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26.現状確認
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クリストファー様の言葉に村人の中には涙を流して喜んでいる人もいた。
ここは一度目の人生でも、わたしから力を奪いすぎてしまうくらい枯れているのだから、村人たちの喜びも相当なもののようだ。二度目の人生の方が状況は悪化しているような気がする。
「改めまして、フィオナと申します。国王陛下の命で参りました。すぐに状況を改善することは難しいと思いますが、できる限りのことはさせていただきますので、どうかご協力をお願いいたします」
わたしは安心してもらえるよう笑顔を作って挨拶をする。色んなところから「これで助かるぞ」「ありがとうございます」などと言った声が聞こえてきた。
本当にぎりぎりのところなのね。もう少し遅かったらどうなってしまっていたのかしら……。
「村長、詳しい話をきかせてもらいたい」
「はい。どうぞこちらへ。ご案内いたします」
わたしたちは村長の家に案内された。部屋には村長だけでなく、村長を補佐している者やクリストファー様の護衛もいる。関係のない者はいないはずだが、部屋の中は少々窮屈かもしれない。
村長たちは緊張した面持ちだ。申し訳なく思いながらも、わたしたちはこの村の状況を詳しく教えてもらうことにする。
「――という状況でございます。王弟殿下、フィオナ様。どうかこの村をお救いください……」
わたしたちは思わず顔を見合わせる。
予想通りといえばそうなのだが、届いているはずの支援はほぼ届いていないし、癒やしの力もしばらく使われていないのだ。
記録上ではもう少し届いていたはずだし、領主の命令で管理者が力を使ったはず。
やっぱり……。
「状況はわかった。すぐにでも癒やしが必要な状態のようだ。しかし、おかしな話だな。こちらへの報告ではもう少し支援は届いているはずだし、癒やしも行われていると届いている」
「そんな……我々は多少の納税を免除していただいたくらいで……」
村長を始め、この場にいる人々の顔からはショックを隠せていない。クリストファー様も険しい表情だ。
「納税の免除?」
「は、はい。領主様のご厚意で……」
「それもおかしい。この領地の中でも特に苦しい土地は国から全額免除するように通達されている。この村もその対象だ」
「本当ですか?」
「あぁ、間違いない。ところで、最後に癒やしが行われたのはいつだ?」
「三年ほど前になります」
そんなにも前なの?
それでも、三年前に癒やしがきちんと行われたのであればもう少し良い状態のはずだ。わたしは思わず訊かずにはいられなかった。
「力を流した場所はわかりますか?」
「はい。地図を用意させます」
村長はそう言って地図を持ってくるよう指示をだした。
「こちらの箇所になります」
わたしたちは用意してもらった地図を元に癒やしが行われた場所を確認する。
おかしい……。ここじゃない。
クリストファー様もわたしの表情で察したようだ。
「フィオナ、もしかして……」
「えぇ。わたしが知っている場所ではありません。あまり効果がなかったのはそのせいかもしれませんね。三年前にしっかりと回復させていればこのような状態にはなっていないでしょうから……」
「場所が違うのでしょうか?」
「はい。わたしはここに来る前に城に保管してある資料や宰相の力をお借りして、力を流す場所を確認してきましたから……」
正確な場所がわかる理由は一度目の人生での経験のおかげだ。もちろん、そんなことは言えないのでわたしは適当なことを言ってごまかした。
本来ならば力を流す場所はしっかり管理されているはずなのに……。
わたしたちのようにある程度、強い力があれば効率良く力が伝わる場所がわかる。力が弱くても、この場所で癒やしの力を使えば土地は良い状態をある程度維持できるのだ。そのため、領主たちはその場所を大切に守り、管理する。
そんな大事な場所を紛失しているなんて……。もしかして、わざとなの?
