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25.思い入れのある場所
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クリストファー様はすぐに馬車を止めると調査をするように指示を出した。指示を受けた人間は馬を操り、ものすごいスピードでわたしたちから離れていく。伝令用の鳥もどこかへ飛んでいった。
王弟殿下の移動とあって今回の視察に同行する人間はそれなりにいる。一人いなくなってもわからないだろう。
再び、馬車が動きだした。目的地はここからそこまで遠くない。
「さて、これでひとまずは安心かな。しっかりと調査してくれると思うよ」
「はい。もうすぐ目的地ですよね? 特に気になっている場所だったので来ることができてよかったです」
「特に気になっているって何か特別な思い入れでも?」
「お話していませんでしたでしょうか? あそこはわたしが一度目の人生を終えた土地なんです」
「え?」
「特に枯れていた土地だったので、どうなっているのかずっと気になっていたんですよ」
わたしが述べた理由にクリストファー様は焦った顔をする。
そんなに変なことを言ったかしら?
「待って。そんなに笑顔で言うこと?」
「死んでしまったことは無念ではありましたけど、精霊とお会いしてこうして二度目の人生をやり直させていただいてますし……」
「そうだけれど……」
「あのまま生きていてもジルベルトたちに搾取され続ける人生でした。あそこに行ったおかげでとても良い経験をしていると思います。やり直しをさせていただいて本当に感謝しているんです。それに、こうしてクリス様にお会いできましたでしょう?」
怒ったような、悲しそうな複雑な顔をするクリストファー様にわたしは笑顔でこたえた。
「今回、お目にかかれるかもしれないと思ってこの花びらも持ってきましたし」
「あぁ、だから持ってきていたんだね。リリアーナもペンダントにしていたからおそろいにしてくれたのかと思っていたのだけど」
クリストファー様はわたしに顔を寄せてきた。わたしの首に掛かっているペンダントを手に取る。
これってありなのかしら?
過剰なスキンシップのような気がする。
「そ、それもありますけど……」
「良かった。それもあるんだね」
動揺するわたしに対し、先ほどまでの顔とは打って変わって上機嫌なクリストファー様。
急に甘い雰囲気を出さないでほしい。
「と、とにかく、もう着きますから離れてくださいっ」
「残念だ」
ほどなくして馬車が停車し、男女二名が乗ってきた。
ふぅ。これでしばらくは安心ね。
なんとなく絶妙なタイミングを計られているような気もするけれど……。
わたしは心の中で安堵した。
村に入ると村人たちがずらりと出迎えてくれた。一度目の人生でもずいぶん大変そうな暮らしぶりだったが、今回もあまり良い状態とはいえないようだ。
村に活気がないし、明らかに土地が痩せている。それでも一生懸命もてなそうという空気が伝わってくる。
懐かしい……。見覚えのある人たちだわ。やっぱり今回も大変な状況のようね……。
もっと早く来れば良かった。村人たちを目の前にして、後悔と申し訳なさがわたしの中に広がる。
「王弟殿下、よくぞお越しくださいました」
「出迎えありがとう。そんなに仰々しくしなくても良い。私たちは遊びに来たわけではなく、支援物資を届けに来ただけだからね」
「ありがたいことでございます。見ての通り、この村には余裕がありません。本当に首を長くしてお待ちしておりました。こちらは聖女様でしょうか?」
わたしの方にも期待した視線を向ける。
厳密には聖女ではないのだけれど、この村の人にとっては土地を癒やす人間は聖女なのだろう。
「彼女はフィオナ。私の母方の親戚で聖女ではないんだ」
フィオナとはわたしの偽名だ。クリストファー様はご自分のお祖母さまの名前を偽名にしようと言ってきたが、あまりに恐れ多いのでわたしのお祖母さまの名前をお借りした。
「そうですか……」
クリストファー様がわたしを聖女でないと紹介したため、村人たちは明らかにがっかりした顔をする。
重くなった空気のなかで、村人が一人、意を決した顔でクリストファー様の前に飛び出してきた。護衛がとっさに前にでるが、クリストファー様は制止した。
村人はそのままクリストファー様の前で土下座する。
「クリストファー様、どうかこの村で癒やしの力を使っていただけませんか? なんでもいたします。どうかどうかお願いいたします」
突然の行動に、飛び出してきた村人を周囲の人間が押さえ込む。飛び出してきた村人に害意はないが、失礼を働いたことでどうなってしまうのかとその場にいる人間がおびえている。
絶対にこの村をなんとかしないと……。
「お前、王弟殿下になんて失礼な口を! 申し訳ありません。どうかこの者をお許しください。支援物資だけではもうどうにもなりません……。王族の方がいらっしゃるということで土地を癒やしていただけるのではと期待してしまったのです」
「気にしなくて良い。その者を解放してやってくれ。フィオナは聖女ではないが、土地を癒やす力を持っている。今回は宰相の推薦で私に同行してくれることになった。わたしも彼女ほどではないが、土地を癒やす力は持っている。良い場所があれば力を流していくつもりだ。少しは楽になるだろう」
村人たちの中に安堵した空気が広がった。
「本当にありがとうございます」
王弟殿下の移動とあって今回の視察に同行する人間はそれなりにいる。一人いなくなってもわからないだろう。
再び、馬車が動きだした。目的地はここからそこまで遠くない。
「さて、これでひとまずは安心かな。しっかりと調査してくれると思うよ」
「はい。もうすぐ目的地ですよね? 特に気になっている場所だったので来ることができてよかったです」
「特に気になっているって何か特別な思い入れでも?」
「お話していませんでしたでしょうか? あそこはわたしが一度目の人生を終えた土地なんです」
「え?」
「特に枯れていた土地だったので、どうなっているのかずっと気になっていたんですよ」
わたしが述べた理由にクリストファー様は焦った顔をする。
そんなに変なことを言ったかしら?
「待って。そんなに笑顔で言うこと?」
「死んでしまったことは無念ではありましたけど、精霊とお会いしてこうして二度目の人生をやり直させていただいてますし……」
「そうだけれど……」
「あのまま生きていてもジルベルトたちに搾取され続ける人生でした。あそこに行ったおかげでとても良い経験をしていると思います。やり直しをさせていただいて本当に感謝しているんです。それに、こうしてクリス様にお会いできましたでしょう?」
怒ったような、悲しそうな複雑な顔をするクリストファー様にわたしは笑顔でこたえた。
「今回、お目にかかれるかもしれないと思ってこの花びらも持ってきましたし」
「あぁ、だから持ってきていたんだね。リリアーナもペンダントにしていたからおそろいにしてくれたのかと思っていたのだけど」
クリストファー様はわたしに顔を寄せてきた。わたしの首に掛かっているペンダントを手に取る。
これってありなのかしら?
過剰なスキンシップのような気がする。
「そ、それもありますけど……」
「良かった。それもあるんだね」
動揺するわたしに対し、先ほどまでの顔とは打って変わって上機嫌なクリストファー様。
急に甘い雰囲気を出さないでほしい。
「と、とにかく、もう着きますから離れてくださいっ」
「残念だ」
ほどなくして馬車が停車し、男女二名が乗ってきた。
ふぅ。これでしばらくは安心ね。
なんとなく絶妙なタイミングを計られているような気もするけれど……。
わたしは心の中で安堵した。
村に入ると村人たちがずらりと出迎えてくれた。一度目の人生でもずいぶん大変そうな暮らしぶりだったが、今回もあまり良い状態とはいえないようだ。
村に活気がないし、明らかに土地が痩せている。それでも一生懸命もてなそうという空気が伝わってくる。
懐かしい……。見覚えのある人たちだわ。やっぱり今回も大変な状況のようね……。
もっと早く来れば良かった。村人たちを目の前にして、後悔と申し訳なさがわたしの中に広がる。
「王弟殿下、よくぞお越しくださいました」
「出迎えありがとう。そんなに仰々しくしなくても良い。私たちは遊びに来たわけではなく、支援物資を届けに来ただけだからね」
「ありがたいことでございます。見ての通り、この村には余裕がありません。本当に首を長くしてお待ちしておりました。こちらは聖女様でしょうか?」
わたしの方にも期待した視線を向ける。
厳密には聖女ではないのだけれど、この村の人にとっては土地を癒やす人間は聖女なのだろう。
「彼女はフィオナ。私の母方の親戚で聖女ではないんだ」
フィオナとはわたしの偽名だ。クリストファー様はご自分のお祖母さまの名前を偽名にしようと言ってきたが、あまりに恐れ多いのでわたしのお祖母さまの名前をお借りした。
「そうですか……」
クリストファー様がわたしを聖女でないと紹介したため、村人たちは明らかにがっかりした顔をする。
重くなった空気のなかで、村人が一人、意を決した顔でクリストファー様の前に飛び出してきた。護衛がとっさに前にでるが、クリストファー様は制止した。
村人はそのままクリストファー様の前で土下座する。
「クリストファー様、どうかこの村で癒やしの力を使っていただけませんか? なんでもいたします。どうかどうかお願いいたします」
突然の行動に、飛び出してきた村人を周囲の人間が押さえ込む。飛び出してきた村人に害意はないが、失礼を働いたことでどうなってしまうのかとその場にいる人間がおびえている。
絶対にこの村をなんとかしないと……。
「お前、王弟殿下になんて失礼な口を! 申し訳ありません。どうかこの者をお許しください。支援物資だけではもうどうにもなりません……。王族の方がいらっしゃるということで土地を癒やしていただけるのではと期待してしまったのです」
「気にしなくて良い。その者を解放してやってくれ。フィオナは聖女ではないが、土地を癒やす力を持っている。今回は宰相の推薦で私に同行してくれることになった。わたしも彼女ほどではないが、土地を癒やす力は持っている。良い場所があれば力を流していくつもりだ。少しは楽になるだろう」
村人たちの中に安堵した空気が広がった。
「本当にありがとうございます」
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