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37.聖女の条件
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マリーベルはお父様の娘ではない。そんなことを言われてこの場にいる人間は皆困惑している。
お父様はお芝居ではなく、ショックを受けているようにも見えた。わたしの話を信じていなかったわけではなくても、実際に真実を目の当たりにするとやはりショックなのだろう。
もちろん、お母様には身に覚えがあるし、明らかに動揺していた。お母様の様子をみたマリーベルがお母様を問い詰める。
「お母様。わたしはお父様の娘ですよね? 何かの間違いだと言ってください」
「…………」
「お母様!」
「……マリーベルは主人の娘です。契約ができないはずがありません。何かの間違いではないのですか? もう一度、儀式をやり直しでください」
お母様はしらばっくれるつもりらしい。なんと往生際の悪い人だろう。クリストファー様はそんなお母様を追求する。
「宰相夫人。あなたの娘のマリーベルは本当に宰相の娘なのですか? あなたはご存じないのかもしれませんが、この儀式は『ルーン』の当主の血が流れていれば問題無く行えるはずですよ。もちろん、他に条件はありますが……。あなたには宰相と結婚する前に交際していた男性がいましたよね。ずっと続いていたのではありませんか?」
「なんてことを仰るのですか。いくら王弟殿下とはいえ失礼にもほどがあります」
「否定されるのですね……。残念です」
「……何が残念だと仰るのですか?」
「いえ、少し調べさせていただいたのですよ。ご自身で本当のことを言っていただけると期待したのですが……」
長い沈黙のあと、観念したのかついにお母様が口を開いた。
「……マリーベルはおそらくわたくしが愛した人の娘です。わたくしには結婚を誓い合う人がいましたが無理やりこの家に嫁がされました。わたくしはリリアーナを生んで責任は果たしています。それなのにリリアーナには力が無いなんてわたくしの結婚は無意味だったのです……。わたくしだって愛する人と結婚したかった。でも出来なかった。だから、わたくしはマリーベルはあの人の子どもだと思い大切に育ててきたのです」
「お母様、わたしは聖女になれないのですか? どうしてお父様の娘ではないのですか?」
「聖女になるためにはこの人の血が必要だなんて知らなかったのです……」
「そんな……聖女になれないなんて……。ずっと、ジルベルト様の聖女になりたかったのに……うぅ……」
マリーベルは泣き崩れている。ジルベルトは呆然としていたが、聖女を得られないことを理解したらしい。
「どういうことですか! マリーベルが聖女になれないなんて聞いていません。聖女がいないなら私の領地はどうなるのですか!」
「それは国王陛下との約束どおり領主の座から降りてもらうしかないな」
興奮するジルベルトにクリストファー様が答える。しかし、ジルベルトは認めない。
「いえ、時間はかかりますがマリーベルには力があります。聖女になれなくても領地は癒やせるはずです。先日もクリストファー殿下とフィオナ嬢に癒やしていただきました。状況は改善しています」
「だが、約束の期限には無理だろう。カレンベルクの一族の中には強い力を持つ者がいない。聖女を迎えるから約束を守れるのだろう? 聖女がいなければ領地は癒やせないと言っていたではないか。国としては聖女がいなくてもカレンベルクでなんとかできるのであれば良かったのだ。でも、それは出来ないと言った」
「私は騙されただけです!」
「では、領民たちはいつまで待てば良いのだ! 領主であれば一番に考えるのは領地や領民のことであろう? それに国王陛下との約束を反故にするつもりか」
「それは……。土地を癒やせるものがいれば問題ありません。マリーベルだけで力が足りないというなら、私たちを騙したルーンの家から慰謝料として力のある人間を複数回してもらえればなんとかなります。力の強い女性なら宰相が抱えているではありませんか」
