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16.着せ替え人形
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クリストファー様の反応をみるに、やはりわたしの感覚は麻痺しているのかしら。
マリーベルの方が可愛いのは仕方がないのよね……。わたしなんて無理やり嫁がされた象徴そのものなのだろうから。
「まぁ、お母様は昔から若干わたしには厳しかったですけど、力を隠しているのだから仕方のないことなんですよ。それに、それくらいはしないとただの穀潰しになってしまいます……。土地の状態は場所によって違いますし、癒やしの力の使い方も人によって違いますから色々と勉強になりますしね」
「君は本当に真面目だな」
クリストファー様に苦笑されてしまった。やっぱりわたしはつまらない人間なんだわ。
一度目の人生でジルベルトたちに言われた言葉がよみがえる。
「そうでしょうか」
「真面目だよ。ここに来るのも渋るし」
「それはやっぱりクリス様の評判に関わることですから」
「いや、私のことより気にするのはリリアーナの評判のほうだろう……」
クリストファー様が困った顔をする。
「いえ、わたしのような人間と親しくしているなんて知られたら……」
「いや、私はむしろ早く周囲に自慢したいくらいなのだけど」
「ですが、やっぱり婚約破棄されたばかりの人間がこんなにクリストファー様のお屋敷に入り浸るのは……」
わたしたちは結婚することが決まっているが、世間には公表していない。ジルベルトと婚約解消になったことは知られていて、今のわたしは無能だからと婚約破棄された傷物だ。
会うときは一応気をつけているけれど、こんなわたしと一緒にいると知られたら、クリストファー様に迷惑がかかる。
「大丈夫だよ。結婚は兄上が認めているのに何が問題あるんだい? 私たちはちゃんとした婚約状態にある。ただ、世間が知らないだけだよ。それに、ここは表向きは老夫婦の別宅になっているし、君がここにくることは君の父上も了承済みだ」
「そうなのですか?」
「あぁ。それに、この屋敷は完全に二人きりと言うわけではないだろう? 私としては二人きりでも良いくらいだけどね」
「そ、それは困ります」
「冗談だよ。ここにリリアーナを呼ぶ条件として、この屋敷には宰相に雇われた人間もいる。変なことをしようものなら即座に宰相と兄上に報告されてしまうよ。それよりも、せっかくだからあの服を着て欲しいな」
お父様……。わたしのことを考えてくれているのね。
「変なことって……。つい先ほど、誓って変なことや嫌がることはしないと仰っていたではありませんか」
「まぁ、それは言葉のあやだよ。それで、お願いは聞いてもらえないのかな?」
どうしても、わたしにプレゼントした服を着て欲しいらしい。クリストファー様はわたしを色々と着飾らせて外を歩きたいが我慢しているのだとか。
この屋敷にはわたしへのプレゼントがたくさん保管されている。どれもわたしに身につけて欲しいとクリストファー様が選んだ服や装飾品だ。屋敷の中だけでも身につけているところを見たいらしい。着せ替え人形になった気分だ。
わたしはこのお願いを断るのが苦手だった。断ると、他にどんな要求が来るのかわからないし、とてもがっかりした顔をするのだ。
あの顔はずるい……。あの顔でお願いされて断れる人なんているのかしら。
わたしの事情のせいで堂々と外で会うのが難しいのだもの。少しくらいはお願いを聞かないと。
「……わかりました」
わたしの答えにクリストファー様はとても嬉しそうな顔をする。
「私のお願いを聞いてくれて嬉しいよ」
クリストファー様が合図をすると、侍女がやってきてわたしを部屋から連れ出す。
この女性は初めてこのお屋敷に来たときに出迎えてくれた女性だ。ここにはもちろん執事もいるが、クリストファー様が男性と接触させたくなかったらしく、あの時は全て女性で固められていたらしい。
薄々思っていたのだけれど、もしかして、クリストファー様ってかなり嫉妬深いのかしら……。
それほど回数をこなしているわけでもないのに周囲の人間も手慣れたものだ。別宅とはいえ、雇う人間はしっかりしている。
わたしはそのまま手伝ってもらい服を着替えた。事前に指示があるのか、部屋にはすでに準備が整えられていた。着替えて欲しいとお願いはするけれど、決定事項らしい。
断れないってこと、絶対わかっているわよね……。
プレゼントされるものは全てわたしにぴったりのものだ。そういえば、どうしてお見合いの時のドレスのサイズがぴったりだったのかしら。
まさか、お見合いが決まる前からサイズをご存じだったわけではないわよね?
