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3.ありえない提案(一度目の人生②)
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子どもができたからマリーベルと結婚すると言われても、わたしとジルベルト様の間に子どもがいないのはわたしが結婚してすぐに旅に出ることになったから。マリーベルの子を養子として迎えても子育てが難しいのはまだ癒やさねばならない土地がたくさんあり、家を留守にしないといけないからだ。
だが、マリーベルがこの家に入って聖女として生きていくなら条件は同じだ。マリーベルがこの家に入り、聖女として生きていくのならば、わたしが協力しない限り子どもは誰かに任せて領地を巡らなければいけない。
けれど、浮気男たちのために尽くす義理はないので、二人が良いならわたしは離婚に同意する。
妻の座にしがみついても結局は搾取されるだけだ。ジルベルト様の気持ちはマリーベルにある。
代わりの聖女がいればわたしと離婚したとしてもなんとかなるだろう。元々、わたしたちは家のための結婚なのだ。愛がある結婚だと思っていたのはわたしだけだった。
この土地のことは気になるが、マリーベルがいれば問題ないだろう。
わたしは家に戻って必要とされるところで力を使えばいい。
「わかりました。わたしたちにはまだ子どももいませんし、離婚いたしましょう。マリーベルもジルベルト様が好きだったのならわたしたちが結婚する前に言ってくれれば良かったのに……。お父様に相談して早く引き継ぎを行わなくてはいけませんね。引き継ぎが終わりましたらすぐに実家に帰ります」
二人は明らかにほっとした顔をした。
「ありがとう。理解を得られて嬉しいよ」
そう言った後、ジルベルト様は口を閉ざしてしまった。しかし、何か言いたそうな顔をしている。そんなジルベルト様に寄り添うマリーベルはジルベルト様のシャツを軽く引っ張った。
あぁ、全て打ち合わせ済みなのね。
マリーベルに促されてジルベルト様は言いにくそうに口を開いた。
「……マリーベルは身重だ。すまないが、リリアーナが土地を癒やしてくれないだろうか。まだ回り終わっていないだろう?」
目の前の男はとんでもないことを言い出した。
何を言っているのだろうか。なぜわたしが夫を寝取られた上に、マリーベルの代わりに元夫の土地を癒やさねばならないのか。そもそもこんな状態まで放置していたのはジルベルト様たちである。
親族から少しでも力を持っている人間をかき集めて癒やす努力をすればいい。
「何を仰っているのか理解できないのですが? マリーベルと一緒になるということはマリーベルがこの土地と契約するのですよね? マリーベルがいる以上、わたしは実家に帰ります。聖女の血を絶やすわけにはいきませんし、力を必要としている土地は他にもあるのですから」
「無理を言っているのはわかっている。そこをなんとか……」
「お話になりません。すぐに離婚の手続きを行いましょう。不義理を働いたのはあなたたち二人ですよ」
「君は妹やその子どもがかわいくないのか。この子は君の血の繋がった甥か姪だろ」
ジルベルト様はマリーベルのお腹に手を乗せ、情に訴えかけてきた。マリーベルはジルベルト様の隣でしくしく泣いている。泣きたいのはこっちだ。
こちらは命を削って土地を癒してきたのにこの仕打ち……。
「妹はかわいかったですが、その関係はかわいい妹によって壊されました。子どもも会ったこともありませんので、かわいいも何もありません」
「そんな薄情な女だったとは……」
「薄情なのはどちらでしょう? 先ほども言いましたけど、二人が結婚したかったのならわたしたちが結婚する前に言ってくれれば良かったのです。結婚後であっても、きちんと順序を守っていただければわたしは二人を祝福しました」
「はっ、所詮、私への気持ちはその程度のものだったと言うわけだな。本当に冷たい女だ」
自分のことは棚に上げて、なんて言い草なのかしら。
二人のことが大事だからこそ、わたしは身を引く選択肢がある。それがわからないなんて……。
ジルベルト様、いえ、ジルベルトを信じてきた自分が愚かだったんだわ。
「冷たいのはあなたの方でしょう。嫁いできて早々に土地を癒やせとわたしを家から放り出し、その間に浮気して子どもまで……。放っておかれたのはこちらの方です。わたしはずっと聖女として領地のために仕事をしていました。あなたと領民を思えばこそです」
「わ、私だってここで領主としての仕事をしていた。それに領民はどうなる?」
「浮気して跡継ぎをつくるのがあなたの立派な領主のとしての仕事だったようですね。わたしが来るまではどうなさっていたのですか? それに、新しい聖女ならここにいるではありませんか。それにマリーベルが難しくてもあなたたちでも全く癒やせないというわけではないでしょう。わたしはこれまでかなりの土地を癒やしてきましたし、マリーベルが回復すればなんとでもなります。領民のことを考えるのは領主であるあなたの仕事でしょう?」
「現実問題、マリーベルが子育てと聖女の仕事をするのは難しいではないか」
「子育てはジルベルト様がなさるか、ジルベルト様が領地を回れば良いのではありませんか?」
「領主の仕事はどうなる」
「お義父様とお義母様がいらっしゃるでしょう。そちらの仕事はお任せすれば良いではありませんか。子育ての方をお任せしても良いと思いますよ」
わたしはジルベルトの要求をきっぱりと断った。
だが、マリーベルがこの家に入って聖女として生きていくなら条件は同じだ。マリーベルがこの家に入り、聖女として生きていくのならば、わたしが協力しない限り子どもは誰かに任せて領地を巡らなければいけない。
けれど、浮気男たちのために尽くす義理はないので、二人が良いならわたしは離婚に同意する。
妻の座にしがみついても結局は搾取されるだけだ。ジルベルト様の気持ちはマリーベルにある。
代わりの聖女がいればわたしと離婚したとしてもなんとかなるだろう。元々、わたしたちは家のための結婚なのだ。愛がある結婚だと思っていたのはわたしだけだった。
この土地のことは気になるが、マリーベルがいれば問題ないだろう。
わたしは家に戻って必要とされるところで力を使えばいい。
「わかりました。わたしたちにはまだ子どももいませんし、離婚いたしましょう。マリーベルもジルベルト様が好きだったのならわたしたちが結婚する前に言ってくれれば良かったのに……。お父様に相談して早く引き継ぎを行わなくてはいけませんね。引き継ぎが終わりましたらすぐに実家に帰ります」
二人は明らかにほっとした顔をした。
「ありがとう。理解を得られて嬉しいよ」
そう言った後、ジルベルト様は口を閉ざしてしまった。しかし、何か言いたそうな顔をしている。そんなジルベルト様に寄り添うマリーベルはジルベルト様のシャツを軽く引っ張った。
あぁ、全て打ち合わせ済みなのね。
マリーベルに促されてジルベルト様は言いにくそうに口を開いた。
「……マリーベルは身重だ。すまないが、リリアーナが土地を癒やしてくれないだろうか。まだ回り終わっていないだろう?」
目の前の男はとんでもないことを言い出した。
何を言っているのだろうか。なぜわたしが夫を寝取られた上に、マリーベルの代わりに元夫の土地を癒やさねばならないのか。そもそもこんな状態まで放置していたのはジルベルト様たちである。
親族から少しでも力を持っている人間をかき集めて癒やす努力をすればいい。
「何を仰っているのか理解できないのですが? マリーベルと一緒になるということはマリーベルがこの土地と契約するのですよね? マリーベルがいる以上、わたしは実家に帰ります。聖女の血を絶やすわけにはいきませんし、力を必要としている土地は他にもあるのですから」
「無理を言っているのはわかっている。そこをなんとか……」
「お話になりません。すぐに離婚の手続きを行いましょう。不義理を働いたのはあなたたち二人ですよ」
「君は妹やその子どもがかわいくないのか。この子は君の血の繋がった甥か姪だろ」
ジルベルト様はマリーベルのお腹に手を乗せ、情に訴えかけてきた。マリーベルはジルベルト様の隣でしくしく泣いている。泣きたいのはこっちだ。
こちらは命を削って土地を癒してきたのにこの仕打ち……。
「妹はかわいかったですが、その関係はかわいい妹によって壊されました。子どもも会ったこともありませんので、かわいいも何もありません」
「そんな薄情な女だったとは……」
「薄情なのはどちらでしょう? 先ほども言いましたけど、二人が結婚したかったのならわたしたちが結婚する前に言ってくれれば良かったのです。結婚後であっても、きちんと順序を守っていただければわたしは二人を祝福しました」
「はっ、所詮、私への気持ちはその程度のものだったと言うわけだな。本当に冷たい女だ」
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ジルベルト様、いえ、ジルベルトを信じてきた自分が愚かだったんだわ。
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「領主の仕事はどうなる」
「お義父様とお義母様がいらっしゃるでしょう。そちらの仕事はお任せすれば良いではありませんか。子育ての方をお任せしても良いと思いますよ」
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