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21.ジルベルトの主張①
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ジルベルトは国王陛下に対してなんとか取り繕おうとしている。
人格が顔に出てしまっているのだろうか。すごく嫌な顔だ。お父様たちは怒りをこらえているようだが、わたしもジルベルトの態度にイライラさせられる。
「では、やはり力を持った宰相の娘が必要か……。聖女を迎えれば土地は回復できると」
「はい。力を持ったマリーベルを迎えるので回復させられます。ですが、一年では難しいかもしれません……」
「いや、一年で行いなさい。この約束が守られない場合、そなたたちを領主一族から降ろし、ここにいるクリストファーを新しい領主にする」
「そ、そんな……。もし、私が期限内に癒やせなかったとして、クリストファー様が新しい領主になってもすぐには癒やせないのではないですか?」
「そなたたち一族では聖女の力がなければ土地を癒やすのは難しいと言ったではないか。これまで十分時間を与えてきたが今の領主一族では土地は枯れていくばかりだ。回復できないのならば一度廃領する。クリストファーは聖女には敵わないがそなたたちより力はあるぞ。宰相の血縁者の中で力が強い者を迎えれば良い。新たに領地を興すのに不足する分は宰相の一族が責任を持って援助してくれるそうだ」
「では、私にも援助していただければ……」
本当にずうずうしい人間ね。
これまでも特別扱いを受けてきているというのに。
「何を言う! ジルベルトには宰相の娘がいるだろう。カレンベルクの家では力不足だとリリアーナが幼少の頃から婚約者として定めたのだ。だが、リリアーナでは力不足だと力を持つ者としてマリーベルが嫁ぐことになったのだろう? 宰相の娘は多くの人から望まれていた。そなたの領地が枯れており、国にとっても重要な土地だからこそ宰相の娘が嫁ぐのだ。これまでにも様々な援助があっただろう。どこの領地よりも優遇されているのがわからないのか。それにそなたが期限内に土地を癒やせれば問題ないであろう」
「……はい。仰るとおりでございます」
国王陛下の表情はわからないが、声はとても厳しい。これは演技ではないだろう。
ジルベルトはうなだれている。
「しかし、民が苦しむのは不本意である。貸しではあるが、食糧の支援はしよう」
「あ、ありがとうございます」
「陛下、発言をよろしいでしょうか?」
「なんだ、宰相」
「カレンベルクが治める領地は我が娘が嫁ぐ領地です。国王陛下は先ほど、マリーベルがいるから支援は不要と仰いました。しかし、可愛い娘には必要以上に苦労させたくありません。力を持つ者を少し融通したいと思うのですが」
お父様の言葉にジルベルトが安堵の表情を浮かべる。
お父様はいったい何を言っているの? 『癒やし』の力の支援だなんて……。
いいえ、お父様にはきっと何か考えがあるはずだわ。
お父様の考えがわからないまま話は進んでいく。ジルベルトには明らかに余裕がでてきている。
これで良いのかしら?
「良いのか、宰相」
「もちろん、国王陛下がお出しになった条件に影響するほどの支援はいたしません。私も領主一族が自力でなんとかすべきだと考えておりますし、支援もいずれ返済してもらうつもりです。私が考えている支援は領地の一部を回り、力を流すべき箇所を明確にすることです。それがわかればマリーベルも効率良く領地を回れるでしょう。おかしなことに力を流すべき場所もわからなくなってしまっているようですから」
お父様の言葉にジルベルトは露骨にがっかりした顔をした。
お父様が手配した人間に癒やしてもらえると期待したのだろう。
「不満か? ジルベルト」
「い、いえ、とんでもありません」
「そうか。ならよい。宰相はずいぶん娘思いだと感心したぞ。闇雲に領地を回るのは大変だからな。かなりの支援になるだろう。人選は任せる」
「承知いたしました。調査だけのつもりではありますが、緊急性があり、土地の癒やしが必要だった場合は請求させていただきます」
「緊急性がある場合は仕方ないな。民の生活が一番だ。では、こちらも人を出した方が良いだろう。クリストファー。お前も行きなさい。食糧支援と共にジルベルトの領地を視察しなさい。ジルベルトがしっかりやっているか確認するように。いずれお前が治めるかもしれない土地だ。そのつもりで行くように」
「かしこまりました。食料は責任を持って私が支援を行います」
スムーズに話が進んでいく。
やはり、何か考えがあるようだ。わたしだけ知らされていなかったらしい。
「国王陛下のお心遣い感謝いたします」
「支援に対する返済も含めてジルベルトは領主の役目を果たしなさい。駄目だった場合はクリストファーが新領主だ。枯れた土地の領主となるのは大変だがそれも王族の役目だ。クリストファーもよいな」
「はい」
クリストファー様もまるで打ち合わせなどなかったかのような様子で了承した。
「では、ジルベルトは早急に土地を回復させるように。きちんと聖女を迎え土地を癒やせるかどうかを確認するため、聖女が契約を行う際はクリストファーも立ち会うように」