きっと偶然よね? じゃないと本当に怖いわ。
今日、用意されている服はちょっとしたドレスだ。こんなきれいな格好は一度目の人生含めて殆どしたことがない。聖女の仕事に華美な服装は不要だからだ。
着替えが終わると髪を整えられる。整髪料を使わないのにあっという間にきれいにまとめられた。
髪にはきれいな髪飾り。これももちろん、クリストファー様からのプレゼントだ。
鏡の中にはきれいに着飾った自分とは思えない人物が映っていた。なんだか落ち着かない。
着替えを手伝ってくれる侍女たちは皆笑顔で「お綺麗です」「クリストファー様もお喜びになりますね」などと言ってくれる。
こんなことで喜んでくれるのかしら……。いや、とても喜んでくれるのだけど反応に困ってしまう。
マリーベルの方が可愛いのは仕方がないのよね……。わたしなんて無理やり嫁がされた象徴そのものなのだろうから。
「まぁ、お母様は昔から若干わたしには厳しかったですけど、力を隠しているのだから仕方のないことなんですよ。それに、それくらいはしないとただの穀潰しになってしまいます……。土地の状態は場所によって違いますし、癒やしの力の使い方も人によって違いますから色々と勉強になりますしね」
「君は本当に真面目だな」
クリストファー様に苦笑されてしまった。やっぱりわたしはつまらない人間なんだわ。
一度目の人生でジルベルトたちに言われた言葉がよみがえる。
「そうでしょうか」
「真面目だよ。ここに来るのも渋るし」
「それはやっぱりクリス様の評判に関わることですから」
「いや、私のことより気にするのはリリアーナの評判のほうだろう……」
クリストファー様が困った顔をする。
「いえ、わたしのような人間と親しくしているなんて知られたら……」
「いや、私はむしろ早く周囲に自慢したいくらいなのだけど」
「ですが、やっぱり婚約破棄されたばかりの人間がこんなにクリストファー様のお屋敷に入り浸るのは……」
わたしたちは結婚することが決まっているが、世間には公表していない。ジルベルトと婚約解消になったことは知られていて、今のわたしは無能だからと婚約破棄された傷物だ。
会うときは一応気をつけているけれど、こんなわたしと一緒にいると知られたら、クリストファー様に迷惑がかかる。
「大丈夫だよ。結婚は兄上が認めているのに何が問題あるんだい? 私たちはちゃんとした婚約状態にある。ただ、世間が知らないだけだよ。それに、ここは表向きは老夫婦の別宅になっているし、君がここにくることは君の父上も了承済みだ」
「そうなのですか?」
「あぁ。それに、この屋敷は完全に二人きりと言うわけではないだろう? 私としては二人きりでも良いくらいだけどね」
「そ、それは困ります」
「冗談だよ。ここにリリアーナを呼ぶ条件として、この屋敷には宰相に雇われた人間もいる。変なことをしようものなら即座に宰相と兄上に報告されてしまうよ。それよりも、せっかくだからあの服を着て欲しいな」
お父様……。わたしのことを考えてくれているのね。
「変なことって……。つい先ほど、誓って変なことや嫌がることはしないと仰っていたではありませんか」
「まぁ、それは言葉のあやだよ。それで、お願いは聞いてもらえないのかな?」
どうしても、わたしにプレゼントした服を着て欲しいらしい。クリストファー様はわたしを色々と着飾らせて外を歩きたいが我慢しているのだとか。
この屋敷にはわたしへのプレゼントがたくさん保管されている。どれもわたしに身につけて欲しいとクリストファー様が選んだ服や装飾品だ。屋敷の中だけでも身につけているところを見たいらしい。着せ替え人形になった気分だ。
わたしはこのお願いを断るのが苦手だった。断ると、他にどんな要求が来るのかわからないし、とてもがっかりした顔をするのだ。
あの顔はずるい……。あの顔でお願いされて断れる人なんているのかしら。
わたしの事情のせいで堂々と外で会うのが難しいのだもの。少しくらいはお願いを聞かないと。
「……わかりました」
わたしの答えにクリストファー様はとても嬉しそうな顔をする。
「私のお願いを聞いてくれて嬉しいよ」
クリストファー様が合図をすると、侍女がやってきてわたしを部屋から連れ出す。
この女性は初めてこのお屋敷に来たときに出迎えてくれた女性だ。ここにはもちろん執事もいるが、クリストファー様が男性と接触させたくなかったらしく、あの時は全て女性で固められていたらしい。
薄々思っていたのだけれど、もしかして、クリストファー様ってかなり嫉妬深いのかしら……。
それほど回数をこなしているわけでもないのに周囲の人間も手慣れたものだ。別宅とはいえ、雇う人間はしっかりしている。
わたしはそのまま手伝ってもらい服を着替えた。事前に指示があるのか、部屋にはすでに準備が整えられていた。着替えて欲しいとお願いはするけれど、決定事項らしい。
断れないってこと、絶対わかっているわよね……。
プレゼントされるものは全てわたしにぴったりのものだ。そういえば、どうしてお見合いの時のドレスのサイズがぴったりだったのかしら。
まさか、お見合いが決まる前からサイズをご存じだったわけではないわよね?
きっと偶然よね? じゃないと本当に怖いわ。
今日、用意されている服はちょっとしたドレスだ。こんなきれいな格好は一度目の人生含めて殆どしたことがない。聖女の仕事に華美な服装は不要だからだ。
着替えが終わると髪を整えられる。整髪料を使わないのにあっという間にきれいにまとめられた。
髪にはきれいな髪飾り。これももちろん、クリストファー様からのプレゼントだ。
鏡の中にはきれいに着飾った自分とは思えない人物が映っていた。なんだか落ち着かない。
着替えを手伝ってくれる侍女たちは皆笑顔で「お綺麗です」「クリストファー様もお喜びになりますね」などと言ってくれる。
こんなことで喜んでくれるのかしら……。いや、とても喜んでくれるのだけど反応に困ってしまう。
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