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18.お父様の思い①
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クリストファー様は本当に遠慮が無くなってしまった。正直、重いし恥ずかしい。
話をしていて尊敬できるし、領地のことや領民のことを考えてくれる人だ。わたしにはもったいないくらいのとても良い人だと思う。
ただ、表現が直接的すぎるのだ。これまでこんなに熱烈にアプローチされたことなどない。どうすればいいのだろうか。
あの時の男の子がこんな風になるなんて……。クリストファー様のお屋敷に行けば人目を気にせずにさらに遠慮がなくなることを考えれば、もう行かない方が良い?
ううん、きっと無理だわ……。断りきれる自信はない。お父様が何も言わないことから考えてもきっと普通のことなのよね?
「はぁ……どうしたら良いの?」
ぼんやりと思い出の懐中時計を見ながら考えていると部屋をノックする音がした。
「リリアーナ、入っても良いかい?」
「どうぞ、お入りください」
お父様が部屋に入ってくる。お父様の視線はわたしの机の上にある懐中時計に向けられた。
「クリストファー殿下のことでも考えていたのかい? 仲が良くてなによりだ」
「どうしておわかりになったのですか?」
「それはクリストファー殿下の物だろう? 細工に特徴がある。かなり昔になくしたと言っていたと思うがリリアーナが持っていたのか」
「えぇ、昔、お父様に連れられて城に行っていた時期がありましたよね。その時にいただきました」
「あぁ、あの時か」
「そういえば、どうしてあの時わたしを城に連れて行ったのですか? 一緒に行っても遊んできなさいとすぐ部屋から追い出されましたよね」
「今のおまえなら信じるだろう。……リリアーナを連れてくるようにと、声が聞こえたんだ」
「わたしが呼ばれたのですか?」
「そうだ。あの時は王妃殿下が体調を崩していたが薬になる植物が上手く育たない。本来であればわたしが力を注げば良いはずだ。それなのに拒否される。そんな時に声が聞こえた」
「お父様でも駄目だったのですか?」
「あぁ。私が手を尽くしても駄目だから周囲も諦めかけていた。それなのに、なぜかリリアーナを連れてこいと聞こえる」
王族やお父様、城の人たちが手を尽くしても駄目だなんて……。それは大事件だわ。
「お父様も声が……。だからわたしの話をすんなりと受け入れてくれたのですね」
「力が無いはずの娘を連れて行って意味があるのか……。藁にもすがる気持ちでリリアーナを連れて行ったんだ。結果として植物が育ち良い薬ができて感謝されたよ」
「では、わたしが力を使ったのをご存じだったのですね? それなのにどうして知らないふりを……」
「不思議な声が何も知らないふりをしなさいと。そして、今後リリアーナが力を使えなくても責めないように、時を待ちなさいとも言われた。わたしには力を隠すような理由は思いつかない。あの時に力を使い切ってしまったのかもしれないと思った。だから何も聞かないようにしていたんだ」
「だから、お父様は力の使えないわたしを責めたりしなかったのですね」
「いや、もとより父親としては力の有無で子どもを可愛がるかどうかを変えたりはしない。当主や宰相としては時に力の強い者を優先せざるを得ないときはあるが……。そもそも我々はあの力をお借りしているだけにすぎない。人や土地を粗末に扱うようなことがあればお怒りに触れてしまうだろう」
「お父様……」
力を使えないわたしにお母様は冷たかったがお父様はそうでもなかった。今のわたしにはお母様が冷たい理由がわかる。だから、悲しいけれど、多少のことは諦めることができる。
不本意な政略結婚をして生んだ子どもに力が無ければお母様は自分の結婚はなんだったのかと思うだろう。二度目の人生ではお母様はさらにマリーベルを溺愛していたし、わたしに対してはさらに冷たくなった。
お父様は遠慮がちなところはあったものの、お母様のようにあからさまな差別はしないし、力が無いことを責めることは無かった。
「とは言え、この家に生まれて力がなければ肩身の狭い思いをするだろう。周囲からの期待も大きいからな。もし、あの時リリアーナを城に連れていかなければ力を失わなかったのかもしれない、とも思った……。そう思うとリリアーナにどう接して良いかわからなくなってしまった。これまで、不自然な態度をとっていたと思う。すまなかった」
お父様は無能な娘の存在に困っていたのではなかった。
自分のせいで力を失ってしまったのかもしれないという後悔が遠慮がちな態度につながっていたんだわ……。
お父様は自分の役目を果たしただけだというのに。わたしはそこまで考えていなかった。もっと早く相談していれば良かった。なんて愚かだったのだろうか。
「力を隠していたわたしが悪いのです。わたしの方こそお父様を苦しめてすみませんでした。それにわたしはお父様に冷たくされたなどとは思ったことはありません。どうか、謝らないでください」
目の前のお父様はとても後悔に満ちている。
お父様をこんなにも苦しめていたなんて……。
「いつか力を発現させるかもしれないと思い、ジルベルトとの婚約はそのままにしておいたが、さっさと解消させれば良かったな……。今になって思えば、精霊がジルベルトとさっさと婚約解消させたかったのかもしれん」
「お父様がわたしの話をあっさり信じてくれた理由がわかりました」
まさかお父様もあの声を聞いていたなんて。一人で悩む必要なんてなかったんだわ。
「ところで、クリストファー殿下とはどうなんだ? よく会っているそうじゃないか。屋敷にも招かれているんだろう? さっきも懐中時計を眺めていたようだし……」
「どうと言われましても……。正直どうしたら良いのか……」
「何か困ったことでも? まさか屋敷で何か? リリアーナが断れないなら私から抗議するぞ?」
お父様が心配そうに聞いてくる。ここまであからさまに心配されたことはあっただろうか。
そこまで深刻な話ではないのでわたしはちょっと申し訳ない気持ちになる。
話をしていて尊敬できるし、領地のことや領民のことを考えてくれる人だ。わたしにはもったいないくらいのとても良い人だと思う。
ただ、表現が直接的すぎるのだ。これまでこんなに熱烈にアプローチされたことなどない。どうすればいいのだろうか。
あの時の男の子がこんな風になるなんて……。クリストファー様のお屋敷に行けば人目を気にせずにさらに遠慮がなくなることを考えれば、もう行かない方が良い?
ううん、きっと無理だわ……。断りきれる自信はない。お父様が何も言わないことから考えてもきっと普通のことなのよね?
「はぁ……どうしたら良いの?」
ぼんやりと思い出の懐中時計を見ながら考えていると部屋をノックする音がした。
「リリアーナ、入っても良いかい?」
「どうぞ、お入りください」
お父様が部屋に入ってくる。お父様の視線はわたしの机の上にある懐中時計に向けられた。
「クリストファー殿下のことでも考えていたのかい? 仲が良くてなによりだ」
「どうしておわかりになったのですか?」
「それはクリストファー殿下の物だろう? 細工に特徴がある。かなり昔になくしたと言っていたと思うがリリアーナが持っていたのか」
「えぇ、昔、お父様に連れられて城に行っていた時期がありましたよね。その時にいただきました」
「あぁ、あの時か」
「そういえば、どうしてあの時わたしを城に連れて行ったのですか? 一緒に行っても遊んできなさいとすぐ部屋から追い出されましたよね」
「今のおまえなら信じるだろう。……リリアーナを連れてくるようにと、声が聞こえたんだ」
「わたしが呼ばれたのですか?」
「そうだ。あの時は王妃殿下が体調を崩していたが薬になる植物が上手く育たない。本来であればわたしが力を注げば良いはずだ。それなのに拒否される。そんな時に声が聞こえた」
「お父様でも駄目だったのですか?」
「あぁ。私が手を尽くしても駄目だから周囲も諦めかけていた。それなのに、なぜかリリアーナを連れてこいと聞こえる」
王族やお父様、城の人たちが手を尽くしても駄目だなんて……。それは大事件だわ。
「お父様も声が……。だからわたしの話をすんなりと受け入れてくれたのですね」
「力が無いはずの娘を連れて行って意味があるのか……。藁にもすがる気持ちでリリアーナを連れて行ったんだ。結果として植物が育ち良い薬ができて感謝されたよ」
「では、わたしが力を使ったのをご存じだったのですね? それなのにどうして知らないふりを……」
「不思議な声が何も知らないふりをしなさいと。そして、今後リリアーナが力を使えなくても責めないように、時を待ちなさいとも言われた。わたしには力を隠すような理由は思いつかない。あの時に力を使い切ってしまったのかもしれないと思った。だから何も聞かないようにしていたんだ」
「だから、お父様は力の使えないわたしを責めたりしなかったのですね」
「いや、もとより父親としては力の有無で子どもを可愛がるかどうかを変えたりはしない。当主や宰相としては時に力の強い者を優先せざるを得ないときはあるが……。そもそも我々はあの力をお借りしているだけにすぎない。人や土地を粗末に扱うようなことがあればお怒りに触れてしまうだろう」
「お父様……」
力を使えないわたしにお母様は冷たかったがお父様はそうでもなかった。今のわたしにはお母様が冷たい理由がわかる。だから、悲しいけれど、多少のことは諦めることができる。
不本意な政略結婚をして生んだ子どもに力が無ければお母様は自分の結婚はなんだったのかと思うだろう。二度目の人生ではお母様はさらにマリーベルを溺愛していたし、わたしに対してはさらに冷たくなった。
お父様は遠慮がちなところはあったものの、お母様のようにあからさまな差別はしないし、力が無いことを責めることは無かった。
「とは言え、この家に生まれて力がなければ肩身の狭い思いをするだろう。周囲からの期待も大きいからな。もし、あの時リリアーナを城に連れていかなければ力を失わなかったのかもしれない、とも思った……。そう思うとリリアーナにどう接して良いかわからなくなってしまった。これまで、不自然な態度をとっていたと思う。すまなかった」
お父様は無能な娘の存在に困っていたのではなかった。
自分のせいで力を失ってしまったのかもしれないという後悔が遠慮がちな態度につながっていたんだわ……。
お父様は自分の役目を果たしただけだというのに。わたしはそこまで考えていなかった。もっと早く相談していれば良かった。なんて愚かだったのだろうか。
「力を隠していたわたしが悪いのです。わたしの方こそお父様を苦しめてすみませんでした。それにわたしはお父様に冷たくされたなどとは思ったことはありません。どうか、謝らないでください」
目の前のお父様はとても後悔に満ちている。
お父様をこんなにも苦しめていたなんて……。
「いつか力を発現させるかもしれないと思い、ジルベルトとの婚約はそのままにしておいたが、さっさと解消させれば良かったな……。今になって思えば、精霊がジルベルトとさっさと婚約解消させたかったのかもしれん」
「お父様がわたしの話をあっさり信じてくれた理由がわかりました」
まさかお父様もあの声を聞いていたなんて。一人で悩む必要なんてなかったんだわ。
「ところで、クリストファー殿下とはどうなんだ? よく会っているそうじゃないか。屋敷にも招かれているんだろう? さっきも懐中時計を眺めていたようだし……」
「どうと言われましても……。正直どうしたら良いのか……」
「何か困ったことでも? まさか屋敷で何か? リリアーナが断れないなら私から抗議するぞ?」
お父様が心配そうに聞いてくる。ここまであからさまに心配されたことはあっただろうか。
そこまで深刻な話ではないのでわたしはちょっと申し訳ない気持ちになる。
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