聖女じゃないからと婚約破棄されましたが計画通りです。これからあなたの領地をいただきにいきますね。

和泉 凪紗

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15.クリストファー様とのデート

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 わたしがリックのことを忘れていないとわかってから、さらにクリストファー様は遠慮がなくなってしまった。
 クリストファー様は今後の打ち合わせなど言わずにストレートに「リリアーナに会いたいからデートしよう」と誘ってくるし、大量のプレゼント攻撃もある。と言ってもプレゼントは屋敷に持ち帰れないので預かってもらっているのだけど。もらってばかりで心苦しい。やはり、前に言っていた「今後の打ち合わせ」は口実だったらしい。
 あまりにもお誘いの頻度が多いので、わたしはお城でお父様の仕事を手伝っていることになっている。周囲にはマリーベルの結婚で屋敷に居づらいのだと思われているようだ。屋敷に居づらいのは本当だけど……。
 子供の頃から城をよく抜け出していたクリストファー様は真面目になった後もよく息抜きに城を出ていたらしい。逃げ出して遊ぶためにではなく、市民の生活を観察したり体感したりするためにと、街中に屋敷を構えていた。数は少ないがきちんと使用人もいる。いつでも生活出来る状態だ。
 単純に羽を伸ばすために用意したんじゃ……と思わなくもない。

 リックの話をしてからはこのクリストファーのお屋敷にも招かれるようになった。そして、このお屋敷には以前にも来たことがある。そう、お城にお見合いに行くときに立ち寄ったお屋敷だ。
 やっぱり、あの時のドレスってクリストファー様が用意したものよね……。あのお見合いは昨日の今日でと驚いたけれど、どうしてあんな短時間でドレスを準備できていたのかしら? あの時からプレゼント攻撃が始まっていたの? ううん、考えるのはやめよう。怖い。
 お父様の歯切れが悪かった理由がわかった気がした。
 でも、いくら婚約状態とは言え、殿方の屋敷に出入りして良いものなのかしら?

「こうして街中に屋敷を確保しておいて本当に良かったよ。しかも、君を招くことができるなんて。ここは僕の秘密基地のようなものだからね」

 こんな立派な秘密基地はないと思いますが……。
 屋敷の外観はそれほど豪華さはないが、内装は立派だ。華美ではないものの置いてあるものの一つ一つが品質の良いものでまとめられていて、居心地の良い空間になっている。
 と言うかわたしもすぐこのお屋敷で暮らせるくらいに色々な準備が整っているのよね……。
 出されるものは基本的にわたしの好みにあうものばかりだし……。

「いくら結婚が決まっているからと言って、こんな風に殿方の屋敷に出入りするなんて良いのでしょうか。正式な婚約だってしていないのに……。お父様も心配します」
「誓って、君に変なことや嫌がることはしないよ。それとも私はそんな軽薄な男に見える? 自分で言うのもなんだけど、私には浮いた話の一つも無いはずだけど」
「確かに聞いたことはありませんが、わたしがそういった話に疎いだけなのかもしれません。殆ど社交はしてきませんでしたから」
「そう、それが今まで不思議だったんだよ。リリアーナは夜会にもお茶会にも殆ど参加していないよね? 君の妹はよく参加してたみたいだけれど。一目でも君を見られればと思って参加してもいなくていつもがっかりしていたよ」
「わたしはお見かけしたことはありますよ」
「え? 本当に? 絶対見つけられる自信があったのに……」

 クリストファー様はショックを受けている。

「えぇ、一応ルーンの娘ですからご挨拶しようと思ったのですが、ものすごい数の女性に囲まれていましたので……」
「そんな……。あ、誓って他の女性とは何もなかったからね! 囲まれていたのは本当だけど個別に誰かと出かけたこともないし」

 こんな風に慌てることもあるのね。誤解なんてしないのに。

「ふふっ、でも、殆ど参加していないのは本当です。婚約者がいるのに他の殿方と交流は必要ないと。あと、わたしが力を発現させていないから社交界に出れば肩身が狭い思いをするのではないかと言われまして……」
「なんなんだそれは……」

 クリストファー様はわかりやすく怒っている。わたしとしてはそんなに怒ることでもないのだけど……。
 笑われるために、わざわざ嫌な相手と並んで社交するなんてまっぴらだ。しかも、いずれ婚約破棄することがわかっている相手。そんなくだらないことに時間を使うのならばもっと人の役に立つことに時間を使いたい。
 それに一度目の人生でもわたしは殆ど社交をせずに色んな土地を回っていた。強い力があるなら当然だと言われて。結婚前に国に貢献してきなさいと。わたしにとっては当たり前のことなのだ。
 そんなことだから浮気されると言われてしまえばそこまでなのだけど……。思えば、良いように扱われていたんだろうな。わたしが各地を回っているときも浮気をしていたみたいだったし。
 皆グルだったのかもしれない。考えたくないけれど。

「あの、そんなに怒るようなことでもないんですよ。わたしも参加したくなかったんです。嫌いな相手の隣に笑顔で立っていないといけないなんてとんだ罰ゲームですから。そんなことに時間を使うより、ボランティア活動をしたり、各地に出向いて何か仕事をする方が有意義ですから」
「でも、リリアーナは力を隠していたんだろう?」
「力を使わなくても仕事はたくさんありますよ。お手伝いできることはたくさんありますから。むしろ、無能力なのだから修行も兼ねて人様の役に立ってくるようにとお母様もよく言いますし」
「君の母親もずいぶんだな」

 クリストファー様は不快感を隠さない。
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