15 / 42
15.クリストファー様とのデート
しおりを挟む
わたしがリックのことを忘れていないとわかってから、さらにクリストファー様は遠慮がなくなってしまった。
クリストファー様は今後の打ち合わせなど言わずにストレートに「リリアーナに会いたいからデートしよう」と誘ってくるし、大量のプレゼント攻撃もある。と言ってもプレゼントは屋敷に持ち帰れないので預かってもらっているのだけど。もらってばかりで心苦しい。やはり、前に言っていた「今後の打ち合わせ」は口実だったらしい。
あまりにもお誘いの頻度が多いので、わたしはお城でお父様の仕事を手伝っていることになっている。周囲にはマリーベルの結婚で屋敷に居づらいのだと思われているようだ。屋敷に居づらいのは本当だけど……。
子供の頃から城をよく抜け出していたクリストファー様は真面目になった後もよく息抜きに城を出ていたらしい。逃げ出して遊ぶためにではなく、市民の生活を観察したり体感したりするためにと、街中に屋敷を構えていた。数は少ないがきちんと使用人もいる。いつでも生活出来る状態だ。
単純に羽を伸ばすために用意したんじゃ……と思わなくもない。
リックの話をしてからはこのクリストファーのお屋敷にも招かれるようになった。そして、このお屋敷には以前にも来たことがある。そう、お城にお見合いに行くときに立ち寄ったお屋敷だ。
やっぱり、あの時のドレスってクリストファー様が用意したものよね……。あのお見合いは昨日の今日でと驚いたけれど、どうしてあんな短時間でドレスを準備できていたのかしら? あの時からプレゼント攻撃が始まっていたの? ううん、考えるのはやめよう。怖い。
お父様の歯切れが悪かった理由がわかった気がした。
でも、いくら婚約状態とは言え、殿方の屋敷に出入りして良いものなのかしら?
「こうして街中に屋敷を確保しておいて本当に良かったよ。しかも、君を招くことができるなんて。ここは僕の秘密基地のようなものだからね」
こんな立派な秘密基地はないと思いますが……。
屋敷の外観はそれほど豪華さはないが、内装は立派だ。華美ではないものの置いてあるものの一つ一つが品質の良いものでまとめられていて、居心地の良い空間になっている。
と言うかわたしもすぐこのお屋敷で暮らせるくらいに色々な準備が整っているのよね……。
出されるものは基本的にわたしの好みにあうものばかりだし……。
「いくら結婚が決まっているからと言って、こんな風に殿方の屋敷に出入りするなんて良いのでしょうか。正式な婚約だってしていないのに……。お父様も心配します」
「誓って、君に変なことや嫌がることはしないよ。それとも私はそんな軽薄な男に見える? 自分で言うのもなんだけど、私には浮いた話の一つも無いはずだけど」
「確かに聞いたことはありませんが、わたしがそういった話に疎いだけなのかもしれません。殆ど社交はしてきませんでしたから」
「そう、それが今まで不思議だったんだよ。リリアーナは夜会にもお茶会にも殆ど参加していないよね? 君の妹はよく参加してたみたいだけれど。一目でも君を見られればと思って参加してもいなくていつもがっかりしていたよ」
「わたしはお見かけしたことはありますよ」
「え? 本当に? 絶対見つけられる自信があったのに……」
クリストファー様はショックを受けている。
「えぇ、一応ルーンの娘ですからご挨拶しようと思ったのですが、ものすごい数の女性に囲まれていましたので……」
「そんな……。あ、誓って他の女性とは何もなかったからね! 囲まれていたのは本当だけど個別に誰かと出かけたこともないし」
こんな風に慌てることもあるのね。誤解なんてしないのに。
「ふふっ、でも、殆ど参加していないのは本当です。婚約者がいるのに他の殿方と交流は必要ないと。あと、わたしが力を発現させていないから社交界に出れば肩身が狭い思いをするのではないかと言われまして……」
「なんなんだそれは……」
クリストファー様はわかりやすく怒っている。わたしとしてはそんなに怒ることでもないのだけど……。
笑われるために、わざわざ嫌な相手と並んで社交するなんてまっぴらだ。しかも、いずれ婚約破棄することがわかっている相手。そんなくだらないことに時間を使うのならばもっと人の役に立つことに時間を使いたい。
それに一度目の人生でもわたしは殆ど社交をせずに色んな土地を回っていた。強い力があるなら当然だと言われて。結婚前に国に貢献してきなさいと。わたしにとっては当たり前のことなのだ。
そんなことだから浮気されると言われてしまえばそこまでなのだけど……。思えば、良いように扱われていたんだろうな。わたしが各地を回っているときも浮気をしていたみたいだったし。
皆グルだったのかもしれない。考えたくないけれど。
「あの、そんなに怒るようなことでもないんですよ。わたしも参加したくなかったんです。嫌いな相手の隣に笑顔で立っていないといけないなんてとんだ罰ゲームですから。そんなことに時間を使うより、ボランティア活動をしたり、各地に出向いて何か仕事をする方が有意義ですから」
「でも、リリアーナは力を隠していたんだろう?」
「力を使わなくても仕事はたくさんありますよ。お手伝いできることはたくさんありますから。むしろ、無能力なのだから修行も兼ねて人様の役に立ってくるようにとお母様もよく言いますし」
「君の母親もずいぶんだな」
クリストファー様は不快感を隠さない。
クリストファー様は今後の打ち合わせなど言わずにストレートに「リリアーナに会いたいからデートしよう」と誘ってくるし、大量のプレゼント攻撃もある。と言ってもプレゼントは屋敷に持ち帰れないので預かってもらっているのだけど。もらってばかりで心苦しい。やはり、前に言っていた「今後の打ち合わせ」は口実だったらしい。
