聖女じゃないからと婚約破棄されましたが計画通りです。これからあなたの領地をいただきにいきますね。

和泉 凪紗

文字の大きさ
上 下
21 / 42

21.ジルベルトの主張①

しおりを挟む
 ジルベルトは国王陛下に対してなんとか取り繕おうとしている。
 人格が顔に出てしまっているのだろうか。すごく嫌な顔だ。お父様たちは怒りをこらえているようだが、わたしもジルベルトの態度にイライラさせられる。

「では、やはり力を持った宰相の娘が必要か……。聖女を迎えれば土地は回復できると」
「はい。力を持ったマリーベルを迎えるので回復させられます。ですが、一年では難しいかもしれません……」
「いや、一年で行いなさい。この約束が守られない場合、そなたたちを領主一族から降ろし、ここにいるクリストファーを新しい領主にする」
「そ、そんな……。もし、私が期限内に癒やせなかったとして、クリストファー様が新しい領主になってもすぐには癒やせないのではないですか?」
「そなたたち一族では聖女の力がなければ土地を癒やすのは難しいと言ったではないか。これまで十分時間を与えてきたが今の領主一族では土地は枯れていくばかりだ。回復できないのならば一度廃領する。クリストファーは聖女には敵わないがそなたたちより力はあるぞ。宰相の血縁者の中で力が強い者を迎えれば良い。新たに領地を興すのに不足する分は宰相の一族が責任を持って援助してくれるそうだ」
「では、私にも援助していただければ……」

 本当にずうずうしい人間ね。
 これまでも特別扱いを受けてきているというのに。

「何を言う! ジルベルトには宰相の娘がいるだろう。カレンベルクの家では力不足だとリリアーナが幼少の頃から婚約者として定めたのだ。だが、リリアーナでは力不足だと力を持つ者としてマリーベルが嫁ぐことになったのだろう? 宰相の娘は多くの人から望まれていた。そなたの領地が枯れており、国にとっても重要な土地だからこそ宰相の娘が嫁ぐのだ。これまでにも様々な援助があっただろう。どこの領地よりも優遇されているのがわからないのか。それにそなたが期限内に土地を癒やせれば問題ないであろう」
「……はい。仰るとおりでございます」

 国王陛下の表情はわからないが、声はとても厳しい。これは演技ではないだろう。
 ジルベルトはうなだれている。

「しかし、民が苦しむのは不本意である。貸しではあるが、食糧の支援はしよう」
「あ、ありがとうございます」
「陛下、発言をよろしいでしょうか?」
「なんだ、宰相」
「カレンベルクが治める領地は我が娘が嫁ぐ領地です。国王陛下は先ほど、マリーベルがいるから支援は不要と仰いました。しかし、可愛い娘には必要以上に苦労させたくありません。力を持つ者を少し融通したいと思うのですが」

 お父様の言葉にジルベルトが安堵の表情を浮かべる。
 お父様はいったい何を言っているの? 『癒やし』の力の支援だなんて……。
 いいえ、お父様にはきっと何か考えがあるはずだわ。

 お父様の考えがわからないまま話は進んでいく。ジルベルトには明らかに余裕がでてきている。
 これで良いのかしら?

「良いのか、宰相」
「もちろん、国王陛下がお出しになった条件に影響するほどの支援はいたしません。私も領主一族が自力でなんとかすべきだと考えておりますし、支援もいずれ返済してもらうつもりです。私が考えている支援は領地の一部を回り、力を流すべき箇所を明確にすることです。それがわかればマリーベルも効率良く領地を回れるでしょう。おかしなことに力を流すべき場所もわからなくなってしまっているようですから」

 お父様の言葉にジルベルトは露骨にがっかりした顔をした。
 お父様が手配した人間に癒やしてもらえると期待したのだろう。

「不満か? ジルベルト」
「い、いえ、とんでもありません」
「そうか。ならよい。宰相はずいぶん娘思いだと感心したぞ。闇雲に領地を回るのは大変だからな。かなりの支援になるだろう。人選は任せる」
「承知いたしました。調査だけのつもりではありますが、緊急性があり、土地の癒やしが必要だった場合は請求させていただきます」
「緊急性がある場合は仕方ないな。民の生活が一番だ。では、こちらも人を出した方が良いだろう。クリストファー。お前も行きなさい。食糧支援と共にジルベルトの領地を視察しなさい。ジルベルトがしっかりやっているか確認するように。いずれお前が治めるかもしれない土地だ。そのつもりで行くように」
「かしこまりました。食料は責任を持って私が支援を行います」

 スムーズに話が進んでいく。
 やはり、何か考えがあるようだ。わたしだけ知らされていなかったらしい。

「国王陛下のお心遣い感謝いたします」
「支援に対する返済も含めてジルベルトは領主の役目を果たしなさい。駄目だった場合はクリストファーが新領主だ。枯れた土地の領主となるのは大変だがそれも王族の役目だ。クリストファーもよいな」
「はい」

 クリストファー様もまるで打ち合わせなどなかったかのような様子で了承した。

「では、ジルベルトは早急に土地を回復させるように。きちんと聖女を迎え土地を癒やせるかどうかを確認するため、聖女が契約を行う際はクリストファーも立ち会うように」

 今日、ジルベルトを呼び出したのは領地の回復の件についてだけでない。

「あぁ、あと言い忘れていたが、ジルベルトはリリアーナとの婚約破棄に対する慰謝料を支払うように」
「えっ? い、慰謝料ですか?」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします

宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。 しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。 そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。 彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか? 中世ヨーロッパ風のお話です。 HOTにランクインしました。ありがとうございます! ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです! ありがとうございます!

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

処理中です...