わたしがもやもやと考えているとクリストファー様は村長たちに頭を下げた。クリストファー様の行動に周りの人たちが慌てる。
あぁ、この方はジルベルトと違って本当に誠実な方だわ……。やっぱり、クリストファー様のような方にこの土地を治めてほしい。
「すまない。国の責任だ」
「頭をお上げください。お話を聞いたところ、かなりの支援をしてくださっていたご様子。国王陛下や王弟殿下のせいではございません」
村長は必死に頭を上げるようにお願いするが、クリストファー様は頭を下げたままだ。
「いや、それでも我々の責任だ。管理を怠っていた結果がこれだ。これほどまでに、民に不自由な暮らしをさせていたとは……」
「クリストファー殿下。ここで後悔するよりも早く、癒やしを行いましょう。わたしも同じ気持ちですが、その方がずっと建設的だと思います。それに、クリストファー殿下にそのようにされてしまうと村人たちも困ってしまいますわ」
わたしは悔やんでいるクリストファー様にこれからを考えようと提案した。これは、自分自身に言い聞かせた言葉でもある。
「そうだな。今日はもう暗くなるから明日からでも良いだろうか? 念のため、調査を行ってから癒やしを行いたい。場所が違っていては問題だからな」
「そんな……。むしろありがたいお話です。早速、明日から癒やしを行っていただけるなんて……」
「ただし、条件がある」
「条件ですか?」
「今、話した内容を周囲に漏らさないようにしてもらいたい」
「どうしてでしょうか? このことを知れば皆安心すると思うのですが……」
「明日から癒やしに取りかかることは話しても構わない。だが、今回の件は領主の関与が疑われる。村人がそのことを知れば危険な目に遭うかもしれない」
「領主様が……? 村人が危険な目に……?」
「あぁ、しかも、領主に問題があったとなれば村人もショックを受けるだろう。ある程度、今後の見通しが立つまで待ってほしい。それに、黒幕に気がつかれて証拠を隠されても困る。不正を正さねば、いくら支援を行っても暮らしは楽にならないだろう」
「わかりました。ここでのお話は絶対に外には漏らしません」
周囲にいた人も硬い表情で頷いた。
ここは一度目の人生でも、わたしから力を奪いすぎてしまうくらい枯れているのだから、村人たちの喜びも相当なもののようだ。二度目の人生の方が状況は悪化しているような気がする。
「改めまして、フィオナと申します。国王陛下の命で参りました。すぐに状況を改善することは難しいと思いますが、できる限りのことはさせていただきますので、どうかご協力をお願いいたします」
わたしは安心してもらえるよう笑顔を作って挨拶をする。色んなところから「これで助かるぞ」「ありがとうございます」などと言った声が聞こえてきた。
本当にぎりぎりのところなのね。もう少し遅かったらどうなってしまっていたのかしら……。
「村長、詳しい話をきかせてもらいたい」
「はい。どうぞこちらへ。ご案内いたします」
わたしたちは村長の家に案内された。部屋には村長だけでなく、村長を補佐している者やクリストファー様の護衛もいる。関係のない者はいないはずだが、部屋の中は少々窮屈かもしれない。
村長たちは緊張した面持ちだ。申し訳なく思いながらも、わたしたちはこの村の状況を詳しく教えてもらうことにする。
「――という状況でございます。王弟殿下、フィオナ様。どうかこの村をお救いください……」
わたしたちは思わず顔を見合わせる。
予想通りといえばそうなのだが、届いているはずの支援はほぼ届いていないし、癒やしの力もしばらく使われていないのだ。
記録上ではもう少し届いていたはずだし、領主の命令で管理者が力を使ったはず。
やっぱり……。
「状況はわかった。すぐにでも癒やしが必要な状態のようだ。しかし、おかしな話だな。こちらへの報告ではもう少し支援は届いているはずだし、癒やしも行われていると届いている」
「そんな……我々は多少の納税を免除していただいたくらいで……」
村長を始め、この場にいる人々の顔からはショックを隠せていない。クリストファー様も険しい表情だ。
「納税の免除?」
「は、はい。領主様のご厚意で……」
「それもおかしい。この領地の中でも特に苦しい土地は国から全額免除するように通達されている。この村もその対象だ」
「本当ですか?」
「あぁ、間違いない。ところで、最後に癒やしが行われたのはいつだ?」
「三年ほど前になります」
そんなにも前なの?
それでも、三年前に癒やしがきちんと行われたのであればもう少し良い状態のはずだ。わたしは思わず訊かずにはいられなかった。
「力を流した場所はわかりますか?」
「はい。地図を用意させます」
村長はそう言って地図を持ってくるよう指示をだした。
「こちらの箇所になります」
わたしたちは用意してもらった地図を元に癒やしが行われた場所を確認する。
おかしい……。ここじゃない。
クリストファー様もわたしの表情で察したようだ。
「フィオナ、もしかして……」
「えぇ。わたしが知っている場所ではありません。あまり効果がなかったのはそのせいかもしれませんね。三年前にしっかりと回復させていればこのような状態にはなっていないでしょうから……」
「場所が違うのでしょうか?」
「はい。わたしはここに来る前に城に保管してある資料や宰相の力をお借りして、力を流す場所を確認してきましたから……」
正確な場所がわかる理由は一度目の人生での経験のおかげだ。もちろん、そんなことは言えないのでわたしは適当なことを言ってごまかした。
本来ならば力を流す場所はしっかり管理されているはずなのに……。
わたしたちのようにある程度、強い力があれば効率良く力が伝わる場所がわかる。力が弱くても、この場所で癒やしの力を使えば土地は良い状態をある程度維持できるのだ。そのため、領主たちはその場所を大切に守り、管理する。
そんな大事な場所を紛失しているなんて……。もしかして、わざとなの?
わたしがもやもやと考えているとクリストファー様は村長たちに頭を下げた。クリストファー様の行動に周りの人たちが慌てる。
あぁ、この方はジルベルトと違って本当に誠実な方だわ……。やっぱり、クリストファー様のような方にこの土地を治めてほしい。
「すまない。国の責任だ」
「頭をお上げください。お話を聞いたところ、かなりの支援をしてくださっていたご様子。国王陛下や王弟殿下のせいではございません」
村長は必死に頭を上げるようにお願いするが、クリストファー様は頭を下げたままだ。
「いや、それでも我々の責任だ。管理を怠っていた結果がこれだ。これほどまでに、民に不自由な暮らしをさせていたとは……」
「クリストファー殿下。ここで後悔するよりも早く、癒やしを行いましょう。わたしも同じ気持ちですが、その方がずっと建設的だと思います。それに、クリストファー殿下にそのようにされてしまうと村人たちも困ってしまいますわ」
わたしは悔やんでいるクリストファー様にこれからを考えようと提案した。これは、自分自身に言い聞かせた言葉でもある。
「そうだな。今日はもう暗くなるから明日からでも良いだろうか? 念のため、調査を行ってから癒やしを行いたい。場所が違っていては問題だからな」
「そんな……。むしろありがたいお話です。早速、明日から癒やしを行っていただけるなんて……」
「ただし、条件がある」
「条件ですか?」
「今、話した内容を周囲に漏らさないようにしてもらいたい」
「どうしてでしょうか? このことを知れば皆安心すると思うのですが……」
「明日から癒やしに取りかかることは話しても構わない。だが、今回の件は領主の関与が疑われる。村人がそのことを知れば危険な目に遭うかもしれない」
「領主様が……? 村人が危険な目に……?」
「あぁ、しかも、領主に問題があったとなれば村人もショックを受けるだろう。ある程度、今後の見通しが立つまで待ってほしい。それに、黒幕に気がつかれて証拠を隠されても困る。不正を正さねば、いくら支援を行っても暮らしは楽にならないだろう」
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