聖女じゃないからと婚約破棄されましたが計画通りです。これからあなたの領地をいただきにいきますね。

和泉 凪紗

文字の大きさ
上 下
16 / 42

16.着せ替え人形

しおりを挟む
 クリストファー様の反応をみるに、やはりわたしの感覚は麻痺しているのかしら。
 マリーベルの方が可愛いのは仕方がないのよね……。わたしなんて無理やり嫁がされた象徴そのものなのだろうから。

「まぁ、お母様は昔から若干わたしには厳しかったですけど、力を隠しているのだから仕方のないことなんですよ。それに、それくらいはしないとただの穀潰しになってしまいます……。土地の状態は場所によって違いますし、癒やしの力の使い方も人によって違いますから色々と勉強になりますしね」
「君は本当に真面目だな」

 クリストファー様に苦笑されてしまった。やっぱりわたしはつまらない人間なんだわ。
 一度目の人生でジルベルトたちに言われた言葉がよみがえる。

「そうでしょうか」
「真面目だよ。ここに来るのも渋るし」
「それはやっぱりクリス様の評判に関わることですから」
「いや、私のことより気にするのはリリアーナの評判のほうだろう……」

 クリストファー様が困った顔をする。

「いえ、わたしのような人間と親しくしているなんて知られたら……」
「いや、私はむしろ早く周囲に自慢したいくらいなのだけど」
「ですが、やっぱり婚約破棄されたばかりの人間がこんなにクリストファー様のお屋敷に入り浸るのは……」

 わたしたちは結婚することが決まっているが、世間には公表していない。ジルベルトと婚約解消になったことは知られていて、今のわたしは無能だからと婚約破棄された傷物だ。
 会うときは一応気をつけているけれど、こんなわたしと一緒にいると知られたら、クリストファー様に迷惑がかかる。 

「大丈夫だよ。結婚は兄上が認めているのに何が問題あるんだい? 私たちはちゃんとした婚約状態にある。ただ、世間が知らないだけだよ。それに、ここは表向きは老夫婦の別宅になっているし、君がここにくることは君の父上も了承済みだ」
「そうなのですか?」
「あぁ。それに、この屋敷は完全に二人きりと言うわけではないだろう? 私としては二人きりでも良いくらいだけどね」
「そ、それは困ります」
「冗談だよ。ここにリリアーナを呼ぶ条件として、この屋敷には宰相に雇われた人間もいる。変なことをしようものなら即座に宰相と兄上に報告されてしまうよ。それよりも、せっかくだからあの服を着て欲しいな」

 お父様……。わたしのことを考えてくれているのね。

「変なことって……。つい先ほど、誓って変なことや嫌がることはしないと仰っていたではありませんか」
「まぁ、それは言葉のあやだよ。それで、お願いは聞いてもらえないのかな?」

 どうしても、わたしにプレゼントした服を着て欲しいらしい。クリストファー様はわたしを色々と着飾らせて外を歩きたいが我慢しているのだとか。
 この屋敷にはわたしへのプレゼントがたくさん保管されている。どれもわたしに身につけて欲しいとクリストファー様が選んだ服や装飾品だ。屋敷の中だけでも身につけているところを見たいらしい。着せ替え人形になった気分だ。
 わたしはこのお願いを断るのが苦手だった。断ると、他にどんな要求が来るのかわからないし、とてもがっかりした顔をするのだ。
 あの顔はずるい……。あの顔でお願いされて断れる人なんているのかしら。
 わたしの事情のせいで堂々と外で会うのが難しいのだもの。少しくらいはお願いを聞かないと。

「……わかりました」

 わたしの答えにクリストファー様はとても嬉しそうな顔をする。

「私のお願いを聞いてくれて嬉しいよ」

 クリストファー様が合図をすると、侍女がやってきてわたしを部屋から連れ出す。
 この女性は初めてこのお屋敷に来たときに出迎えてくれた女性だ。ここにはもちろん執事もいるが、クリストファー様が男性と接触させたくなかったらしく、あの時は全て女性で固められていたらしい。
 薄々思っていたのだけれど、もしかして、クリストファー様ってかなり嫉妬深いのかしら……。 

 それほど回数をこなしているわけでもないのに周囲の人間も手慣れたものだ。別宅とはいえ、雇う人間はしっかりしている。
 わたしはそのまま手伝ってもらい服を着替えた。事前に指示があるのか、部屋にはすでに準備が整えられていた。着替えて欲しいとお願いはするけれど、決定事項らしい。
 断れないってこと、絶対わかっているわよね……。
 プレゼントされるものは全てわたしにぴったりのものだ。そういえば、どうしてお見合いの時のドレスのサイズがぴったりだったのかしら。
 まさか、お見合いが決まる前からサイズをご存じだったわけではないわよね?
 きっと偶然よね? じゃないと本当に怖いわ。

 今日、用意されている服はちょっとしたドレスだ。こんなきれいな格好は一度目の人生含めて殆どしたことがない。聖女の仕事に華美な服装は不要だからだ。
 着替えが終わると髪を整えられる。整髪料を使わないのにあっという間にきれいにまとめられた。
 髪にはきれいな髪飾り。これももちろん、クリストファー様からのプレゼントだ。

 鏡の中にはきれいに着飾った自分とは思えない人物が映っていた。なんだか落ち着かない。
 着替えを手伝ってくれる侍女たちは皆笑顔で「お綺麗です」「クリストファー様もお喜びになりますね」などと言ってくれる。
 こんなことで喜んでくれるのかしら……。いや、とても喜んでくれるのだけど反応に困ってしまう。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします

宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。 しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。 そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。 彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか? 中世ヨーロッパ風のお話です。 HOTにランクインしました。ありがとうございます! ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです! ありがとうございます!

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

処理中です...