今日、ジルベルトを呼び出したのは領地の回復の件についてだけでない。
「あぁ、あと言い忘れていたが、ジルベルトはリリアーナとの婚約破棄に対する慰謝料を支払うように」
「えっ? い、慰謝料ですか?」
人格が顔に出てしまっているのだろうか。すごく嫌な顔だ。お父様たちは怒りをこらえているようだが、わたしもジルベルトの態度にイライラさせられる。
「では、やはり力を持った宰相の娘が必要か……。聖女を迎えれば土地は回復できると」
「はい。力を持ったマリーベルを迎えるので回復させられます。ですが、一年では難しいかもしれません……」
「いや、一年で行いなさい。この約束が守られない場合、そなたたちを領主一族から降ろし、ここにいるクリストファーを新しい領主にする」
「そ、そんな……。もし、私が期限内に癒やせなかったとして、クリストファー様が新しい領主になってもすぐには癒やせないのではないですか?」
「そなたたち一族では聖女の力がなければ土地を癒やすのは難しいと言ったではないか。これまで十分時間を与えてきたが今の領主一族では土地は枯れていくばかりだ。回復できないのならば一度廃領する。クリストファーは聖女には敵わないがそなたたちより力はあるぞ。宰相の血縁者の中で力が強い者を迎えれば良い。新たに領地を興すのに不足する分は宰相の一族が責任を持って援助してくれるそうだ」
「では、私にも援助していただければ……」
本当にずうずうしい人間ね。
これまでも特別扱いを受けてきているというのに。
「何を言う! ジルベルトには宰相の娘がいるだろう。カレンベルクの家では力不足だとリリアーナが幼少の頃から婚約者として定めたのだ。だが、リリアーナでは力不足だと力を持つ者としてマリーベルが嫁ぐことになったのだろう? 宰相の娘は多くの人から望まれていた。そなたの領地が枯れており、国にとっても重要な土地だからこそ宰相の娘が嫁ぐのだ。これまでにも様々な援助があっただろう。どこの領地よりも優遇されているのがわからないのか。それにそなたが期限内に土地を癒やせれば問題ないであろう」
「……はい。仰るとおりでございます」
国王陛下の表情はわからないが、声はとても厳しい。これは演技ではないだろう。
ジルベルトはうなだれている。
「しかし、民が苦しむのは不本意である。貸しではあるが、食糧の支援はしよう」
「あ、ありがとうございます」
「陛下、発言をよろしいでしょうか?」
「なんだ、宰相」
「カレンベルクが治める領地は我が娘が嫁ぐ領地です。国王陛下は先ほど、マリーベルがいるから支援は不要と仰いました。しかし、可愛い娘には必要以上に苦労させたくありません。力を持つ者を少し融通したいと思うのですが」
お父様の言葉にジルベルトが安堵の表情を浮かべる。
お父様はいったい何を言っているの? 『癒やし』の力の支援だなんて……。
いいえ、お父様にはきっと何か考えがあるはずだわ。
お父様の考えがわからないまま話は進んでいく。ジルベルトには明らかに余裕がでてきている。
これで良いのかしら?
「良いのか、宰相」
「もちろん、国王陛下がお出しになった条件に影響するほどの支援はいたしません。私も領主一族が自力でなんとかすべきだと考えておりますし、支援もいずれ返済してもらうつもりです。私が考えている支援は領地の一部を回り、力を流すべき箇所を明確にすることです。それがわかればマリーベルも効率良く領地を回れるでしょう。おかしなことに力を流すべき場所もわからなくなってしまっているようですから」
お父様の言葉にジルベルトは露骨にがっかりした顔をした。
お父様が手配した人間に癒やしてもらえると期待したのだろう。
「不満か? ジルベルト」
「い、いえ、とんでもありません」
「そうか。ならよい。宰相はずいぶん娘思いだと感心したぞ。闇雲に領地を回るのは大変だからな。かなりの支援になるだろう。人選は任せる」
「承知いたしました。調査だけのつもりではありますが、緊急性があり、土地の癒やしが必要だった場合は請求させていただきます」
「緊急性がある場合は仕方ないな。民の生活が一番だ。では、こちらも人を出した方が良いだろう。クリストファー。お前も行きなさい。食糧支援と共にジルベルトの領地を視察しなさい。ジルベルトがしっかりやっているか確認するように。いずれお前が治めるかもしれない土地だ。そのつもりで行くように」
「かしこまりました。食料は責任を持って私が支援を行います」
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やはり、何か考えがあるようだ。わたしだけ知らされていなかったらしい。
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今日、ジルベルトを呼び出したのは領地の回復の件についてだけでない。
「あぁ、あと言い忘れていたが、ジルベルトはリリアーナとの婚約破棄に対する慰謝料を支払うように」
「えっ? い、慰謝料ですか?」
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