ジルベルトはマリーベルだけで不足するなら他に人を寄越せと図々しい要求をしてくた。険しかったお父様の顔がさらに険しくなる。
「国王陛下の指示が無い限り、我が家は支援をするつもりは一切ないぞ。マリーベルが良いと言ったのは君じゃないか。リリアーナとの婚約破棄に対する慰謝料も受け取っていない。リリアーナも私にとっては可愛い娘だ。そもそも、私はマリーベルが聖女になれないとは知らなかったし、なれるとも一言も言っていない。我が家も被害者だ」
「そ、それはリリアーナに力が無かったからで……」
「それは今関係ないだろ。期限までに領地を癒やすことが条件だった。それが守られないなら国からの支援ももう終わりだ。そもそも、これまでの支援に対する負債も支払えるのか?」
お父様に続いてクリストファー様も支援をするつもりはないと宣言した。
「あれは支援であって返済なんて……」
「他の領地は何かあった場合は状況が改善すれば返済している。前回の支援で土地を回復させる場合は請求すると伝えてあっただろう? 一向に改善しないから返済を待っていただけだ。そもそも、支援物資の提供、税金の免除や返済の減額など他の領地より優遇している」
「では、私たちはどうなるのですか? 本当にクリストファー殿下が領主になられるのですか? 領主になったとしても聖女がいないではありませんか。条件は同じです」
「それなら問題ない。そもそも私の力は君たちより遙かに強い。それに聖女を迎える予定だ」
「どこに聖女が? 血以外にも例外的に聖女になれる女性が? 私の領地を癒やしたフィオナという女性でしょうか。であれば、私に聖女を……」
「ジルベルトはマリーベルと結婚したばかりではないか。それに私が迎える聖女はジルベルトに要らないと言われていたぞ」
クリストファー様の言葉にジルベルトは不思議そうな顔をする。しばらく考えを巡らせたあと、わたしを見て鼻で笑った。
「まさか、リリアーナと? ご冗談を。リリアーナは聖女ではありませんよ。いつまで経っても力を発現しない無能力者ですよ。リリアーナこそ、宰相の娘か疑わしいものです」
お父様はお芝居ではなく、ショックを受けているようにも見えた。わたしの話を信じていなかったわけではなくても、実際に真実を目の当たりにするとやはりショックなのだろう。
もちろん、お母様には身に覚えがあるし、明らかに動揺していた。お母様の様子をみたマリーベルがお母様を問い詰める。
「お母様。わたしはお父様の娘ですよね? 何かの間違いだと言ってください」
「…………」
「お母様!」
「……マリーベルは主人の娘です。契約ができないはずがありません。何かの間違いではないのですか? もう一度、儀式をやり直しでください」
お母様はしらばっくれるつもりらしい。なんと往生際の悪い人だろう。クリストファー様はそんなお母様を追求する。
「宰相夫人。あなたの娘のマリーベルは本当に宰相の娘なのですか? あなたはご存じないのかもしれませんが、この儀式は『ルーン』の当主の血が流れていれば問題無く行えるはずですよ。もちろん、他に条件はありますが……。あなたには宰相と結婚する前に交際していた男性がいましたよね。ずっと続いていたのではありませんか?」
「なんてことを仰るのですか。いくら王弟殿下とはいえ失礼にもほどがあります」
「否定されるのですね……。残念です」
「……何が残念だと仰るのですか?」
「いえ、少し調べさせていただいたのですよ。ご自身で本当のことを言っていただけると期待したのですが……」
長い沈黙のあと、観念したのかついにお母様が口を開いた。
「……マリーベルはおそらくわたくしが愛した人の娘です。わたくしには結婚を誓い合う人がいましたが無理やりこの家に嫁がされました。わたくしはリリアーナを生んで責任は果たしています。それなのにリリアーナには力が無いなんてわたくしの結婚は無意味だったのです……。わたくしだって愛する人と結婚したかった。でも出来なかった。だから、わたくしはマリーベルはあの人の子どもだと思い大切に育ててきたのです」
「お母様、わたしは聖女になれないのですか? どうしてお父様の娘ではないのですか?」
「聖女になるためにはこの人の血が必要だなんて知らなかったのです……」
「そんな……聖女になれないなんて……。ずっと、ジルベルト様の聖女になりたかったのに……うぅ……」
マリーベルは泣き崩れている。ジルベルトは呆然としていたが、聖女を得られないことを理解したらしい。
「どういうことですか! マリーベルが聖女になれないなんて聞いていません。聖女がいないなら私の領地はどうなるのですか!」
「それは国王陛下との約束どおり領主の座から降りてもらうしかないな」
興奮するジルベルトにクリストファー様が答える。しかし、ジルベルトは認めない。
「いえ、時間はかかりますがマリーベルには力があります。聖女になれなくても領地は癒やせるはずです。先日もクリストファー殿下とフィオナ嬢に癒やしていただきました。状況は改善しています」
「だが、約束の期限には無理だろう。カレンベルクの一族の中には強い力を持つ者がいない。聖女を迎えるから約束を守れるのだろう? 聖女がいなければ領地は癒やせないと言っていたではないか。国としては聖女がいなくてもカレンベルクでなんとかできるのであれば良かったのだ。でも、それは出来ないと言った」
「私は騙されただけです!」
「では、領民たちはいつまで待てば良いのだ! 領主であれば一番に考えるのは領地や領民のことであろう? それに国王陛下との約束を反故にするつもりか」
「それは……。土地を癒やせるものがいれば問題ありません。マリーベルだけで力が足りないというなら、私たちを騙したルーンの家から慰謝料として力のある人間を複数回してもらえればなんとかなります。力の強い女性なら宰相が抱えているではありませんか」
ジルベルトはマリーベルだけで不足するなら他に人を寄越せと図々しい要求をしてくた。険しかったお父様の顔がさらに険しくなる。
「国王陛下の指示が無い限り、我が家は支援をするつもりは一切ないぞ。マリーベルが良いと言ったのは君じゃないか。リリアーナとの婚約破棄に対する慰謝料も受け取っていない。リリアーナも私にとっては可愛い娘だ。そもそも、私はマリーベルが聖女になれないとは知らなかったし、なれるとも一言も言っていない。我が家も被害者だ」
「そ、それはリリアーナに力が無かったからで……」
「それは今関係ないだろ。期限までに領地を癒やすことが条件だった。それが守られないなら国からの支援ももう終わりだ。そもそも、これまでの支援に対する負債も支払えるのか?」
お父様に続いてクリストファー様も支援をするつもりはないと宣言した。
「あれは支援であって返済なんて……」
「他の領地は何かあった場合は状況が改善すれば返済している。前回の支援で土地を回復させる場合は請求すると伝えてあっただろう? 一向に改善しないから返済を待っていただけだ。そもそも、支援物資の提供、税金の免除や返済の減額など他の領地より優遇している」
「では、私たちはどうなるのですか? 本当にクリストファー殿下が領主になられるのですか? 領主になったとしても聖女がいないではありませんか。条件は同じです」
「それなら問題ない。そもそも私の力は君たちより遙かに強い。それに聖女を迎える予定だ」
「どこに聖女が? 血以外にも例外的に聖女になれる女性が? 私の領地を癒やしたフィオナという女性でしょうか。であれば、私に聖女を……」
「ジルベルトはマリーベルと結婚したばかりではないか。それに私が迎える聖女はジルベルトに要らないと言われていたぞ」
クリストファー様の言葉にジルベルトは不思議そうな顔をする。しばらく考えを巡らせたあと、わたしを見て鼻で笑った。
「まさか、リリアーナと? ご冗談を。リリアーナは聖女ではありませんよ。いつまで経っても力を発現しない無能力者ですよ。リリアーナこそ、宰相の娘か疑わしいものです」
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