3 / 42
3.ありえない提案(一度目の人生②)
しおりを挟む
子どもができたからマリーベルと結婚すると言われても、わたしとジルベルト様の間に子どもがいないのはわたしが結婚してすぐに旅に出ることになったから。マリーベルの子を養子として迎えても子育てが難しいのはまだ癒やさねばならない土地がたくさんあり、家を留守にしないといけないからだ。
だが、マリーベルがこの家に入って聖女として生きていくなら条件は同じだ。マリーベルがこの家に入り、聖女として生きていくのならば、わたしが協力しない限り子どもは誰かに任せて領地を巡らなければいけない。
けれど、浮気男たちのために尽くす義理はないので、二人が良いならわたしは離婚に同意する。
妻の座にしがみついても結局は搾取されるだけだ。ジルベルト様の気持ちはマリーベルにある。
代わりの聖女がいればわたしと離婚したとしてもなんとかなるだろう。元々、わたしたちは家のための結婚なのだ。愛がある結婚だと思っていたのはわたしだけだった。
この土地のことは気になるが、マリーベルがいれば問題ないだろう。
わたしは家に戻って必要とされるところで力を使えばいい。
「わかりました。わたしたちにはまだ子どももいませんし、離婚いたしましょう。マリーベルもジルベルト様が好きだったのならわたしたちが結婚する前に言ってくれれば良かったのに……。お父様に相談して早く引き継ぎを行わなくてはいけませんね。引き継ぎが終わりましたらすぐに実家に帰ります」
二人は明らかにほっとした顔をした。
「ありがとう。理解を得られて嬉しいよ」
そう言った後、ジルベルト様は口を閉ざしてしまった。しかし、何か言いたそうな顔をしている。そんなジルベルト様に寄り添うマリーベルはジルベルト様のシャツを軽く引っ張った。
あぁ、全て打ち合わせ済みなのね。
マリーベルに促されてジルベルト様は言いにくそうに口を開いた。
「……マリーベルは身重だ。すまないが、リリアーナが土地を癒やしてくれないだろうか。まだ回り終わっていないだろう?」
目の前の男はとんでもないことを言い出した。
何を言っているのだろうか。なぜわたしが夫を寝取られた上に、マリーベルの代わりに元夫の土地を癒やさねばならないのか。そもそもこんな状態まで放置していたのはジルベルト様たちである。
親族から少しでも力を持っている人間をかき集めて癒やす努力をすればいい。
「何を仰っているのか理解できないのですが? マリーベルと一緒になるということはマリーベルがこの土地と契約するのですよね? マリーベルがいる以上、わたしは実家に帰ります。聖女の血を絶やすわけにはいきませんし、力を必要としている土地は他にもあるのですから」
「無理を言っているのはわかっている。そこをなんとか……」
「お話になりません。すぐに離婚の手続きを行いましょう。不義理を働いたのはあなたたち二人ですよ」
「君は妹やその子どもがかわいくないのか。この子は君の血の繋がった甥か姪だろ」
ジルベルト様はマリーベルのお腹に手を乗せ、情に訴えかけてきた。マリーベルはジルベルト様の隣でしくしく泣いている。泣きたいのはこっちだ。
こちらは命を削って土地を癒してきたのにこの仕打ち……。
「妹はかわいかったですが、その関係はかわいい妹によって壊されました。子どもも会ったこともありませんので、かわいいも何もありません」
「そんな薄情な女だったとは……」
「薄情なのはどちらでしょう? 先ほども言いましたけど、二人が結婚したかったのならわたしたちが結婚する前に言ってくれれば良かったのです。結婚後であっても、きちんと順序を守っていただければわたしは二人を祝福しました」
「はっ、所詮、私への気持ちはその程度のものだったと言うわけだな。本当に冷たい女だ」
自分のことは棚に上げて、なんて言い草なのかしら。
二人のことが大事だからこそ、わたしは身を引く選択肢がある。それがわからないなんて……。
ジルベルト様、いえ、ジルベルトを信じてきた自分が愚かだったんだわ。
「冷たいのはあなたの方でしょう。嫁いできて早々に土地を癒やせとわたしを家から放り出し、その間に浮気して子どもまで……。放っておかれたのはこちらの方です。わたしはずっと聖女として領地のために仕事をしていました。あなたと領民を思えばこそです」
「わ、私だってここで領主としての仕事をしていた。それに領民はどうなる?」
「浮気して跡継ぎをつくるのがあなたの立派な領主のとしての仕事だったようですね。わたしが来るまではどうなさっていたのですか? それに、新しい聖女ならここにいるではありませんか。それにマリーベルが難しくてもあなたたちでも全く癒やせないというわけではないでしょう。わたしはこれまでかなりの土地を癒やしてきましたし、マリーベルが回復すればなんとでもなります。領民のことを考えるのは領主であるあなたの仕事でしょう?」
「現実問題、マリーベルが子育てと聖女の仕事をするのは難しいではないか」
「子育てはジルベルト様がなさるか、ジルベルト様が領地を回れば良いのではありませんか?」
「領主の仕事はどうなる」
「お義父様とお義母様がいらっしゃるでしょう。そちらの仕事はお任せすれば良いではありませんか。子育ての方をお任せしても良いと思いますよ」
わたしはジルベルトの要求をきっぱりと断った。
だが、マリーベルがこの家に入って聖女として生きていくなら条件は同じだ。マリーベルがこの家に入り、聖女として生きていくのならば、わたしが協力しない限り子どもは誰かに任せて領地を巡らなければいけない。
けれど、浮気男たちのために尽くす義理はないので、二人が良いならわたしは離婚に同意する。
妻の座にしがみついても結局は搾取されるだけだ。ジルベルト様の気持ちはマリーベルにある。
代わりの聖女がいればわたしと離婚したとしてもなんとかなるだろう。元々、わたしたちは家のための結婚なのだ。愛がある結婚だと思っていたのはわたしだけだった。
この土地のことは気になるが、マリーベルがいれば問題ないだろう。
わたしは家に戻って必要とされるところで力を使えばいい。
