39 / 42
37.聖女の条件
しおりを挟む
マリーベルはお父様の娘ではない。そんなことを言われてこの場にいる人間は皆困惑している。
お父様はお芝居ではなく、ショックを受けているようにも見えた。わたしの話を信じていなかったわけではなくても、実際に真実を目の当たりにするとやはりショックなのだろう。
もちろん、お母様には身に覚えがあるし、明らかに動揺していた。お母様の様子をみたマリーベルがお母様を問い詰める。
「お母様。わたしはお父様の娘ですよね? 何かの間違いだと言ってください」
「…………」
「お母様!」
「……マリーベルは主人の娘です。契約ができないはずがありません。何かの間違いではないのですか? もう一度、儀式をやり直しでください」
お母様はしらばっくれるつもりらしい。なんと往生際の悪い人だろう。クリストファー様はそんなお母様を追求する。
「宰相夫人。あなたの娘のマリーベルは本当に宰相の娘なのですか? あなたはご存じないのかもしれませんが、この儀式は『ルーン』の当主の血が流れていれば問題無く行えるはずですよ。もちろん、他に条件はありますが……。あなたには宰相と結婚する前に交際していた男性がいましたよね。ずっと続いていたのではありませんか?」
「なんてことを仰るのですか。いくら王弟殿下とはいえ失礼にもほどがあります」
「否定されるのですね……。残念です」
「……何が残念だと仰るのですか?」
「いえ、少し調べさせていただいたのですよ。ご自身で本当のことを言っていただけると期待したのですが……」
長い沈黙のあと、観念したのかついにお母様が口を開いた。
「……マリーベルはおそらくわたくしが愛した人の娘です。わたくしには結婚を誓い合う人がいましたが無理やりこの家に嫁がされました。わたくしはリリアーナを生んで責任は果たしています。それなのにリリアーナには力が無いなんてわたくしの結婚は無意味だったのです……。わたくしだって愛する人と結婚したかった。でも出来なかった。だから、わたくしはマリーベルはあの人の子どもだと思い大切に育ててきたのです」
「お母様、わたしは聖女になれないのですか? どうしてお父様の娘ではないのですか?」
「聖女になるためにはこの人の血が必要だなんて知らなかったのです……」
「そんな……聖女になれないなんて……。ずっと、ジルベルト様の聖女になりたかったのに……うぅ……」
マリーベルは泣き崩れている。ジルベルトは呆然としていたが、聖女を得られないことを理解したらしい。
「どういうことですか! マリーベルが聖女になれないなんて聞いていません。聖女がいないなら私の領地はどうなるのですか!」
「それは国王陛下との約束どおり領主の座から降りてもらうしかないな」
興奮するジルベルトにクリストファー様が答える。しかし、ジルベルトは認めない。
「いえ、時間はかかりますがマリーベルには力があります。聖女になれなくても領地は癒やせるはずです。先日もクリストファー殿下とフィオナ嬢に癒やしていただきました。状況は改善しています」
「だが、約束の期限には無理だろう。カレンベルクの一族の中には強い力を持つ者がいない。聖女を迎えるから約束を守れるのだろう? 聖女がいなければ領地は癒やせないと言っていたではないか。国としては聖女がいなくてもカレンベルクでなんとかできるのであれば良かったのだ。でも、それは出来ないと言った」
「私は騙されただけです!」
「では、領民たちはいつまで待てば良いのだ! 領主であれば一番に考えるのは領地や領民のことであろう? それに国王陛下との約束を反故にするつもりか」
「それは……。土地を癒やせるものがいれば問題ありません。マリーベルだけで力が足りないというなら、私たちを騙したルーンの家から慰謝料として力のある人間を複数回してもらえればなんとかなります。力の強い女性なら宰相が抱えているではありませんか」
ジルベルトはマリーベルだけで不足するなら他に人を寄越せと図々しい要求をしてくた。険しかったお父様の顔がさらに険しくなる。
「国王陛下の指示が無い限り、我が家は支援をするつもりは一切ないぞ。マリーベルが良いと言ったのは君じゃないか。リリアーナとの婚約破棄に対する慰謝料も受け取っていない。リリアーナも私にとっては可愛い娘だ。そもそも、私はマリーベルが聖女になれないとは知らなかったし、なれるとも一言も言っていない。我が家も被害者だ」
「そ、それはリリアーナに力が無かったからで……」
「それは今関係ないだろ。期限までに領地を癒やすことが条件だった。それが守られないなら国からの支援ももう終わりだ。そもそも、これまでの支援に対する負債も支払えるのか?」
お父様に続いてクリストファー様も支援をするつもりはないと宣言した。
「あれは支援であって返済なんて……」
「他の領地は何かあった場合は状況が改善すれば返済している。前回の支援で土地を回復させる場合は請求すると伝えてあっただろう? 一向に改善しないから返済を待っていただけだ。そもそも、支援物資の提供、税金の免除や返済の減額など他の領地より優遇している」
「では、私たちはどうなるのですか? 本当にクリストファー殿下が領主になられるのですか? 領主になったとしても聖女がいないではありませんか。条件は同じです」
「それなら問題ない。そもそも私の力は君たちより遙かに強い。それに聖女を迎える予定だ」
「どこに聖女が? 血以外にも例外的に聖女になれる女性が? 私の領地を癒やしたフィオナという女性でしょうか。であれば、私に聖女を……」
「ジルベルトはマリーベルと結婚したばかりではないか。それに私が迎える聖女はジルベルトに要らないと言われていたぞ」
クリストファー様の言葉にジルベルトは不思議そうな顔をする。しばらく考えを巡らせたあと、わたしを見て鼻で笑った。
「まさか、リリアーナと? ご冗談を。リリアーナは聖女ではありませんよ。いつまで経っても力を発現しない無能力者ですよ。リリアーナこそ、宰相の娘か疑わしいものです」
お父様はお芝居ではなく、ショックを受けているようにも見えた。わたしの話を信じていなかったわけではなくても、実際に真実を目の当たりにするとやはりショックなのだろう。
もちろん、お母様には身に覚えがあるし、明らかに動揺していた。お母様の様子をみたマリーベルがお母様を問い詰める。
「お母様。わたしはお父様の娘ですよね? 何かの間違いだと言ってください」
「…………」
「お母様!」
「……マリーベルは主人の娘です。契約ができないはずがありません。何かの間違いではないのですか? もう一度、儀式をやり直しでください」
お母様はしらばっくれるつもりらしい。なんと往生際の悪い人だろう。クリストファー様はそんなお母様を追求する。
「宰相夫人。あなたの娘のマリーベルは本当に宰相の娘なのですか? あなたはご存じないのかもしれませんが、この儀式は『ルーン』の当主の血が流れていれば問題無く行えるはずですよ。もちろん、他に条件はありますが……。あなたには宰相と結婚する前に交際していた男性がいましたよね。ずっと続いていたのではありませんか?」
「なんてことを仰るのですか。いくら王弟殿下とはいえ失礼にもほどがあります」
「否定されるのですね……。残念です」
「……何が残念だと仰るのですか?」
「いえ、少し調べさせていただいたのですよ。ご自身で本当のことを言っていただけると期待したのですが……」
長い沈黙のあと、観念したのかついにお母様が口を開いた。
「……マリーベルはおそらくわたくしが愛した人の娘です。わたくしには結婚を誓い合う人がいましたが無理やりこの家に嫁がされました。わたくしはリリアーナを生んで責任は果たしています。それなのにリリアーナには力が無いなんてわたくしの結婚は無意味だったのです……。わたくしだって愛する人と結婚したかった。でも出来なかった。だから、わたくしはマリーベルはあの人の子どもだと思い大切に育ててきたのです」
「お母様、わたしは聖女になれないのですか? どうしてお父様の娘ではないのですか?」
「聖女になるためにはこの人の血が必要だなんて知らなかったのです……」
「そんな……聖女になれないなんて……。ずっと、ジルベルト様の聖女になりたかったのに……うぅ……」
マリーベルは泣き崩れている。ジルベルトは呆然としていたが、聖女を得られないことを理解したらしい。
「どういうことですか! マリーベルが聖女になれないなんて聞いていません。聖女がいないなら私の領地はどうなるのですか!」
「それは国王陛下との約束どおり領主の座から降りてもらうしかないな」
興奮するジルベルトにクリストファー様が答える。しかし、ジルベルトは認めない。
「いえ、時間はかかりますがマリーベルには力があります。聖女になれなくても領地は癒やせるはずです。先日もクリストファー殿下とフィオナ嬢に癒やしていただきました。状況は改善しています」
「だが、約束の期限には無理だろう。カレンベルクの一族の中には強い力を持つ者がいない。聖女を迎えるから約束を守れるのだろう? 聖女がいなければ領地は癒やせないと言っていたではないか。国としては聖女がいなくてもカレンベルクでなんとかできるのであれば良かったのだ。でも、それは出来ないと言った」
「私は騙されただけです!」
「では、領民たちはいつまで待てば良いのだ! 領主であれば一番に考えるのは領地や領民のことであろう? それに国王陛下との約束を反故にするつもりか」
「それは……。土地を癒やせるものがいれば問題ありません。マリーベルだけで力が足りないというなら、私たちを騙したルーンの家から慰謝料として力のある人間を複数回してもらえればなんとかなります。力の強い女性なら宰相が抱えているではありませんか」
ジルベルトはマリーベルだけで不足するなら他に人を寄越せと図々しい要求をしてくた。険しかったお父様の顔がさらに険しくなる。
「国王陛下の指示が無い限り、我が家は支援をするつもりは一切ないぞ。マリーベルが良いと言ったのは君じゃないか。リリアーナとの婚約破棄に対する慰謝料も受け取っていない。リリアーナも私にとっては可愛い娘だ。そもそも、私はマリーベルが聖女になれないとは知らなかったし、なれるとも一言も言っていない。我が家も被害者だ」
「そ、それはリリアーナに力が無かったからで……」
「それは今関係ないだろ。期限までに領地を癒やすことが条件だった。それが守られないなら国からの支援ももう終わりだ。そもそも、これまでの支援に対する負債も支払えるのか?」
お父様に続いてクリストファー様も支援をするつもりはないと宣言した。
「あれは支援であって返済なんて……」
「他の領地は何かあった場合は状況が改善すれば返済している。前回の支援で土地を回復させる場合は請求すると伝えてあっただろう? 一向に改善しないから返済を待っていただけだ。そもそも、支援物資の提供、税金の免除や返済の減額など他の領地より優遇している」
「では、私たちはどうなるのですか? 本当にクリストファー殿下が領主になられるのですか? 領主になったとしても聖女がいないではありませんか。条件は同じです」
「それなら問題ない。そもそも私の力は君たちより遙かに強い。それに聖女を迎える予定だ」
「どこに聖女が? 血以外にも例外的に聖女になれる女性が? 私の領地を癒やしたフィオナという女性でしょうか。であれば、私に聖女を……」
「ジルベルトはマリーベルと結婚したばかりではないか。それに私が迎える聖女はジルベルトに要らないと言われていたぞ」
クリストファー様の言葉にジルベルトは不思議そうな顔をする。しばらく考えを巡らせたあと、わたしを見て鼻で笑った。
「まさか、リリアーナと? ご冗談を。リリアーナは聖女ではありませんよ。いつまで経っても力を発現しない無能力者ですよ。リリアーナこそ、宰相の娘か疑わしいものです」
74
お気に入りに追加
816
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします
宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。
しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。
そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。
彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか?
中世ヨーロッパ風のお話です。
HOTにランクインしました。ありがとうございます!
ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです!
ありがとうございます!
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました
常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。
裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。
ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。

【完結】婚約破棄されたけど、なぜか冷酷公爵が猛アプローチしてきます
21時完結
恋愛
婚約者である王太子からの突然の婚約破棄。
「お前とは政略結婚だったが、本当に愛する人と結婚する」
そう言われた公爵令嬢のエリスは、社交界の前で屈辱を味わう。だが、そこで思いがけない人物が口を開いた。
「ならば、俺と結婚しよう」
冷酷と名高い公爵、アレクシスが突如彼女に求婚したのだ。戸惑うエリスだったが、彼の真剣な眼差しに流されるように婚約を承諾することに。
しかし、結婚後の彼はなぜか溺愛モード全開!
「お前は俺のものだ。他の男に微笑むな」
「昔からお前が欲しくてたまらなかった」
冷徹な仮面を外し、愛を隠そうとしない公爵に、エリスは困惑するばかり。
さらには、婚約破棄したはずの王太子が、彼女を取り戻そうと動き出して…?
これは、婚約破棄から始まる、冷酷公爵の一途な溺愛物語。
「もう絶対に離さない」
――愛を隠していた男の、猛攻が今始まる!
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます
21時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。
エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。
悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる