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24.支援はどこへ?
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わたしはクリストファー様と共にジルベルトの領地に行くことになった。お父様のおかげで、ジルベルトの領地に堂々と行ける。もちろん、わたしは変装する必要があるけれど。
今回の視察の目的は食糧支援や現状の視察だけではない。不正の証拠を掴んだり、領主が交代しても困らないように顔を売ったりする。あまりにもひどいところがあれば力も使うつもりだ。
王家の名前で支援をすれば領民にも感謝されるし、今の領主一族に対する不満は益々高まるだろう。
わたしもあの土地の状態が気になっていたので丁度良かったと思う。
わたしたちは目立つように行動して、その隙に別働隊が調査を行う予定だ。
今は移動中の馬車の中。もちろん車内は二人きり。未婚の男女が二人きりで乗るなんてどうかと思ったけれど、拒否は出来なかった。
一応、人目のあるところでは別の人も馬車に乗る。けれど、人目の無いところに行くと、同乗した人は馬車を降りてしまうのだ。変な気を遣わないでほしい。
隣に並んで座っているからか、クリストファー様はずっとご機嫌だ。
「リリアーナと遠出できるなんてすごく嬉しいよ。しかも、公認だ」
国王陛下やお父様の公認という割には二人にはとても心配されたような気がする。
お父様はわたしに「嫌なことはしっかり嫌だと言うように」と心配そうな顔で言っていたけれど、クリストファー様は「リリアーナが嫌がることは絶対にしませんよ」とニコニコしながら答えていた。
きっと前にわたしが相談したことを心配しているのだと思う。お父様の心配が嬉しい。
国王陛下もクリストファー様をしっかり見張るように言ってあるから安心するよう仰っていたのよね。
あれ? この状態って結局、誰もクリストファー様のこと特に見張っていないような気がするのだけど……。
移動時間ばかりだけれど、馬車の中でもそれなりにやることはある。これから行く場所のことや報告書を確認していればあっという間に時間は過ぎる。
逃げ場の無いところで過剰なアプローチは控えて欲しいと思っていたけれど、わたしの心配しすぎだったみたいだわ。単純に多少のことでは動じなくなってしまっただけなのかもしれないけど……。
たまにじっと見つめてきたり、髪の毛や手を触るくらいなんてたいしたことないわよね。
「公認という割にはずいぶん心配されていたような気もしますけど……」
「ジルベルトの領地は道中何があるかわからないからね。賊も出ていると聞くし」
それだけじゃないような気もするけれど、面倒なことになりそうなので黙っていることにした。
それに確かに賊が出ているという話は心配だわ。生活の苦しさから賊になってしまう人もいるかもしれないもの。
「確かに賊は心配ですね」
「リリアーナは絶対に守るから安心してね」
「ありがとうございます。なるべく足手まといにならないように気をつけます。聞いたところによると、元々普通に暮らしていた領民が賊になっていることもあるとか。領地の問題が改善すれば賊も出なくなるかもしれませんね」
「そうだね」
「それに、場所によってずいぶん生活レベルが違いますよね。あるところはそんなに困っている風でもないのに、違うところでは賊にならないと食べられないなんて……」
「あぁ、今まで報告は求めていたが、どこかでもみ消されてしまっているようだ。多少の真実を混ぜて報告しているからか上手くごまかしていたようだな」
「せっかくの支援も賊に奪われてしまっているそうですし、なんとか解決したいですね」
「支援の収支も再調査しているところだよ。どうも合わない。足りてないと言われていたところは足りているようだし、重点的に支援してきたはずのところに届いていない。今は過去に遡ってどれだけの不正があったか計算しているところだ」
不正があるのは間違いない。それは以前から疑われていた。今まで取り締まれなかったのは全て明らかにしてしまいたかったというのもあるらしい。
それにしても、単純に賊に奪われているだけなのかしら。
一度目の人生でも賊はいた。けれど、わたしは一度も遭遇したことがない。
「クリス様。思ったのですが、賊は何か目的なり理由なりがあって行動しているのでしょうか?」
「そりゃあ、人のものを奪い、楽して私腹を肥やしたいのだろう」
「いえ……。気になっているのは、その私腹を肥やしたいのは誰か、なのです」
「何か気になることでも?」
「一度目の人生でも賊は出ていました。わたしはかなりの期間、領地を旅しましたけど、一度も遭遇したことがないのです。しかも、襲われるのは外から来た者ばかりだったはず」
「それって……」
「聖女を襲うのは罰当たりだからってことはないですよね? 賊なら殺さなくても金品を奪うくらいのことはしてもいいと思うんです。確かに奪うほどのものは持ってませんでしたけど……。今回のことで賊の存在を思い出したくらいです。変ですよね?」
一度目の人生と二度目の人生では私の立ち位置が違う。今回はわたしが力を隠していたせいでジルベルトの領地には国からの支援が手厚い。
「つながりがないか調べよう」
「出没箇所や時期、奪われたものや不自然に増えている物などを探ればつながりが見えてくるかもしれません」
今回の視察の目的は食糧支援や現状の視察だけではない。不正の証拠を掴んだり、領主が交代しても困らないように顔を売ったりする。あまりにもひどいところがあれば力も使うつもりだ。
王家の名前で支援をすれば領民にも感謝されるし、今の領主一族に対する不満は益々高まるだろう。
わたしもあの土地の状態が気になっていたので丁度良かったと思う。
わたしたちは目立つように行動して、その隙に別働隊が調査を行う予定だ。
今は移動中の馬車の中。もちろん車内は二人きり。未婚の男女が二人きりで乗るなんてどうかと思ったけれど、拒否は出来なかった。
一応、人目のあるところでは別の人も馬車に乗る。けれど、人目の無いところに行くと、同乗した人は馬車を降りてしまうのだ。変な気を遣わないでほしい。
隣に並んで座っているからか、クリストファー様はずっとご機嫌だ。
「リリアーナと遠出できるなんてすごく嬉しいよ。しかも、公認だ」
国王陛下やお父様の公認という割には二人にはとても心配されたような気がする。
お父様はわたしに「嫌なことはしっかり嫌だと言うように」と心配そうな顔で言っていたけれど、クリストファー様は「リリアーナが嫌がることは絶対にしませんよ」とニコニコしながら答えていた。
きっと前にわたしが相談したことを心配しているのだと思う。お父様の心配が嬉しい。
国王陛下もクリストファー様をしっかり見張るように言ってあるから安心するよう仰っていたのよね。
あれ? この状態って結局、誰もクリストファー様のこと特に見張っていないような気がするのだけど……。
移動時間ばかりだけれど、馬車の中でもそれなりにやることはある。これから行く場所のことや報告書を確認していればあっという間に時間は過ぎる。
逃げ場の無いところで過剰なアプローチは控えて欲しいと思っていたけれど、わたしの心配しすぎだったみたいだわ。単純に多少のことでは動じなくなってしまっただけなのかもしれないけど……。
たまにじっと見つめてきたり、髪の毛や手を触るくらいなんてたいしたことないわよね。
「公認という割にはずいぶん心配されていたような気もしますけど……」
「ジルベルトの領地は道中何があるかわからないからね。賊も出ていると聞くし」
それだけじゃないような気もするけれど、面倒なことになりそうなので黙っていることにした。
それに確かに賊が出ているという話は心配だわ。生活の苦しさから賊になってしまう人もいるかもしれないもの。
「確かに賊は心配ですね」
「リリアーナは絶対に守るから安心してね」
「ありがとうございます。なるべく足手まといにならないように気をつけます。聞いたところによると、元々普通に暮らしていた領民が賊になっていることもあるとか。領地の問題が改善すれば賊も出なくなるかもしれませんね」
「そうだね」
「それに、場所によってずいぶん生活レベルが違いますよね。あるところはそんなに困っている風でもないのに、違うところでは賊にならないと食べられないなんて……」
「あぁ、今まで報告は求めていたが、どこかでもみ消されてしまっているようだ。多少の真実を混ぜて報告しているからか上手くごまかしていたようだな」
「せっかくの支援も賊に奪われてしまっているそうですし、なんとか解決したいですね」
「支援の収支も再調査しているところだよ。どうも合わない。足りてないと言われていたところは足りているようだし、重点的に支援してきたはずのところに届いていない。今は過去に遡ってどれだけの不正があったか計算しているところだ」
不正があるのは間違いない。それは以前から疑われていた。今まで取り締まれなかったのは全て明らかにしてしまいたかったというのもあるらしい。
それにしても、単純に賊に奪われているだけなのかしら。
一度目の人生でも賊はいた。けれど、わたしは一度も遭遇したことがない。
「クリス様。思ったのですが、賊は何か目的なり理由なりがあって行動しているのでしょうか?」
「そりゃあ、人のものを奪い、楽して私腹を肥やしたいのだろう」
「いえ……。気になっているのは、その私腹を肥やしたいのは誰か、なのです」
「何か気になることでも?」
「一度目の人生でも賊は出ていました。わたしはかなりの期間、領地を旅しましたけど、一度も遭遇したことがないのです。しかも、襲われるのは外から来た者ばかりだったはず」
「それって……」
「聖女を襲うのは罰当たりだからってことはないですよね? 賊なら殺さなくても金品を奪うくらいのことはしてもいいと思うんです。確かに奪うほどのものは持ってませんでしたけど……。今回のことで賊の存在を思い出したくらいです。変ですよね?」
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