「わかりました。わたしたちにはまだ子どももいませんし、離婚いたしましょう。マリーベルもジルベルト様が好きだったのならわたしたちが結婚する前に言ってくれれば良かったのに……。お父様に相談して早く引き継ぎを行わなくてはいけませんね。引き継ぎが終わりましたらすぐに実家に帰ります」
二人は明らかにほっとした顔をした。
「ありがとう。理解を得られて嬉しいよ」
そう言った後、ジルベルト様は口を閉ざしてしまった。しかし、何か言いたそうな顔をしている。そんなジルベルト様に寄り添うマリーベルはジルベルト様のシャツを軽く引っ張った。
あぁ、全て打ち合わせ済みなのね。
マリーベルに促されてジルベルト様は言いにくそうに口を開いた。
「……マリーベルは身重だ。すまないが、リリアーナが土地を癒やしてくれないだろうか。まだ回り終わっていないだろう?」
目の前の男はとんでもないことを言い出した。
何を言っているのだろうか。なぜわたしが夫を寝取られた上に、マリーベルの代わりに元夫の土地を癒やさねばならないのか。そもそもこんな状態まで放置していたのはジルベルト様たちである。
親族から少しでも力を持っている人間をかき集めて癒やす努力をすればいい。
「何を仰っているのか理解できないのですが? マリーベルと一緒になるということはマリーベルがこの土地と契約するのですよね? マリーベルがいる以上、わたしは実家に帰ります。聖女の血を絶やすわけにはいきませんし、力を必要としている土地は他にもあるのですから」
「無理を言っているのはわかっている。そこをなんとか……」
「お話になりません。すぐに離婚の手続きを行いましょう。不義理を働いたのはあなたたち二人ですよ」
「君は妹やその子どもがかわいくないのか。この子は君の血の繋がった甥か姪だろ」
ジルベルト様はマリーベルのお腹に手を乗せ、情に訴えかけてきた。マリーベルはジルベルト様の隣でしくしく泣いている。泣きたいのはこっちだ。
こちらは命を削って土地を癒してきたのにこの仕打ち……。
「妹はかわいかったですが、その関係はかわいい妹によって壊されました。子どもも会ったこともありませんので、かわいいも何もありません」
「そんな薄情な女だったとは……」
「薄情なのはどちらでしょう? 先ほども言いましたけど、二人が結婚したかったのならわたしたちが結婚する前に言ってくれれば良かったのです。結婚後であっても、きちんと順序を守っていただければわたしは二人を祝福しました」
「はっ、所詮、私への気持ちはその程度のものだったと言うわけだな。本当に冷たい女だ」
自分のことは棚に上げて、なんて言い草なのかしら。
二人のことが大事だからこそ、わたしは身を引く選択肢がある。それがわからないなんて……。
ジルベルト様、いえ、ジルベルトを信じてきた自分が愚かだったんだわ。
「冷たいのはあなたの方でしょう。嫁いできて早々に土地を癒やせとわたしを家から放り出し、その間に浮気して子どもまで……。放っておかれたのはこちらの方です。わたしはずっと聖女として領地のために仕事をしていました。あなたと領民を思えばこそです」
「わ、私だってここで領主としての仕事をしていた。それに領民はどうなる?」
「浮気して跡継ぎをつくるのがあなたの立派な領主のとしての仕事だったようですね。わたしが来るまではどうなさっていたのですか? それに、新しい聖女ならここにいるではありませんか。それにマリーベルが難しくてもあなたたちでも全く癒やせないというわけではないでしょう。わたしはこれまでかなりの土地を癒やしてきましたし、マリーベルが回復すればなんとでもなります。領民のことを考えるのは領主であるあなたの仕事でしょう?」
「現実問題、マリーベルが子育てと聖女の仕事をするのは難しいではないか」
「子育てはジルベルト様がなさるか、ジルベルト様が領地を回れば良いのではありませんか?」
「領主の仕事はどうなる」
「お義父様とお義母様がいらっしゃるでしょう。そちらの仕事はお任せすれば良いではありませんか。子育ての方をお任せしても良いと思いますよ」
わたしはジルベルトの要求をきっぱりと断った。
48
お気に入りに追加
816
あなたにおすすめの小説
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。
【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします
宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。
しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。
そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。
彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか?
中世ヨーロッパ風のお話です。
HOTにランクインしました。ありがとうございます!
ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです!
ありがとうございます!
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます
21時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。
エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。
悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました
常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。
裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。
ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる