてきたんだ。私が何度注意しても『力がないのだから仕方ない。厳しくするのは当然』と開き直っていたではないか。今後、私の家の土地に一歩たりとも入ることは許さん!」
「もちろん、私の領地でも面倒をみることはありませんからね。元宰相夫人。今後、一切リリアーナに接触しないように。リリアーナを生んでくれたことには感謝します。ですが、リリアーナに対する仕打ちは許すことはできないので近づいたら私は何をするかわかりません」
「そんな……。マリーベルは? 妹は可哀想でしょう? マリーベルにはわたくしが必要なのですよ。一緒に……」
「そろそろ黙らせた方が良さそうですね」

 クリストファー様が合図するとお母様が拘束され、口が塞がれる。
 マリーベルが不安そうに声を上げた。

「わたしはどうなるのですか?」
「マリーベルはジルベルトを支えるのだったな。縁あって一緒になったんだ、しっかり支えるといい」
「お父様……」
「残念ながらおまえは私の娘ではなかったらしい。もう一緒に暮らすことはできないが幸せを祈っているよ」
「マリーベル、頑張ってね」
「罪人の妻になってどう幸せになれと言うのですか……」
「マリーベル、あなたは結婚前にも土地を癒やしていたでしょう? 領民の生活をみて何も感じなかったの?」
「領民が領主のために尽くすのは当然ではありませんか。わたしが頑張ったのは全てジルベルト様のためです」
「……あなたは領主一族にふさわしい人間ではありません。たとえお父様の娘だったとしてもこの土地に拒否され契約はうまくいかなかったと思います」

 マリーベルもジルベルトと同類だ。あれをみて当然だと思えるなんて。己の私利私欲の為だけに力を使い続ければ癒やしの力は弱くなってしまう。反対にわたしは大きな力を授かっている。ジルベルトたちをみれば明らかだ。

「そんなことあるわけがないわ。だってわたしはお姉様よりずっと優れているんですもの。お母様はわたしにいつもそう言ってくれたし、ジルベルト様はわたしを選んだのよ」
「……マリーベル、あなた本当にかわいそうな子ね。この土地をみてそれでも領主に尽くすのが当然と思えるのなら、あなたも同罪よ」

 わたしより優れているとかいないとかそんなことを考えても仕方がないのに。あなたはわたしが持っていないものをたくさん持っていたというのに。
 わたしはマリーベル対して言葉を飲み込んだ。きっと伝わらないと思ったから。


「リリアーナ、よくも私をはめてくれたな。覚えておけ!」

 ジルベルトは拘束されているが、わたしに怒鳴っている。拘束していなければ殴りかかってきそうな勢いだ。はめるもなにもマリーベルが聖女になれない以上、領主としてはやっていけない。長年にわたって不正を行い、領主としての役目を怠ってきたのは自分たちなのに。
 しかも、クリストファー様を殺そうとした。

「ジルベルトはまだ自分がどういう立場なのかわかっていないようだね。表に出してはいけない危険人物のようだ。リリアーナ、しっかり隔離しておくから安心して。早くこの罪人たちを連行するように。無駄口を叩かないようにしっかりふさいでおけ」



 こうしてジルベルトたちは罪人として捕まった。今後、各地に連行され死なない程度に力を注ぐことになるらしい。死なない程度といっても死なないようにぎりぎりまで力を使うことになるので精神的にも体力的にもかなりの苦痛を伴う。おそらくすぐに死んだほうが楽だと思うだろう。その後は幽閉され、力を国のために使うことを強制される。
 最初から幽閉せずに連行するのは一度目の人生でわたしが経験したことをやらせるためだそうだ。ちなみにマリーベルもジルベルトたちほどではないものの同様の扱いのようだ。ジルベルトたちから没収した財産は領民のために使われる。

 お母様はお母様の実家に引き取られた。一生監視されながらお母様の実家が管理する土地に力を注ぐことになる。お母様は罪人ではないものの、お母様の実家は怒り心頭であり今後、お母様に自由はない。
 もちろん、わたしやお父様と接触することは禁じられている。お母様はマリーベルを引き取りたかったようだがお母様の実家は許さなかった。
 お母様は最後までマリーベルは悪くないと主張していたが、すでにいくつかの不正に加担してしまっていた。ジルベルトたちより罪は重くないが本人に反省の色がない。
 罪を償った後、マリーベルの実の父親が引き取るかもしれないが、きっともう二度と会うことはないだろう。

 お母様の実家はお母様の行いを重く受け止め、わたしやお父様にできうる限りの支援をしてくれるそうだ。わたしたちの新しい領地も予定より早く立て直せるかもしれない。
 お父様のところにはお父様の弟の子どものなかで力の強い人が養子になってくれる。お父様の血縁者であれば力の継承も問題ないだろう。
 お父様は家のことは心配せずに自分たちの今後のことを考えなさいと言ってくれたが、心配なものは心配だ。家を離れたとしてもお父様にはしっかり親孝行をしていこうと思う。
 
 わたしの二度目の人生での目標はほぼ達成できた。ジルベルトとの結婚を回避し、領地を奪うことができた。土地はまだ完全に回復したとはいえないが今回はわたしだけが頑張るのではない。
 わたしも一度目の人生より力が強くなっているし、早く回復させられるだろう。没収した財産や多くの支援によって領民のくらしは確実に良くなっている。
 そして、わたし自身の幸せな結婚も……。

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