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5.お母様の裏切り(一度目の人生④)
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部屋に関係者が集められる。
お父様の表情は硬いままだが、ジルベルトはそわそわしていて落ち着きがない。ジルベルトの両親からも先ほどのような笑顔が消えイライラしている。
契約が完了しなかったことにジルベルトはかなり焦っているようだ。
それもそうだろう。聖女がいなければこの領地は大変なことになってしまう。
「儀式が完了しなかったとはどういうことでしょうか? リリアーナとの契約が解除できないということでしょうか?」
「いや、リリアーナの契約は解除できた。だが、マリーベルの儀式ができなかった……」
「どういうことですか?」
ジルベルトの疑問も当然だ。マリーベルはわたしほどではないがちゃんと力を持っていることはわかっている。普通なら問題無く契約できるはずだ。
「……マリーベルは私の子ではないようだ」
お父様の言葉にお母様が青ざめる。どうやらお母様には心当たりがあるようだ。
「お父様、どういうことですか? わたしはお父様の娘ですよね。契約に何の関係があるのですか?」
「この契約には私の血が必要だ。私の血が流れていれば力を分ける契約ができる。私の力を分けて、土地と契約できるんだ。力を分けることができず、契約できないということはマリーベルには私の血は流れていないということだ。『ルーン』の力を分けられない以上、聖女となってこの土地と契約できない」
「……そんなこと……。お母様、何かの間違いですよね?」
マリーベルはお母様に質問するが、お母様は答えない。
「そんなことより、マリーベルが契約できないとなると領地はどうなるのですか!?」
ジルベルトはものすごい剣幕だ。
お母様を除いたわたしたち家族は大きなショックを受けているが、ジルベルトは領地のことが心配らしい。
わたしたちにとってはマリーベルがお父様の子どもではないことを『そんなこと』で片付けられない。
「契約はできないが癒やすことはできる。かなり大変ではあるが……」
「そんなこと、ではありません。お母様、わたしはお父様の娘ですよね? わたしが聖女になれないなんて間違いですよね? 何かの間違いだと、嘘だと言ってください!」
マリーベルがお母様の体を必死に揺らす。お母様は観念したのか重たい口を開いた。
「……あなたはわたくしが愛した人の娘です。わたくしには結婚を誓い合う人がいましたが、わたくしのお父様によってこの家に無理やり嫁がされました。わたくしはリリアーナを生んで責任を果たしています。わたくしも確証はありませんでしたが、あの人の子どもだと思って大切に育ててきました。マリーベルにリリアーナほどでは無いものの、力があるのはわたくしもマリーベルの父親も分家筋の人間だからでしょう」
どうやら昔からマリーベルにだけ甘かったのは愛する人の子どもだと思っていたかららしい。無理やり結婚させられた人間との子どもより、愛した人の娘の方がかわいいのは仕方がないのかもしれない。
これまで疑問に思っていたことがはっきりする。どうあがいてもお母様がわたしを見てくれることはなかったのだ。
わたしの胸が痛く締め付けられるような気がした。
儀式の内容を知らなかったお母様はマリーベルがお父様の娘でないことがばれるとは思わなかったのだろう。
「嘘よ……。わたしがお父様の子どもじゃないなんて……聖女になれないなんて……。うぅ……」
マリーベルは突然の出来事に泣き崩れている。
「多少、力があったとしても聖女になれないのは困ります。この土地には聖女が必要なのです。我が家を騙したのですか?!」
ジルベルトは興奮して父に詰め寄っている。元義母もマリーベルに「騙したのね、この女狐!」などと喚いている。
「わたしは騙してなんかいません……」
これまで優しくされていたジルベルトの母親に罵られ、マリーベルは目に涙を浮かべていた。
目の前では色々なことが起きているというのに、わたしはひどく冷静だった。
わたしは自分勝手だ。お父様もマリーベルもショックを受けているのに、自分のことばかり考えてしまっている。姉ならば泣いているマリーベルを守らないといけないはずなのに。
お母様の先ほどの言葉とこれまで言われてきた言葉が頭から離れない。「姉は妹を守るものよ」「妹を可愛がりなさい」「マリーベルは本当に可愛い娘ね」と言った言葉の数々だ。
あぁ、本当は冷静なんかじゃないのかもしれない。ぐるぐると余計なことを考えてしまっている。
「我が家は騙してなどいない。そもそも娘を取り替えて欲しいと言ったのはそちらだ。リリアーナの契約は解除された。これからのことはそちらでなんとかして欲しい」
お父様はジルベルトを突き放す。望まれて嫁に出した娘を下の娘が良いと突き返されたのだ。何も思わないわけがない。
ただ、マリーベルが望むから、この土地に聖女が必要だから認めただけだ。
「それでは困ります。聖女の子どもでないのならばマリーベルの子どもは跡継ぎではありません。嫁は聖女になさい。ジルベルト、マリーベルと離婚してリリアーナと結婚しなさい! 再び契約すれば良いでしょう」
「破棄した契約を再契約するには大きな負担がかかる。それに、リリアーナも我が家の大切な娘だ。そちらのような家にリリアーナを送り出すことはできない。リリアーナを不要だと言ったのはそちらだ」
お父様はわたしを守ろうとしてくれているが、元義母はとんでもないことを言ってきた。
わたしの気持ちは無視? わたし、一度返品されているのですけど。
「リリアーナ、私と結婚してくれ。私の運命の相手は君だ!」
元夫も同様に馬鹿だった……。
あなたはマリーベルと結ばれる運命だったのではないの? マリーベルの気持ちは?
子どももいるというのに……。
こんな状態のマリーベルを見て何も思わないの? どうしてそんなことが言えるの?
目の前にいる元夫が信じられない。
「そんな……ひどい……。わたしのこと、愛しているって言っていたのに……お姉様のことは好きでもなんでもないって……」
そう言って、マリーベルはショックからか気を失って倒れてしまった。
「マリーベル、しっかりして!」
わたしは急いでマリーベルに駆け寄るが、ジルベルトは何もせずにぼーっと立っているだけだ。
わたしとお父様はマリーベルの体をそっとソファへと移動させる。
マリーベルの顔は真っ青だ。
わたしの後ろでは「リリアーナ、やり直そう」などといった声が聞こえてくる。
マリーベル、こんな人の一体どこが良かったの……。
もう頭の中がぐちゃぐちゃだわ。
お父様の表情は硬いままだが、ジルベルトはそわそわしていて落ち着きがない。ジルベルトの両親からも先ほどのような笑顔が消えイライラしている。
契約が完了しなかったことにジルベルトはかなり焦っているようだ。
それもそうだろう。聖女がいなければこの領地は大変なことになってしまう。
「儀式が完了しなかったとはどういうことでしょうか? リリアーナとの契約が解除できないということでしょうか?」
「いや、リリアーナの契約は解除できた。だが、マリーベルの儀式ができなかった……」
「どういうことですか?」
ジルベルトの疑問も当然だ。マリーベルはわたしほどではないがちゃんと力を持っていることはわかっている。普通なら問題無く契約できるはずだ。
「……マリーベルは私の子ではないようだ」
お父様の言葉にお母様が青ざめる。どうやらお母様には心当たりがあるようだ。
「お父様、どういうことですか? わたしはお父様の娘ですよね。契約に何の関係があるのですか?」
「この契約には私の血が必要だ。私の血が流れていれば力を分ける契約ができる。私の力を分けて、土地と契約できるんだ。力を分けることができず、契約できないということはマリーベルには私の血は流れていないということだ。『ルーン』の力を分けられない以上、聖女となってこの土地と契約できない」
「……そんなこと……。お母様、何かの間違いですよね?」
マリーベルはお母様に質問するが、お母様は答えない。
「そんなことより、マリーベルが契約できないとなると領地はどうなるのですか!?」
ジルベルトはものすごい剣幕だ。
お母様を除いたわたしたち家族は大きなショックを受けているが、ジルベルトは領地のことが心配らしい。
わたしたちにとってはマリーベルがお父様の子どもではないことを『そんなこと』で片付けられない。
「契約はできないが癒やすことはできる。かなり大変ではあるが……」
「そんなこと、ではありません。お母様、わたしはお父様の娘ですよね? わたしが聖女になれないなんて間違いですよね? 何かの間違いだと、嘘だと言ってください!」
マリーベルがお母様の体を必死に揺らす。お母様は観念したのか重たい口を開いた。
「……あなたはわたくしが愛した人の娘です。わたくしには結婚を誓い合う人がいましたが、わたくしのお父様によってこの家に無理やり嫁がされました。わたくしはリリアーナを生んで責任を果たしています。わたくしも確証はありませんでしたが、あの人の子どもだと思って大切に育ててきました。マリーベルにリリアーナほどでは無いものの、力があるのはわたくしもマリーベルの父親も分家筋の人間だからでしょう」
どうやら昔からマリーベルにだけ甘かったのは愛する人の子どもだと思っていたかららしい。無理やり結婚させられた人間との子どもより、愛した人の娘の方がかわいいのは仕方がないのかもしれない。
これまで疑問に思っていたことがはっきりする。どうあがいてもお母様がわたしを見てくれることはなかったのだ。
わたしの胸が痛く締め付けられるような気がした。
儀式の内容を知らなかったお母様はマリーベルがお父様の娘でないことがばれるとは思わなかったのだろう。
「嘘よ……。わたしがお父様の子どもじゃないなんて……聖女になれないなんて……。うぅ……」
マリーベルは突然の出来事に泣き崩れている。
「多少、力があったとしても聖女になれないのは困ります。この土地には聖女が必要なのです。我が家を騙したのですか?!」
ジルベルトは興奮して父に詰め寄っている。元義母もマリーベルに「騙したのね、この女狐!」などと喚いている。
「わたしは騙してなんかいません……」
これまで優しくされていたジルベルトの母親に罵られ、マリーベルは目に涙を浮かべていた。
目の前では色々なことが起きているというのに、わたしはひどく冷静だった。
わたしは自分勝手だ。お父様もマリーベルもショックを受けているのに、自分のことばかり考えてしまっている。姉ならば泣いているマリーベルを守らないといけないはずなのに。
お母様の先ほどの言葉とこれまで言われてきた言葉が頭から離れない。「姉は妹を守るものよ」「妹を可愛がりなさい」「マリーベルは本当に可愛い娘ね」と言った言葉の数々だ。
あぁ、本当は冷静なんかじゃないのかもしれない。ぐるぐると余計なことを考えてしまっている。
「我が家は騙してなどいない。そもそも娘を取り替えて欲しいと言ったのはそちらだ。リリアーナの契約は解除された。これからのことはそちらでなんとかして欲しい」
お父様はジルベルトを突き放す。望まれて嫁に出した娘を下の娘が良いと突き返されたのだ。何も思わないわけがない。
ただ、マリーベルが望むから、この土地に聖女が必要だから認めただけだ。
「それでは困ります。聖女の子どもでないのならばマリーベルの子どもは跡継ぎではありません。嫁は聖女になさい。ジルベルト、マリーベルと離婚してリリアーナと結婚しなさい! 再び契約すれば良いでしょう」
「破棄した契約を再契約するには大きな負担がかかる。それに、リリアーナも我が家の大切な娘だ。そちらのような家にリリアーナを送り出すことはできない。リリアーナを不要だと言ったのはそちらだ」
お父様はわたしを守ろうとしてくれているが、元義母はとんでもないことを言ってきた。
わたしの気持ちは無視? わたし、一度返品されているのですけど。
「リリアーナ、私と結婚してくれ。私の運命の相手は君だ!」
元夫も同様に馬鹿だった……。
あなたはマリーベルと結ばれる運命だったのではないの? マリーベルの気持ちは?
子どももいるというのに……。
こんな状態のマリーベルを見て何も思わないの? どうしてそんなことが言えるの?
目の前にいる元夫が信じられない。
「そんな……ひどい……。わたしのこと、愛しているって言っていたのに……お姉様のことは好きでもなんでもないって……」
そう言って、マリーベルはショックからか気を失って倒れてしまった。
「マリーベル、しっかりして!」
わたしは急いでマリーベルに駆け寄るが、ジルベルトは何もせずにぼーっと立っているだけだ。
わたしとお父様はマリーベルの体をそっとソファへと移動させる。
マリーベルの顔は真っ青だ。
わたしの後ろでは「リリアーナ、やり直そう」などといった声が聞こえてくる。
マリーベル、こんな人の一体どこが良かったの……。
もう頭の中がぐちゃぐちゃだわ。
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