あまりにもお誘いの頻度が多いので、わたしはお城でお父様の仕事を手伝っていることになっている。周囲にはマリーベルの結婚で屋敷に居づらいのだと思われているようだ。屋敷に居づらいのは本当だけど……。
子供の頃から城をよく抜け出していたクリストファー様は真面目になった後もよく息抜きに城を出ていたらしい。逃げ出して遊ぶためにではなく、市民の生活を観察したり体感したりするためにと、街中に屋敷を構えていた。数は少ないがきちんと使用人もいる。いつでも生活出来る状態だ。
単純に羽を伸ばすために用意したんじゃ……と思わなくもない。
リックの話をしてからはこのクリストファーのお屋敷にも招かれるようになった。そして、このお屋敷には以前にも来たことがある。そう、お城にお見合いに行くときに立ち寄ったお屋敷だ。
やっぱり、あの時のドレスってクリストファー様が用意したものよね……。あのお見合いは昨日の今日でと驚いたけれど、どうしてあんな短時間でドレスを準備できていたのかしら? あの時からプレゼント攻撃が始まっていたの? ううん、考えるのはやめよう。怖い。
お父様の歯切れが悪かった理由がわかった気がした。
でも、いくら婚約状態とは言え、殿方の屋敷に出入りして良いものなのかしら?
「こうして街中に屋敷を確保しておいて本当に良かったよ。しかも、君を招くことができるなんて。ここは僕の秘密基地のようなものだからね」
こんな立派な秘密基地はないと思いますが……。
屋敷の外観はそれほど豪華さはないが、内装は立派だ。華美ではないものの置いてあるものの一つ一つが品質の良いものでまとめられていて、居心地の良い空間になっている。
と言うかわたしもすぐこのお屋敷で暮らせるくらいに色々な準備が整っているのよね……。
出されるものは基本的にわたしの好みにあうものばかりだし……。
「いくら結婚が決まっているからと言って、こんな風に殿方の屋敷に出入りするなんて良いのでしょうか。正式な婚約だってしていないのに……。お父様も心配します」
「誓って、君に変なことや嫌がることはしないよ。それとも私はそんな軽薄な男に見える? 自分で言うのもなんだけど、私には浮いた話の一つも無いはずだけど」
「確かに聞いたことはありませんが、わたしがそういった話に疎いだけなのかもしれません。殆ど社交はしてきませんでしたから」
「そう、それが今まで不思議だったんだよ。リリアーナは夜会にもお茶会にも殆ど参加していないよね? 君の妹はよく参加してたみたいだけれど。一目でも君を見られればと思って参加してもいなくていつもがっかりしていたよ」
「わたしはお見かけしたことはありますよ」
「え? 本当に? 絶対見つけられる自信があったのに……」
クリストファー様はショックを受けている。
「えぇ、一応ルーンの娘ですからご挨拶しようと思ったのですが、ものすごい数の女性に囲まれていましたので……」
「そんな……。あ、誓って他の女性とは何もなかったからね! 囲まれていたのは本当だけど個別に誰かと出かけたこともないし」
こんな風に慌てることもあるのね。誤解なんてしないのに。
「ふふっ、でも、殆ど参加していないのは本当です。婚約者がいるのに他の殿方と交流は必要ないと。あと、わたしが力を発現させていないから社交界に出れば肩身が狭い思いをするのではないかと言われまして……」
「なんなんだそれは……」
クリストファー様はわかりやすく怒っている。わたしとしてはそんなに怒ることでもないのだけど……。
笑われるために、わざわざ嫌な相手と並んで社交するなんてまっぴらだ。しかも、いずれ婚約破棄することがわかっている相手。そんなくだらないことに時間を使うのならばもっと人の役に立つことに時間を使いたい。
それに一度目の人生でもわたしは殆ど社交をせずに色んな土地を回っていた。強い力があるなら当然だと言われて。結婚前に国に貢献してきなさいと。わたしにとっては当たり前のことなのだ。
そんなことだから浮気されると言われてしまえばそこまでなのだけど……。思えば、良いように扱われていたんだろうな。わたしが各地を回っているときも浮気をしていたみたいだったし。
皆グルだったのかもしれない。考えたくないけれど。
「あの、そんなに怒るようなことでもないんですよ。わたしも参加したくなかったんです。嫌いな相手の隣に笑顔で立っていないといけないなんてとんだ罰ゲームですから。そんなことに時間を使うより、ボランティア活動をしたり、各地に出向いて何か仕事をする方が有意義ですから」
「でも、リリアーナは力を隠していたんだろう?」
「力を使わなくても仕事はたくさんありますよ。お手伝いできることはたくさんありますから。むしろ、無能力なのだから修行も兼ねて人様の役に立ってくるようにとお母様もよく言いますし」
「君の母親もずいぶんだな」
クリストファー様は不快感を隠さない。
61
お気に入りに追加
816
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします
宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。
しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。
そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。
彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか?
中世ヨーロッパ風のお話です。
HOTにランクインしました。ありがとうございます!
ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです!
ありがとうございます!
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる